プロローグ
新作です!!この夏中には完結する...かも?笑笑
光はない。手元を照らす炎も穀物を育てる太陽も、人々が生きていくために必要な希望の光も。
だけどそれも今日までだ。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ...」
俺は息を整えつつ、まっすぐに剣を向けた。首や足にねっとりと何かがつたい気持ちが悪いがそんなのどうでもいい。
「ずいぶん疲れ切ってるね勇者くん。」
剣を向けられた男は月明かりに照らされ、静かに笑う。
「うるせえっ!!はあっ、はあっ...お前もここまでだ...!!」
こいつの笑い顔をみるたびに脳の血管が数本は破裂している。その怒りの全てを俺は剣へと注ぐ。
燃え盛る家、誰かを探して泣き叫ぶ子ども、鼻につく鉄の臭い、狂ったように妻の名前を呼ぶ男...
『レイラぁぁぁぁぁぁ!!』
『お兄ちゃぁぁぁぁぁん!!』
母さん...ルイ...
「お前を倒せば...全てが...」
「全て終わる?そうかな?俺を殺しても君の後悔は終わらないよ。だってお母さんや弟くんを見殺しにした罪悪感を全て俺に向けてるんだからさ。」
そう言って男はあざ笑った。
「違う!!!お前のせいでみんな死んだんだ!!!お前がいなければどれほどの人が今この瞬間平和に暮らせてた?!どれほどの人が生きてた?!俺だって母さんとルイと...!!」
それ以上は続けられなかった。頭が体の重心がどこにあるのか忘れ、視界が左右にフラフラとゆらめく。
「確かに俺が死んだらみんな喜ぶかもね。でも...君はまた新たに自分の恨みのはけ口を見つけるだけ。"偉大なる正義"をかかげて自分を正当化するのさ。」
言葉は最後まで聞かなかった。俺は体の重心を理解した瞬間、男に向かって突進したからだ。
「なんで君が民衆を率いれたのか不思議だね...」
あいつがそうつぶやいた気がする。ある一定の瞬間からクッキリとしていた景色がぼやけた。男の笑う顔が放射状に広がる。
グサッ
突然の鋭い痛みと共にどす黒い何かが俺の服を支配していった。
剣を持っていたはずの手は空を切り、ブルブルと制御が効かないほど震えていた。胸には縦長の光体が飛び出ている。
「気の毒にね...家族の仇打ちに人生の全てを捧げちゃってさ。学校で勉強したかった?友達と遊んだり、"大人"として社会に出て働きたかった?」
「あ...あ...」
頭の中で言葉は跳ね返り、宙を舞い、記憶を刺激する。
「変なことせずにしてれば未来があったのにね。」
...俺には選べる未来がなかった。
ガキの頃は木々が生い茂り、母さんや近所のチビが花の冠を作ってた。父さんだって炭鉱に毎日宝石を掘りに行ってた。
それが今はどうだ?こいつが国民の意思を無視して土地を開発して抵抗した人々を武力で制圧した。
「勉強してたらさ、どんなに巨大な武器でも少し工夫すれば力をかけずに倒せるってことも学べたはずだ...まあ、今となっては遅いけど。」
男は短剣を俺の胸から引き抜き、滴る血を振り払う。痛みに耐えられず俺はその場に倒れこんだ。
俺は死ぬんだな...
『レイラ!!』
『お兄ちゃん!!』
2人が笑いかけてる。無邪気な笑いで、優しい笑みで。母さん...ルイ...もう少し待っててくれ...
『おいクソガキ!!死んだらただじゃおかねえぞ!!』
酒場のおっさんにもずいぶん迷惑かけた...兵隊の足止め上手くいったんだろうな...
みんなに迷惑かけねえ...ここで終わらせる...
コウモリのように早足で去る男の後ろ姿を捉えた。逃がさない...!!俺は最後の力を振り絞り、ポケットに手を突っ込む。
破裂音が響いた。
コウモリは数秒立ち尽くしてから視界から消えた。
全て終わった...なのに自分の中に残るのは虚しさと痛みだけだった。
なんでだ?なんで喜べない?みんなを苦しめてた奴は死んだんだ。これでみんな幸せじゃないか。きっとこれからあいつがこの国の王様になるだろう。きっと平和な国に...。
俺は...戦いもなく、自由に意見できる国で勉強して働きたかった。誰かと結婚して家族が欲しかった。孫も出来たかもしれない。それにこの国を飛び出して違う国の文化に触れたかった...こんな人生じゃなくて...
普通でいたかったよ...