第一章 手紙とオーレンスト国と言語と
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
前半は恋愛観はほとんどありません。後半からです。
ディルから「エル、国王に手紙を書いているか?」と聞かれた。「いや、報告はディルがしてくれていたんじゃないか?」と返事をした。呆れた様に「いやいや、エルの身分は?」と問われたので「一応、王妃となんじゃないかな、外交員でディルの同僚というのが正しい気がする。」と笑いながら返事をすると「それじゃ駄目だ。エル、王妃という身分を自分自身に落とし込め。エルはスワツール国の唯一の王妃なんだぞ。大事なことだ、忘れるな。忙しくても、国王に手紙を書け。」と強く言われた。確かに、仕事をしていると身分なんて考えもしなかった。だけど、決して忘れてはいけないし、常に意識していないといけないことだった。ディルに感謝した。「いつも私を導いてくれてありがとう。」ディルは澄ました顔をして胸に手を当てて一礼しながら「どういたしまして、王妃様」といった後、優しい顔で笑った。そんなケレに「報告書は書いていたが手紙を書いたことがないの、どんな事を書けばいいのかわからないんだが」というと「はぁ?手紙を書いたことがないとか...いや、そうだな...報告書でもいいから手紙を書くことを意識しようか、時候の挨拶とか相手を慮る言葉を書けばいいんじゃないか」と教えてくれた。「私は二人の橋渡しもしないといけないのか」とブツブツ言ったようだが、よく聞こえないので聞き返しても「気にしなくていい」と言われた。
その夜、私は国王ケレに手紙を書いた。9割が報告書になってしまったが、常に忙しいケレだが体調はどうか?勝手な行動を許してくれて感謝していることや、出会った人たちのエピソードと自分の新しい感情の変化に驚いていることを書いた。
忙しいケレからの返事は早く、私の体調を気遣う言葉や成長が知れて嬉しいこと、夫婦なのだから相談事があれば遠慮なくしてほしいと書いてあった。「夫婦かぁ」私の知っている夫婦といえば、育ててくれた公爵家のお二人しかいない。そしてお二人との交流は少なく夫婦の関係性が分からない。ディルに「夫婦ってなんだ」と問うと「国王に聞け」と返された。私はケレに、夫婦というのがよくわからないことや周囲に夫婦で仕事をしている人達がいて一人一人が違うように、夫婦の形も色々あるようだ。これからの私たちがどのようになっていくのか分からないが、人との交流を通して学んでいけそうだということを書いて手紙を送った。人の関係性は常に変化していくから、私たちなりの形を見つけていこう。こうしてお互いを知っていくことも必要なことだと返事がきた。ケレとの手紙は最初こそ2~3週間に1度のペースだったが、質問や相談事のアドバイスが嬉しく毎日のように送ることになった。ケレからは毎回「いつもエルのことを想っている」と締めくくられていた。この頃の私は想うという意味を理解していなかったなと後々に知ることになる。
オーレンスト国からお迎えする人々の情報を得ながら準備を進めていった。ジスルリッタワーソル迎賓館の責任者をしてくれている公爵家執事のフォンゾからアウグスリンデ国の商品の販路をどうしたらいいのか相談があった。現状は現場で各自が知り合いを通じて購入しているようだが、購入する種類も数も多い厨房は混乱しているようだと知らせてくれた。ディルやファビ、ライと相談して、いくつかの商会に取引きをしたい旨と面談させてほしいと日時を指定した文書を送った。オーレンスト国の街リブランに商会や商店、百貨店などを構えているところが多かったが、指定日に面談に来てくれた商会は5社だった。アルドアルの街を知らないので仕方がないことだった。しかし、この5社はアルドアルの街に到着してみて、その光景に驚愕し気合を入れた様で幸運に感謝した者もいたようだった。5社はそれぞれに取り扱っている分野が異なっていたため、全ての商会と取引していくことも念頭に置いて面談を行った。
・ブランズ社 食品や飲料品
・ブラバンシ社 薬剤関連
・ネドロイド社 鉄鋼関係
・アルティス社 機械関係
・エルゼピア社 衣服や小物・化粧品
面接には、支店長クラスの上位管理職者が来ており、服装や身のこなし方から全ての方々が、社会人としてのマナーを身に着けておりスキルや熱意・意欲、価値観に問題がなかった。「こんなに恵まれた面接はないぞ、上手くいきすぎて反対に心配になるな。」とファビが嬉しそうに話しディルとらいが頷いていた。面接を行ことが初めての経験だった私に3人が「いつもこうだと思ってはいけない」と釘を刺した。
それぞれに関連部署に紹介を終えて一息ついたときに3人から、エルは何か国語を話せるのかと聞かれた。面談を行った人々はスワツール語を話せる人が多かったが、細かい内容は自国の言葉がでるため通訳したり補助したりした。3人もオーレンスト語を話せない訳ではないが流暢にとはいかないからと心配していたので、役に立ったようで安心した。私が育ったアウグスリンデ国は、北側が海に面していて、7つの国に囲まれていた。東側から順にサグレブ、ジュバ、スバ、オーレンスト、スワツール、バイア、ビサウ接する面積は大小あるが友好国以外は戦争になる可能性があるため7国語を話せるように学ばされた。3人は信じられないと言って、他国の言葉を聞きたがり話させるので、少し悪い言葉を話して憂さ晴らしをしようとしたが、何故分かったのか、ディルは「他国語を話した後に必ず訳してみろ」と言ったので途中からは、提示されました要望にお応えすることはできませんという言葉を7国語で喋り、終了いたしますとオーレンスト語で締めた。
そして、オーレンスト国の視察団を迎える2週間前、突然に視察予定者に入っている医師が二名訪ねてきた。本当に本人たちなのか確認も取れない状況だったため、オーレンスト国から来ている技術者や職人の方々にご本人確認を行という作業を試みた。職人の中に先生にお世話になったという人達がいて、本人確認ができた。二名の医師から、リハビリ型施設の見学が希望なのであって、外交官と一緒に堅苦しい時間を過ごしたくないという要望を切々と訴えられた。オーレンスト国でどんなやり取りがあったのか分からないが、二名の医師の要求は理解できるし来てしまったものは対応せざるを得ないので、ヴィクトール医師に連絡して二人の対応をお願いした。
二人の医師は、ジギワルド医師が40歳とタバート医師が39歳で同期で王宮に勤務しているが日頃は派遣で王都の医院に出向いて仕事をしている、リハビリが必要な患者が多くいるが対応できておらず、お互いに良ければ患者さんの紹介をしたいし、自分たちも暫くこちらでお世話になりたいという申し出だった。ヴィクトール医師は、人手の足りない現状なので是非受け入れてほしいと希望されたが、外交官の方々の意見も聞いてから要相談とさせてもらった。二人の医師は早々にヴィクトール夫妻の居住区にある住居に住みたいと、病院建設が終わり自分の故郷に帰った作業員が居なくなった住居で寝泊まりするようになり、食事は病院で食べたりヴィクトール家に招かれたりしていた。快適!快適!と言って嬉々としており、このまま移り住むことになるであろうことが予測ができるほどに短期間で慣れ親しんでいた。ヴィクトール医師が、二人は行動力があり、誠実で探求心と向上心の溢れている。協調性も社交性も問題なし。とべた褒めなヴィクトール医師に「先生、お気持ちは分かります。しかし、お二人は約束もなく入国されました。結果は問題なかったかもしれませんが、それでよし!とはなりません。」とやんわりとした雰囲気で忠告めいた言い回しをしてみた。ヴィクトール医師から「アリスから、あまり肩入れしすぎないように言われていたんだが」と苦笑いしながら「エミルさんにご迷惑をおかけしないようにね、お任せしないといけませんよとも言われてましたね。」すみませんと謝罪された。きっと、良い方向に進むでしょうし、そうなるように尽力しますと返事を返した。
私の中に人と人の繋がりを大切に想う気持ちや絆という言葉の意味を真に理解した瞬間だった。




