006
一行はこの世界に飛ばされてから一番の危機に直面していた。
「オイ…う、嘘だろ?」
項垂れる者
「ははは白眉?お前今どこにいる!マーケットの食品素材の値動きわかるか?いいから文句言わねーでやるの!わかったら念話頼むぞ!!」
焦る者
「……。」
無言になる者
「いやや!いやや!!お好み焼きが食べたい!たこ焼きが食べたい!!」
駄々をこねる者
食べ物の味がしないのである。
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数分前
「じゃあ飯の準備と行こうか。シゲ、いつもの準備できる?」
「ゲームじゃ使いこなせたがこうなると動くのかぁ??」
シゲンはベアードに促されると<ダザネックの魔法の鞄>からいつものと呼ばれる物を取り出し準備を始めた。
<高名軍師の易経羅盤>
秘宝級アイテムの一つ。中国サーバーへ遠征した際に発生していたクエスト
「星見の軍師は風を吹かす」にて手に入れた。
この羅盤で指示した場所は指定エリアとなり、このアイテムを中心とした直径1キロの範囲をモンスターや任意のプレイヤーの進入禁止区域にすることができるのである。
このアイテムでモンスターはもちろんPKの不法な接近をも防ぐことができる。
「ちゃんと動くのな。」
「相変わらず便利だな。これ。」
「有給使って張りこみで遠征した甲斐があるってもんよ!」
一方女性陣は…。
「ごっはん!ごっはん!今日はお好み焼き!!」
「今日はというよりいつもですが…。」
「いっただきま~す!!」
「こら、二人がまだ来ていません。揃ってk…」
巴の制止を振り切り、我慢のできなかったレナはメニューのレシピから作ったお好み焼きにかぶりつく。
「な、なんじゃこりゃ~!!!!!!」
レナの悲鳴(?)に驚き駆け寄る男性陣。
「何事だ!」
「あ、味が…。」
「お好み焼きのソースとデスソース間違えた?」
「ちゃうねん!食べてみい!!」
ベアードとシゲンと巴は一口ずつもらって食べてみる。
「だ、ダンボール?」
「味のないふやけたせんべい?」
「……。」
と言った事の次第である。
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落ち着きを取り戻した四人はまた転がる岩に腰掛けて話し合いをしていた。
「これはゆゆしき事態です。」
先程まで味のしない食べ物にショックを受けて無口だった巴が口を開いた。
「飲み物も水の味しかしなかった。」
「肉焼いても消し炭になるしなぁー。」
「もぐもぐ…ん~。ん?」
会話を適当に聞き流しながら手当たり次第に食品アイテムを食べ漁るレナの動きが止まった。
「このみかん味あるで?」
「「「えっ!!?」」」
皮を剥かれたみかんを一切れずつ食べたが確かに味のするものであった。
「よし、お礼にこのカレーライスをあげよう」
「おおきに~。うんうん、ダンボール。」
レナは半ば強引にシゲンからもらったカレーライスを確認するように食べる。
「これはメニューから作成した食べ物には味が無くて」
「素材食品には味があるということですね。」
「そうなるな。」
「「「うーん…」」」
4人は深いため息を付いた。
しばらくの沈黙の後、一人の頭の上で電球が光る。
「先程の特技と同じではないですか?」
「「「???」」」
「それはどういうことですか?巴さん。」
「例えばですね…」
巴は<ダザネックの魔法の鞄>をごそごそと漁りだした。
料理セットを広げてまな板の上に素材のパンを置いた。
「これは?」
そう言ってパンをちぎってベアードに差し出した。
「味がする。」
「そうですね。レナ、素材のトマトとレタスはありませんか?」
「あるで!ほいっ!」
レナはトマトとレタスを渡した。
巴はそれを手際よく刻む。
「お二人のどちらかでお肉系の素材をお持ちではありませんか?」
「おおお、ベーコンでいいかな?」
「ぴったりです。ありがとうございます。」
巴はまた渡されたベーコンを手際よく薄くスライスする。
「手際がいいですね、リアルでも料理人とか?」
「ふふふ、そうです、リアルでは病院の調理師をしています。」
「ゲームでも料理人で、リアルでも調理師とかほんまガチやな!」
「さぁ、仕上げです。調味料系の素材をお持ちの方は?」
「あかん、塩切らしとる。コショウなら。」
「あ、俺、岩塩あるぜ?」
「お借りしても?」
「この上に振りかけたらいいのか?」
シゲンの言葉に巴は首を横に振る。
「お借りしてもよろしいですか?」
巴は念を押して言った。
「ああ、すまねえ。何かあるんだな。」
「ほな。」
岩塩とコショウを手渡した。
ゴリゴリとパンの上で岩塩をこすり合わせる。
コショウを軽くかける。
「んー、いい匂いですね。」
「へくちっ!」
「おいおい、ベタだな。」
「出来ました。ミミは取っていませんが即席のサンドウィッチです。
私の推測があたっていれば味がするはずですが…。」
三人は一斉にかぶりついた。
「おお、味がする!!」
「コショウがたまんねーな、おい!」
「うまーい!!」
「ふふ、それはよかった。」
巴は満面の笑顔で笑った。
「巴!巴!これってどういうことなの??」
「先程の特技のお話と同じです。この騒ぎの前、普通にゲームをしていたころは、メニューの調理から素材を選択して調理されたアイテムを食べていました。」
「うんうん。」
「でも味せ~へんもんな。」
「そして、シゲンさんがお肉を焼いたときにはお肉は消し炭になりました。」
「物体Xな、あれすら味無かったしな。」
「それを見て思いついたんです。先程、レナのやった特技の応用や特技の発動方法です。調理も適正スキルを持つものが行えば味のある食べ物ができるんじゃないかって。」
「なるほどっ。」
「巴天才やん!」
「これで食糧事情も好転しそうですね。」
「ちょい待ち!」
無事解決したところにシゲンが待ったをかける。
「これは大っぴらに明かさないほうがいいな。」
「なんでや~?」
「これは何かトラブルの原因になりかねない。教えてもギルドの幹部クラス、末端まで行くと漏れかねないぞ。」
「確かに事が起きてからじゃこんな状況だから何が起きるかわからない。」
「わかりました。」
「ま、とりあえず味があるもん食べられるんやからええやん!」
「そうだな!」
「よし、食べたらアキバへ帰ろう!」