021
ドアを開けるなり「にゃあ」と姿を見せたみんなから旦那と呼ばれたプレイヤー。
あぁ、アキバで通りすがる程度に見てたけど本当にネコだわ。
ウチに猫人族いないからなぁ。と内心呟いたシゲン。
おでこから出る長いアホ毛、深緑のジャケット、左右の腰に刺したレイピア。
語尾に「にゃあ」と付けるにはもったいないくらいの深い男性の声。
「<茶会>のにゃん太さんじゃねーか?」とシゲン
「あー!副長と仲の良かった料理人の!!」とベアード
あーっ!そうそう!と手をたたく泳汰。
「副長…、クシっちのことですかにゃ?
おやおや、吾輩をご存じの方と、こんなところでお会いできるとは。」
「<茶会>のご意見番にして(たぶん)最年長。そしてこの取ってつけたようなネコ語。最近のユーザーならともかく、一昔前からいるプレイヤーだったら<茶会>の存在やプレイヤーくらいわかるでしょー。」
「いやはや、それほどとは知らなかったですにゃ、いつの間に有名人になっていたのでしょうかにゃ。サインの練習でもしておかなくてはですにゃ。」
「いや、いまさらかい!」
緩やかに出たボケにツッコミが入る。
「旦那さまかっこいい!!」
「にゃん太さんかっこいいですぅ!」
部屋の中で黄色い声が上がる。
出元はさっきからソワソワしているミライと、にゃん太の後ろにちょこんと着いてきていた赤毛の少女である。
「セララさん大したことはありませんにゃ。」
「ふわぁ…。」
セララと呼ばれる女の子もソワソワしている。
シゲンはステータスを確認して所属ギルドを確認。
<三日月同盟>の文字を見た瞬間にマリエールさんの話していたことを思い出す。
なるほど、この子が…。
そう言いそうになるのを飲みこんで見守った。
「そういえば思いだしましたにゃ、泳太殿とそちらの<守護戦士>殿はクシっちの下にいたプレイヤーですにゃ、よく大規模戦闘で見かけた記憶がありますにゃ。今思えば懐かしいものですにゃあ。」
「有名人にそんなこと言って貰えるなんて俺らも大したもんだな。わっはっは!」
ちょっと恥ずかしそうにする泳太。
「お前は今の今まで思い出せてなかっただろう…。」
ベアードは肘で泳太をツンツンしながら茶化すように言った。
「泳太殿はこちらの方々と連携してススキノを脱出をするのかにゃあ?」
「そうですね、よければにゃん太さんも一緒にどうですか?アキバへ。あいつらには手を焼いているでしょう?」
「そうですにゃぁ、嬉しいお誘いではありますが某にはいまセララさんを迎えに来る方を待つという仕事がありますにゃ、みなさん達のみで行くのがいいでしょうにゃあ。」
「そっかー、なにか困ったことがあったら是非連絡ください。」
泳太はそういってにゃん太をフレンド登録した。
一行はススキノを出る準備をした。
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「それじゃあ、気をつけてにゃあ。」
はねた髭を撫でながら見送るにゃん太。
「アキバに来た時は是非顔を出してくださいね!」
「ウチにも来てください!」
ブンブンと手を振る泳汰と小さく手を振るベアード。
「にゃん太さまぁ…。」と、すでに半泣きのミライ。
「セララちゃん、またね!」
「しるきーちゃんも元気で。」
別れを惜しむ少女二人は<三日月同盟>のセララと<深海の大鮫>のしるきー。
どちらも回復職で低レベル、話を聞けば同年代だとか。
大災害以降仲良くやっていたのだろう、別れを惜しんでいる。
「そうにゃ、これを。」
そういってにゃん太は魔法鞄からある物を取り出す。
石を二つ、左右で握り締めてカッカッと打ち鳴らした。
「成功を祈って…にゃあ。」
「切り火ですか。」
「古風でいいですネェ。上手くいきそうな気がするヨ。」
「それでは。」
そう言って一行は街の外へ向かった。




