042
唸り声を上げて腕を振り回すゴーレム。
その姿には少し覇気がない。
様子を見ればわかる通りHPゲージは短く赤くなっていた。
泳汰
「よし、マシュー、最後締めるぞ。」
マシュー
「よしきた、<アサシネイト>ッ!」
泳汰
「<オンスロート>!!」
二人の攻撃がゴーレムに止めを刺した。
虹色の泡となり大量の金貨とドロップアイテムを撒き散らして消えた。
シゲンの分析と予報通り大技主体に切り替えダメージを重ねて倒すことができた。
後はもう掃討戦である。自分たちの親玉である将軍や切り札であったゴーレムが倒され、ゴブリン達は逃げ惑った。
ゴブリンがワラワラと出てきた小部屋の他にも抜け道があったのかこちらが倒す以上のスピードで数が減っていった。
その頃には退路を守っていたドワーフの戦士達と合流も出来、洞窟を後にした。
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コオリマの街〈黒曜の大盾〉ギルドホール
オーギュスト
「さすがは冒険者殿!さすがは英雄殿!!」
オーギュストの言葉にベアードをはじめみんなの顔が照れくさそうな顔をしている。
オーギュスト
「どうだろう、このままこの街に残って兵達の訓練や今までの武勇伝を語っていただけないだろうか。」
ベアード
「お話した通り僕たちはアキバへと戻る最中なのです。ツクバには仲間が居て、僕たちの帰りを待っています。有事にはアキバに連絡を下さい。」
オーギュスト
「そうか、それは残念だ。ではせめて今晩くらいはゆっくりしていって頂けないだろうか。」
吉継
「それくらいならいいよネ?」
シゲン
「元からそのつもりだしな、それより装備の修理が出来る所ありますか??鍛冶屋でも武器屋でも。」
オーギュスト
「それならいくらでも案内します。ドワーフは元より製鉄や火の取り扱いに長けた種族、とびきりの職人のいる鍛冶屋をご案内させましょう。」
ベアード
「それは助かる。硬い敵を相手にしたので…。」
泳汰
「あとは長旅で装備が壊れた奴もいたな…。ゴブ共を倒して金貨もあるしみんなの分の修理も出来るか。」
オーギュスト
「そんな、街の危機を何度も救って頂いている英雄殿からお金は頂けません、みなさんの分の装備は我々が責任を持って修理させていただきます。」
泳汰
「やったぜ!こりゃあラッキーだ!」
オーギュスト
「さぁ、善は急げとはまさにこのこと、これから鍛冶屋に連絡をいたします。こちらにいる方の分は私が責任を以て預かりましょう。宿にいるほかの方へはすぐに遣いの者を出します。今夜は宴の用意もあります。楽しんでいってください。」
居合わせたメンバーは修理が必要なものを預けて広場へ向かった。
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数時間後…
彼らは広場にいた。
とうに日は暮れて広場にはたくさんの篝火が灯され簡易的な木製のテーブルとイス。
テーブルの上にはたくさんのご馳走が準備されていた。
行き交う人も昼間より多いように見える。
噴水の前では住民のリクエストに答えて「冒険者様のこれまでの武勇伝」を披露していた。
泳汰
「そこで俺がモンスターの気を引くわけだ…。」
マシュー
「ソコをつかさず俺が後ろからザクーッ!!」
二人はノリノリで手振り身振りを付けて面白おかしく話をしている。
子供も大人も食い入るように聞いていた。
シゲン
「うーん…。」
食事の際に出てきたスプーンを口にくわえたままシゲンもそれを遠目に見守っていた。
ベアード
「シゲ、それは行儀が悪いんじゃないか?」
シゲン
「こんなところまで来て行儀云々言うなよ…。アキバにいたPKやススキノのあいつらの方が行儀悪いだろう。」
ベアード
「それとこれ比べるのもなぁ。それよりいの一番でお祭り宴会好きなシゲがあの場所で武勇伝語ってないのが不思議なんだけど。」
ベアードは意気揚々と武勇伝を語る泳汰やマシューたちを指さしてそう言った。
シゲン
「んー考えることが多すぎてそんな気分じゃない。」
シゲンの頭の中はぐるぐるといろいろなことが駆け巡っていた。
新種のモンスター。これは〈ノウアスフィアの開墾〉のだろう。
大地人。見れば見るほどに本当に生きている。
タイハクの城下で過ごしたときにも大地人観察を行ったが血を流して倒れた姿、こうして飲み食いをし楽しそうに笑っている姿を見るとゲームとは思えなかった。
まるで現実のように彼らは生きていて生活していた。戦い血を流していた。
シゲン
「これが今の俺たちの現実か…。」
ベアード
「何か言ったか?」
シゲン
「いいや、何にも。」
ベアード
「???」
シゲン
「っしゃ!肉食うぞ!肉!!」
ベアード
「急に元気になるな!」
シゲン
「おうバカワンコ食ってるか!」
エーヴィル
「格下げしてせめてチャラワンコに戻してくださいよ…。」
冒険者達の夜はまだ続く。




