第二章 真相
ドクターバーナードが部屋に来ると、ベル義理姉様が「診察には私が付きます。あなたたちは下がりなさい。」と侍女を含めて全ての者を部屋からだした。
「エル、先程は、何があったのか話してみて」とベル義理姉様が私に問いかけた。
ハッキリとは分からないのですが、と前置きして
先程のお茶の給仕の際に、侍女のケアンナがしていたアクセサリーが私の手に当たったような気がします。と答えた。
私が魔法を使っていることを2人は知らない。
だから、当たってはいるが無傷であることを説明することが少し難しい。
ベル義理姉様が、やっぱりと言った。
彼女の行動がおかしいと思ったのよ、貴女を見る目つきに憎しみを感じる瞬間があったしね。
お茶を配る時も私の時は普通だったのに、貴方に配る時には、機会を伺うような気配があったのよね。とドクターバーナードに説明するように話した。
ドクターバーナードが、体調に変わりはないかと尋ねたので
確かに当たりそうになったが、瞬時に防いだので身体に異変はない。ただ、当たったか?と感じた時に針の様な鋭い物だったと思うので調べた方がいいかもしれないと思う。
他の人が危険なことになっても困るからと返事をした。
ベル義理姉様が、護衛を呼ぶわねと言って席を立つ。ドアの外で待機していた護衛3名を呼んできた。
今日の護衛は、ジャック、イバン、ユーゴだった。
私は護衛の3名にも先程起こったことを話した。
ベル義理姉様も自分が見て感じたことを補足してくれた。
護衛達は、早急にケアンナを調べなければならない。王室近衛兵と騎士団長に報告が必要だ。その間にケアンナが所持している証拠のアクセサリーを隠されては困るので、侍女長のマチルダさんか侍女のメリッサさんに協力してもらいましょう。お任せいただけますかと言われたので、護衛達に動いてもらうことにした。
ドクターバーナードは、簡単に診察をして「胎児も順調のようですね、悪阻も治りつつありますか。顔色が良くなりましたね。」とニコニコしていた。
胎児が順調と聞いて安心した。食事がとれなかった時期に体重がかなり減ってしまっていたから心配していた。
ベル義理姉様が「大事に至らなくて良かった。あの娘のまとう空気が、昔私に向けられていたものと似ていたから要注意と思ったねよ。」と言った。
それがどの様なものだったのか、今後もあり得ることだから話しておくわねと言って教えてくれた。
ベル義理姉様は、南のクライスト公爵の長女だった。
クライスト領土は、温暖で湿気が少なく過ごしやすい環境なので、昔から療養に来る人達が多かったのよね。
そのため国内では、1番に医療が進んでいった地域だったの。
第一王子、今の夫であるダーモットが幼い頃から療養にきていたのは、身体に合った気候風土と一早い医療の進歩があったからなの。
ダーモットは、今でこそ元気に動いて喋っているけど、12歳くらいまでは発熱と咳に苦しんでいたわ。
外に出て、日光に当たるだけで疲れて熱が出ていたわ。食も細くてね、料理人泣かせだったわね。
それでも、辛い治療にも弱音を吐かずに取り組んでいてね、本人の元気になりたいという強い気持ちがあったから、今の元気なダーモットになれたと思うわ。
ダーモットが元気になって、領地を見回るようになると、色目を使ったり、誘い水を向けるようなご令嬢が増えてきてしまってね、ダーモットは、そんな令嬢に何回か襲われそうになったこともあるのよ。
そして、そんなご令嬢方からすると、婚約者でもないのに一緒にいる私が邪魔者みたいに感じるのでしょうね。
ある日のこと、ぶつかってこようとした令嬢が刃物を隠し持っていたことがあって、勿論第一王子には側使えがついていたから、彼らが気づいて事なきを得たんだけどね。
そんな事があって、ハッキリと立場を知らしめようとダーモットが私に求婚してきたの。
幼い頃から一緒にいて気心も知れているし、ダーモットとは考え方も似ているところが沢山あるから悩むこともなかったわね。
まぁ、ダーモットは随分前から好意を示してくれていたんだけどね。
でもね、その時に思ったのだけど
好きな人を手に入れるためなら、本人を狙うより、側にいる女性から排除しにかかる女性が多いということなの。
自分本位な考えで、側にいる女性が居なくなれば自分がそこに立てると思うみたいね。
そういう嫉妬に駆られている人の目を、ケアンナはしていたのよね。
本人は、上手に隠していたつもりみたいだけど、そうそう隠し切れるものでもないわね。
ケアンナの事情聴取が終わったと事件の2日後に報告があった。
ケアンナは、アカデミー入学のために領地から王都に出てきたばかりの頃、街中で興奮した馬が暴れている場面に遭遇したようだ。
街の人も何人もが巻き込まれたが、たまたま居合わせたディルク・アイスラー侯爵令息が、警ら隊と一緒に避難誘導してくれたようだ。
あまりの恐怖に腰が抜けて動けなくなったケアンナをディルク・アイスラー侯爵令息が抱え上げて、安全な場所に移してくれたらしい。
ケアンナだけでなく、他にも何人もそのような人がいたらしい。
馬は麻酔銃で眠らされて、死傷者もなく事なきを得た事件だったそうだ。
そして、ケアンナはを私を助けてくれた貴方こそが、私の運命の人だと思ってしまったようだ。
アカデミーで同じ学年のディルク・アイスラー侯爵令息を見かけて、直ぐに声を掛けたらしい。
しかし、一方のディルク・アイスラー侯爵令息は、事件のことはハッキリと覚えていても、助けた人一人一人を覚えていなかった。
ケアンナの事も全く印象に残っていなかったようで、当たり前の事をしただけなので気にする必要はないと取り憑く暇もなかったらしい。
ケアンナは、それでも諦めることは出来なかったようだが、かと言って積極的に動くこともできなかったらしい。
そして、エル王妃が嫁がれて来た。
ディルク・アイスラー侯爵令息との交流を見聞きして、本来なら私がいる場所なのに、何故既婚者の貴女がいるのかとエル王妃に嫉妬したようだ。
侍女に応募したのも、ディルク・アイスラー侯爵令息と懇意になれるかもしれないという気持ちが大きかったようだ。
そして、エル王妃とディルク・アイスラー侯爵令息の仲の良さを目の当たりにして我慢出来なかったと自供している。
指輪に堕胎薬が仕込まれていたようだ。
手のひら側にある装置を押すと手の甲側の装飾部分から針が出るような仕掛けになっていた。
本人のポケットから出てきたので、薬と指輪の入手先を捜査している。
そう騎士団長から報告があった。
逆恨みって、案外多いのよとベル義理姉様が呟いた。




