第二章 祖国(1編)
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
翌日、ケレからアウグスリンデ国へ里帰りの許可がおりた。
ディル達から一緒に行こうと提案されたが断った。本来の業務も忙しいのに、彼らが忙しくなってしまったのは私がアルドアルの開拓に巻き込んでしまったからだ。
今回は、自国に帰り研究をするだけなので1人で行く、向こうの人達に気を使わせることもしたくない。姿を隠して入国して、姿を隠して出国したいくらいだ。
里帰りの許可が下りたと連絡すれば、公爵家の誰かが国境まで迎えに来てくれるだろう。心配は必要ない。と伝えた。
3人は心配してくれたが、今回は一人で行きたいと強く主張した。王族や公爵家と向き合わないといけないかもしれないことも考えての判断だ。
自分の生い立ちが不幸だと思ったことはないが、歪ではあったと思う。
スワツール国の王妃としてアウグスリンデ国に行くのではない。エミル・アレーント公爵令息として自国に帰り、研究に参加するだけだ。目的を見失わないように、自分に何度も語り掛けて導き出した答えだった。
婚姻のために自国からスワツール国までの道を、馬車で移動したときはかなりの時間がかかったが、鉄道だと早かった。
魔法を使えばテレポーテーションができたりするが、長距離を移動するほどの魔力量がある人がいなくなってきている。
公爵家に手紙で、国境を越えてアウグスリンデ国の一番近い街の予定到着日時を知らせておいた。入国時に公爵家の長兄と3番目の兄が迎えに来てくれていた。兄が二人も来ていることに驚いた。
長兄とは上司、部下として仕事をしていたが、3番目の兄とは本当に久しぶりに顔を合わせた。24歳になっている兄は屈強な躯体になっていて、精悍な顔つきだった。笑うと昔の面影が浮かぶのでほっとした。
長兄は公爵家当主になっていた。3番目の兄は第2騎士団長を任されていて、魔物の襲撃があれば討伐に向かっていると二人から軽く近況を報告された。
王都までは各自が馬に騎乗して移動することにした。公爵家当主が護衛もつれていなくていいのかと言ったら、他国の王妃がそれを言うのか?と3番目の兄が言って笑っていた。
王都に到着するまでに宿に3泊した。その間に国や公爵家がどうなっているのかを聞いた。
【公爵家】
長兄 アントニオ・アーレント公爵閣下
呼称:(長兄)(ニノ)
妻と子供3人
次兄 ルシオ・シャフツベリ伯爵
(公爵家が複数持っている爵位の1つを継いだ)
呼称:(ルシ)
妻と子供1人
3男 レナート・アントニオ公爵令息
(第2騎士団長)
呼称:(ナト)
独身(婚約者あり)
家督を譲った後、両親は領地で過ごしているそうだ。エルが帰って来ると知って、今頃は王都に到着しているんじゃないかとナトが言っていた。
王家については、王妃と2名の王女の醜聞については緘口令が敷かれているため一部の重鎮しか知らされていない。表向き王妃は療養中となっている。2名の王女は国内での婚姻は非常に厳しい、国外で探すにも他の国が受け入れてくれるかどうか分からない。情報が知られていれば難しいだろう。今は、他国に嫁ぐ準備を進めていることになっている。
国王は王太子に王位を譲りたいようだが、2,3年はかかるだろう。王太子の結婚や王妃についても幽閉だけでは済まないだろう。民に慕われている仁君ではあるのだが、家族に足を引っ張られてしまった。王太子と第二王子は二人ともかなり優秀なので、伴侶を選びを間違えなければ、譲位は順調に進むことだろう。
スワツール国王が提訴しないでくれたからこれで済んだが、国家間に大きな亀裂がはいるところだった。エルの処遇についても心配していた。療養しているとも聞いていたから、連絡をするかしないかで家族で討議もした。
ニノに連絡をくれて良かった。とナトから言われた。
アウグスリンデ国について、ケレから詳しくは聞いていなかった。スワツール国の生活に没頭していたから考えもしなかった。
ケレは賢王と言われており器の大きな人だから、誤解が解けたことについて拘る人ではないと伝えた。「信頼しているのだな」と長兄からの言葉だった。
王都に到着すると3人で公爵邸に向かう。公爵邸では公爵夫人と子供達、前公爵夫妻(戸籍上の両親)が出迎えてくれた。長兄が夫人と子供たちを紹介してくれた。
疲れているだろうからと、私が公爵邸を出るまで使用していた部屋に案内された。部屋はそのまま残っており誰も使わない部屋の掃除も行き届いていた。
ナトが、足りないものがあれば教えてくれ。ニノが準備してくれる。侍女にお茶を頼んだ。暫くゆっくりするといい。夕食は皆が集まる予定だ。と説明してくれた。この3番目の兄は、昔から私のことを気にかけてくれて関りをもってくれた人だ。この家で、私を家族で妹と認め接してくれる唯一の人だ。あの時の光景が思い浮かんで、生きていてくれてありがとうと思う。
夕食は侯爵家の全員が揃った。食事が終わり大人達だけがサロンに集まった。
前公爵が、皆に向けて「尋ねたいことがあるかね」と口火を切った。
長兄が「エルには、これまでの話をしておいた方がいいんじゃないか?エルは聞いても聞かなくても同じだというが、知らないままでは済まない話だと思う。私だって全部を知っているわけではない。ここで知っているのは父上と母上だけだ。説明をしていただこうと思う」と前公爵夫妻に言った。
前公爵と夫人がお互いを補足しながら話し始めた。
エルの母親は、先々代国王の側室だった方の娘で、エルの父親は先々代国王だ。私たちは先々代国王側室つまりエルの祖母にあたる方から相談を受けた。私たち夫婦の第四子が生まれて直ぐに亡くなったため、エルを実子として受け入れてくれないかという相談だった。
実子は女の子で亡くなって3日しか経っていない。産まれたばかりのエルを見て、この話を引き受けようと二人で決断した。
エルの祖母からは、申し訳ないがこの子の将来のために男の子として育ててほしい。情がわくといけないので、できるだけエルとは距離を置いてほしい。勝手を言うがこの子の生まれは特殊だから、これから何が起こることになるか予想がつかない。迷惑をかけるかもしれない。早く独り立ちさせること、家族の中でも距離を置くこと、この2点は必ず守ってほしい。この子の将来を思うならそうして欲しいと頼まれた。
エルの祖母は、時々ではあるが、『先を視る力』を持つ人だった。本人は、薄いが魔女の血が流れていると言っておられた。私たちは自分の子供の代わりにと思っていたが、それではお互いが不幸になると言われて、二人で話し合ってエルの祖母の意見を受け入れた。
エルの祖母は、度々来られてはエルに厳しく、家族との距離を考えて行動しなさい。感情は捨てなさいと言っておられた。辛かったと思う。私たちですらエルを可愛いと、もっと愛情を注がせてほしいと感じていたのに。
あの方は、エルに会った後は必ず泣いておられた。声を押し殺して泣いている姿を見ると何もできなかった。
公爵夫人は、あの方は私の友達の公爵令嬢ととても仲が良かったの。公爵令嬢がとても慕っていたわ。彼女からの助言もあってエルを実子として届け出ることにしたの。エルに会った瞬間、この子が私たちの子供になると思うととても嬉しかった。可愛い天使のような赤ちゃんだったの。
だけど、あの方から、可愛がってはいけない、父母と呼ばせてはいけない、そう言われて納得できなかった。でもね、エルの将来を考えることも親の務めと思って弁えてほしと、辛い言葉は私から伝えるから、そう言われたら我慢するしかなかった。声を殺して泣いておられる姿を何度も見てしまうと従うしかないのかと受け入れるようになっていったわ。
そして、ナトが大怪我をした時に、エルが初めて魔法を発動して治癒魔法で直してくれたことがあった。
あの時に、この子は王家の血を引く者なのだと実感した。あれほどの魔力と癒しの魔法が扱えるのは、初代国王と同じだからだ。
しかし、幼いエルがその魔法に耐えられるか分からない。ニノが自らエルを導いていくと名乗りを上げてくれた。ニノの魔力量は多く宮廷魔導士から訓練をうけたほどだったから任せられると思った。
いや、おそらく私たち二人はエルと一緒にいることから逃げていたと思う。なにも出来ない自分たちに遣る瀬無い気持ちばかりで、ニノに全てを託してしまった。
魔物討伐や戦争に駆り出されるようになったのも、エルの実力が高く評価されたためだが、初めのうちは、あの方が動いていたと思う。アカデミーで過ごす時間は少ない方がいいと言われていた。
あの方がなくなり、国王が代替わりして現国王になってエルも成人して、今後のことを考えようと話している矢先に隣国に嫁ぐ話になって慌てたわ。しかも第三王女に戸籍が変わっているし。
先代国王は、あの方やあなたのお母さんをとても大事に思っておられた。何もできなかったと悔やんでおられた。先々代の悪行の後始末にばかり追われる日々の中で、唯一の癒しだったと話されていたわ。
だからエルに幸せになってもらいたかったそうなの。
エルにとって、私たち家族との関係は歪んだものに映っていたことだろう。私たちなりにやってきた結果だが、今日こうやって話ができてよかった。成長したエルに会えてよかった。
ずっと、私たち夫婦にとってエルは大事な子供だったんだよ。そう話して二人は涙を流していた。
私は愛されていたんだな。それぞれの思いや考えがあって、私への接し方や距離の取り方がおかしな形になってしまったけれど、私を思ってくれていたんだな。
私は「ここまで育ててくれて、ありがとう。ここで育ててもらい学んだことや身に着けたことは、スワツール国で実を結んでいます。話しづらいことなのに教えてくれてありがとう。」素直に感謝の言葉がでた。
兄たちから、これからも家族なんだから報告、連絡、相談をしていこう。一般家庭とは少し違った形の自分たちなりの家族の形を作ればいいだけなんだから。と言われて、自分を縛っていた何かがゆるゆるとほどけていった気がした。




