第二章 このままでは
あらすじ
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく、時に生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
長兄が、ケレに挨拶して帰りたいというので、王宮に案内した。
王宮に入ると、またおかしな雰囲気が漂っている。使用人たちの態度も落ち着きがないように感じた。
長兄がいるので、王妃の私室に案内してマチルダ達侍女も紹介した。
マチルダが言いにくそうにして、王妃がお帰りになる前のことですが、問題がおきましてと長兄の方を見ながら言い淀んだ。
私は、気にしなくてもいいから話してほしい。長兄が聞いてまずい話なら、私たちは隣室に移動するからと先を促した。
それでもマチルダは悩んでいたようだが、覚悟を決めたという顔で話し始めた。
ディル達から詳しく聞いていただくとして、先にお耳に入れておきますね。と話し始めた。
王妃がなかなか帰って来られないからと、侯爵令嬢と伯爵家令嬢数人が国王を元気づける会を開こうと王宮にきたのです。
若い者たちの思い付き、国王は良い顔をしなかったのです。
そうしたところ、何故だか分からないのですが、国王付きの秘書官や文官との交流会にすり替わってしまったのです。
国王は、自分の部下たちの交流会ということで挨拶を頼まれたと言っておられました。
開始の挨拶だけして会場を出られたのですが、その時に付き添った侯爵令嬢と、 その、 一夜を共にしてしまったということらしいのです。
翌朝に客室の掃除に入ったメイドの叫び声で周囲にいた者が集まり、客室のベッドにいる裸の2人を見たと報告が出ています。
国王は庭園を出てから気分が悪くなり、その後の記憶がないと言われています。しかし、侯爵令嬢は求められたのでお慰めいたしましたと泣くばかりで。
部屋の状況から、その、そういった行為が行われたということは分かっています。
ただ、国王は身に覚えがないと話されています。侯爵令嬢の方は、そうではないのですが。
侯爵家側も責任の追及をさせてもらうと意気込んでいます。
呆気にとられる私と、呆れた様な表情の長兄。
私はマチルダに、ケレに帰ってきたことと長兄が一緒にいることと挨拶がしたいという伝言を言づけた。
ケレからの返事が直ぐにあり、応接室の間で3人で会うことになった。
応接室の間にお茶を頼んで準備ができたところで人払いした。遮断魔法をかけて誰も近づかないようのにした。
直ぐにケレがやってきた。
私を見て嬉しそうに帰ってこれて良かった。傷の具合はどうか?痛みはないか?と通常のケレに少し安心した。
長兄にも世話になったことのお礼を言っている。
少し低い声で、長兄が「何やら不穏な空気が漂っているようだが」とケレに話を促した。
ケレから私と長兄に説明が始まった。
国王の執務室の秘書官から、侯爵家と伯爵家の令嬢とお茶をすることになりました。どちらも適齢期の者も多いので、婚姻の良いきっかけになればと思っています。と報告を受けた。
できれば、王宮の庭園で行いたいと希望があったから許可をした。
折角なので、挨拶をお願いできないかと言われて、若者が集うことは良いことだと考えたから、始まりの挨拶をした。
庭園から廊下まで歩いていて、目眩がした気がしたから壁に持たれかかっていた。そうすると、メルカトル侯爵令嬢が来て、顔色が悪いから、そこまで一緒にいこうと言われた。
メルカトル領は大規模な山火事が起こって大変な思いをしたはず。そう思って、途中まで災害の話をしながら歩いた。
そうしていて、客間がある辺りに来た時に、一室客室のドアが半分開いていた。この時間に掃除というのもおかしい。中を覗いてみたいが、誰もいない。
客室の中に入り誰かいないかと声をあげたところから記憶がなくなった。
誰かが騒いでいる声で目が覚めた。何故か上半身裸で、隣にメルカトル侯爵令嬢が裸でこちらを見ていた。
メイドの叫び声を聞きつけて、何事かと人が集まってきた。
ファビが機転を効かせて大丈夫だからと、人払いをして、調査中なので口外しないようにと皆に口止めもしていた。
メルカトル侯爵令嬢が私に、お寂しかったのですね。私で良ければいつでもお慰めいたします。お呼びになって下さい、と言う。
身に覚えのないことに困惑しかなかった。
メルカトル侯爵令嬢は、ファビがマチルダに連絡をしてくれて着替えなどをして一旦帰らせた。
ファビ達、法律部署課の面々に同じことを話した。
ただ、シーツに付いていた破瓜の印や体液などから何事かあったのは間違いないという報告を受けた。
記憶がないのは薬を使われた可能性もあるということで検査をしたのだが、調査上も薬物関係は見つからなかった。
翌日には慎しなやかに噂が広がっていた。侯爵家からも説明を求められたので同じことを話したが、令嬢からは、国王をお慰めしたと聞いている。話が違い過ぎると詰め寄られた。何故、令嬢がそのように話すのか理解できない。
私は記憶がなくなっている状態で、何かが出来るはずもないと思うのだが、令嬢はハッキリと国王と身体の関係があったと法務部署課に証言したようだ。
長兄が、スワツール国で国王が1人で歩いて何処に行くことが普通にあるということですか?と尋ねた。
国王が、行き先がわかっていて、直ぐに執務室に戻る場合は護衛がつかない。と言った。
確かに私にも護衛が付くことが少なく、侍女も付き添いを希望すれば付いてくるという具合だ。
他の国は付いて歩くのだろうか?
長兄が、国によって違いがありますが、いつ何時なにが起こるか分からない状況で、国王が一人で行動することは、有り得ません。
以前、弟とも話していましたが警備の見直しをされた方がよろしいでしょう。
今までが平和であっても、これからも同じとは限りませんから、早々に取り掛かられたほうがよろしいでしょう。
今後は、王妃であるエルにも同じことを要求します。と長兄がハッキリと明言したのだった。
そして、これからどう行動されるおつもりですか?
今のままでは、埒があきませんよね。意見が食い違っているというところから進展がないようですね。
その内、侯爵家やその周辺から、その内に側妃か皇妃か離婚して王妃の挿げ替えをするのかという要望が出てくることになるでしょうね。と長兄が淡々と述べた。
ケレが、長兄に話しかける。
軽率な行動でした。
現在、ファビを中心に法務部署課が捜査を行なっています。騎士団も調査をしています。
記憶がないということで、薬剤使用を疑っているのですが進展がない状況です。
長兄が、日にちが経ては、証拠はどんどんなくなりますよ。
ましてや、疑っているご令嬢は自由に行動されているのでしょう?せめて王宮内で待機にする。外部との連絡は断つような手立ては取った方が良いと思います。放置状態では、狙っている者からすると、色々策略がたてれますよね?と容赦がなかった。
ケレの顔色が悪くなり、表情が険しくなる。
私が何か話そうとすると、長兄が話すなと態度で表した。
お忙しいのにすみません。この後、エルと重要な話もあります。私も国に帰らねばなりません。
申し訳ないが、一旦この話はそちら側で話し合って頂いてもよろしいですか。エルは私ともう少し話し合わないといけないことがありますので別室に移動させていただきます。と長兄が立ち上がり私を連れてさっさと部屋から出てしまった。
私の自室に戻り、長兄が防音魔法を展開する。話を聞かれたくないようだ。
長兄が話し出す。
この国は、平和なのだろう。危機管理が出来なさすぎだ。
前回の教訓が何も生かされていない残念な国だな。
エルが動くことは、王妃として当然だ。だが、今回の件は手を出すな。
事件の真相を証明する方法は、あるはずだ。
だから、あの時エルも発言しようとしたのだろう?
自分たちだけで何とかさせろ。エルはアウグスリンデ国に連れて帰ることにする。
スワツール国にいれば、何かと手を貸してしまうだろう。
この国が、自分たちで気づき、自分たちで解決していかなければ内紛だって起こり得る。
今の状況では、他国から攻め込まれても太刀打ちできないだろう。
成長を見守ることも必要なことだ。
手を貸すことは簡単だ。だがな、一度貸した手は、次回から当然のことになる。
我慢と堪えること、見守ることができること、必要な時にだけ手を貸すこと。できるな?
そう言って私に返事を求める。
長兄に指示に従わないなんてことは、私の選択にはなかった。
少し、外の空気を吸いに行く。
長兄が付いて来る。通常は護衛が付いて当たり前だという。
庭園近くの廊下で、1人の令嬢が私の前に現れた。
申し訳ございません。王妃様には嫌な思いをさせてしましました。
わたくしは、お寂しそうな国王様をお慰めしただけでございます。
どうか、お許しくださいませ。
そう言いながら泣き出してしまった。
おそらく、私と同じくらいの年齢だろう。栗色の髪に緑色の瞳をした整った顔立ちの女性だった。
話の内容からメルカトル侯爵令嬢なのだろうと思う。
許してはいただけないのですか?
そうですよね、国王を愛しておられる王妃様には受け入れがたいことでしょうね。
ですが、知っておられないかもしれませんが、希望されれば国王様は側妃を持つことができます。
ですから、王妃様の広い心で、今回のことをお許しいただけないでしょうか?
そう言って涙を流しながら話しかけてくるのを止めない。
その時、数名の令嬢が彼女の周りに集まってきた。
メルカトル侯爵令嬢、何故泣いておられるのですか?王妃様に何か非難されることを言われたのですか?ひどい言葉で蔑まれたのですか?
大きな声で喚き始めたので、周囲にいた者が何事かとみてくる。
いいえ、王妃様に謝罪をしただけです。とメルカトル侯爵令嬢が言えば
謝罪など必要ないでしょうに。なんてお優しい。と周囲が彼女を擁護するような仕草をする。
私は、何を見せられているのだろうか?
演劇でも見せられているのだろうか?拙い演技だなと思ってしまう。
何か言いなさいよという言葉の後に、強い衝撃を感じたと思った時に床に倒れこんだ。
運悪く怪我をしてる背中から倒れて、石の床に打ち付けたようだ。
長兄が抱き起すと、あらあら王妃様には国王様以外の素敵な男性がお傍におられますのね。と含み笑いをしながら言葉を発した令嬢達。
長兄が静かだが、威圧するような声で
周囲にいる者は何をしている、直ぐに医者を呼べ、王妃が突き飛ばされたのだぞ。
不敬であろう。護衛は何をしている。近衛か衛兵を呼べ。
こいつらを拘束しろ。近くの部屋に監禁しておけ。誰一人逃がすなよ。
犯罪者だからな。急げ、サッサッとしろ。
そう言って指示をだす。バタバタと周囲の者が動き出す。
令嬢たちは長兄の威圧に恐れ戦いて動くことができないでいた。泣き出すものもいた。
近衛が到着して令嬢たちは連れていかれた。
長兄がもう一度近衛に指示を伝える。
犯罪者を監禁しておけ、これは国王の命令だと心せよ。
近衛も長兄の雰囲気に頷く以外ないと思ったのか、御意にと返事をしていた。
長兄に抱きかかえられて自室に戻った。
ドクターバーナードが待機していてくれた。
傷を確認しよう。どこを強く打ったかね?痛みはないか? 問診しながら手際よく背中の傷を診ていく。
アウグスリンデ国に行って傷を診ていてよかった。毒のせいで治りが悪い。やっと傷が塞がってきたから安心していたところにこれか。再縫合だな。ブツブツと呟きながら処置をしてくれる。
ドクターバーナードはすっかり私の主治医だ。
長兄が倒れた状態を的確にドクターバーナードに報告していた。




