010
茂みから一旦距離を取り武器を構える。
人の気配を感じる。
茂みから様子を伺っているのだろう。
ベアードが前線。
シゲン、レナ、巴が後衛。
いつも訓練した陣形だ。
しかし違う点が一つ。
モンスターではなく、プレイヤー、人間なのである。
モンスターの本能的な攻撃ではなく、同じ特技や魔法を使いこなすプレイヤーなのだ。
何をしてくるかわからない。
4人はありうることを考えた。
先に動いたのはPKの方だった。
前線のベアードに移動阻害系呪文<友なる柳>が発動した。
ウィロースピリット、移動阻害系呪文。
周辺の植物のツタや葉を急成長させ、敵に巻き付けて拘束する魔法である。
完全に決まると敵は効果時間中、拘束から脱出しようともがくことしかできず、逃れたとしても繁茂した植物に邪魔されて移動力が著しく低下してしまう。
「なんじゃこりゃ!!」
這い上がる蔓の感触に悲鳴を上げる。
すぐさま後衛から魔法が投射。
〈ディスペル・マジック〉と〈禊ぎの障壁〉。
〈付与術師〉のシゲンと〈神祇官〉の巴がかけたのだとすぐに気付く。
「メイン盾が無いと俺の事を誰が守るんだ?」
「うるせー!でも、仕事が早くて助かるぜ!どうする!軍師殿!!」
「俺も出るぞ。巴殿、俺にも一応障壁頼む。」
「わかりました。」
「本当にやる気かよ。」
「ったり前よー!試運転したくてウズウズしてたんだから。」
それを聞いてベアードは頭をポリポリとかく。
横目でシゲンと会話するベアードに向けて弓矢が飛んでくる。
それを軽く叩き落とす。
「よし、やるか!」
「レナ、茂みに拡散系の一発!」
「はいな!〈ライトニングネビュラ〉!!」
茂みに向けて電撃属性の広範囲攻撃魔法を放つ。
青紫色の輝きを放つまばゆい電光が、茂みをなぞる。
PKも堪らず茂みから逃げ出してきた。
武士、武闘家に暗殺者、盗剣士、後は妖術師と森呪遣いか…。
「っし、堅い前衛は任せるぞ。」
「了解!〈アンカーハウル〉ッ!!!」
〈アンカーハウル〉。
裂帛の雄たけびを上げることで自分への敵対心を煽る守護戦士の強力な挑発技である。
「ぐっ!」
「くそっ、タンクからやるぞ!」
タンクであるベアードを無視して後衛を攻撃しようとしていたPK達は
本能的にベアードを危険視して無視することができなくなる。
「っし!!」
武士の刀の攻撃を槍で受け流す。
「いいのかい?この槍と打ち合って。」
「ああぁ?なんのことだよ。」
武士はベアードの槍を注視する。
五叉に別れた見慣れない槍。
太陽神の持つ槍・ブリューナク。
攻撃動作や、打ち合いに入るスイッチが入る。
五叉の先から光の矢が迸る。
五つの光の矢は武士以外の五人のPKへ向かう。
その矢は1000のダメージを与える。
「がっ!!!」
苦しむメンバーを見て顔が青ざめる武士。
「あ、これ打ち合うたびに発動するから。」
ベアードはニッコリ笑ってそう答えた。
「くっそ!!打ち合えばそのたびに1000ダメージだあぁ???
妖術師!なんでもいい、攻撃呪文だ!」
「了解!!〈サーペントボルト〉!!」
青紫の雷の束がベアードを襲う。
「やれやれ、俺の守備は崩れねぇ!」
そう言って盾を前にかざす。
城門を象った大きな盾。
その盾の城門は固く閉ざす。
電撃は盾へぶつかりそのまま術者へ返される。
「そうら、お返しだ!!」
「いやぁああああああああああああああ!!!!」
そんな悲鳴をあげて妖術師と森呪遣いが逃げ出す。
「っしゃ、俺も働くぜ!」
レナに「金色のフンコロガシ」と呼ばれたアイテム<降雨のスカラベ>を握り、矢継ぎ早に呪文を自分自身へ投射する。
「〈キャストオンビート〉、〈メイジハウリング〉。」
〈キャストオンビート〉
高速詠唱や詠唱短縮による魔法の連発を行う自己強化特技。
使用者が使う魔法系特技の使用後硬直時間と再使用規制時間を短縮する。
〈メイジハウリング〉
自身の魔法を強化する補助魔法。
効果時間中に唱える魔法に追加ダメージを付与する。
この追加ダメージは敵の防御力を無視する特性があり、ヒットさえすれば元の魔法でダメージを与えられなかったとしても効果がある。
ここに
「〈パルスブリット〉。」
「はっ!いるだけ職の<付与術士>に何ができるって!」
逃げる妖術師は鼻で笑った。
〈パルスブリット〉
小型の光弾を撃ち出し、敵を攻撃する魔法。
射出速度も高く、連打も可能であり、ヘイト上昇率も低く、けっして悪い特技ではない。
しかし付与術師特有の「気持ち程度のダメージ」の呪文である。
一つ一つは弱い呪文であっても繋ぎ合わせることで強力な呪文となる。
「俺式3本の矢だコラ。付与術師舐めんな!!」
キャストオンビートによる詠唱短縮・硬直時間短縮。
メイジハウリングによる呪文に追加効果とダメージ。
そして、連射の効くパルスブリット。
大量の光弾が妖術師を襲う。
妖術師の体力はみるみると削れ無くなった。
力尽きた妖術師は泡となり消えた。
「今度はお前だ!」
光弾の連射を今度は森呪遣いへ向ける。
「くっ、回復が…。」
それを言いきる前に森呪遣いも力尽きた。
「くそっ!役立たずばかりめっ!!」
PKのリーダーと思われる武士は焦っていた。