第一章 開拓
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
前半は恋愛観はほとんどありません。後半からです。
具体的な構想を練っていく間に鉄道の導入について適切と判断され、議会で可決され建設が開始された。その間に温泉施設の企画・計画、設計、資金調達、許可申請、施工といった主要な段階についてディルと協議を重ねた。建築基準法や関連法規についてや施工関連は詳しい者の意見が必要とディルから法律部署課のギュルゲ公爵家次男ファビアーノと、管財資産課からベーレンス侯爵家三男ライモンドを紹介された。二人は私が王妃であることを知っているようだが、ディルとのやり取りを見て同僚として接してくれるようになった。ディルとは野営を含めて寝食を共にすることが多かったため、喜怒哀楽を隠すこともなく意見がぶつかれば喧嘩もする。喧嘩をしても不思議と着地点が一緒の思考のためか次の案件を協議するので、傍から見ればさっきまで喧嘩していなかったか?という具合に気の置けない仲間と思われていた。
私が思いつくままに発想を語れば、ファビアーノ・ギュルゲ(ファビ)は、法律に詳しく事業の規定、許可、維持管理、安全基準など様々な方面からサポートしてくれた。ライモンド・ベーレンス(ライ)は、それを基本構想の策定から設計施工と形あるものにしてくれた。お互いを愛称で呼び合うことは、自国にいる時は、危機に陥った際に基本は2文字で呼び合うという規律があったので提案するとすんなりと受け入れてくれた。
鉄道が開通するとクラエイヤ火山の麓まで1ヶ月の道のりが5日間になり、天候に左右されることもなく人や物資の調達ができるようになったため、早速施設の建築に取り掛かった。ファビとライは王宮で要職に就いていたが、こちらを優先したいと私達と共に居住をこちらに移した。特にファビはここを気に入って、公爵家の執事、従者、給餌まで連れてくる予定だから別荘を建築すると場所の選定を始めた。私は、駅舎の建築から始めることにして、次の駅の予定にしているオーレンスト国側の1番近い街、ジーゲンに行き来するようになるとした場合に簡易に一泊できる施設を併設したいと考えていた。そこで、現在一緒に働いてくれている職員が休める場所が、後に駅舎として役立つような設計にしてもらうことにした。
次にオーレンスト国側の要人を迎える施設を作ることにした。この施設はオーレンスト国の職人の意見を反映したかったので、諜報活動中に助けてくれた大工のマルティンに連絡をしたかった。マルティンは、アウグスリンデ国と戦争の可能性がある頃に諜報活動で入国しオーレンスト国側の給仕担当班にいた時に、何かと突っかかってくる兵士がいてワザと打つかってきたり叩いたり蹴ったりしてくるようになった。そんな時にマルティンが一喝してくれた。「ああいったヤツは、ドンドン助長するから早いうちに釘を刺さないと駄目だ、弱いところに当たるからな。」そして、何かと助けてくれるようになった。「大工をしていたが、戦争が始まるかもしれないからと駆り出された。大工に何ができるっていうのかと思ったが、やったことのない砦を作れとか、ほんとに毎日疲れるな。お前の作る料理は旨いしホッとするよ。」と言ってくれた。数か月後に友好協力条約が結ばれ、開戦することはなかった。マルティンは、最後の日に「何かあれば頼れよ、俺はフローランという町にいるから大工のマルティンと伝えれば分かる。」と言ってくれた。マルティンの仕事を見ていると彼が如何にやり手であるか直ぐにわかるほど広い視野と知識を持ち、工程に無駄がなく理想的な人員配置が瞬時にできる人だった。私はディルに当時の話をして、彼に連絡ができるようにしてほしいとお願いした。ディルは私の考えに知識と人脈と行動力で応えてくれるので、何日もしないうちに本人のマルティンが訪ねてきてくれた。諜報活動中の私は、魔道具で少年を装っていたので本来の姿に驚いていた。魔道具を見るのは初めてだとディル、ファビ、ライも同席して当時の姿になった。魔道具がどのように作動しているのか興味津々の各々だったが、本題は魔道具ではないから各自が調べてほしいといって本来の姿に戻ると凄く残念がられた。
大工のマルティンは依頼の趣旨を伝えると国と国がつながる仕事に参加できるなら喜ばしいと快く承諾してくれた。宮殿ほど格式張らず迎賓館にホスピタリティを導入した建物にしたいと希望した。温泉と景観を顧慮して場所の選定を行った。直ぐに何人かの大工職人を呼び入れてくれて資材についても伝手のある商会を紹介してくれた。「エル、建物を建設するときに一番最初にすることはなんだ?」と聞かれ「場所を決めること?」と返事をしたらニヤリと笑いながら「建物の名前を決めることだ」と言われた。「特に今回は、これから色々な国が使うかもしれないから名前は大事だろうよ。」とも言われた。私に名前のセンスなんてないだろうから、マルティンにお願いした。『ジスルリッタワーソル(架け橋)迎賓館』と命名することにした。マルティンは、スワツール国が多く使用するなら意見を聞かなくてもいいのかと言ってくれたので、ライが、スワツール国で5本の指に入ると言われている女性で大工のアンゼリカを紹介してくれた。アンゼリカは歴史の長い大工の家系で近年やっと女性の大工が認識されて家系を継ぐことができた苦労人で、努力の人だと紹介された。本人は男性に負けないくらい背の高い筋骨隆々な女性で「この身体と大工の知識が私を物語っている。」というくらいに体力・持久力、意欲とコミュニケーション能力に長けた魅力的な人だった。
60歳のマルティンと40歳のアンゼリカは、同業者であり、子弟のようであり、親子のようであり、素敵な関係性を築いているようだった。マルティンのことはマルおじと呼び、アンゼリカのことをアン嬢と呼び合っていた。それぞれの国の良さを融合させて新しい建造物を作ることは、かなり困難な道程だった。言葉の壁や国民性の違いが大きな壁となり、悩みながら苦しみながら、そして理解し合う努力をしながら限られた時間で期待する以上の作品を作り上げていく。職人さんを達とマルティンとアンゼリカの手腕に賞賛という言葉では足りない感動と感謝の気持ちが毎日のように押し寄せてきた。マルティンとアンゼリカはアウグスリンデ国の伝統を重んじ郷土愛が強く実利主義、スワツール国の自立心と責任感を持ち勤勉で真面目な各々の国民性を考慮するのだが、二つの国が何となく懐かしい慣れ親しんだ感覚を持てるというコンセプトを持った建造物を実現させていった。二人から見れば18歳の私など子供に見えるらしく温かな眼差しで毅然とした態度で対応してくれた。成長を見守られるということを感じたことがなかったので、面映ゆいという感情を何度も味わうことになった。
ファビは、鉄道と建造物と街づくりの構想に必要な法律関係を一手に引き受けながら、公爵家の別荘を作ることに余念がなかった。理想は拠点をここにしたいとまで言ってクラエイヤ火山の麓の街の名前をアルドアルと決めて届け出も提出しているほど熱が入っていた。いつもクールで冷静に見えるが、感情が表に出ないだけで内には情熱や信念を持った人物だった。公爵家の人脈を利用し早々と地盤調査を済ませ着工に取り掛かっていた。ライから「どんだけ入れ込んでるんだよ」と度々呆れたように声を掛けられていたが、本人は無表情に躱しているつもりのようだが、ワクワクと期待に胸を膨らませているオーラが滲み出ていた。ディルから「エル、人の観察は楽しいかい?」と聞かれ「諜報活動の時は観察は任務だったけど、今は学んでいるような気がするよ。楽しいと思いながら人を見れるなんて、毎日が新しい発見をしているみたいだ。」と答えると「成長と可能性を見守れて感動さえ覚えるね。」と笑っていた。




