第一章 国王ケイレブ・ヤハウェ・スワツール
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
前半は恋愛観はほとんどありません。後半からです。
結局1ヶ月近く滞在し帰路についた。王宮に帰ると、「嫁いできたと思ったら王妃の仕事もせずに宰相補佐官と視察に出かけ、一体何を考えているのか」と高位貴族の面々には悪感情しかないようだったが、国王が許可していると発していることから、表立って苦言を呈する者はいなかった。私は王宮に帰ってからドレスではなく、高位令息達が着用している襟付きのシャツにテーラードジャケットにパンツといったブリティッシュトラッドを意識したスタイルを貫いた。私をよく知らない人達は、私を王妃どころか男性だと思っているようで、あろうことか数人の貴族女性から声をかけられたりした。
国王とディルと3人で新しい開拓地について意見交換に余念がなかった。国王とは夫婦というより師弟関係に近い距離感で、報告をすると具体的な指導だったり助言や労いなど後押しをしてくれる内容で、私としてはお互いの人となりを感じるには程よい距離感にも思えた。夕食は3人で食べることが多く、その後にお茶の時間を設け私と国王は2人の時間を談笑しなが過ごすようになった。ディルとエルと呼び合っていることから国王もケレと呼んでもよいと許可があり、有り難いことに言葉遣いもディルと話す時と同じようにしてくれと言われた。
過去の経緯を聞くとケレも相当な苦労をして今の地位に立っているのだということが分かった。スワツール国の第一王子は身体が弱く早い時期にスワツール国の南側の温暖な地方に移り住み治療に専念することになり、今は公爵家に降下し公爵令嬢と家庭を持ち王家の臣下となった。その為、第二王子であるケレに国王の座が回ってきた。そしてケレが19歳の時に国王夫妻が視察先の水害に巻き込まれてしまい帰らぬ人となり、19歳で即位したケレは高位貴族に侮られない様に地盤固めに奔走した。スワツール国には東西南北の王都に近い土地を其々に4公爵家が、東をヴィルド公爵、西をギュルゲ公爵、南をクライスト公爵(第一王子)、北をツェラー公爵が治めている。その次の街を6侯爵家がアイスラー侯爵、バルツァー侯爵、ビショフ侯爵、ファウスト侯爵、フランツ侯爵、ベーレンス侯爵、国境沿いを5つの辺境伯、ベルコフ、ムート、メルカトル、ユンゲス、ライザーが治めている。公爵家と侯爵家からは、長男以外の男児で能力のある者を一名王宮に出仕する規則がある。ケレの側近は、ギュルゲ公爵家、ツェラー公爵家、フランツ侯爵家の三男で年齢も近くアカデミーで共に過ごした者達ということだった。即位後3年で国王としての地位を確固たるものにし、28歳の今では賢王と言わしめている。宰相はムート辺境伯の次男で先代王と同級生で親友だったから、先王亡き後、ケレの後ろ盾になってくれたことで継承が滞りなく進んだと言っても過言ではないと説明してくれた。
ケレが言うには、アウグスリンデ国からの婚姻の打診について助言してくれたのも宰相だった。エルの実質は兄で戸籍上は養い親の父親である先代国王が、エルを嫁がせることに決めたらしい。自国にいてもエルに思う様な未来を与えることができないからと言う理由のようだった。エルの母に何もできなかった後悔が、せめてその子供には幸せになってほしいという願いがあったようだ。しかし、第一王女からのあの手紙と王女達が故意にばら撒いた私の嘘の醜聞にスワツール国は不要な王女を押し付けられたのではないか、謀られたと考えた。まさか、王女達が相手国側に嘘の情報を流すとは考えもしなかった。エルには申し訳なかったと再度頭を下げられた。もう、気にする必要はなく、過ぎたことだし今は体調も回復した、そしてやりたいことの後押しをしてもらえている状況に感謝しかないとケレに伝えた。「そうか…」と小さな呟きが返ってきた。
ケレから「自分は自分が見て確認をして判断する、人の話だけとか噂とかそういったものを判断基準にすることはなかった。信条だったはずなのにな。何故エルの時は噂や手紙を信じたのだろか?いや、過去の話をしても仕方ないな。これからの話をしなければ意味がないな。」「こんなことを言えた義理じゃないが、これから歩み寄る努力をしてくれないか?ゆっくり、二人なりの夫婦の形を探していけないだろか?」と言われた。今はやり始めたことがあるから、そちらを優先していくがこの国の王と王妃として、どんな夫婦像を作っていくのか一緒に模索していこうと手を差し出された。私は直ぐにその手を握り返した。一方的でなく相手のことを慮りながら、それでも国の頂点に立つ者として譲れないこともあるだろう。そんなケレの気持ちは十分理解できるから、それに応えられる自分でいたいと素直に思えた。




