第二章 日常
妊娠が分かる少し前ころから、なんだか食欲がなかったり、ムカムカしたりしていた。
そして妊娠が分かってからは、更に酷くなっていった。
私は戦闘に参加していた頃に食べれる時に食べるという習慣がついていたはずだった。
しかし、今回は食べれる時があまりなかった。とにかく吐き気に襲われて、飲んでは吐き、飲んでは吐きした。
ケレが心配して、何度もドクターバーナードを呼ぶけれど、こればかりは時期が来るのを待つしかないですと再三ケレに説明してくれていた。
ケレは益々過保護になり、執務そっちのけで甲斐甲斐しく水を持ってきたり、果物を持ってきたりしてくれる。文官達に迷惑をかけているのだろうと思う。
心配してくれることは、有難くもあり申し訳ないが、少々鬱陶しくもあった。気分が悪い時にあれこれ声をかけられても静かにしていてほしい。だが、そんなことをいう元気もなかった。
マチルダが見るに見かねて、「どっしりと構えていなさい、病気ではないんですから。執務はどうしました?煩いから執務室に戻って下さい。私達がお世話した方が安心です。」とケレにキッパリと言ってくれた。
ケレが私を見て、「そうなのか?」としょんぼりした顔で聞いてきたが、私は頷いて「ごめんなさい、執務に戻って下さい。」と言った。
肩を落として部屋から出て行く姿を見て、少し可哀想にもなったが、周囲のことを考えるとこれでいいと思う。
マチルダが、「鬱陶しかったですね。もう、執務室から出てこないようにしてもらいましょう。」と、また腹黒いことを言っていた。
ミライヤが、「国王様はあんな方でしたか?」と驚いていた。
マチルダが、「嫌われる要素満載よね、あそこまで執着されたら鬱陶しくて嫌だわ」というと、カリーナとエヴァは、「そんなことありません。愛されているって分かることが大切なんです。」と言った。
2人は婚約したばかりで、ストレートに愛されていると感じたいのだろう。マチルダが、今はそういう時期よねと生暖かい眼で二人を見ながらメリッサに話しかけいた。
ミライヤは、「時にはストレートな表現が必要な時がありますよね。」と誰にとはなく言葉に出していた。
マチルダが、「不甲斐ない弟がごめんなさいね。ファビのヘタレは、どうにかならないかしら」とまた少しご立腹だった。
侍女達の話を聞いていると少しは気が紛れる。ドクターバーナードもあと2、3ヶ月の辛抱でしょうと言っていた。今を乗り越えることを考える。
しかし、何故ファビはミライヤに婚約を申し込まないのか不思議だった。
二人ともお互いを想いあっているのに。直ぐにでも婚約、結婚といきそうな感じに思える。
マチルダが、「ファビときたら外堀ばかり埋めて、肝心のミライヤには何も言えないでいるんですよ。全く。本人を前にすると格好つけたいみたいなんですよね。」
ファビ曰く、「両家の両親には挨拶をしてるし、承諾ももらっている。後は婚約書にお互いがサインして提出するだけ。書類も出来ている。ただ、姉さんがミライヤにきちんとした申し込みをして返事をもらってからでなければ駄目だというから。」と言っているらしい。
マチルダとしてはミライヤの気持ちを慮って、ファビにはミライヤに「愛している、結婚しよう」くらい言わせたいらしい。
それはそうだね。周囲も納得しているから結婚しようでは政略結婚みたいで味気ない。それに、思いは伝えようとしないと伝わらない。後悔しないと良いがなとマチルダ達に話した。
ミライヤが侍女に加わってから、ファビが私の部屋を訪ねる回数が増えた。
しかし、私は体調が悪いので相手ができない。
ファビはミライヤ目的で訪ねてきているのがあからさまに分かる。それはそれでいいのだろう。
しかし、自分本位に部屋を訪ねてこられても困る。
マチルダが「体調が悪い人の部屋を訪ねることは控えて下さい。」ときっぱりと断った。ファビは何か言いたげだったが諦めたようだ。
私は余りにも気分が悪かったので、ファビの背中に「はっきりしないと想い人を失うがいいのか?友人として最後の忠告だと思えよ。私の体調の悪さは暫く続くからな。」と言った。
ファビが驚いたように振り返り、顔色の悪い私に驚き申し訳なさそうに頭を下げた。
そして、ミライヤを連れてどこかに行ってしまった。良い結果になると良いがなと思いながらうつらうつらと眠ってしまった。
翌日にミライヤが嬉しそうに「みなさんのお陰で無事に婚約できました。」と報告があった。
私が顔色の悪い精気のない顔で話したことは危機感を覚えたらしく、ファビから「結婚してほしい、ミライヤしかいない、愛している」と言って貰いましたと幸せそうに教えてくれた。
そんなに酷い顔をしていたのだろうか、という言葉が漏れた。
マチルダが、気にしないで下さい、一時のことです。という。
それから、4ヶ月後
少しお腹が膨らんできた頃から、どうにか少量の食事が取れるようになってきた。
落ち着いてきた私をみて、マチルダから新しい侍女が3人決まりました。明日から使用期間で就業いたしますと報告があった。
その中の1人が事件を起こすことになるのだった。




