012
「いやぁ、相変わらず壊れ機能の槍だな。流石幻想級。」
「やっぱり威力は段違いだネ。」
「自分でもぶっとんでると思うさ、俺に似合わず不相応だと。それに比べたら二人は自分自身に合う得物を持っていると思うけどな。武器の名前が独り歩きしているようで俺はあんまり好きじゃないけど。」
幻想級武器 光槍ブリューナク
太陽神ルーが所持するとされている、穂先が5本に分かれている槍である。
5つの切っ先から放たれた光の矢は一度に5人の敵にダメージを与えることができる。
投げると稲妻となって敵を死に至らしめる灼熱の槍などと言われ、生きているかのように自動的に敵に向かって飛んでいく。
ベアードが〈D.D.D〉時代に獲得した武器である。
「それにしても「動くラブホテル」には笑ったわ!!」
シゲンがPKの話していたことを掘り返して話のネタにする。
「僕には「神速刑部」って二つ名があるのにミイラなんてセンスの欠片もない異名はいらないネ。」
「んなこと言ったら俺にだって「流星軍師」ってイカした二つ名があるんだぜ?なんだよぶっとびって!」
「「合ってる(じゃん!)(ネ!)」」
「そりゃねーよ。」
そんなくだらない話をしているとレナ、巴、音雨の3人が近づいてきた。
「ちゅ~か、異名とか二つ名って自分で言って回らんから!」
「「「え!??」」」
「え?やあらへん!」
「ギルマス、第一声がそれじゃあんまりじゃ…。」
レナの発言に音雨から冷静にツッコミが入る。
「この子ったらあんまり活躍できなかったからって拗ねているんです。」
「子供かよ!」
「私なんか障壁一枚出して終わりだったのに…。」
「こっちもかい!!」
ツッコミによる息切れを大きく息をして安静へと戻す。
「とりあえず街に戻ろウ。メンバーへは僕が念話しておくヨ。」
「わ、私もみんなに連絡します!」
「吉継も音雨さんも頼むぜ。」
「俺らはこのまま警戒態勢でチャラワンコのところまでこの二人を送り届けよう。」
「そうやね、帰り道でまた襲われても敵わんしな。」
「これだけレベル90が固まれば手出しはできないと思いますが警戒して行きましょう。」
「「「おー!!」」」
さながら大きい子供たちの遠足である。
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ギルド会館 <闇夜の魔狼>ギルドホール
「いや~隊長、お久ぶりっす!!みなさんもお変わりないようで!」
うんうんと頷く<北の鬼>の3人。
「メデューサのお姉さま方も今日は一段とお美しく…。」
「ワンちゃんったら褒めても何もで~へんで!」
「今回はメンバーをPKからお救いしていただいたようでありがとうございました。なんとお礼をしたらいいか…。」
「たまたま居合わせただけさ。大事に至らなくてよかったよ。」
「知り合いのギルドからPKの噂は聞いていましたがこうも早く遭遇してしまうとは…。」
ホールで話をしていると二人の女性が入ってきた。
「サブの私を置いて他のギルドと挨拶とは心外です。」
「んな堅いこと言わないの、お肌が荒れちゃいまちゅよー!」
最初に発言をしたメガネをクイクイさせながら2歩後ろを付いてきそうな秘書のような女性は沙月。レベル90のエルフの<施療神官>である。ここのギルドのサブマスを務めている。
次に発言をした花魁のように和服を着崩した酔っ払いのような狐尾族女性は玉藻。
レベル90の<召喚術師>である。ここのギルドのナンバー3である。
「ここのメンバーもなかなかのログイン率ですネ。」
「はい、30名のメンバーすべて大災害に巻き込まれております。」
沙月はメガネをクイクイしながら答えた。
「あ、シゲちゃんいるじゃん!ハロー!」
「た、玉藻姐もお元気そうで…。」
やや元気なさげにシゲンが答えた。
「こうして各ギルドのトップが出そろうとまるでレイドに行くときみたいでわくわくしますねぇ!」
耳をピョコピョコ動かしながら嬉しそうにエーヴィルが言った。
「確かに。皆様とはたくさんのレイドに参加して参りましたからね。」
「小ギルドの集まりにしてはいいとこまで行ってたからねぇ…。」
マスターであるエーヴィルに続き沙月と玉藻もしみじみそう言った。
「そうだな、みんなとはいろんなレイドに挑戦してきたから。もはや一つの家族みたいなもんだな。」
「隊長!!家族だなんていいこと言いますねー!!何かあったらぜひうちに連絡ください!すぐに駆けつけますから!」
「なんや、ウチだってみんなが困ったときは駆けつけるんやからな!」
「よろしく頼むぜ。」
心強い仲間がたくさんいることを再度確認して大災害に巻き込まれて以降、
初めてほっこりとした気持ちになれたベアードだったのである。
こうしてPK騒動こういった一部の中小ギルドの有志や大手ギルドの〈西風の旅団〉や〈黒剣騎士団〉に粛清され後退していった。