第二章 侍女の恋シリーズ
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
私の名前はメリッサ。マチルダとはアカデミーの同級生。マチルダは、私が辛い時期に一緒にいてくれた親友でもある。
私は、アカデミーを卒業後に伯爵家に嫁いだ。
私の実家は、子爵家だが少し複雑な血筋だった。5世代前は歴史も古い名門の伯爵家と言われていたらしい。その時の当主が、他国の王女と結婚したのだが、この王女が問題ありの王女だったようだ。
祖母から聞いた話によると、当主にはもともと許嫁がいた。結婚式の日取りまで決まっていた。
そんな時に王家から他国の王女との婚姻を打診された。勿論当主は断った。結婚式の日取りまで決まっており招待状も発送している。今更取りやめることなどできないと不敬ではあるかもしれないが、事実をそのまま伝えた。
王家から、他国の王女を娶ることは王命であること、結婚式はそのまま王女とすり替えれば問題ない事、許嫁だったご令嬢には王家から相応の相手を見繕うので問題ない事が伝えられた。
伯爵家当主も先代伯爵家夫婦も親族一同が頭を抱えた。いくら名門伯爵家といえども、他国の王女を迎えるのに準備も何もしないでは済まされない。
王家に事前準備についてお伺いを立てた。
その時の説明が、他国と言っても小さな国の第二王女である。我が国と比べるまでもない、経済も学問も歴史も何事についても弱小で劣っている国である。
あちらの国から、国交を開始してほしい、ついては王女を輿入れさせるので受け入れてほしいと要望がきた。こちらに有利な条件がなにも見当たらないので、1度目は断った。
そうすると、向こうから唯一の資源であろう鉱山の権利を付けるという申し出があった。良質な金や鉄、他にも優良な鉱物が採石される鉱山を差し出すということだ。
この条件なら受け入れても納得できると国王が引き受けられた。
王家には向こうの第二王女に見合う年齢の王子がいないため、年齢も身分も釣り合いが取れるだろから引き受けるようにという、王家にしか利がない理不尽な命令だった。
しかし、王命を断ることはできず他国の第二王女を迎えることになった。
許嫁のご令嬢は、侯爵家の次男に嫁ぐことになった。許嫁の実家からは、所詮は政略結婚なので気にされないようにと連絡がきた。あちらも格式が上の侯爵家に嫁げるならと考えたようだった。
嫁いできた第二王女は、スニアと名乗った。年齢も伯爵家当主より3歳下。
結婚式は恙なく終わったが、初夜では処女でないことが発覚して問題となった。生まれてくる子供が伯爵家の血筋の者であるか分からないからであった。
そもそも嫁いでくるのに言葉も理解していない。連れて来た侍女3名が、少しは言葉を理解していれば良かったのだが、王女同様に言語を全く理解できていない。
王室に掛け合ったが、相手国の言葉を話せる文官が少ないので対応はできないと断られた。
スニア王女、いやスニアと連れてきた侍女3名は要望だけは多かった。
食事も肉を中心とした味付けの濃いものを要求するし、衣服も着心地やデザインに拘った。もちろん身に付ける装飾品にも高価な宝石を要求した。部屋も調度品を選びなおしたいといい、壁紙から一掃するようにと喋れないのに、侍女を交えて身振り手振りで向こうの言葉で捲し立てるようにして要求してきた。
そんなお金が準備できるはずもなく、必要最低限の要望は叶えていたようだ。
しかし、そんなことで王女が満足するはずもない。
侍女が勝手に街中をうろついて、勝手に商品を手にして帰ってくるようになった。
スニアは見た目だけで言えば美しい女性だった。
すらりと長い手足に大きな胸に括れた腰、浅黒く光輝く肌に、黒く真っ直ぐな髪、翠色の切れ長の瞳は、異国の情緒を感じさせた。
スニアのためにと護衛を付けていたのだが、その護衛達と享楽にふけていたのだった。
スニアが誘ってきて、何やら訳の分からない興奮剤を飲まされたらしい。
そんなことがあり、護衛達は即刻解雇になった。
結婚したのだから仕方ないので、招待のあった夜会に連れ立って参加した。
すると今度は、夜会で貴族男性に声をかけるようになった。
言葉も分からないのに自由奔放に男を渡り歩く伯爵家の妻と噂されるようになった。
気が付けば勝手に夜会に参加して勝手に一夜を共にして、何食わぬ顔で帰宅する。
注意をしてもその場限りの態度だった。大声で怒鳴っているくらいにしか受け止めていないようで、飄々とした顔で聞き流していた。
その内に体調が悪い言い始めて、妊娠していることが発覚した。誰の子供か分からないのに伯爵家の子供として産まれてくる。子供に罪はないが納得できることではない。
王家に何度もスニアの所業を伝えるが、一向に返事はなく手を貸してくれることがなかった。
しかし、後継者問題については知らん顔はできない。産まれてきた子供は、髪の色こそスニアの黒を受け継いでいたが、元許嫁が嫁いだ侯爵家の次男に瓜二つであった。
伯爵家当主は荒れた。そもそも自分たちはスニアを受け入れることを拒否したにも関わらず、王命と言って押し付けてきた。その上、相談事に対しても何一つ解決策を提案してくれることもなければ、少しの手助けもしてくれない。
挙句に元許嫁の嫁ぎ先の令息は遊び人で愛人が何人もいるような人物。
元許嫁の実家が受け入れたのだから自業自得と言えばそれまでなのだが、伯爵家に対しての暴挙は許すことができそうになかった。
王家と刺し違える勢いで王宮に向かい国王に謁見を申し出た。
国王との謁見はその日のうちに行われた。
伯爵家からは2件の申し入れが行われた。
スニア王妃との離婚と生まれてきた子供の養育についての相談だった。
伯爵家は、スニアの散財で資産も底をついている。これ以上は関りを持ちたくない。
今後も誰の子供か分からない子供が生まれてくるだろう。それも受け入れることはできない。
事実、今生まれてきた子供は誰が養育していくのか?明らかに父親が誰であるのかわかる容貌をしている。伯爵家の血筋の子供ではない。子供に罪はないが、伯爵家では受け入れることはできない。
国王は非常に険しい顔をしていた。
離婚は認めてもよい。我が国としてもおかしな薬を使用している元王女には帰国してもらいたいと考えている。ただし、帰国については伯爵家側で送り返してほしい。
子供については、侯爵家が庶子として受け入れてくれるそうだ。侯爵にも似ているようなので本家で面倒を見ていくことだろう。次男については、貴族籍を剥奪したそうだ。平民になってどう生活していくのか分からないが、今後関りを持ちたくないそうだ。
王家が送り返さないことに些か憤りを感じた。
しかし、離婚してスニアを自国に送り返すことができるならと考えることにして、これが最後の仕事だと思ってやることに決めた。
スニアには結婚式同様に離婚届にサインをさせた。彼女は訳が分からないようだったが、教会で司教に促されたのでサインしたようだった。
そして、自国に送り返す日になって侍女たちが暴れた。自国には帰らないと伯爵家から外に出ることを拒んだ。屈強な護衛に抱え込まれた状態で馬車に乗せた。
当初は護衛は馬に乗るようにしていたが、大暴れする侍女たちを抑え込むため、護衛ともども全員を数台の馬車に乗り込ませた。
大暴れする侍女たちを横目に、スニアはおかしいくらいに従順だった。
伯爵家当主自らスニアを自国に送るべく、馬車が出発した。
その三日後に馬車が崖から落ちて全員死亡との連絡が伯爵家に届いた。
崖の途中で先頭の馬が突然暴れ出して、後続の馬を巻き込んで全ての馬車が谷底に落ちていってそうだ。
伯爵家の跡取りは、今回同行している伯爵家当主しかおらず、先代伯爵家当主が復位した。
しかし、先代伯爵家当主は体調が思わしくないために家督を譲ったのであり、十分に執務を熟していくことができない。
傍系から跡取りをとるしかないと考えていた。しかし、スニアの散財のせいで借金まみれの伯爵家の跡取りに名乗りを上げるものはいなかった。
王家に相談してみたが良い案もなかった。仕方なく、子爵家に降爵して税金額を当面免除してもらうことにした。
先代伯爵家当主も無理が祟り起き上がれない状況になった時に、先代伯爵家当主の妻側の甥が子爵家で当面税金免除ならと引き受けてくれた。血筋は異なるが、彼に頼るほかない。存続の危機だった。
この甥は中々に頭の切れる人だったようで、子爵家はこの人の代で安定した経営状況になっていった。
それでは、私、メリッサが伯爵家に嫁ぐまでと嫁いでからのことをこれからお話します。




