第一章 王宮農政局研究室職員
あらすじ
突然、王命で隣国へ嫁ぐことになった第3王女が、自身の能力を活かしながら活動する中で、周囲の人々と心を交わし愛と幸せを知っていくお話
前半は恋愛観はほとんどありません。後半からです。
嫌そうにしながら渋々とライが連絡をしてくれて、王宮農政局から職員が来てくれた。役所の玄関で迎い入れる準備をしていると「新しい土を見に来たぞ」と麦わら帽子を被ってつなぎの服を着た20代前半見える男性が至近距離に近づいてきた。それを後ろから引っ張って止めながら「先ずは挨拶からでしょう、所属と名前くらい言って下さい。」と作業着を着た20歳前後に見える女性が大声で男性を注意している。その後ろにも数人の男女が連なっている。「離せ、新しい土が先だぁ」と言い返す男性に、「見知らぬ人に案内はできない」と私が拒否の言葉を発すると後ろの女性が前の男性を押しのけて「申し訳ございません、私達は農政局研究室から参りました。こちらにライ様からの依頼文と研究室長からの手紙を持参しております。」と申し訳なさそうな表情で、ハッキリとした口調で述べた。預かった文面を確認し研究室職員であることが分かったので、「このまま此処で説明しても落ち着かないようですし、現地にご案内します。」と移動用の馬車や馬を準備した。ライにも連絡してくれるように役所の職員に伝言を頼んだ。私が先頭の馬に騎乗し現地までの案内をした。駅舎から南西に30分ほど馬を走らせたところに、見渡す限り広がる草原と地力が高そうに見える土地が、陽の光を浴びて輝いて見えた。
農政局研究室職員が次々と到着して私の周囲に集まってきた。この壮大な景色を見て感嘆の声を上げ始めた。謝罪をしてくれた女性が「こんな理想的なところが、この国にあったなんて…感孚風動です。」と言って拳を空に向かって突き上げた。そして、「ありがとうございます。感恩戴徳でございます。」と私に対して深々と頭を下げたのだった。麦わら帽子の男性は、少し離れた場所にある黒っぽくてフカフカした感じに見える土のところにいて、両手を土に当てた姿勢で何かを語りかけているように見えた。このままでは説明もできなさそうで収集がつかない予感がしたが、謝罪の女性が「自己紹介がまだでしたね、皆を集合させて挨拶させていただきます。」と言ってくれた。近くに湧水が豊富に溢れ出るところがあり、ログハウスを建てていたのでそこに集まってもらった。ライも連絡を受けて駆け付けてきてくれた。
謝罪の女性から自己紹介が始まった。「アナベルと言います。年齢は21歳です。畜産関係で主に酪農の研究をしています。上級研究員です。今も土を触って此処に参加していない男ですが、アドルフと言います。年齢は25歳です。作物を育てる研究をしています。主席研究員です。」それからは各自で自己紹介をしてくれた。アナベルの下に研究員が2名いて男性がアンソニーで女性がマイアで二人は20歳、アドルフの下に研究員が3名いて男性がブルーノ23歳女性がレイラ21歳とクララ19歳、3人は「アドルフ主席は少し特殊な人ですが研究熱心で研究に関しては信頼できる人です。」と代わるがわるに発言を行った。ライが、「アドルフのことは…僕は分かっているから何時ものことだなとか、迷惑かけるよなぁとか思うけど、彼は王宮の研究室にいるより、此処にいる方が彼らしく過ごせると思うんだけどね。だから依頼の手紙を送ったんだ。」「これからの環境を整えていかないといけないんだけと、今の状態の彼には無理だと思うんだよね、誰が指揮をとってくれるのかな?お目付け役のレイフがいないようだけど」と問いかけるとアナベルが「レイフさんは2日後に到着予定です。局長から、それまでは私に一任すると言われています。やれることをやらせていただきます。」と少し強張った表情で言った。
当面は衣食住をどうするのか?他に研究室の確保と必要物品は何か?ということだろうかとライがメモに書き出していた。多分、譲れないことが多いだろうからアドルフを何とかするしかないかと、ライは私に「ここにいる人達のことは頼むね、僕はアドルフのことをさせてもらう。後から照会しながら相談でいい?」というので了承したと返事をした。
アナベルさんは畜産関係の研究室をしているということだったので、地図を渡して何処に何を作るのか聞きながら書き込みをしていった。アナベルとアンソニー、マイアのチームは、全員が乗馬ができるので馬が借りれるなら駅舎から通うと言う提案を承諾してくれた。直ぐ直ぐに研究室や宿舎ができる訳でもないし、放牧地の範囲や水路、柵や牛舎などの施設整備に動物の導入はどうするのか等決めていかないといけないことも多い。王都でも研究室だけに篭っていた訳ではないだろうが、施設整備などが出来上がった状態から携わってきたなら全てが初めての経験だろうから、専門家の意見を聞きながら進めていく方が安全なんじゃないかと提案した。近隣の村から派遣にきてくれるか問い合わせでみることにした。大きな牧場を経営していたが今は隠居しているから行ってみようかと言ってくれた人がいた。それば、私が王宮でお世話になったナースのナタリーの実家であり、王都の隣街で牧場経営を行っており、ナタリーにとっては実兄にあたる長男が跡を継いで父親が補佐をしているから、祖父をお手伝いに寄越してくれるということだった。牧場を作る可能性があるかも知れなかったので、ナタリーに相談したら「誰よりも頼りになる爺様を送り込みましょう」と言ってくれた。
ナタリーの祖父ミッケルさんは、健康的に日に焼けた顔に満面の笑みで「素晴らしい場所に招待してくれて、ありがとう。ここは、開拓の開拓のし甲斐がある場所だね。」と言ってくれた。ナタリーも一緒に来てくれて「ドクターバーナードが心配していてね、様子を見てきてほしいんだって。元気そうで良かった。痛むところはない?」と気遣ってくれた。すごく調子がいいし、傷も痛まないというと「安心したわ」といつも癒されていた穏やかな笑顔を向けてくれた。そして、ナタリーとミッケルさんは、研究員の方々は農場の運営はできないだろうからと、ミッケルさんが自分の街から働いてくれる人を連れてきて、農場を営んでいこう、将来的には地産地消と国内外へ提供できるところまでにしていきたいと考えていると提案してくれた。手腕についてはナタリーの折り紙付きなので、これからオーレンスト国の外交官を迎える準備に追われる私は、申し訳ないことなのだが、ミッケルさんに全権を委ねた。アナベル達研究員は、ご迷惑をお掛けしないようにしますから、どうか参加させてほしいとミッケルさんにお願いし快諾されていた。
ライにミッケルさんを紹介すると、こちらの農地もお願いできないかと懇願された。ミッケルさんは牧畜だけでなく耕作も行っていくつもりだから安心して任せてほしいと快諾してくれた。ミッケルさんさが住んでいるマガダンは農業で栄えた街で、住民のほとんどが農業に携わっており人手は心配しなくてもいいと言ってくれた。
ナタリーから、折角来たんだから病院見学をして行きたいと希望があったので、2つの病院を案内した。やはり、温泉を利用したリハビリが行えるスラジェ病院に興味津々で職員にあれこれと質問を繰り返していた。病気や傷の状態に合わせて泉質を変えたり、水中リハビリができる環境を甚く気に入っていた。滞在中は、ジスルリッタワーソル迎賓館に宿泊してもらった。ディル、ファビ、ライと私もオーレンスト国の外交官を迎える準備のため迎賓館に詰めていた。ナタリーは迎賓館の建物の素晴らしさや料理に温泉とどれも最高のおもてなしだわね。全くというほどに王都に帰る気が起きないわね。といいながら渋々と王都への帰路に着いたのだった。




