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第一章 オーレンスト国視察団の帰国と新しい布との出会い

 あらすじ

 突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話



 湖では開放的な雰囲気と豊かな自然の中で、誰もが笑顔だった。レッティ王妃は、「昨日もよく眠れたのよ。気が付いたら朝だったわ。こんなことは、もう何年もなかったことなの。」その言葉を聞いて侍女たちが慌てた。その様子にマチルダが「落ち着きなさい」と侍女たちを諭す。今日は1日、楽しく過ごすためにここに来ています。今、やらないといけないことはなんですか?と声をかけると侍女たちは落ち着きを取り戻した。

 木陰に布を敷いて休憩場所を作る。レッティ王妃にやりたいことを思う存分やってもらう。彼女は水辺に行き足を水につけている。私たちも荷物番と水辺で遊ぶ班に分かれ、水辺の班は、レッティ王妃と共に水の中に足をつける。ここの湖は温かな湧水のようで、足をつけても冷たくない。程よい温かさなので、子供たちが遊んだ時も身体が冷えなくて済んだ。

 レッティ王妃は、この服装で水の中に入ってもいいかしら?と問うてきた。彼女はなかなかに活発な女性のようだ。「泳ぐのは無理そうですね」「そうよね、残念だわ」そんな会話が聞こえる。「ワンピースにズボンならどうですか?」「浅瀬だからいけるかしら」なかなかに積極的な意見を交わしている。この後、皆で入水することになるのだが、なかなかに楽しい時間になり、一気に距離が縮まった気がする。

 レッティ王妃は、活力にあふれた元気いっぱいの女の子だったようで、兄たちに負けないくらい外で遊ぶ子供時代を過ごしたそうだ。王妃教育が始まると、お淑やかに慎ましやかにを求められるので、外に出ることがなくなってしまったそうだ。こうして対話をしていくことで、本来のレッティ王妃を知ることができる。

 侍女たちは、もっとお話を聴いて本当の姿を支えていくことができたら良かったのですね、これから私たちは変わっていきます。レッティ王妃様、どうかよろしくお願いいたします。と頭を下げた。レッティ王妃が、私も周囲に助けを求めるということをしなかった。やって当たり前、できて当たり前と思っていた。ここでエルとマチルダの関係を見て羨ましかった。私も変わっていこうと思いますから、お互いがよろしくよね。と素敵な笑顔で侍女たちを見ていた。

 日陰でランチをした後にボートに乗る。ここでもレッティ王妃がなかなかの腕前でボートを漕いでいた。アフタヌーンティーでは、デーメーテールで作られたチーズを使ったチーズケーキにスコーンにつけるハチミツやクロテッドクリームにジャムとデーメーテールの特産品が並び、皆に大好評だった。

 湖から迎賓館に帰り、いつものように寝る前にレッティ王妃にマッサージを行う。今日は少し濃い目にした薬草茶を3回飲んでもらった。疲れもあってかマッサージ開始後直ぐに眠りに入ったレッティ王妃を確認し、明日の予定をマチルダと話し合った。


 翌日、温泉施設では始めにクレイを使ったマッサージを行った。最初に私とマチルダが、レッティ王妃とリネアにマッサージを行う。その後にそれぞれが私たちの指導を受けながらお互いをマッサージしていく。レッティ王妃もカロにしてあげたいからと一緒にマッサージを習っていた。

 侍女たちとの会話が、和やかになっていた。お互いが対話を楽しんでいこうという雰囲気があった。昼食の後に数種類の温泉をそれぞれの楽しんだ。クレイのマッサージはとても気持ちよかったようで、持って帰りたいと希望がでたほどだった。

 薬草茶は、本来の濃度で飲用できたのでオーレンスト国に帰ってからも継続してもらうことと、体調を知らせてもらうことを約束した。今日の夜はマッサージはなしだが、心地よい疲れがあるから直ぐに眠れそうと表情が明るかった。


 3日目は、午前中に二国間交流事業の調印式が行われ、私もレッティ王妃も参列した。調印式は滞りなく終了し、豪華な昼食会が催された。

 カール国王から「学ぶことの多い視察ができて感謝します。これから鉄道が無事に開通したら、我が国に是非いらっしゃって下さい。穀倉地帯は勿論ですが、鉱山は一見の価値があると思います。」と謝辞を述べられた。ケレが「これから友好国として、新しい絆を作り上げましょう。こちらこそ、たくさんの助言をありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。」と感謝の言葉で締めくくった。

 午後からは、明日の出発準備があるので茶話会は夕刻前に行うことにした。薬草茶は、オーレンスト国の侍女が準備できるか確認した。入れ方を間違えると効果が異なることがあり、苦みや渋みが強くなることもあるので丁寧に入れてもらうことを心掛けてもらう。マッサージは全ての侍女がマチルダのお墨付きをもらえた。私から、レッティが好んだオイルを9種類渡した。オーレンスト国でも準備できると思うので、これから好みのものを増やしていくといいと伝えた。

 レッティ王妃と侍女たちは相談して、お互いに相談できる環境を作ることを目標にしたようだ。

 そして、翌日の朝の早い時間にオーレンスト国に向かって馬車が出発した。

 

 マチルダから相談を受けていたのが、泉で着用できる服がどうにかならないか?ということと、クレイのマッサージで着用する衣服は洗いやすい生地にしたいということだった。確かに水に濡れたり泥で汚れたりするので、布地は考えていこうと思っていた。

 以前、ビサウ国の兵士達が身に着けていた素材をもう一度見てみたい、あの素材は何かの魔物の皮を使っていたと思う。薄く皮膚に密着するようにみえて、それでいて軽くナイフを当てたくらいでは裂けることがなく、雨水を弾いていた。長兄に報告した時に調べてみようと言われて、その後の結果は知らされることがなかった。長兄に聞いてみれば何か分かるかもしれない。

 私は躊躇してしまう。長兄と私の関係は常に上司と部下だった。報告と連絡を行うが相談をすることはなかった。長兄は、報告や連絡が集まると情報から戦略や方向性を決定し指示を出す。その指示に従うという構図だったので、報告か連絡しかしてこなかった。

 今、優先しないといけないことは、あの素材のことである。私は長兄に手紙を送ることにした。慣れない手紙は、用件だけ伝える簡素なものになってしまった。

 

 期待していなかったが、長兄からの返事は直ぐに届いた。私を心配しているという言葉の後に、『エルが知りたいという、ビサウ国の兵士が身に着けている生地は魔物ガネーシャの皮で、薄くて耐久性があり撥水性のある素材だが、ビサウ国でしか生産されていない。魔物ガネーシャがビサウ国とバイア国の一部にしかいないためだ。生憎、アウグスリンデ国はビサウ国と国家間関係が築かれていないため、生地の入手はできなかった。』と書いてあった。


 ビサウ国には、ナターシャがいる。随分連絡をしていないが覚えているだろうか。ナターシャは子爵家の令嬢だったが、家が貧しかったためビサウ国騎士団の雑用係をしていた。働き者で素直で愛嬌のある彼女は、騎士団の人たちから重用されていた。私は、騎士団の雑用係で潜入していたのだが、不愛想にしていた私に気軽に声をかけてくれて何かと気遣ってくれた。弟と同じ年のあなたを見ていると心配になっちゃうのよ。と言っていた。そんな彼女は、騎士団に見学にくるご令嬢たちから意地悪を受けていた。ある日は、帰宅途中に暴漢に襲われるというのもあった。たまたま帰りが一緒だったため、彼女を助けたことで感謝され騎士団員に勧誘されかけたので辞することにしたが、暫くは彼女と手紙で近況を知らせあったりした。

 私は、ナターシャに手紙を書いた。変わりないか?困っていないか?連絡をしなくなってすまなかったこと。そしてビサウ国の特殊な生地について知りたいと思っていることを丁寧に書いた。返事は来ない可能性が高い。そもそも騎士団で働いているかもわからない。それでもナターシャが元気でいることがわかれば、それだけでも十分な気がした。



 



 

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