008
大災害から1週間。
この世界の冒険者で初の死者が出る。
その死者は大神殿で復活を遂げた。
この世界では冒険者は絶対的な死は訪れない。
このことが知れ渡ってから、アキバはもとよりフィールドでの治安が一気に悪化した。
PK プレイヤーキル・プレイヤーキラー
初心者をはじめとしたゲームに不慣れな者を攻撃し、死亡した際にばらまかれる金やアイテムを回収し利を得る者、もしくはただの愉快犯。
こんなところだろうか。
そんな輩がちらほら出てきていると噂されている。
この噂に吉継はレベル90組が低レベル組の戦闘訓練のパトロールをして犠牲者が出ない様な対策をベアードに提出。
ギルドマスターのベアードはこれを承認。
ギルドマスターレナ率いる<石蛇姫の眼>とは初日以降、共に戦闘訓練を開始していたため、合同練習・合同パトロールの形をとっていた。
ローテーションを組んで戦闘訓練を行っていたプレイヤーは各々が自分のレベル-20位のところまで戦闘をこなせるようになっていた。
もちろん低レベル組は保護者兼責任者であるレベル90が見守りながら身の丈に合った戦闘をこなしていた。
「いや~初日にシゲちゃんとこにお誘いしてよかったわ~。」
「私たちのギルドは<石蛇姫>って言うだけあって男子禁制、女性オンリーのギルドなんですよね。」
「そうなんよ!姫やで!姫!!PKとか怖いわぁ~。」
「なるほど、たくましい前衛職がいないわけだ。そこで俺の出番って訳だ!」
厳つい鎧を装着したベアードがガッツポーズをしてアピールする。
「そ~なんよ~!」
「こんな状況じゃ女性だけじゃ心細いわな。」
本日は初日と同じくベアード、シゲン、レナ、巴でパーティを組んで低レベル組の戦闘訓練の見回りを行っていた。
「っし、B班順調に慣れてますっと。次はD班か。」
「D班は白眉のパーティだな。訓練場所はここからは3キロぐらい先か。」
「んだな。」
「そういえば今日シゲンさん装備がいつもと違いますね?」
理由を知っているベアードとレナがあえて触れなかった事柄に巴が話を切りこむ。
「あ?あーみんなのバックアップも退屈だから俺も戦うわ。」
巴の頭の上には ??? が浮かんだ。
<付与術師>がどうやって戦うのだろうか?
巴は疑問を抱いたが深くは聞かなかった。
そこへレナが横槍を入れた。
「いやいや、後ろからささやかな補助の魔法が飛ばすのがお仕事やん?それって重要やん?第一なんやこのアクセサリ!金色のフンコロガシみたいなの着けおって!」
「あぁ、レナよせ!」
半ば諦めたようにベアードが制止に入る。
「エンハンサーはちゃんと稼働するのはわかったからな。こっちも試してみないとってことでさ。ってフンコロガシ言うな!スカラベと呼べスカラベと!」
エンハンサーとは支援特化型付与術師のことである。
〈キーンエッジ〉〈オーバーランナー〉〈リフレックスブースト〉といった直接的な能力上昇をもたらす援護魔法を中心に、〈ゲインイミュニティ〉〈アストラルチャフ〉など多彩な魔法を使いこなして、仲間のあらゆる能力を増強するというのがエンハンサーの戦い方なのである。
「スカラベ?」
巴は頭の上に ? を残したまま、一行は次のパトロール場所へ向かった。