第1章 未知
第1章 未知
第1話 次の恒星へ
旅立ったミチヤは、108の欠片の複合体だった。
必要であれば欠片を切り離す事もできた。
意識下では、108の意識の会話もできた。
ミチヤはイズミに搭乗して航行していた。
最初に到達した恒星は、テスト航行で来た事があった。
この恒星には、既にゲートが設けられている。
イズミには6個のD9バッテリーを積んでいる。
3個は満タンだ。
3個はほとんど空だ。
D9バッテリーは、D9空間融合炉からエネルギーを補充する。
D9空間融合炉は、永久機関だ。
満タンのD9バッテリーを全て使えば、150光年を1日で移動できる。
D9バッテリー1個を満タンにするために、D9空間融合炉は1日を必要とする。
時は、2057年8月3日。
次の恒星を『SDA』装置が、決定した。
『SDA』装置は、銀河の中心方向と恒星の感知ができる。
また、50光年の範囲で生命体の感知もできた。
恒星同士の距離は、銀河の辺境であるこの付近では、4~10光年ある。
銀河の中心近くでは、もっと近接しているだろう。
次の恒星までは、8光年ある。
8光年ならば、1時間余りで移動できる。
ミチヤは、次の恒星に向かった。
第2話 生命体
いくつかの恒星を経由して150光年ほど進んだ時、警報が鳴った。
『SDA』装置が生命体を感知したのだ。
その恒星は太陽の1.2倍の質量を持っていた。
生命体の調査のためにいくつかの欠片が切り離された。
彼らはテレポートできる。
生命体を感知した惑星にテレポートした。
そこには、地球の猿に似た生物が生息していた。
知能も猿と同程度のようだ。
だが、精神エネルギーが異常に強い。
彼らがD8スーツを着用していた。
そうでなければ、危なく精神エネルギーの虜になるところだった。
彼らは知能を発達させる代わりに精神を発達させていた。
ここには、ユーラのような命の欠片はいない。
彼らの命の種は、人類と同じようだ。
命の源は「命の泉」にあるのだろう。
猿に似た生物を「似猿」と呼ぶ事にした。
この惑星の主は似猿のようだ。
他の生物種は多くいるが似猿より知能も精神も数段劣る。
遺伝子を調べてみた。
地球上の生物と構造は同じだった。
染色体の数と配列が異なっていた。
ミチヤは次の恒星に移動した。
第3話 D9転送機
地球では、また一人細胞リサイクル遺伝子を発現させた者が見つかった。
名前は『サム』と言った。
彼は、テレポーターだった。
遺伝子の発現箇所を調べた。
染色体番号9の複数の遺伝子が発現していた。
この研究が進められた。
ムーでは、D9を利用して転送機の開発が行われていた。
このプロジェクトには鎮也も参加していた。
D6融合炉と結合させたD9転送機ができた。
イズミの進行に合わせて補給基地を造るプロジェクトが推進された。
「ステーション・ネットワーク」プロジェクトと呼ばれた。
略称をSNPと呼んだ。
ステーションは、ダイバリオンで建設される。
恒星内から大量のストレンジクォ‐クが見つかったため、ダイバリオンは
量産体制に入っている。
主ノード・ステーションは銀河の中心方向に向けて、100光年毎に設置する。
サブ・ステーションは主ノード・ステーションの周囲8方向50光年単位で設置する。
リトル・ステーションは恒星毎に設置する。
これらをネットワーク化して繋げる。
SNPのためイズミを小型化した宇宙船が数隻建造された。
作業用の宇宙船も建造された。
他の研究チームでは、チャームクォ‐クの研究が進められていた。
第4話 固定した欠片
更に300光年ほど進んだ時、警報が鳴った。
調査隊はその惑星にテレポートした。
彼らは畏れられた。
この惑星は、地球でいうなら16世紀頃の文明を持っていた。
調査隊は神として崇められた。
この惑星の住人も人と似ていた。
染色体の数は人と一緒だが、配列が違う。
思考も好戦的ではない。
ここまでの道程の情報は、全て地球に送信している。
『SDC』装置の指向性の超高速通信は、未だ余力を持っている。
D9バッテリーは70%の装空率だ。
これが100%になれば900光年を1日で移動できる。
ミチヤはこの惑星の「固定した欠片」と接触した。
彼もまた好戦的ではない。
情報をくれた。
この先500光年くらいのところに、飛びぬけて文明の発達した惑星があるようだ。
そして、彼らは好戦的らしい。
放浪の欠片がくれた情報のようだ。
果たしてどの程度の文明なのだろうか?
その惑星に接近する時は慎重に行動しなければならない。
350光年先に進み、SNPの完成を待った。
これで銀河の中心に向かって800光年近付いた。
第5話 チャームクォ‐ク
ムーではチャームクォ‐クの研究開発が進められていた。
最初に取り組んだのは、水素を構成するクォ‐クをチャームと交換する事だった。
この研究開発は、D8の発するフィールドで厳重に密閉された。
研究開発が成功し、その元素が自然界に放たれれば何が起こるか予測できなかった。
水素の原子核は+1の電荷を持つ。
チャーム水素が、他の自然界の元素と化学反応を起こすと何が起こるか予測できないのだ。
アップクォ‐ク2個をチャームクォ‐ク2個と交換した。
ダウンクォ‐ク1個をストレンジクォ‐ク1個と交換した。
そして、核融合実験を行った。
通常の水素の核融合の1000倍のエネルギーを出力した。
実験は成功した。
しかし、その実験素材は全て破棄された。
危険すぎるのだ。
電荷を持たないダイバリオンの研究開発が行われた。
アップクォ‐ク2個をチャームクォ‐ク2個と交換した。
ダウンクォ‐ク2個をストレンジクォ‐ク2個と交換した。
この結果ダイバリオンはチャームクォ‐ク2個とストレンジクォ‐ク4個で構成される。
これを「CMD」と名付けた。
結果がはっきり解るのはD6だ。
CMDでD6を融合させた。
出力エネルギーは、通常のダイバリオンの6000倍を超えた。
新たなCMD6核融合炉が建設される事になった。
D2~D9の研究開発も進められた。
第6話 高度文明
SNPの完成を待って、ミチヤは文明の発達した惑星に到達した。
しかし、生命体の反応はない。
ミチヤはこの惑星の「固定した欠片」と接触した。
彼は、嘆き悲しんでいた。
この惑星を調査した。
元は生命体だったらしき異常なものが、次々と見つかった。
それにはチャームクォ‐クが混じっていた。
彼らもクォ‐ク交換の実験をしたらしい。
その結果、自然界に重大な異常をもたらし、滅んだようだ。
やはり危険だったのだ。
ムーから科学者が来て詳細を調査する事になった。
そして、チャームクォ‐クは分解して持ち帰る事になった。
このまま放置しておくのは、危険すぎる。
これで銀河の中心に向かって950光年近付いた。
D9バッテリーは、装空率100%となっていた。
ミチヤはそのエネルギーの半分を使い450光年移動した。
そこには、生きた文明があった。
第7話 D2・D3
ムーでは、CMDを利用してD2・D3の改良が行われていた。
D2とD3が予期した作用をしない。
構成するクォ‐クの種類が3種類から2種類になった影響だろうか?
ストレンジクォ‐ク2個をダウンクォ‐ク2個と交換した。
これでダイバリオンを構成するのは、
「チャームクォ‐ク2個」
「ストレンジクォ‐ク2個」
「ダウンクォ‐ク2個」
となる。
これを「CSD」と呼んだ。
D2の精神同期は、凄まじかった。
通常の人類が1個のD2に接近しただけで精神が崩壊する。
未久が志願した。
未久の能力が極限状態になった時、彼女は予言した。
「イズミに危険が迫っている」
「今は近づいてはいけない」
この情報がイズミに発信された。
改良したD2の精神同期は、覚醒者には有効な効果をもたらすようだ。
このD2は、「CSD2」と呼ばれた。
そしてD8で封印がされた。
D3も同様だった。
このD3は、「CSD3」と呼ばれた。
未久の精神エネルギーを増幅した。
彼女は更に予言をした。
「CSD2とCSD3をミチヤに渡しなさい」
「さすれば、危険は回避できるでしょう」
D8で封印がされたCSD2とCSD3の塊が、ミチヤに転送された。
第8話 精神惑星
その惑星の主は肉体を持たなかった。
命と精神だけの存在だった。
自然は何らおかしいところはなかった。
主は、強力な精神エネルギーを持っていた。
個であり集合体でもあった。
彼らの念動力は、衛星さえも削り取った。
強制暗示は、ルシフェルの比ではなかった。
この惑星の主は、好戦的ではなかった。
攻撃されなければ、攻撃しなかった。
ミチヤはこの事を知らなかった。
ただ未久の予言通りにCSD2とCSD3の塊を持って地上に降り立った。
主は、これを攻撃と判断した。
ミチヤは吹き飛ばされた。
破壊されないのはD8スーツのおかげだ。
強制暗示がかけられる。
これはCSD2のおかげで回避できた。
主もCSD2に同期させられている。
CSD3を使用しようとした時、割り込んだものがいた。
この惑星の「固定した欠片」だった。
彼の意識が危険を察知したのだった。
主は攻撃を止めた。
ミチヤも攻撃を止めた。
和解が成立した。
これで銀河の中心に向かって1400光年近付いた。
クラサの能力が向上した。
未だ、未久の能力はクラサには及ばない。
CSD2とCSD3のおかげで未久は、一次的にクラサの能力を凌いだだけだった。
これから先の進退は、クラサに委ねられた。
第9話 D4・5
ムーでは、CMDを利用してD4・D5の改良が行われていた。
D4の硬度と耐熱性が驚異的に上がった。
D4を構成するCMDはD1の26倍の質量を持つ。
この影響で硬度と耐熱性が上がったものと考えられる。
どの程度か実験する術はない。
これをCMD4と名付けた。
CMD4は、紙を裂くようにD4を裂いた。
D5の斥力も驚異的に上がった。
これは、数値で測れた。
重力子と斥力子の感知と計測に成功していた。
名をCMD5とした。
CMD5はD5の26倍以上の斥力を発生した。
CMD4にCMD5をコーティングしてCMD4Cを作製した。
CMD5A装置が造られた。
斥力調節装置だ。
しかし、D8ではCMD5をうまく遮断できなかった。
CMD8の開発が待たれた。
第10話 白色矮星
銀河の中心に向かって2500光年ほど近付いた。
この時、クラサは予言した。
「ムーからの贈り物を待ちなさい」
「さもなければ、飲み込まれるであろう」
ミチヤには、理解できなかったが待った。
ムーから、
「CMD4C」
「CMD5」
「CMD5A装置」
「CMD6核融合炉」
が届いた。
ロミオは、自己改良を行った。
ここから数十光年進むと突然小型の白色矮星に捕まった。
D6核融合炉を全開にしても振り解けなかった。
D9も重力が強すぎて効果がない。
D4だったら押し潰されていたかもしれない。
CMD5A装置を全開にして、斥力を発生させた。
そして、CMD6核融合炉のエネルギーで脱出する事ができた。
この時使ったD9バッテリーの装空率は、20%を切っていた。