第一章 国王到着と予算について
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
前半は恋愛観はほとんどありません。後半からです。
夕方、国王ケレが駅舎に到着した。但しお忍びとなっているらしく付き添う人数は最小限にしているらしい。仰々しくしないで欲しいと連絡を受けていたので、公爵家のお迎えと同じように出迎えた。
迎賓館に到着後、直ぐに晩餐会が催された。私は王妃として参加するが、ドレスは着用せず男性のドレスコードに従った装いにした。晩餐会では、お酒も準備されており、子供以外はそれぞれに好みのお酒を飲んでいた。そのせいか、皆が饒舌に語り合っていた。
アルドアルの街について、景観が素晴らしいだけでなく、それを生かした街づくりに取り組んでいるのがわかる。医療の面では、他の街から学びに来たほうがいいだろう。この土地ならでは、というのもあるが活用できるものもたくさんあると感じる。農場は充実していて、今後の生産性に期待できる、何より人々の笑顔、気遣い、思いやりが素晴らしい等々、活発な意見と賛辞の言葉が並んだ。
子供たちがそれぞれの部屋に送られていったので、大人だけの会談が始まった。
クライスト公爵から、「デーメーテール(アルドアルの農業研究所)を見学させてもらった。農場の環境も耕作地の土地事情も非常に整っており、今後は更に活性化していくだろうと思う。働いている人々も主体性、行動力、学習意欲に溢れていて、気持ちの良い時間を過ごさせてもらった。一つ質問なんだが、あれだけの施設設備の予算はどこから出た?この街に来て、建物から全ての費用は、相当な額になると思う。国費から出ている訳ではないな?」
ツェラー公爵が、「私も同じ意見だ。二つの病院は、施設も器材も人員も非常に整っていた。羨ましいほどだ。自然の温泉熱を使った温度管理にも驚いた。あれ程の技術と材料の費用をどこから捻出したのかと思う。」
ヴィルド公爵が、「私もお二人とも同意見です。この建物もそうですが、自然、資源、人、どれをとっても満足のいく素晴らしいものです。湖の件も昨日の提案が今日には叶う、いや、それが簡単な内容じゃないのに。予算については、私も聞いておきたいです。」
この席には、国王と三公爵と私達四人が話をしている。「費用について、私からご説明いたします。」と申し出た。「はじめに、今時点の会計報告をいたします。会計係をお願いしているアルドアル役所会計課のレイリンです。」
レイリンが一人一人に資料を配り、会計報告をはじめた。支出金額の多さに、皆が驚きを隠せないでいた。国費からこの金額を捻出することが非常に難しいと誰もが分かる金額が書かれていたからだ。
一通りの報告が済んだので、おそらく皆が聞きたいであろう収入金額について、私から話した。
国庫の予算からは、支出金額の半分が出ています。残りの半分について、皆さんが憂慮されていることは分かっています。そして、その残りの半分の収入金額が記載されていますが、摘要欄に自費と記載されています。私の私財を投じているからです。
皆が驚いて私を見た。ケレも信じられないと言う顔になっていた。更に続けた。私は、アウグスリンデ国では、公爵令息でした。その殆どの期間を、魔物討伐もしくは戦地にいました。毎月充がわれる手当てを使う機会がなく貯金の金額が増えていきました。それに加えて、魔物討伐で得た魔石の配当金も貯金に振り込まれます。使い道のなかったお金を、今回の開拓費用に使いました。
ケレが、「それはおかしいだろう。何故王妃が負担せねばならない?なぜ、勝手なことをした?確かに国にとっては痛い支出だが、この土地にはその金額を返済できる力があるのではなかったのか?」明らかに怒っている。三公爵も国王に賛同している。
「勝手をして申し訳なかったと思います。でも、何倍にもなって返ってくると信じてやっています。アルドアルが1つのモデル地域になって、これから他の地域で開拓が進んでくれたなら、王妃として国に貢献できたんじゃないかと思えると思います。」伝えたいことが伝わったか、分からない皆の反応だった。
ケレが、三公爵家は他に意見がないかと聞いた。クライスト公爵が、「後は王妃と国王で話し合われよ」と発言したので、皆が席を後にした。
ケレを貴賓室に案内した。次回オーレンスト国の国王夫妻に宿泊してもらう予定の部屋だ。私は直ぐにケレに謝罪した。内緒にしたつもりはなかったが、報告しなかったのも事実なので隠していたと言われても反論できない。私の落ち度だ。
ケレは、怒っているわけではない、不甲斐ないと思っただけだ。あれだけ手紙で聞いていたのに、今思えば収支が合わないと直ぐに分かることだった。こちらが申し訳なかった。実は、話していなかったのはこちらも同じで、今回、国庫から捻出されたお金はアウグスリンデ国からの持参金と前国王からの多額の祝い金、ほとんどがアウグスリンデ国から出ているということになる。と両手で顔を覆った。
「それなら、スワツール国に大きな負担をかけてはいないんですね。」と私が声をかけると、「本来なら、スワツール国のことなんだから、スワツール国で捻出せねばならないことだ」と言われた。「アウグスリンデ前国王は、母と祖母への謝罪のつもりなんでしょう。母も祖母も亡くなってしまったから、私へ何かすることで罪滅ぼしをしているんだと思います。それで救われるなら、そうしてあげたいと思います。」と答えた。「それでいいのか?」とケレがいうので、「ケレの承諾を得たということで、今後も心置きなく開拓に挑戦していきます。」と宣誓すれば、「これ以上、まだ何かやるのか?」とちょっと呆れた様な顔をして、笑った。
翌日は、クライスト公爵一家から病院見学の要望があった。自身も治療経験があり、領地は他の街より医学が進んでいると思う。しかし、まだまだ学ぶことがある。領地では行っていない療法やリハビリを見せてもらおうと話された。
ヴィルド公爵一家は、デーメーテール(アルドアルの農業研究所)を案内してほしいと希望された。出来るだけ子供達を自然に触れさせたい、研究員の人から、領地に対するアドバイスがもらえるかもしれないとクライスト公爵から助言もあったからと依頼された。
ツェラー公爵は鴻臚館の職人と相談会を約束している。それから、昨日作っていた丸太の運搬車とボートについて見学と職人に会わせてもらいたいと依頼された。
昨日と同じくデーメーテール(アルドアルの農業研究所)にはライが,病院にはファビが、鴻臚館にはディルが付き添っていく。
私はケレと薬草の森に行くことにした。あの森は守らないといけない気がしたからだ。ファビが、環境省に自然保護地域で規制地域に指定してもらうように依頼していると聞いてはいるが、時間がかかるかもしれない。ケレの意見も聞いてみたいと思った。




