王妃のお仕事 アルドアルへ
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
国交開始の調印式を執り行うために、アルドアルの街へ再び向かうことになった。調印式があるため四公爵や宰相、大臣と秘書官、文官など大人数がアルドアルの街に集まる。
今回もマチルダ達侍女も一緒に向かうのだが、休みなく働いてくれている彼女たちに申し訳ない。新しい侍女が入ることになっているようだが、人選に苦労しているようだ。希望者は多いが、王妃付き侍女となると歴史、制度、教養、礼儀作法に多国語も最低2か国語は話せなければいけないそうだ。そして王妃に対する忠誠心。マチルダ、メリッサ、ジュリア、ディアナ、カリーナ、エヴァの6人はその条件を具現化したような人たちだ。そこに加わることになるとすれば、本人は相当な重圧を感じることだろうと思う。
私個人は一通りのことはできる。ドレスを着たり化粧をすることは難しいが簡素なもので良ければそれも出来る。彼女たちの手を煩わせないためにも、以前のように令息としてふるまえるといいのだが、王宮では王妃として過ごしているためドレスの着用は必須なので難しい。
マチルダ達に「教育をしていくという視点から考えてみてはどうだろうか、最初から高いところは望めないだろうから」と提案してみたが、女官から学ばないといけないようでは先が長いです。と言われた。プライドの高い令嬢は、王妃付き侍女なら応募するが、女官から勉強していくことは嫌がるのです。だからと言ってその器がない者を引き受けるわけにもいかない。妥協しても結果が伴わないでは本末転倒です。と言われた。「マチルダ達に出会えたことは、奇跡なんだな。有難いことだ。毎日、ありがとう。」というと「そう言って貰えて、私たちも頑張っていることが報われます。」と笑いあうのだった。
アルドアルの街へ行くまでには、新しい侍女は見つからなかった。彼女たちは、アルドアルの街へ行くことは楽しみでもある。1日休みは10日に1回必ず取っています。行事がなければもう少し短い期間でお休みしています。気を遣われなくても大丈夫です。ただ、誰かが長期に休むことを考えて人員が増やしたいだけなのでと説明された。私に協力できることがあれば相談してほしいとお願いした。
アルドアルの街へ行く間は、ケレと過ごす時間が多かった。相変わらず距離が近いような気もする。一緒にいるときは常に身体が密着している気がするが、誰も何も言わないのでこんなものなのか?と思う。ケレが(私の)「成長が嬉しい、もう少し頑張っていこう。」と口にしていた。「王妃の仕事が少しずつできるようになってきています。もう少し努力します。」と返すと、「最初のことがあるあるから、あまり急かすのもどかと思っていたが…本腰をいれないと先が長いな。それもエルの魅力ではあるんだが。」という。
最初のこととは、アルドアルの開拓のことだろうか。確かに長期に王宮を空けてしまっていた。結果が出せているのでケレも承認してくれているけど、王妃の仕事を頑張らないといけないということか。「精進いたします。」と返事をして、ケレから爆笑された。どこか間違っていたようだ。
アルドアルの迎賓館で、久しぶりにディルとファビとライに会った。3人とハグをして元気であることを喜びあった。ケレから「抱き合うのはいかがなものか」と注意を受けたが、「仲間に会ったから嬉しさの表現だ。」と笑顔で答えておいた。4人でいると気安さから王妃としての振る舞いをおざなりにしがちだ。これまで友人として接してくれる人がいなかったので、心地よいと感じられる大切な仲間なのだ。
ディルから「疲労回復薬の残りが少しになった。調印式が終われば王宮で仕事が待っている。また作ってもらえるか?」ディルとライからも「頼む」とお願いされた。薬草が潤沢に手に入るようになったので難しいことではないから準備すると返事をした。マチルダから、3人との距離が近すぎませんか?と言われたので「仲間は助け合うものだろう。」と返事をした。ドレス姿だからいけないのかもしれない、通常仕様に戻りたいとぼやいた。
翌日のお昼過ぎにオーレンスト国からの御一行様が到着した。久しぶりに会うレッティは顔色もよく、溌剌としていた。侍女たちとも気さくに会話をしていた。私をみると嬉しそうな表情で「元気だった?会いたかったわ。あの薬草茶のお陰で元気なのよ。手紙にも書いていたけど驚くほどよ。」と言って手を握ってハグをした。
夕方から饗宴の間で晩餐会が催された。いつもにもましてドレスや装飾品、化粧と念入りだった。オーレンスト国の要人方と挨拶を交わし、ケレと初めてダンスを踊った。練習をしておけば良かったと思ったが、何とか踊ることができて胸をなでおろした。カール国王とレッティ王妃は何度も踊っているようで、息の合った素敵なダンスを披露された。ケレからは、「初めて踊ったのか?なかなか上手いじゃないか。」と言われた。王妃教育で習っていたことが役に立った。ダンスの先生から「筋はいいです、体幹がブレないので優雅さが身に付けば十分踊れますよ。」と言われていたが、優雅に踊るというのが分からないとケレに話すと「そうだな、確かにキレのある踊りと評した方が正しいかもしれない。優雅に踊るというのは、日頃から優雅な身のこなしを意識していないと身に付かないものなのかもしれない」とアドバイスを受けた。
翌日は午前中から調印式が執り行われた。条約や協定と事業契約の合意内容の最終確認が行われ、滞りなく署名捺印が為された。ケレとカール国王が握手をして、それぞれが挨拶を述べた後に閉会となった。夕方から国交開始のお祝いの宴が行われた。両国から要人が集まっているため、ゆっくりとした日程を組むことが難しいため過密な計画となった。
私とケレも王都で社交が始まる。ディルやファビ、ライもそれぞれの役職の業務が待っている。公爵家当主や大臣の中には、2、3日して帰る者もいるようだった。誰もがアルドアルを気に入ってくれようで、観光や見どころについて質問を受けることが多かった。
帰りの旅は賑やかだった。ディルら3人も一緒だったからアルドアルの報告を受けたり、新しい布の相談をしたり、ダンスのことでからかわれたり、王宮での仕事についても相談を持ち掛けたりした。車内ではドレスを着用しなかった。侍女たちの手を煩わせないためと3人と過ごすのにドレスではない方がいいと思ったからだ。王都が近くなったころにディルとファビから、こんなに自分たちと一緒にいたら駄目だ。国王のところに行けと言われた。ケレとは一緒に食事もしているし、話もよくする。疲れた様子の時はマッサージもしている。王宮に帰ればみんなと一緒の時間がなくなるから、今くらい共に過ごしたいと言ったら複雑な顔をされた。煩すぎたのかと思って黙っていたら心配された。
私にとって3人はかけがえのない仲間だ。アウグスリンデ国ではアカデミーの時も必要があれば討伐や諜報活動に赴いていたし、交流を持つ時間もなかったのでこの時間がとても貴重に思えた。
王宮に戻ってからは、再び王妃としての仕事に追われた。遣り甲斐があり、評価もされるので辛さを感じることはなかった。時々は4人で集まってお茶を飲みながらくだらない話をした。なぜくだらないかというと、マチルダから「くだらない話ばかりしないで、実のある話をしてもらえないかしら」と言われたからだ。ディルたち3人の話は、仕事が多い、上司が面倒くさい、大臣たちが煩いといったことだった。マチルダから「愚痴を王妃に話してどうするの」と怒られていた。3人が「ここで英気を養って頑張るんじゃないか」と言い返していた。
ファビが、そういえばビサウ国から連絡があったんじゃないか?とディルに問いかけていた。ライが、布の提供をしてもいいと連絡がきた。ただ、高額な金額を提示してきたから、うちの管財資産課で止めている。エルから話を聞いていてよかったよ。いくら魔物の皮を加工したとは言え驚くような金額を出してきている。と話してくれた。どうしても諦めきれないなら、ビサウ国に行ってみるか?とディルが言った。バイア国をまたいでビサウ国へ行くことは時間も労力もお金もかかる。簡単じゃないことは皆が分かっている。それでも私の気持ちを慮ってくれることに有難さを感じた。




