第二章 王妃の仕事とケレとの距離 ナターシャと新しい布
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
第二章にはいりました。
周囲の人々から優しく時に厳しく生暖かい目で見守られながら、王妃のエルが国王ケレとゆっくりと愛を育んでいきます。
愛されてこなかった王妃エルが、愛されることの幸せと喜びを知っていくお話です。
王国までの鉄道の道のりでは、できる限りの時間をケレと一緒に行動した。ケレの深い知識や分析力、決断力、使命感の強さに尊敬と忠誠を誓う思いが強くなった。話題も豊富で学ぶことが多く、飽きることなく会話が続いた。王宮に帰ってからは、少しずつケレの業務を手伝うことにした。ケレが配慮してくれて、これまで王妃の仕事をしてこなかったが、今後はマチルダ達や他の侍女の力を借りながら王妃の仕事と向き合う覚悟ができた。マチルダ達は、これからも侍女として仕事をしていきたいと思っている、させて欲しいと申し出てくれた。信頼できる彼女達が側で私のことを支えてくれることを望んでくれたことが嬉しかった。
王宮では、大臣たちの反応が変わっていた。今までは、見たこともない人物に胡散臭そうな目で一瞥するという態度だったが、会えば挨拶から始まり、アルドアルの街について質問がくる。ぜひ、行ってください。いい旅になりますよ。と返せば、笑顔でお口添えをお願いしますといわれる。ケレから、いちいち相手をする必要はないと言われるが、上手な躱し方などわからず、マチルダと一緒歩いて勉強するようにした。マチルダは作り笑顔で、いつでもお好きな時にお行きなさいませ。どのような方が行かれましても楽しめるところでしてよ。では、失礼。とバッサリ切る。これを身に着けていくのか戦術よりも難しいと頭を抱えたのだった。
元々、報告書や会計の仕事は戦略班にいる頃に厳しく教え込まれていた。数字を扱う業務は得意だったので、事務仕事は苦労することなく王宮の予算配分や税金関係の書類を熟していった。
マチルダから慈善活動も行っていく必要があると言われたので、教会や孤児院などに赴き手伝いをさせてもらう中で改善していくことがあれば、マチルダや侍女たちと相談して改善策を考え、衛生的で過ごしやすい環境を整えることに力を入れた。
ケレとは、毎日、朝か夜の食事のどちらかを一緒に食べるようにした。時間があれば、寝る前にお茶の時間も設けるようにした。報告、連絡に相談ができるのは有難いことだった。
ケレからエルは何をしている時が楽しいのだろうか?と聞かれて、そんなことを考えたことがなかったなと思った。これまでは、全てが指示の中で自分のできることを考えて行動し、結果をだすことだけに注力してきた。よく分からないかもしれないと答えた。
ケレは何をしている時が楽しいか聞かせてほしいというと、こうしてエルと話をしている時、エルが体のことを心配してくれた時、エルが褒められる時、あとマッサージしてくれた時もだ。私といる時が楽しいのか?と分からないという顔をしていたようで、エルもその内に段々と分かっていってほしいものだな。と笑っていた。
ケレと一緒に過ごす時間は好きだ。安心する。というと穏やかな優しい笑顔で頭を撫でてそっと抱きしめてくれた。私が小さな声で「褒めらたのかな」と呟くと、「まだまだだな」と小さく笑われた。
アルドアルのディルとファビとライから順番に手紙が届く。街の変化と進捗具合を報告してくれる。アドルフとソフィアは入籍してデーメーテールの宿舎で生活を始めているようで、家を建てるように説得したところ、先にガラス工房を作って欲しいというから工房と家を一緒に建てることにしたようだ。
ライからの報告で、アドルフは家を継がないと決めた時に一生独身でいるつもりだった。研究に心血注いでいたし、他のことを考えることのできない不器用なやつだから、そうなるかなと思っていた。ソフィアさんに出会って変化が起こったんだろう。まぁ、分かる気がする。ソフィアさんはアドルフに似ている。一つのことに一生懸命で損得とか考えないで一途に取り組む、アドルフはそんな彼女の背中を押してあげたいと思ったんだろう。あの家庭にいてはソフィアさんの才能は生かせない。今後は、二人なりのいい家庭を築いていくだろうと書いてあった。
公爵家の面々は、それぞれに別荘と称して好きな場所に家を建設している。ファビの実家のギュルゲ公爵はファビが早々と家を建てたから度々来ているし、クライスト公爵は、デーメーテールの近くに家を建設中。こちらもデーメーテールの空気が合っていると言って頻繁に来ている。ヴィルド公爵とツェラー公爵は家ができてから来るらしい。その内、四公爵がアルドアルの街を運営していくんじゃないかと思う、まぁ四公爵家のお墨付きがあれば安泰だなとディルの手紙が締めくくられていた。
マチルダから、そろそろ社交も開始していかないといけないから、お茶会から始めてみましょうと提案されたころに、ビサウ国にいるナターシャから手紙が届いた。
ナターシャは手紙に驚いたようだが、連絡がきてとても嬉しい。今は騎士の一人と結婚して子供が小さいから家にる。実家は、弟たちが王宮の文官に合格して、家を出て働いている。家には両親だけだから細々と暮らしている。と書いてあった。ガネーシャの生地については、夫が知っている。取り扱っているのは一つの商会で、鞣しから加工、縫製までをすべて行っているようだ。機会があればビサウ国に来てくれたら紹介できる。と書いてあった。
ナターシャが幸せで良かった。ビサウ国に行ってみたい気がするが、その生地を手に入れることができるのか、そして活用できるようになるのかどうか分からないのに行く必要があるのかとも思う。今は王妃としての地盤固めをする時期なのではないかと自分に自問自答するのだった。
予算のことに加えて、領地からの嘆願書も時々回ってくるようになった。マチルダから、何故王妃にこのようなものが?と言っていたが、課題解決ができそうなら取り組む方向性だけでも示していきたかった。マチルダには申し訳なかったが、領地のことを詳しく知らないので資料を集めてもらったりした。外務大臣からもオーレンスト国の事業提携について相談されたり意見を求められたりした。何故かわからないが、お茶の時間の前に来てちゃっかりお茶を飲んで帰ることも多かった。「王妃の作るお菓子は絶品ですな」と社交辞令をいう外務大臣だった。マチルダ達が疲れをためないように薬草を使ったお菓子を時々作って、みんなでお茶をするようにしていた。毎回ではないのだが、何故か大臣は手作りお菓子の時に必ず参加しているのだった。マチルダ達が、文句を言いましょうかと言っていたが小さいことだからと気にしないことにした。
マチルダから、業務量が増えてきているので、侍女を増やせないかと相談があった。確かにマチルダ達に秘書官や文官のような仕事もお願いしている。知り合いに働きたいという方がいたらお願いしてみるのか、新規の人を募集するのか、マチルダ達が働きやすい人がいればお願いしてみてほしいと頼んだ。
ケレにナターシャの手紙を見せた。生地を諦めきれない自分がいたからだ。最近はソファーに座っている距離が非常に近い気がする。隣に腰かけているというより、くっついて座っているような気がする。だから動くと顔がぶつかりそうになって、慌てることがある。相手の体温や息遣いが分かるくらいの距離にいるのだが、頭を撫でられたり、手をつないだりするから「夫婦でこの距離は適切だ」とケレから言われた。嫌ではないし、不都合もないのでそのままにしている。ケレから「今日はお菓子を作ったのか」と聞かれることがある。薬草のにおいがするのかと思ったが、「大好きな香りだ」と優しく抱きしめられることもある。疲れているのかもしれないので、時々はケレにもお菓子を届けることにした。マチルダに話したら、残念そうな顔で「まだまだですね」と言われた。何が?と聞いても「その内でしょうよ」と言われるのだが、よく分からないままでいいのだろうかと思うのだった。
生地については、ビサウ国に問い合わせをしてくれることになった。軍の関係だと国家機密だと突っぱねられる可能性もあるが、用途をしっかり伝えて相手側に利益があれば交渉してくるだろうと言うのだった。




