第一章 オーレンスト国の外交官
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
前半は恋愛観はほとんどありません。後半からです。
毎日が目まぐるしく過ぎていった。そんな中でも2、3日置きにケレに手紙を送ることは続けていた。報告書のような手紙だが、少しずつ自分の考えや思い、感じたことを書くことが増えていった。毎回返事も来ていて指導や助言の他に、必ず身体は大丈夫か?困りごとはないか?と私を案じる言葉が書いてあった。手紙を受け取ると嬉しいと感じるし、気にかけてくれているんだと思うと心がふんわりと明るくなる気持ちが心地よいなと感じるようになっていた。
いよいよ明日、オーレンスト国の外交官を迎えることになった。ディルは、オーレンスト国側の一番近い街リブランまで迎えに行っていた。関連各所に明日以降のスオーレンスト国外交官のケジュールを書面で配布し最終チェックも終わった。夕方、ディルがオーレンスト国外交官とジスルリッタワーソル迎賓館に到着した。4名の外交官は、長旅のせいか非常に疲れているように見受けられた。簡単に挨拶を済ませ「お疲れでしょうからしばらく休憩して下さい。」と各々の部屋に案内した。外交官が宿泊する部屋からは、迎賓館が湖面に映し出されており、クラエイヤ火山の山並みと麓に広がる草原が見渡せる見晴らしの良い部屋で、各部屋に景色を見ながら入れる硫黄泉と部屋の中に単純泉の浴室を作た。寝室とは別に簡易キッチンに小規模な会議ができるようなパーラーと個人が使用できるような書斎を設けており、ゆったりとした空間と高級な内装を意識した構造になっていた。今回、4名の外交官は全て男性だったので男性のバトラーと女性のメイドを配置して滞在中のサポートを行ってもらった。
急遽だったが、ライのアカデミーの同級生にライの幼馴染の侯爵令嬢がいて彼女の伝手でメイドになってくれる女性を紹介してもらっていた。スワツール国の就労については、身分よりも実力を評価されるので、女性の就労率も高い。既婚者でも条件が合えば仕事をしている女性が多くいる。この度は侯爵令嬢の友人が6名ほど協力してくれることになった。どの女性もアカデミー在籍中にオーレンスト語を専攻していて6割程度話すことができた。伯爵家以上の令嬢なので礼儀に至っては問題なしの作法ができる優秀な人たちだった。
バトラーは滞在中の外交官のお世話全般にあたるので、ファビとディルが力を入れていたことの一つでもあった。アカデミーの先輩、後輩に募集をかけたところ予想以上の希望者がいて驚いていた。短期間であることと人脈が手に入る可能性があるというのが魅力的のようだった。中には今の仕事を辞めて転職させてほしいという人もいたようだった。期待する以上に優秀な人が揃い安心して受け入れができることに私たちは安堵した。
到着日はゆっくりとくつろいでもらった。翌日にきちんとした顔合わせを行った際に「五感を満たす快適な環境作りと身体を労わるホスピタリティ、温泉も食事も気遣いをさせない職員の方々の対応があり疲れが」いやされました。」と賞賛の言葉をもらえた。リラックスした雰囲気の中で打ち合わせができ、お互いが打ち解けるのも早かったのではないかと思う。施設見学は関心度の高い場所から案内した。鉄道業の導入は国側から後押しも受けているということで、直ぐ直ぐにでも事業提携していきたいと申し出があった。王都の運輸局から専門官と技術者が来てくれていたので駅舎に案内した。ディルと私は案内係として外交官に付き添い、ファビは主に迎賓館の運営管理を任せた。ライはフットワークと人脈を活かしてもらうので連絡係全般を担ったもらった。
鉄道の導入には、金銭面はかなりの額になるが、大量輸送や高速移動、地域活性化と経済発展や利便性の向上などメリットが大きいので、今直ぐにでもリブラン街まで走らせたいと熱く語る4人の外交官に、駅舎やレール、車両を見てもらい乗車もしてもらった。見学や体験に加えて細かな説明も行われた。移動手段が馬車や馬しかないオーレンスト国には絶対に必要なんですよと話す外交官から、帰国後の努力や頑張りへの熱い意気込みを感じた。説明の折には、伝わりにくい専門的な内容を通訳した。そのためか誰彼となく私のそばにオーレンスト国の外交官がいるようになり話しかけられる機会も多かった。
夜になるとディル、ファビ、ライと私の4人は振り返り会を行った。軽食を食べながら私以外は少しお酒を飲んだりもしていた。私はお酒を飲んだことがなかったので、今回の視察が終わったら練習しとくようにと3人から言われた。「エルが積極的に通訳の仕事をしてくれて、とても助かっているが…あんなに四六時中引っ付いていないといけないのかと思うくらいオーレンスト国の外交官はエルの近く、いや隣にいるよな。」とディルがいうので、ほかの二人が「そんなに一緒にいるのか?大丈夫なのか?」と聞いてきた。「通訳してほしいことが多いみたいだ。自国の言葉で話せるのも気が楽なのだろう。興味や関心のあることが人それぞれだから、代わるがわるに聞きに来るんじゃないか」と返事をした。ファビとライはディルにエルを男性と認識しているのかと聞いていた。ディルは「男性と認識しているだろうが、何というか距離が近すぎるというか、四六時中べったりくっついているように見える。専門官からも懐かれているんですねと苦笑いされながら言われたんだぞ。」と渋い顔をして二人に話す。ファビが「エルは、自然体で距離感が絶妙なんだよな、相手の話もしっかり聴くし安心感とか心地よさを感じるんだろう。が、適切な距離はとらないと駄目だろう。」と言われた。ディルが「エルに適切な距離が分かるのか?」と言われて「私たちの距離は適切なのか?」と聞くと、呆れられたように「追々、勉強していこう。距離も酒もな」と言われた。「学ぶのは好きだ」と答えておいた。3人は顔を見合わせて頷いていた。
翌日は病院見学へ案内した。リハビリ型スラジェ病院では、4年前に足の骨折をして手術歴のある外交官1名が温泉利用のリハビリを受けて動きの悪かった足首の可動域が若干ではあるが広がりをみせたので、本人も他の外交官も温泉リハビリの効果に驚いていた。患者さんへ直接話しかけたり医師からも説明を受けたりした。此処でも私は通訳の仕事に忙しく動き回った。
ヴィクトール医師は、オーレンスト国の外交官とジギワルド医師、タバート医師を引き合わせて、二人の医師がスラジェ病院で働きたいという意志を尊重してもらえないかと交渉にあたった。外交官は困惑していたが、効果を実感したこともあってか寄り添った姿勢を見せながら「お気持ちは分かる気がしますが、私たちからは何とも返事ができません。とにか、一旦お二人はオーレンスト国に帰り明確な意思表示を就業先と国へ示し、承諾を得てから出直しをして下さい。」とお願いされていた。二人の医師は外交官が帰国する際に連れ立って帰ることになった。
その翌日と翌々日で、役所や役所周辺の市街地になってきている場所やこれから開拓していく農業施設などを紹介した。1日休みを挟んで今後のスケジュールについて協議を行った。外交官がオーレンスト国に向けて出発するのが3日後、それから帰国の報告や視察の結果報告を行い関係各所との共有と今後の方針や方向性の確認と目標設定など国側と共通の理解や見解を持たないといけないが、百聞は一見に如かず。申し訳ないと思うが、国王夫妻と外務大臣夫妻をお招きいただけないかと懇願された。右から左へ快諾できる内容ではないので、オーレンスト国側へ帰国後より、結果報告後の進捗状況と状況報告は必須であり、こちらは報告を聞きながら準備を進めていくか判断しスワツール国王の判断を仰ぐことにした。オーレンスト国の外交官は「有意義な視察をさせていただいたことに深謝いたします。非常に充実した日々を過ごさせていただきました。」と深々と頭を下げた後に帰国の途に就いた。




