第二章 侍女の恋シリーズ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
私の名前はメリッサ。マチルダとはアカデミーの同級生。マチルダは、私が辛い時期に一緒にいてくれた親友なのです。
私は、アカデミーを卒業後に伯爵家に嫁ぎました。
私の実家は子爵家。格上の伯爵家に嫁ぐことは、少し気後れすることでした。
アカデミーでは、マチルダが生徒会役員で会計係を探していた時に、数学に強い私に声を掛けてくれました。
生徒会に入るのに、子爵家という身分が気になったのですが、
マチルダから、学業で上位に名前が載るくらい実力があれば、生徒会役員に入ることは問題ないと言われました。
私の実家は、数代前に大きな借金を抱えていました。返済は完了していましたが、余裕のある生活ではありませんでした。
そのため、幼いころからお金に関する知識を学ばされていました。
実家は、ビン詰め、缶詰めの商いをしていましたから帳簿つけもしていました。
そんなこともあり、生徒会の会計くらいは問題なくできることではありました。それに、卒業後は就職を考えていたので、少しでも有利になればという考えもありました。色々考えて、会計係を引き受けることにしました。
しかし、私より身分の高い令嬢で生徒会に入りたいと思っていた方々は、子爵家の分際で生徒会に入っていることをよく思っていなかったようなのです。
ご令嬢方は、すれ違いざまに嫌味を言ってきたり、足を引っかけてきたり、物を隠したり壊したりしてきました。何とも幼稚ないじめに、こんなことして何になるんだろうと思っていました。
つまらない意地悪が行われていたそんなある日、私は背中を押されて階段から落ちるという事件が起きました。背中を押されて階段から落ちたのは私なのですが、その時に階段の途中にいた2名の生徒も巻き添えになってしまったのでした。
3人は骨折などはなかったのですが、打ち身や擦過傷やねん挫でアカデミーをしばらく休むことになりました。
巻き添えに合った2名の内の1人は高位貴族の子息だったようで、アカデミー側で厳重な捜査が行われることになりました。
目撃者が数人いたので、私の背中を押した女生徒は直ぐに分かりました。
彼女は押していない、当たっただけと言っていましたが、現場を見ていた生徒数名が、明らかに手を伸ばして押したと証言したのです。
可愛そうにも思いますが、自業自得かもしれません。彼女は退学することになりました。
彼女が何故そのような行動をしたのか理由は分かりませんでしたが、事件は一段落したことになりました。
そんなことがあってマチルダが心配して、アカデミーにいる間は、私と一緒に過ごしましょうと言ってくれたので多くの時間をマチルダと過ごす様になりました。メリッサ、マチルダと呼ぶようになったのもその頃からでした。
途中からマチルダの婚約者のフィンレイ様や他の生徒会役員とも過ごす様になり、段々と幼稚ないじめを受けることもなくなっていきました。
そんな中、アカデミー卒業の1年前に伯爵家から婚姻の打診がありました。
面識もない伯爵家からの突然の打診に、我が家は首を捻るばかりでした。
顔合わせをしましょうと伯爵家からお誘いがあり、伯爵家宅を訪問することになりました。
伯爵家では、伯爵家ご夫妻とご長男が待っておられました。
ご長男の顔を見て、驚きを隠せずにいた我が家はダメ貴族です。
しかし、こんなことってあるんだなぁという感想しか出てこなかった初対面の印象でした。
応接室に案内されて、お互いに挨拶を交わして自己紹介をしました。
ご長男の名前は、アデマール。私より6歳年上でした。
何故、私達家族が驚いたのかというと、彼を見た時に祖母から何度も聞かされていた、スニアという他国の王女を連想させる容貌だったからだ。
すらりと長い手足に高い身長。均整の取れた躯体に、浅黒く光輝く肌。黒く癖のない真っ直ぐな髪を後ろで結んでいる。翠色の切れ長の瞳は凛としていて色気があり、人を引き付ける魅力があった。祖母が何度も何度も繰り返し話していたので、写真がなくても想像できるようになっていたのです。
私を見て驚かれたことでしょうね。とアデマールさんは言いました。
そして、この容貌についてと婚姻の申し込みについてお話いたしましょうといって、理由について私たちに語ったのでした。
初めに、私の見た目は異国の血を濃く感じると思います。私の高祖父はスニアさんが産んだ侯爵家の庶子です。この言葉に両親も私も驚愕して、思わずアデマールさんを凝視してしまいました。
高祖父は、侯爵家の生活に馴染めなかったようで、早くから寮生活ができる学校に留学したそうです。
高祖父は見た目は侯爵家の次男に似て美男子だったようで、女性からの人気が相当だったそうです。しかし、実家から逃げていることを負い目に感じていたようで、非常にまじめに学業に取り組んでいたそうです。留学先で出会った侯爵家の令嬢と恋仲になり、そのまま婿養子になったと聞いています。
高祖父には5人の子供が産まれて、その中の三男がこの伯爵家の曽祖父です。
曽祖父は、高祖父の実家の侯爵家に養子に出されたそうです。5人の子供の中で一番頭が良く、見た目も申し分なかったという理由らしいです。子供のいない侯爵家から、養子の申し出があったようでした。
曽祖父が養子に入ってしばらくすると、10年目にして子供ができた侯爵家では曽祖父の存在が問題になったようです。
跡取りとして教育も行ってきたが、実子が産まれたからには実子に跡を継いでほしいと考えた様です。
曽祖父もそのことは嫌になるくらい理解していったようです。養子先の両親が手の平を反す様に距離を置き始めたそうです。
勝手な言い分にいささか腹も立ったようですが、アカデミーで主席をとるほど出来の良い曽祖父を婿養子に迎えたいと希望する貴族の家は多かったようです。
アカデミーで仲の良かった曾祖母と結婚して伯爵家の婿養子になったのです。
そして、私は曽祖父の長男のその息子の息子になる訳ですが、この様な容姿をした者が過去にはいなかったようです。時々、黒い髪や翠色の瞳や若干浅黒い肌をした者が産まれたことがあるようですが、ここまで異国の血を感じるような者はいなかったようです。
私の祖父は高祖父から、高祖父の生みの親であるスニアさんの非道を聞いていました。
高祖父は、あなた方、元伯爵家に対して非常に心苦しく思っていたのです。協力できることがあればしていきたいと話していたようです。
そういう理由で、不詳ではありますが私と伯爵家が何か償いが出来ることがあればさせていただきたい。これは高祖父の遺言でもあります。
婚姻が償いになる訳ではありませんが、親族であれば何かと手伝える選択肢が増えると思います。どうか受け入れていただけないでしょうか。
アデマールさんは、婚約の申し込み理由をそのように語った。




