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僕と19年の月

作者: 白山 銀四郎

 もうまもなくクリスマス。僕は夜空に浮かぶ月に向かって願い事をした。


 「友達をください」



 僕は学校ではいつも1人でいた。この間まで病院にいて学校には今年から通うようになった。来た時はいろいろと聞かれて仲良くできるかなと思ったけどしばらくして皆はあまり話しかけてこなくなった。元々、人に話しかけるのが苦手で教室では本を読んだりして休み時間を過ごしていた。


 今日も1人で帰るのかと校門から出ると後ろから話しかけられた。

 「ひとり?一緒に帰ろ」


 「・・・・・・いいけど」

 「僕はさくやっていうんだ。よろしく」

 「僕はゆうや。よろしく」


僕は嬉しくてしかたなかった。


 僕はさくや君といろいろな話をしながら歩いた。さくや君は同じ病院にいた僕を見かけて声をかけたと言った。僕はさくや君を学校でみたことがないと思ったがみたことがない人がいてもおかしくないかなと思った。


 「いつもは誰かと帰るの?」

 「ひとりだよ。僕は皆と仲良くできないんだ」

 「僕は友達?」

 「いいの?僕となんか」

 「僕はなりたい。ゆうや君と」


僕はさくや君と友達となれて嬉しかった。初めての友達。僕は幸せだった。僕の願いを叶えてくれたんだと空を見上げた。さくや君はどうしたのと聞いてきたが僕はなんでもないと首を振った。


 「僕はこっちなんだ」


さくや君は公園の前で僕の家の方向とは違う方向を指指した。ここでお別れかと残念に思った。


 「この後遊べる?」

 「うん、大丈夫だと思うよ」

 「じゃ、この公園で遊ばない?」

僕はいきよいよく頷き家に早く帰った。



 「ただいま!」

 「おかえり。楽しそうね」

 「うん。公園で遊んでくる」

 「ちょっと待って。今日は冬至で暗くなるのが早いから暗くなる前に帰ってくるのよ」

僕は冬至ってなんだろうと思ったが今は公園に早く行きたかった。お母さんに返事を返し公園に急いで向かった。


 公園につくとすでにさくや君はいた。

 「ごめん。待った?」

 「いま来たところ。なにして遊ぶ」

僕は持ってきたサッカーボールを見せた。

 サッカーボールはいつか友達と遊びたいと思い退院した後お母さんにかってもらったものだ。僕はやっと友達もできてサッカーボールを使うことができとても嬉しかった。僕とさくや君はボールを取り合い追いかけていた。


 僕は病院でいつも思っていた。いつか学校に行ったら友達をいっぱい作って友達とサッカーや野球をするのだと。

 窓の外を見て夢見ていた。いつかいつかと・・・・・・


 やっと学校に行ければ友達はできない。

なにが悪い。

僕が悪いの。

 教室でいつもひとりで席につきちらちらと皆を伺い声をかけようと思うが声がでない。なにを言えばいいのだろう。言っても無視されるだろうか。皆も僕と目が合うと逃げるようにどこかに行く。僕が何かしたのだろうか。いつも暗闇にいた。

 そんなところにさくや君が現れた。まるで光だと感じた。



 「俺たちもいれてくれない?」


僕とさくや君は声の聞こえた方をみた。そこには同じクラスの男子2人が立っていた。


 「僕たちと?」

 「俺たち、いつも声かけようと思うんだけど病気とか大丈夫かって心配で」

 「普通に遊んでるのみて声かけてみたんだけど」


僕とさくや君は遊ぼうと仲間に入れた。人数も増えてさっきよりも楽しく感じた。僕は嫌われていなかったと安心した。

 その後も追いかけっこやかくれんぼをして遊んだ。かくれんぼの時に自分だけ見つけてもらえず皆に置いていかれるのではと思ったことは秘密だ。置いて行かれる不安からちらちらと覗いていたせいで一番に見つかってしまった。あたりが暗くなりそろそろ帰るとけんいち君が言った。僕もお母さんにそう言われたことを思い出した。


 「暗くなるのはやいよな」


クラスメイトの1人が空を見ながら言った。僕も空を見上げた。


 「冬至なんだよ」


 僕は冬至ってなにとさくや君をみた。するとさくや君は地面に字を書いた。僕は冬に関係しているんだなと思った。さくや君は冬至について教えてくれた。冬至は一年間で一番夜が長い日で今年は新月で月が出ないんだと。


「ものしりだな。さくやは」


 僕たちはすごいなと思った。でもどうして月が出ないんだろうとさくや君に聞くと隠れるんだと言った。


 「その冬至の日が新月なのは19年に1度なんだ」

 「めずらしいってことじゃん。みよっと」

 「みれないだろ」


 僕たちは笑ってしまった。みよっといったクラスメイトは自分の言ったことがおかしいことに気が付き一緒に笑っていた。皆と別れて家に帰った。別れるときにけんいち君とりょう君にまたねと言われて嬉しかった。

 でもさくや君は手だけ振って帰っていった。なにか心配だったけど気のせいだと思うことにした。



 いつも夜ご飯のときにその日あったことを話しているけど今日はいっぱい話すことがあった。友達が3人もできたこと、サッカーボールや追いかけっこ、かくれんぼをしたこと、いろいろなことを話した。お父さんもお母さんもうれしそうに僕の話を聞いてくれた。僕も話しながら遊んでいた時のことを思い出しとてもうれしくて楽しかった。

 いつもよりも夜ご飯がおいしく感じた。


 その日の夜、夢をみた。僕は部屋の外から夜空を見上げていた。するとなぜかさくや君が屋根の上に立っていた。僕はあぶないよと声をかけるとさくや君はさみしそうに僕をみた。どうしてそんな顔をするの、何かあったのときくとさくや君はごめんねと言った。なんで謝るのと僕はきいた。


 「ごめんね。僕、帰らないといけないんだ。ゆうや君に嘘をつくつもりではなかったんだけど」

 「帰るってどこに?」


初めての友達がいなくなるなんていやだと僕はすがるようにさくや君をみた。


 「いつも一緒にいるよ」


さくや君はそう言うとその場で飛んだ。僕はあぶないと身を乗り出すとそこにはさくや君の姿はなかった。その代わり1匹のうさぎがいた。うさぎは僕をみると空に向かって飛んだ。うさぎは空高くにのぼり空に溶けこむように消えた。


 そのときないはずの月が丸い形で見えた気がした。あのうさぎは本当にさくや君なのだろうか。本当に消えたのだろうか。心配になっていると目が覚めた。

 夢かと思い安心したが横を見るとうさぎの置物があった。その置物を手にとりよく見ると下側になにか書いてあった。漢字で書かれていて僕には読むことができずお父さんかお母さんに教えてもらおうと階段を駆け下りた。


 「お母さん、これなんて読むの?」

 「おはようからでしょ。これはさくやと読むのよ」


さくや君の名前だと思いあの夢は本当のことかもしれないと心配になった。


 「だれからもらったの?」

 「昨日話した、さくや君からもらった」

僕は一応そう答えることにした。僕はお母さんの言葉に驚いた。

 「さくや君?その子の話はきいていないわ」


 僕はいつもより早く学校に行った。途中で昨日一緒に遊んだクラスメイトと合流した。2人は僕にあいさつをしてきた。僕は昨日のことは夢でないと安心したけど一応聞いてみた。


 「さくや君って知ってる?」


2人は知らないと言った。どこのクラスときいてきたからごまかした。2人と一緒に学校に向かいながらいろいろと考えた。本当にさくや君はきえたの。せっかく友達になれたのに。


 その日の授業は上の空で先生に怒られてしまった。2人にも心配されたけど大丈夫だよと答えた。

 家に帰るとリビングの机の上の新聞がみえた。そこには朔旦冬至とあった。ずっと見ているとお母さんがきた。


 「どうしたの?」

 「これって」

 「それはね、昨日の冬至のこと」

 「新月の冬至のこと」

 「よく知ってるね」

 「教えてもらった。なんで月が消えるの?」

 

 「もしかしたらうさぎが月からここに降りてきているのかもね」


 僕はお母さんの言葉をききやはりさくや君はうさぎだったのだと思った。僕があの日、お願いをしたから僕のところにきてくれたんだ。

 僕はその日の夜、うさぎの置物をとなりに置いて細い月を見ていた。


———ありがとう、朔夜君。19年後の朔旦冬至にまた遊ぼうね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルがまず素敵だなあ、と思いました。ロマンチックかつ謎を含んでいて、読む前から引き込まれます。 主人公と、どこから現れたかわからない謎の少年の邂逅というのも、王道でわくわくしますね。作…
[良い点] 長い闘病生活を終えて退院したばかりの一人ぼっちの少年に訪れる不思議な出会いを少年の視点から情緒豊かに描かれた心温まるストーリーで、再会の日を心待ちにする少年の気持ちが伝わってくるようでした…
[一言] 読んだ後、なんだか寂しい気持ちになりました。19年後とか、泣いちゃいそう
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