007
4人は無事にアキバへと戻り、各自のギルドホールへ戻って行った。
ベアードとシゲンがホールに入るとメンバーが情報を交換しているのが見えた。
それを白眉がサブ職業の<筆写師>を生かして書き記している。
「仕事が速いな。」
「リアルでも気が効くからなアイツは。」
そこに一人近づいてきた者がいる。
「二人とも遅かったじゃないカ。」
出迎えたのは腰には刀を差した武士風な男であった。
変わっているところと言えば白い包帯にぐるぐる巻きにされたミイラのような武士である。
「どうした!!誰にやられた!!」
「僕の包帯は装備じゃないカ。」
「あぁ、そうだったな。」
「本当にシゲンはブレないネ。」
「吉継こそこの世界に来ても包帯取らないんだな、イケメンなのに。」
「ほら、この格好はネタでありリスペクトだからネ。本当にこの姿になれて逆に僕はハッピーなのサ。」
「お前こそブレねーな。」
吉継と呼ばれたプレイヤー。
この北の鬼のナンバー3であり、のほほん担当。
メインは<武士>、サブは<剣客>。
猫人族のプレイヤーが語尾に「にゃ」と付けるように
彼は恰好から尊敬する武将をまねてプレイしている。
こんな容姿でありながら言動は少しゆっくりではあるが
プレイの腕は良く、ここの3番目の席を保持している。
決して志々○真ではない。
そんな彼が文句を言ってきた。
「外に行ったんだっテ?」
「げげ、なんでばれてんの?」
「え?白眉くん。」
「あ の バ カ !」
「僕を置いていくなんでひどいよゥ!」
うーん と唸っているシゲンに応援の一声が掛かる。
「ほら、トップ3人が外に行って何かあった取りまとめる人がいなくなるだろう?リーダーが一人くらいいないとさ。」
おー、ベアードぐっじょぶ!!
シゲンは心の中でそうつぶやいた。
「ギルマスにそう言われたら納得するしかないナァ~。今度は僕も連れて行ってネ?」
「了解!」
「もちのろんだぜ!」
そんなやり取りをしていると白眉がホールの端から走ってやってきた。
「やっと戻ってきたんですね!遅いですよ!」
「悪い悪い!」
「すまんな、状況はどうだ?」
「マーケットですが今では完全に素材食品は底を付いています。」
はぁ~ とため息をつく二人。
「僕の独断ですが、品を引き上げられる前にいくつか購入はしました。」
「さっすが白眉!!」
「でかした白眉!!」
「メンバーの情報でレシピから加工された食品に味が無いことが確認できました。また、素材系食品には味があることが確認されましたのでそのような判断となりました。」
「よしよし。」
「まだ共有をしたい情報がたくさんありますので、報告会をしましょう。ギルマス!」
「そうだな。」
『よーしみんな、今日集めた情報を確認しよう!集まってくれ!』
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メンバーの集めた情報を確認するといろいろなことが分かってきた。
名称の違いである。
プレイヤーを冒険者、NPCを大地人と呼ぶと言うこと。
また、このエルダーテイルの世界、もしくは酷似した世界に転移したことを巷では大災害と呼んでいるらしい。
「どう思うよ?ギルマス。」
「特技やあの料理のことを考えたらエルダーテイルに酷似した世界ってのがいい線じゃないかな?」
「だよな、それによう、一つ気が付いたんだが…」
「NPC、今では大地人の人数が飛躍的増えたと思うヨ。」
「そう、吉継の言う通り。アキバの街の中を歩いてみてわかった。見かけないNPCがうろうろ歩いてるんだよ。あれは俺たちと同じで生きているんだよ。」
「この世界が存在してこの大地を踏みしめて生きていると?」
「だってよ?今まで話しかければ同じことしか言わなかった道具屋のオヤジが流暢に世間話するんだぜ?」
「僕もそれは感じタ。理由は何であれ、彼らはもう人間ダ。」
「ふーむ。」
大災害が起こった初日にすべてのことわかる訳もなく、うやむやのまま報告会は終わった。
明日からはローテーションで情報収集・食糧調達・戦闘訓練をこなすことが発表され、冒険者はこの世界で初めての夜を迎えた。