第二章 森の主 (第一話)
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
帰国後からケレが忙しく、なかなか二人の時間を持つことができなくなっていた。
理由を聞くと、国内の各所で災害が起きていて対応に追われているという。
ここまでの規模で災害が起こることがなかったから、領主達も救済が追い付いていない状況だという。
水害や山火事や地震などで農作物への被害も大きいと報告を受けているようだ。
被害が大きい領地には、視察に行くことも検討しているという。
同じ時期に各所で災害が頻発することが、過去にもなかったので調査が必要かもしれない。
視察の同行を願い出たが、被害の規模や受け入れ側の準備などの問題もあると却下された。
私がアウグスリンデ国に行っている間に何が起きていたのだろうか。ファビに詳しく報告をしてほしいと依頼した。ファビ、ディル、ライも忙しいらしいが、集まって報告会をしてくれることになった。
それぞれとはやり取りしていたが、4人が集まるのは久しぶりだった。
スワツール国全体が危機に瀕していると言っても過言ではない状況だ。
ツェラー公爵領は、この時期で冷害が起こっている。侯爵領ではメルカトル領は大規模な山火事、アイスラー領は水害、ユンゲス辺境伯領は地震で被害も大きい。
他にも至る所で災害が起こっている。一月ほど前から急に起こるようになってきた。
事件事故のように誰かが意図して起こしている規模じゃない。自然災害だ。
4人からの報告を聞いて、マチルダ達侍女と相談する。
災害が起こる要因が何かあるはず。視察同行は、ケレに却下された。私は、アルドアルの森に行ってみようと思う。確信はないが、何か起きている気がする。
この時期に、ただの勘だけで王妃が動くことが許されるのだろうか?
それでも、行ってみたい衝動を抑えることができない。マチルダが、「王妃が行くというなら、私達は従います。」と賛成してくれた。
ケレに相談して、名目は『ムマキムの生地の相談』とした。理由など幾らでも作れる。
ケレも何か思い当たることがあるようで、すんなり許可がおりた。
視察に出発したケレとは、詳しい話もできないままだった。
私とマチルダ達侍女だけで、アルドアルに出発した。王宮全体がバタついているので、ひっそりと向かうことにした。
アルドアルの街は、建物も人も何倍にも増えていた。一旦、迎賓館に向かう。先触れは出していたので館長のハインリッヒが出迎えてくれた。直ぐにでも森に行きたいが、何が起こっているか分からないから暗くなる時間を避ける。
翌日の朝に私だけが馬に乗り、森へ向かった。様子を見るだけ。危ないことはしない。と約束をして出かけた。
森に到着すると、驚く光景が待っていた。
木々が倒されている。森の入り口近くの木が切り倒されていている。材木が積みあがっている。かなり奥まで伐採が進んでおり、薬草があった場所は踏み荒らされていた。
呆然と立ち尽くす私。するとどこからか声がする。スワツール語ではない会話が聞こえる。
この言葉は…スワツール国の隣、アークレイリ語だ。
アウグスリンデ国とアークレイリ国は、国が離れているため、交流が全くない。そのため、言語も聞いたことがあるという程度しか分からない。
足音が近づいて来る。私は隠形魔法で風景に溶け込み姿を隠した。
男が6人、アークレイリ語で喋っている。木に印を付け始めた。
『急がないと』森の主まで辿り着かせるわけにはいかない。
私は感知されないように注意しながら馬を繋いでいた場所へ移動した。
用心のために馬を見つからない場所に繋いでおいてよかった。私は急いで迎賓館に向かって馬を走らせた。。
迎賓館に到着後、急いで館長とマチルダ達侍女を集合させた。アークレイリ国から違法伐採を行う者が入り込んでいる。このままではアルドアルの森は壊滅状態になる。
急がないと。だけど、何故? アルドアルの森は王家直属の保護区に認定されているはず。誰かが立ち入れる場所ではない。
今は、違法伐採を行う者を捕縛することが最優先だ。アルドアルの街には騎士団がいない。新しい街で治安がいいのもある。最近になり、街の人々が有志で自警団を立ち上げているようだ。
有志の自警団にお願いすることはできない。しかし、一刻を争う。
役所の人達を集めて状況を説明する。アークレイリ語が出来る人を集めて、彼らと対話をすることにした。
相手側の意図を確認する。なぜこの森に入り込んで伐採を行っているのか?聞いてみないことには分からない。とにかく騎士団が到着するまで、時間稼ぎをしないといけない。
ハインリッヒ館長には一番早く到着できる騎士団に連絡をしてもらう。侍女たちには、役所で話を聞くことができる場所作りを頼む。森にいる6人を一箇所に集めたくない。個人個人から話を聞きたい。そう説明した。今は、罪人として扱うのではなく、事情聴取に止める。
自警団にも説明を行うと協力を申し出てくれた。直ぐに招集をかけてくれたのだった。
私と役所の男性が5人、自警団の男性が5人で森へ向かった。役所の男性の中にアークレイリ語が話せる人がいるので、その人が通訳をしてくれることになった。
森では6人が木の伐採を行っていた。役所の男性が、一番手前の木を切っている男性に声をかけた。
あなたたちは此処で何をしているんですか?許可を受けて木の伐採をしていますか?
最初はスワツール語で話しかけた。木を切っていた彼は、少しスワツールの言葉が分かるようだ。
役所の職員に向かって、アークレイリ語が話せるか?と問いかけてきたようだ。役所の職員が、同じ内容をアークレイリ語で話していた。
詳しい話を聞きたい。役所に来てもらえないか?と丁寧な言葉で説明し頭を下げた。意外なことに6人は素直に作業を止めて市役所へ同行してくれた。
役所では、一人一人から話を聞きたいので個別対応をさせてほしいとお願いした。あまりいい顔はしてくれなかったが応じてくれた。個室に案内してお茶と簡単な茶菓子を出すと、雰囲気が柔らかくなった。
役所職員には、騎士団到着まで時間稼ぎをしてくれるようにお願いした。
アークレイリ語が出来る役所職員が3名いたので、伐採していた彼らに聞き取りの順番を問う。そうするとスワツール語が出来る者が1名いるというので4部屋で話を聞くことにした。
各部屋に2名もしくは3名が待機して、そのうちの1名が話を聞く。
伐採を行っていた6人は、アークレイリ国で材木の商いを行っている商会の職人だった。
アルドアルの街を経由してアークレイリ国に入った商人から森のことを聞いたようだ。
良質の材木が手に入ると聞いて入国してきたと話していた。
少し離れたところに温泉が湧いていて、そこでテントを張って生活していたようだ。
お腹が空いているといけないので、食事もとってもらうことにした。少しでも時間を稼ぎたい。お腹が満たされると機嫌もよくなり雑談などもしていた。
彼らは全員職人で、命令されたから木を切りに来たようだ。悪気があって森の木を切っていた訳ではなさそうだった。
騎士団も到着間近と連絡が入り安堵した。
夕刻に騎士団が到着した。近くの街リブランから来てくれたそうだ。
役所の職員が、私に声をかけてくれた。「それぞれの話をまとめて騎士団長に報告します、お疲れでしょう、後ほど報告に行きますから休んでください。」
私は、「森の主が気にかかるので、もう一度森に行きます。帰りに寄ってみます。」と返事を返した。
森に行くと、異常なほどに静かだった。たくさんの木が切られており、材木が積み上げられていた。
私は切られた木を確認しながら森の奥へ進んだ。森の主の許を目指して。
森の主はひっそりと佇んでいた。大きな幹に太くて長い枝が伸びている。青々とした葉が茂っているが元気がないように見える。森の主に手を伸ばして語り掛ける。
元気がないのか?災害は主の力が弱まったから?どうしたら元気になるのか?
森の主に向けて、そっと優しく治癒魔法を流す。森の主がブルっと震えたような気がした。枝が揺れて葉がざわざわと騒いだ。周囲が明るくなった気がした。
森の主から言葉はないが、少し元気が出たように感じた。「毎日来ます。ごめんなさい。守ることができなくて。」森の主に謝って誓う。毎日来て治癒魔法をかけると。




