第二章 侍女の恋シリーズ
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話し
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
私はマチルダといいます。
エル王妃の侍女長をしております。
最近は、カリーナやエヴァの婚約で侍女たちが恋の話で盛り上がっています。
エル王妃は、18歳でありながら他国の要人や王族が相手でも動じることのない尊敬できる人なのです。が人の機微には敏感で人の気持ちを察して行動できる魅力的な人なのですが、こと恋愛に関してはポンコツ、コホンっ、奥手でいらっしゃいます。
私は公爵家の娘で、嫁ぎ先もスワツール国の公爵家でした。
夫は、宰相筆頭補佐官で、今では次期宰相は夫だと言われているのです。
アカデミーで知り合った時には、ここまで出世するとは考えていませんでした。
夫は、次期公爵家当主になる予定だったので、王宮勤めもそれまでの中継ぎ程度に考えていたと思います。
私もそのつもりで公爵家の内政を切り盛りする心づもりでいました。
私たちは、所謂、政略結婚です。西のギュルゲと東のヴィルドは距離が離れているため交流がそれほどある訳ではなかったのです。社交会が催される時期には顔を合わせる程度でした。
それが、今の国王と同年代ということで、アカデミー入学前から側近候補ということで、度々王宮で交流会に参加させられるようになりました。そうして顔を合わせていくうちに、自然と仲間意識や友人関係が築かれていきました。
夫は、アカデミーに入学後に国王に次いで、容姿端麗、成績優秀、文武両道とくれば、秋波を送るご令嬢達が後を立たたなかったのです。危ない目にも何度もあっていたようです。ご令嬢も必死だったのかもしれません、既成事実さえ作れば的なアプローチを幾度となく受けた様でした。
中には、アカデミーの中は皆様もれなく平等と勘違いしている男爵令嬢もいて、馴れ馴れしく話しかける、愛称呼びする、やたらと身体に触る、お友達でしょを前面に掲げてくるといったこともありました。
断っても断ってもしぶとく言い寄ってくるご令嬢方に、とうとう我慢の限界がきたようです。
国王(当時は王太子)の側近が生徒会室で業務を行っている時に、唐突に「僕の婚約者になってくれないか、いや、なって下さい。そして僕をあの令嬢達から守って下さい、マチルダさん。」と言ってきたのです。
周囲の者達が私たち二人を、お気の毒にという目で見ていました。
ロマンスのかけらもない告白です。
それでも、私は夫のことを間近で見ていたので、彼の辛さも分かる気がします。
おそらく周囲の者達も同じ気持ちで私たちを見ていたのだと思います。
気の毒な夫とこれから矢面に立たないといけない私。
私は頷いて夫に言いました。「フィンレイ(夫)、分かったわ。その婚約、受けて立ちましょう。今から(ご令嬢との)戦いが始まるのですね。」
夫は申し訳ないと思ったのか、辛そうな顔で「ありがとう。僕も全力で君を守ります。」と言ってくれました。そして、私たちは固い握手をしたのです。
お互いの両親には、アカデミーの現状と婚約の目的を説明して承諾を得ました。
夫のヴィルド公爵家は、夫の母親がなくなった後に母親の妹が嫁いできていて、年の離れた異母兄妹がいました。家族仲は良好で、そんな大変なことになっていたと知って、私に迷惑をかけてしまうことに恐縮していたのです。
私の両親は、あなたなら大丈夫でしょう。公爵令嬢として徹底的にやりなさいねと焚きつけるようなことを言っていました。
私たちの婚約発表が大々的に行われました。
伯爵家以上のご令嬢は、これで大人しくなってくれるだろうなと思っていました。
高位貴族のご令嬢であれば、醜聞になるようなことは困るということが理解できているので、公爵家同士の婚約に異議を唱えるような馬鹿な行動はしないはずだからです。
あとは、男爵家の令嬢についてなので、彼女一人を相手にすることは造作もないことでした。
彼女には親衛隊なるものが傍にいるようなので、彼らに協力すると説明して彼女の動向を知らせてもらう。彼らもできれば自分に振り向いてほしいと思っているので、数人の協力者が得られました。
礼儀作法が理解できていない彼女は、礼儀作法にうるさい教師が苦手なので彼女が突撃してくる時には、できるだけ苦手な教師の傍にいることにしました。
私たちが何か言っても彼女には理解できないのです。酷いです、アカデミーは、皆平等のはずですと言うばかりなのです。そこで、教師の方から懇切丁寧に説明していただきます。苦手な方から早く逃れたい彼女は私たちを恨めしそうに見てはいますが、何もできません。
私たちもできるだけ一緒に行動を共にしました。元から生徒会活動もありますし、国王(王太子)の側近でもありますから、一緒の時間は多かったのですがお昼休みなどの休憩時間も一緒に過ごすようになりました。
常に誰かと一緒というのは息が詰まるかしらと思いましたが、夫は大人しい人で、場の空気を読んで気遣いができる人なので、この人の隣は安心感もあり存外快適な環境でした。
一緒にいることに慣れてきて快適とあれば、休みの日にも突撃があるかもしれないからと一緒に過ごすことが増えました。
婚約者なのでお茶会や夜会も一緒に過ごします。
そんなこんなの時間を時間を過ごしている内にアカデミーの卒業の時がきました。
夫が卒業式の半年まえに「マチルダ、ありがとう。僕は貴方が好きです。どうか卒業と同時に結婚して下さい。」と傅いて指輪を差し出したのです。
そのころには、私も夫のことが愛おしく思っていましたので、「私もお慕いしております。よろしくお願いいたします。」と返事をしました。そして、卒業式後すぐに結婚したのです。
夫は宰相補佐官で王宮務めが決まっていましたので、王都のタウンハウスで結婚生活が始まりました。有難いことに二人の子供にも恵まれて、家事と育児に充実した日々を送っていました。
子供たちもそろそろ親の目がそれほど必要なくなった頃に、エル王妃の侍女長のお話があり、人となりを見てから即、お引き受けしました。
侍女長を任されたころには、夫は時期宰相と言われていました。公爵家の跡取りと宰相の兼務は両方とも激務ですから二足の草鞋は履けません。異母弟に公爵家の跡取りになる意思確認と素質を見極めて、公爵家は異母弟が継ぐことになりました。
私は王都から離れることがなくなったので、エル王妃の侍女長を長く引き受ける覚悟で引き受けたのです。
政略結婚といえばそうなのですが、私と夫は愛し合って結婚しました。恋愛経験でもあるのです。
夫が誠実なので、燃えるようなというほどでもないのですが、お互いはこそばゆい恋愛をしたと思っています。
エル王妃を見ていると、もどかしい気持ちと、可愛いわねと思う気持ちと、そこは違うでしょという気持ちになり、日々楽しく拝見しています。




