004
4人は旧アキバ駅の老朽化した線路から無事にフィールドへ出ることができた。
フィールドにはゲームをプレイしていたころと変わらずモンスターがpopしていた。
それらにエンカウントしようと彼らは歩みを進めたがモンスターは驚き襲いかかって来るどころか、こちらが追いかけるよりも早く逃げだしてしまった。
低レベルモンスターとのレベル差とモンスターの逃走。
フィールドではレベル差の大きいプレイヤーへ低レベルモンスターは攻撃を仕掛けてこない。
初歩的なことを忘れていた。
ゲームの中に迷い込んだ? 異世界にとばされた?
そんな状態の中、勝手知ったるエルダーテイルの基本的なことを見落としていた。
「ははは、わりい!初歩的なこと忘れちまってたぜ。」
「もぉ~!しっかりしいや~!」
「私もうっかりしていました。」
「らしくないな、比較的簡単なエンカウントのあるダンジョンへ行こう。」
4人は仕切り直して移動始めた。
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書庫塔の林
アキバより西に位置する古めかしいちょっと傾いた塔がそびえ立つ。
その塔には 書庫塔 と言うだけあって膨大な本がある、塔型図書館のようなもの。 と言う設定になっている。
実際は中級者向けダンジョンとされていて、自分の職種の特技を覚えるための「特技の巻物」を低ドロップするモンスターが出現するため、一種の狩り場になっている。
彼らはそのふもとの林へ来ていた。
動植物系のモンスターが多くpopして塔への侵入者を阻んでいた。
「ここならレベル差関係なくエンカウントできそうじゃないか?」
「おうよ、珍しく頭が回るじゃねーか。」
「珍しくは余計だ。」
そんなやり取りをしていると木の陰からガサガサと物音が聞こえる。
4人は一斉に距離を取り、剣や杖を構える。
ちょこんと姿を現したのは<棘茨イタチ>レベルは1。
きゅー
生まれて間もないのか弱弱しく鳴く。
「きゃわいい~!!」
目をキラキラさせながらレナが近付いていく。
「レナ、不用意です。」
「一応モンスターなんだぞ?」
「大丈夫やって!こんな赤ん坊、連れて帰ってウチのマスコットにしようや!」
二人の忠告を聞き流す。
「ほいっ!お手!」
お手????
レナ以外の3人の頭の上には ? が間違いなく浮かんだであろう。
犬じゃないよ?
じゅじゅ?
ぎゃーう!
パッコーン!!!
そう思ったのもつかの間、<棘茨イタチ>は尻尾の茨でレナの顔面にビンタを喰らわせた。
「…ッ!!!!」
綺麗に半円状に吹っ飛ぶレナ。
それをナイスキャッチするベアード。
「ビックリしたぜ…。」
「言わんこっちゃない…。」
「自己責任ではありますが様子を見てきます。」
「巴さん頼むわ…、MPもったいないからポーションでも目にかけてやれ!」
「ふふっ、そうですね。」
そう言って巴はベアードに抱えられているレナのもとへ移動した。
「レナ、大丈夫ですか?」
「……っ、大丈夫…。」
「さぁ、顔を押えている手を除けてください。ポーションがかけられません。」
あ、本当にポーション掛ける気だったんだ。
冗談だったのに。
「ふえぇぇぇ、アタシの綺麗な顔がキズモノに…。」
「レナ、出血どころか傷一つありません。本当に痛むんですか?」
「え?…こう目のところが…、あれ?痛くない?」
「よく見ればHPもそんなに減っていません。」
「あれ?アタシ気のせい?」
「なんだい?大したこと無かったのか?そりゃあよかった。」
「無事で何よりだ。」
「ッちくしょう!あんのイタチめぇぇ!!!!!シバいたる!!」
「あ、元気そうね…いや、元気過ぎね?」
「そ、そうだな…。」
「レナ、落ち着きなさい。」
「マジぶッ殺!!」
レナは<棘茨イタチ>にむけて杖をかざす。
「人間様を舐めんなよぉおおお!!!<オーブ・オブ・ラーヴァ>!!!!」
「バカ!!こんなとこでぶっぱn…」
制止も間に合わず、<棘茨イタチ>レベル1に魔法をぶっ放す。
本人は満足げではあるが<棘茨イタチ>はひょいとそれを避けた。
「なっ!!!ちょこまかと…。」
再び杖をかざし攻撃の構えを取ろうとするレナにシゲンは咄嗟に声を荒げる
「よく前を見ろ!!」
刹那、シゲンが言葉を発するか発さないか、レナの前にベアードが立ちはだかる。
数秒遅れてベアードの盾に何かがはじける音がする。
「っと、危ないかったぜ。」
「ふぇ?」
ベアードの大きな身体から前方へ身体を覗かせると、レナの!!!<オーブ・オブ・ラーヴァ>によって一直線に焼け焦げた道が切り開かれている。
そこから怪訝そうな顔でこちらを睨みつける<棘茨イタチ>の群れ。
「げげげ!ヤッバ!熊ちん頼むで!」
「任せろ!って熊って…」
「視認7体、レベル30!」
「障壁作ります、その後弓矢での攻撃に移行。」
「「「了解!」」」