第二章 その後
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話です。
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
ニルマニ王女が去ってから、寝る前のケレとのお茶会が再開した。
ケレがまた頭を下げる。ありがとうとすまなかったと言って。
私が、あのまま妊娠を押し切られたらどうしていましたか?と問うと、
少し困った顔をして、そうだな、受け入れるしかなくなるのか?噂だけでそんなことになるんだろうか?と首をかしげていた。
国によってこんなにも考え方が違うのかと勉強させてもらった諜報活動でしたとケレに二国の話をした。
ケレがアウグスリンデ国の公爵家には非常に世話になったと情けない顔で言う。
3番目の義理兄から、エルが大事にできないのなら即刻離婚して国に帰してほしいと言われた。どう見ても、どう考えても大事にしているとは言い難い状況だったから、かなり堪えたな。
そして、他国の情報を正確に把握することの難しさと、そこまでしなければならないということが身をもって分かった。裏取りを怠ってしまったツケが回ってきたのだな。
二人で、帰国後の執務室でのやり取りのことを話して爆笑した。
エルが女優だったことに驚いた。さすが、優秀な諜報員だな。なんでも演じられるのか?とケレが冗談交じりにいう。
秘書官や文官の顔も可笑しくてたまらなかったです。ケレが笑いをこらえて震えていたから、可笑しくって、我慢するのに苦労しました。というとお互い様だとおでこを弾かれた。
エル、申し訳ないと思うが、そろそろ子どもを望んでもいいだろうか?とケレが真面目な顔で聞いてきた。
私は考えながら、オーレンスト国のスカーレット王妃から妊娠の報告があった時に後継者のことは考えていた。ケレに相談しないといけないなと思っていたんだ。と答えた。
ケレが、怖くはないのか?と聞くので、怖いかと聞かれれば分からないと答えるのが正しい気がする。その時にならないと自分でも分からない。今は怖いかと聞かれたらいいえと答えるだろう。
少し学んでからの方がいいのかもしれないなとも思うが、どうなんだろうか?
教育係からは、相手の方にお任せする、痛くても耐える、時間が経てば終わるとしか習っていないから、知識として正しいのか?
ケレが笑いながら、お任せするのはいいかもしれないが、痛くても耐えるというのは間違っているな。痛ければ痛いと言わないと伝わらないだろう。
そんなものなのか?と首を傾げる。
エル、どんな時もそうだが、痛いとか苦しいとか辛いとか言葉に出す様にしろ。耐える必要なんてない。私たちは夫婦なんだから辛い時も悲しい時も怒っている時も嬉しい時も、何でも話して一緒に解決していこう。相手が何を幸せと感じるか、共有する時間の中で見つけていこう。ケレがそっと抱きしめてそう言った。
「そうだ、ドクターバーナードにいつがいいか相談してみようか」と真顔で正解でしょ?と期待感出して聞く私に、がっくりと項垂れて「なんで医者に相談する」とケレが聞いてきた。
なんで?と言われたら子供のことは医者に聞けと言われていたと思ったのだが、違っていたか?と言うしかない。
ケレが、確かに妊娠しやすい時期というのはある。だがな、それだけじゃない。もし時期だけで妊娠できるなら誰も苦労などしないだろう。
人間には、発情期があってないようなものだ。時期なんて関係ない。いつだっていいんだ。
そう説明された。
なるほど、では誰が決めるのか?ケレが決めるのか?お任せするとはそう言うことも含めてなのかと納得する。私は大きく頷く。
「お任せしよう。」とケレに笑顔で返事をした。
この決断が後々大変な思いをすることになるなんて、考えも及ばなかった。
翌日に目を覚ますと陽光が高いところにあるようだった。ぼんやりとした頭で起き上がろうとして、右手が何かに触った。その方向を見て紺碧の瞳とぶつかった。
そうだった。お任せをしたんだった。
「身体はどうもないか?」と聞かれて「日頃から鍛えているから大丈夫だろう」と返事をした。
何故か寝衣を着ていた。「ケレが着せてくれた?」「起きてなにも着ていないのも恥ずかしいだろう。」
それはそうだなと思って頷いた。
朝の支度をしないといけないなと頭を働かせようとする。身体を動かしてみると各所が筋肉痛になっていた。ベッドから立ち上がり、足が震えるので座り込む。ケレが直ぐに抱え上げてくれた。
「無理をさせてしまったな。次からは自重できそうならそうしよう。」といって、「風呂に入ろう、今日は執務を休む」と宣言した。
そんな簡単に休めるのか?国王だからいいのか?と考えているうちに浴室に連れていかれた。
一緒に入るのか?と問うと、当然のように当たり前だと返事が返ってきた。そうなのか?普通が分からないが、ケレがそういうならそうなのだろう。浴室は広いから大丈夫なのだろうと思う。ケレは企みがあるような顔で笑っていた。
筋肉痛には慣れているはずだが、どうにもいつもと勝手が違っていた。痛いところが訓練の時とは違っていた。夕方には歩けるようになってきた。
女性はいつもこんな思いをしながら仕事もしているのかと思うと気を使っていかないといけないなと思った。
スワツール国に来てから、これまで経験したことがないことができたから理解できることも増えたなと思う。
一日中、国王と王妃の間で過ごした。侍女たちが微笑ましそうに食事を運んで来てくれた。
まぁ、二人が仲が良いことに越したことはないからと、私もニコニコとして過ごす。
「明日は通常業務に戻るから、準備をお願いする」と侍女たちにいうと、「国王にお伺いしてからですよ。」と言われた。
そんなことがあるのか?これまで執務を行うのに国王の許可など執ったことがないが。
「明日から仕事をするのに国王の許可が必要なのか?」とケレに聞く。
「あぁ、まぁそうだな。明日になればわかるだろう。」と言われて、明日の朝に今日と同じことが繰り返されるなど、その時の私は知る由もなかった。
そして、4日目の朝は通常の時間に起きて普通に動くことができた。
3日間同じ状況が繰り返されて、流石に明日は仕事に戻らないといけないと考えていたのが、ケレに伝わったのかと思う。ケレも執務が滞っていることだろう。
ケレから「今後はこの部屋を使うように」と言われて、これまで使っていた王妃の部屋から、国王と王妃の部屋へ荷物が移動された。王妃の部屋も近くにあるが、本来は、婚姻後に国王と王妃の部屋を使用するはずだったのが、延び延びになっていたと説明された。
周囲の雰囲気が何だか違う。
出勤してきたマチルダに「なんか空気が違う」というと「本来の形に近づきつつあるからですよ」と言われた。
あぁ〜部屋を移ったからかと言ってなるほどねと言ったら、そう言うことにしておきましょうとバッサリ切られた感じがした。
マチルダは、ファビの姉で公爵家令嬢だった。
嫁ぎ先は東のヴィルド公爵家だ。ヴィルド公爵家長男と結婚して、子供も3人いる。
ヴィルド公爵家の長男は、宰相筆頭補佐官だ。
王宮近くの公爵家タウンハウスにいる。
それで、マチルダも王宮で侍女ができると話してくれた。
将来的には公爵家に帰る予定だが、宰相との両立はできないので、次男が跡を継いでくれるか様子を見ているようだ。時期が来たら宰相になるか、公爵家を継ぐのか決断しないといけなくなる。
マチルダは、このまま侍女長を務められると良いのですが、公爵家に戻ることになれば辞めるしかないですね。と淋しげに話す。
私が心配そうな顔をしていたらしく、マチルダが「心配しなくても先のことです。義理父も元気ですから。」と明るく笑い飛ばした。




