第二章 サレルノ国
逆恨みって、案外多いのよとベル義理姉様が呟いていた。
私とディルは、お互いを同士だと思っているが周囲の理解はそうではないようだ。
気をつけていくしかないと2人で肩を落とした。
そして、サレルノ国との外交に取り組んでいるディルが、サレルノ国外交官から定期連絡が届いたんだが、今回はよく分からない文字が書かれている。と連絡書を見せてくれた。
サレルノ国の文字で連絡内容が書かれていたが、後半にサレルノ国の古代文字が使われていた。
私は、「ディル、これはサレルノ国の古代文字だと思う。少し時間がかかるが何とか訳せると思う。」と伝えた。
サレルノ国の言葉は特殊で、ここ数十年がサレルノ近代語で、それまではサレルノ古代語を使用していた国だ。
サレルノ国は、数十年前に近隣の部族を取りまとめて合併した時に、旧サレルノ国内は各部落の言葉=古代語で話すのではなく、近代語を新しい共通語として使うよう法律が定められたのだった。
送られてきた古代語の文章は、短かくはあったが、辞書を片手に読み解いていく作業は少し骨が折れた。サレルノ国の古代語は部落によって少し意味合いが異なっていたりするため、前後の意味を考えながら読み解いていくという作業だからだ。
内容は、第六王女を助けて欲しいということのようだった。
第六王女は、幼少期から離宮で一人で生活している。今回16歳の成人式を迎えるが、国王が他国の要人を持て成す接待用の係にすると本人に伝えた。つまり身体で持て成しをせよということになる。
第六王女は、国王が自身の子供ではないと疑っているため、産まれて数週間で離宮に閉じ込められ、辛い生活を送ってきた。
このままサレルノ国にいては使い捨てにされてしまう。何とか助けて欲しい。そのように綴られていた。
ディルに内容を伝えたが、ケレにも手紙を見てもらいながら内容も確認してもらった。
おそらく、連絡書を書いた外交官とは別の人物が書いてのであろう筆跡が異なっているように見えた。
他国のことなので慎重に考えて行動しなければならない。
そもそもこの文章の内容も不思議だった。
過去に親交もないスワツール国に、何故自国の王女の助けを求めているのか分からない。
誰が何のためにこの様なメッセージを送ってきたのだろうか。
情報が少なすぎて動きようがないなぁと考え込んでいた。
この内容が正しいとしたなら、第六王女を助けてあげたいと思う。しかし、何らかの意図が別にあり、取り引きの材料として捏造された可能性もある。どんな仕掛けで
ケレが、長兄に聞いてみたらどうかと提案してくれた。他国にも同じ内容でメッセージが送られているかもしれない。情報は多い方がいい。オーレンスト国王にも問い合わせてみようと言ってくれた。
オーレンスト国からの返事は、サレルノ国は閉鎖的な国のため外交を殆ど行っていない。
オーレンス国から小麦を輸出しているので、年に一回価格の会議が行われる。それ以外での交流はない。
会議の様子だが、この5年間同じメンバーが出席している。
外務大臣、法務大臣、財務大臣と外交官3名に護衛が10名と最小限の人数で来ている。
歓迎式典でも最低限の挨拶しかしない。他国民の中にいる間は私語を殆ど話さない。
自国の話は一切しない。会議が終われば直ぐに帰国の途につく。
と返事がきたとケレから報告があった。
長兄からもサレルノ国は、閉鎖的で自国民以外の出入国を厳しく取り締まっている。
怪しい動きがないため様子を見ているが、諜報員を送ることが困難なくらいに内部も統率されている。
もし、第六王女の事で動くとするならば、暫くは古代語の手紙で情報を得ることだと思うと返事がきた。
私は辞書を片手に古代語で第六王女の件を検討している。どの様な手段を準備する必要があるか?猶予はどのくらいあるのか?と文書を作成して連絡書と一緒に送った。
サレルノ国から再び連絡書と共に古代語で手紙が届いた。
手紙は校閲されるため古代語で書いて欲しい。古代語を使用した文書であれば、解読に時間がかかるため形だけ校閲したことになる。
第六王女の件は非常に緊迫している。初めての外交を体験させると説明して、できればスワツール国に連れて行きたい。と綴られていた。
ケレに報告をして、ディルにはサレルノ国の言葉を話せるように勉強しようと提案した。
サレルノ語を話せる人は非常に少数である。サレルノ国からスワツール国に来るにしてもどの位の言語ができるのか分からない。
今は時間もないし、聞き取れることと片言でも日常会話ができるようになることを目標に講師になれる人を探した。
ベル義理姉様の伝手で、サレルノ国から嫁いできた女性を紹介してもらえた。
クライスト領はスワツール国内の領地の中では、サレルノ国から一番近いため極小人数ではあるが、サレルノ国から商人がきたり嫁いでくる女性がいる。
紹介してもらった女性は、アダリナと名乗り23歳でクライスト領の商家に嫁いできたと紹介された。
アダリナはサレルノ国の商家の三女で、商人の父親に連れられてクライスト領を何度か訪れていたと話してくれた。
サレルノ国は他国との交流を嫌います。宗教の教えで、他国を受け入れると国が乱れると言われているためです。商人が国外へ出るようになったのも部族と統合出来てからのことです。
国から出国することや他国民の入国について厳しい取り締まりが行われます。
私は運が良かったのです。商人の父親が先進的な考えの人で、他国とも交流していかなければ進歩もない、そう言って、販路を確保するために娘を嫁がせると国に掛け合ってくれました。
サレルノ国の中枢にいて仕事をしている職員の中にも先進的発想の方もいて、運よく嫁ぐことができました。と話してくれた。
王室についてはもっと閉鎖的なため、国の象徴としての役割があるが、年に数回ほど庶民に顔を見せるだけで情報がないという。
そして、私とディルとアダリナ先生との会話教室が始まった。




