第二章 王妃の仕事 お茶会編
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
長兄に手紙を書いた。ビサウ国の生地について情報をくれたことに対してのお礼の手紙だ。私を心配していると書いてあったので、元気にしている。スワツール国でいろいろな体験と勉強をさせてもらっている。感謝の日々を送っている。という内容と、貴重な情報だと思うビサウ国の生地のことを教えてくれてありがとう、お陰で知人に連絡することができて良かったと綴った。
アウグスリンデ国の私の立ち位置が歪だったから、周囲の人達も対応に悩むことが多かっただろうと思う。スワツール国にきてから人の感情に触れて、自分と向き合ってみると、長兄や公爵家の人達はどんな思いを抱いて私を育ててくれたのかと思うことがある。 私がスワツール国で仕事ができているのも、公爵家の日々があったからだといつかはお礼を言いたいと思う。
マチルダから王都で社交が始まる前に、お茶会を開催しておいたほうがよいのではと言われていた。スワツール国は他国ほど長い期間を、貴族が王都で過ごして社交を行うわけではない。せいぜい3ヶ月といったところ。その間に王家主催で行われる会が、始まりと終わりの2回行われる。更に今回はオーレンスト国と国交開始の調印式が盛大に行われることになるので、スワツール国の社交界に慣れていた方がよいのではないかと言われた。
三公爵家のご婦人方とは面識もあり大きな後ろ盾があると考えてよいですが、侯爵家より下の身分の方々、特に伯爵家との繋がりがないのでお茶会は伯爵家を中心に行いましょうといって、マチルダが主要な伯爵家の名簿を渡してくれた。
王妃主催のお茶会を断る貴族はいないと思うが、伯爵家が王妃をどのように評価しているか知っていたほうがいいということのようだ。
お茶会の準備は侍女が行うが、茶器や茶葉やお菓子の選択は王妃が選択することになっているらしい。初対面なので自己紹介で時間をとるが、簡単な話題はいくつか準備していたほうが無難であると助言を受けた。
マチルダと相談しながら茶器や茶葉を選ぶ。今回は、お茶菓子は厨房が準備してくれるそうだ。デーメーテールからバターやチーズなどを持ち帰ったので、それを使ってお菓子を作ることにしたそうだ。
今回のお茶会は、由緒ある伯爵夫人を15名招待することにした。庭園に準備しましょうかと提案されたが、15名なので王宮内の第二客室で行うことにした。初めてのことなので天気を気にしながら準備するよりも確実な方を選んだ。3人ずつのテーブルを5台準備して、椅子は4脚にする。各テーブルを私が回っていくことにした。席表はマチルダの助言を聞いて作成した。
地図に領土と家名に規模や主な産業と特産品を記入していった。奥様方の趣味などは把握しきれないので、領地のことを話題にさせていただこうと考えた。
お茶会当日は、欠席者もなく全員が参加してくれた。集まってくれたことへのお礼と準備したお茶やお菓子について簡単な説明をしてお茶会が始まった。伯爵家のご婦人は、下が28歳から上が40歳の年齢で、古くから王家に忠誠を捧げている家門のご婦人のテーブルから順に回ることにした。
タウンゼント伯爵夫人は37歳、社交界でも一目置かれるほど弁が立つ人で流行に精通している。主要産業はお茶で、本日の茶葉もタウンゼント伯爵領産を準備した。主に紅茶だが発酵させない緑茶もある。私は薬草を扱うので茶葉には興味があり、紅茶も好きなのだが生のお茶を好んで飲んでいると話すと、社交界では紅茶のことを取り上げられることが多いのですが、用途に応じてお茶を選ばれるなんて嬉しいと言われた。お茶については話題に事欠くこともなく話が尽きないまま時間になった。
次のテーブルは、スペンサー伯爵夫人は40歳、広大な森林面積を持ち木材産業が盛んで、アルドアルの街へ多大な貢献をしてもらった。大工さんたちが良質の木材を賞賛し、材料がいいと腕がなるから、いい作品ができるといっていました。ありがとうございました。と感謝の気持ちを伝えた。伯爵夫人は、事業に携わることがないのですが、領地のことを褒めていただいて誇りに思います。と言ってその後は、ご主人や息子さんから聞いているアルドアルの街のことで話が弾んだ。
次のテーブルは、ダービー伯爵夫人で32歳、広大な平野を有しており穀作農業が主な産業で麦の殆どはダービー領から賄われている。良質な小麦はお菓子作りに欠かせない。種類も豊富な麦の栽培に取り組んでいるダービー領のことはデーメーテールの人たちから聞いていた。伯爵夫人は麦を使った料理をいくつも考案して普及活動も行っていると聞いていたので興味深く話を聞いた。
4つ目のテーブルは、ナッサウ伯爵夫人35歳。領地が海に面しており、水産業が盛んだ。ただ、王都まで距離があるため新鮮な魚介類が輸送できないので悩んでいると相談された。干物などを王都で販売している。残念なのは、地元では生のまま食すことができるものが、王都では干物でしか食べることができない。新鮮な魚介類が食べてもらえる日が来ることを願っているというのだった。瓶や缶詰の商品のことを聞いたが、干物が主流らしい。オイル漬けなどは酒の肴になるし料理にも使えると思う。詳しい者がいると思うので興味があるなら連絡をもらうことにした。
5つ目のテーブルは一番若い28歳のマッシモ伯爵夫人。夫人は不機嫌な表情で、私は領地のことを主人に任せているので話をすることができないと言われた。では、興味があることは何かと質問すると特にないと返事が返ってきた。
同じテーブルの席についている2人の夫人が、何とか気まずい雰囲気を執り成そうとするが、本人に会話をする意志が感じられない。なぜそのような態度なのか分からないのでマチルダを呼んだ。
同年代のマチルダなら会話の糸口がつかめるかもしれないと思ったからだ。
マチルダはマッシモ伯爵夫人を見て、「相変わらずの態度なのね。」と言った。「伯爵家では何を学んだのかしら?少しは成長したかと思ったけど、全くのようね。」「マッシモ伯爵の顔を立ってて、あなたを呼んだけど間違っていたようね。」「ちょっと、別室にご案内するわ。」と言ってマッシモ伯爵夫人を連れてどこかへ行ってしまった。
気まずい中、2人の伯爵夫人と話をした。2人はご主人を支え、領地のために尽力している方たちだったので特産品のことや領地の産業のことを聞いた。領地に詳しい2人から学ぶことが多くあった。
想定外なこともあったが、概ね和やかな雰囲気で第1回目のお茶会が終了した。デーメーテールのチーズを使ったチーズケーキが好評だったので、手見上げにお渡しして喜ばれた。
マチルダが帰ってきた。マッシモ伯爵夫人をお茶会に呼んだことの謝罪をされた。私も自分で調べないまま任せっきりにしていたのがいけなかったと反省した。一通り顔合わせができて、人となりが分かれば次回からは参加者の選定ができるようになると思う。お互い様ということにして、今回の件で謝罪は不要にしようと話した。
それよりも彼女はどういう人なのか、マチルダと侍女たちからの話きいた。
彼女はアカデミーの同級生。アカデミーの同級生にはケイレブ国王(王太子)や宰相のムート辺境伯の息子で宰相補佐をしているレックス、学年は違うけどファビやディルとライもいた。
彼女はモーブレー男爵家のクロエ、彼女は容姿がよかったから男爵領では人気者だったそうだ。家族も可愛い彼女がすることは、クロエは可愛いからですべて許していたようだ。
アカデミーに入学してからもそれは変わらなかった。よく言えば天真爛漫、実態は傍若無人。誰に対しても‘‘お友達‘‘を貫いていた。国王(王太子)に対しても腕にしがみつく、抱き着く、ケレイブ様と呼ぶ。注意をしても「なんで駄目なんですか?同級生じゃないですか?」という始末。こんな調子で、婚約者がいようが、高位貴族だろうが関係ない。全て「お友達なんだから」の一言で終わる。誰が注意しても改まることがなかった。
そして事件が起こった。公爵家主催の夜会で、伯爵家の男性に伴われて入場してきた彼女は、媚薬の焚かれた部屋にケレイブ国王(王太子)を誘い込んだのだった。伯爵家の男性は婚約者もいる身でありながら、彼女に強請られて夜会のエスコートをした。彼女が今日は全てを捧げます。だからこれを焚いて下さいね!と頼まれた。頼まれた側は、自分のためにと思い準備をした。しかし、誘われたのは国王。彼女は「クロエはお姫様だから、王子様と結ばれないと駄目なのよ。」という理由で、お粗末な計画を企てたようだ。
国王(王太子)を薬の炊かれた部屋に招き入れるなど重罪であるが、マッシモ伯爵が「私が領地で躾て差し上げましょう。若い彼女に更生の道をお与え願います。」と申し出たことで、躾ができるまで領地から出ない約束で婚姻を結び領地に籠ることになった。
マッシモ伯爵は40歳、18歳の彼女は嫌がったが極刑に処されるよりはと男爵夫妻に泣きつかれ、牢屋に入るよりマシよねと簡素な結婚式を挙げて領地へ向かった。
今回、マッシモ伯爵から「彼女がどうしても王都に行きたい、お茶会に参加したいというのでお願いできないか」と連絡があり、10年も経てば彼女も多少なり淑女のかけらくらい身に着けたかと思ったが、全く変わっていなかった。
マッシモ伯爵に連絡をして引き取りに来てもらった。伯爵が言うには、領地では、行事があれば率先して参加し領民に声をかけ、盛り上げる努力を惜しまない。明るい彼女が声をかければ喜ぶ領民も多い。大きな問題など起こしたことがない。というのだった。
マチルダは、マッシモ伯爵に「女性の領民からも彼女は慕われていましたか?」と問うた。アカデミーでも行事ごとには率先して参加していました。準備や後片付けはしませんが、その場で愛想を振りまくのは得意でした。一部の男性からは人気がありましたから、彼らが頑張ることで行事が進むという具合でした。領地でもそんな感じではなかったですか?申し訳ありませんが、今後マッシモ伯爵夫人をお呼びすることはありません。ご了承下さい。と公爵家令嬢として話を通したといっていた。
マッシモ伯爵は、領地でも今聞いた話のままだったことに思い至り、二度と領地からだしませんと頭を下げ、躾どころの話ではないですね、私が何も見えていないようでは。申し訳ございませんでした。と彼女を連れて領地に向かったそうだ。
20歳を超えた彼女が、いつまでも少女のままでいられるのはご主人のお陰かもしれない。領地にいれば彼女は社交界の常識に縛られることなく過ごすことができるのかもしれない。彼女は大人になることが難しいだろう。幼少期に常識を教えられないまま大人になってしまった。大人になった思考は、よほど大きなショックでもなければ変わることができないだろうから。
マチルダ達と彼女が王都に来るという夢を持たなければいいがと話した。




