71 勇者討伐【依頼完了】
ユリたちが案内された先は、ついさっき、騒動の前に晩餐を供された部屋だった。王城であれだけの騒動があったというのに、そんなこととは縁が無いように奇麗に片付けられた部屋。考えてみれば、ユリが世界の終りのように感じた騒動も、あの謁見室の中だけのことで、そこは防御結界で囲われていた。多少は物理的な振動は漏れただろうし、王城を完全に包み込んだ浄化魔法の作用とかもあるので、外にいた人の中には気付く人間がいて然るべきではあったが、実際には殆ど気付かれていなかった。
部屋に入る前に、ユリは、ゼノビアから預かった魔殻をどうしようかと迷ったが、自分がアイテムボックスに入れておくのが一番安全と考えて、そのまま黙って部屋に持ち込むことにした。
全員が罪人とされたブレイヴ・ソードの生き残り三人は、衛兵たちに別の場所に連れて行かれたが、判決は情状酌量の余地を加味されていたし、いきなり殺されることはあるまいと考え、特に心配はしていない。
ユリたちが部屋に入ると、中央に置かれた長テーブルの奥、所謂お誕生日席で、第三王女のエレノーラが人形の様に座って待っていた。さすがお姫様。ハンスとは違う。もちろんテーブルにも変な仕掛けは無い。
そして、エレノーラの向かって右側に、ユリはどこで会ったか思い出せないが、なんとなく見覚えのある男が座っている。もしも入室してきた者が剣を投げつけてきたときには、身を挺してエレノーラを守れる席だ。その男は、エレノーラと話をしていたが、ユリたちが入室すると、エレノーラとの会話を打ち切ってユリたちに顔を向けた。
「やぁ、お久しぶり」
男が手を上げて挨拶するのに合わせ、ユリたちは全員が片膝ついて、エレノーラに向かって首を垂れると、エレノーラが声を掛けた。
「みなさん、ご苦労さまでした。
さ、疲れているでしょうから椅子に座ってください」
姫殿下からの労いの言葉に従い、全員が席に着くと、ウルフが改めて会釈して挨拶する。
「姫殿下がご無事な様子でなによりです。
グランバルト伯爵とは闘技場でお会いして以来ですね」
ウルフが説明調の言い方をしたのは、他の仲間(とくにユリ)に教えるためだ。グランバルト伯爵は、闘技場での騒動で最後に顔を見せた男だった。
「万が一を考えて、君たちに来てもらったのは正解だったね。
本当によくやってくれた」
その言葉に、ユリたちは引っ掛かりを覚え、ウルフが問い質す。
「『万が一』とは、あの事態が起きることの神託でもあったのですか?
今回、危うく大勢が死ぬところでした。しかも信頼できるはずの近衛兵の裏切りまであって。神託の内容を予め伝えられていれば、姫殿下も怖い思いをしなくて済んだのではありませんか?」
この魔法万能の世界では、神の言葉を伝える預言者と呼ばれる者が少なからず存在する。王家なら当然、お抱えの預言者がいるはずなので、ウルフは『神託』の言葉を使った。
「いや、『神託』でも占い師の『予言』でもなくて、『予測』とか『危惧』といったところだね。
じつは少しばかり前に、私が治めるエルトア領にある宝物庫から二つの魔殻が盗まれてね。それにブレイヴ・ソードが関わっていた疑いがあったのさ。しかし、君たちに押収してもらった金庫には入っていなかった。だから万が一に備えたのさ。
まさか、そのひとつ『ジライナス・エクスカヴェイター』が室内で使われるとは思わなかったがね。あれは国を亡ぼす兵器であって、ああいった場所で使う代物じゃないからね」
(たしかに、あれは、室内で核爆弾使ったようなものだからねー)
そんな感想を抱き、ユリが補足する。
「その後の言動から、使い魔を召喚する道具と思い込んでた節がありますから、どういう作用があるのか分かってなかったんでしょうね」
「そうかもしれんな。
ただ、もうひとつが未知の魔殻だったのには驚いたね。
あともうひとつ、盗まれた魔殻がどこかにあるはずなんだが、さてどこに行ってしまったのやら」
かなり態とらしい言い方なのは、この貴族の癖なのだろう。とくに隠す理由もないので、ユリがゼノビアから預かった魔殻をテーブルの上に取り出した。
「これを、さっき現場で拾いました」
「ほう」
伯爵は魔殻を無造作に手に取って確認する。あれだけの騒動があったというのに、怖がる様子もない。暫く魔殻を眺めて、納得した様子を見せる。
「確かに、これで間違いない。
厳重に保管するように」
そう言って、従者を呼んで魔殻を渡すと、改めてユリに語り掛ける。
「回収してくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。
ところで今の魔殻って、中身は何なんですか?」
「世の中には知らない方がいいこともあるのだよ」
「気になって夜も眠れなくなります」
「そうなのか? なら話すが、本当にいいんだな?
実はあれの中身はグロスケファードの大群でね、それはそれは巨大なゴxxxで、それ自体も恐ろしいのだが、こいつらが大量の子供を引き連れていてね。それが一斉に空中を飛び回って相手の口に入り込んで……」
「やっぱり聞かなくていいです」
顔を真っ青にして、ユリが会話を遮った。きっと今の話は嘘なのだろうとユリは思ったが、それでもユリのトラウマを想起させるような話の続きを聞くことには堪えられなかった。真実を訊こうとすれば、相手は何度でも今の話をしてくるに違いなかった。
(Gが口に入ったエピソードはラッシュ・フォースの四人しか知らないはずで、例え内緒話でも他の人間に語るタイミングは無かったはずなのに、なんでこの男が知ってるのよ。四人が漏らすはずないから……、覗き? それとも盗聴?
この男、なんか胡散臭いのよね~)
「そうですか、ではこの話はここまでということで。
それにしても、あの魔殻は一体どこからでてきたんですかねぇ」
「さあ? ハンスさんが他の魔殻と一緒に口の中にでも隠してたんじゃないですか?」
現在ゼノビアの両手はあるし、義手はユリが回収して、最初からなかったことにしてあるので、ユリが白化っくれればゼノビアが罪に問われることは無いはずだと考えていた。ただ、その思いはエレノーラにはバレバレだったようだ。
「ブレイヴ・ソードの死んだ三人以外の者の罪を気にしているのでしたら、先ほどの申し渡しから変えることはないので心配いりませんよ。わたくしを襲って王城を破壊した罪は、全て死んだ三人に負ってもらいます。実際、あの三人が仕出かしたことですからね」
「それは、ありがとうございます」
「まったく、あの部屋の魔法を封印する仕掛けには莫大な費用が掛かってましたのに、それをあんな滅茶苦茶に破壊してしまうなんて、許せません。
そうですわよね? ユ、リ、さん?」
「そ……、そうですね」
(『死んだ三人以外の者の罪』って私も入ってたんかい!)
「魔法の発動を封印する高価な魔道具が沢山使われていたので、回収できるといいんですけどねぇ。
そう思いませんか? ユ、リ、さん?」
「そ、その魔道具なら私が回収してあります。後で、指示された場所に出しますね」
「まぁ、それは助かります。
ところで、声が裏返ってますけど、大丈夫ですか?」
「はっ、えっ、えぇ、はい、だ、大丈夫です」
そこでユリは深呼吸すると、改めて心を落ち着けて、気になっていたことを質問する。なかなか図太い、というか、図々しいやつだ。
「あ、あのっ。ゼノビアさんたちって、具体的にはどのような処分になるんでしょうか?」
「それは私がお答えします」
アトラーパ(偽名)が回答役を申し出た。
「トゥーラ、ゼノビア、リザベルの三名は、ハンスたちの暴走を命がけで止めようとし、エレノーラ殿下を守った功績により、エレノーラ殿下より罪一等を減じよとの命が下されました」
(う~~ん、ハンスがゼノビアさんを襲ったのを二人の取っ組み合いと言えなくはないけれど、無理やりこじつけたって感じね。もともとハンスたちの罪が重すぎて、あまり軽い罪に出来なかったから、理由を付けて減刑したってところかな)
「ゼノビアとリザベルには、王室直属の魔道研究所で二年間の衣食住付き無償労働をしてもらいます」
「それは安心しました。っていうか、思ってたよりいい待遇ですね」
「トゥーラは、私の下で三年間の衣食住付き無償労働となります。彼にはは、私がやっていたような仕事をしてもらうことになりますね」
「あの~、それはちょっと命がけの仕事のような気がしなくもないんですが……」
「なに、彼は元々、ブルックナー伯爵がハンスを監視するようにと送り込んでいた人間ですからね。給料が出ない以外、これまでと、大差ないですよ」
「あぁ、そうですか……」
* * *
ユリがぐちゃぐちゃになった部屋の脇に回収した魔道具を積み上げると、ラッシュ・フォースの四人と一緒に真夜中の王城を出て宿に向かった。
ハンターギルドへの報告が必要だったので、ウルフがギルド長のデイドロールを叩き起こして報告しようと主張したが、すでにこんな時間だったので、あの受付嬢に恨まれるのが怖いからとユリが反対し、他の三人も反対したので報告は明日だ。
「こんな仕事受けるの、二度と御免だからね。ウルフ。
指名依頼だからって、一人で勝手に受けるようなことは二度としないで。
いいわね!」
宿に戻った後の一室に集まってのマリエラの第一声がそれだった。ユリも、それに続いて不満を言う。
「あ~~~っ。やっと終わった~~~!!
結局何ですか。今回の騒動は、豚野郎公爵と古くなった伯爵が原因ですか!」
「ピッグヤーロウ公爵とブルックナー伯爵な。
そういうお巫山戯は不敬行為と見なされるから他所ではやるなよ」
「うっ、すみません……」
ウルフに叱られて素直に謝るユリであった。
「まったく、王族が口を出すような貴族の問題なら、証拠なんかどうでもいいから、さっさと処罰すりゃよかったんだ。巻き込まれたこっちは大迷惑だ」
「いらん手間を掛けたせいで、何人も死にかけたしな。
連中は、闘技場と王城の被害しか気にしてないだろうことが気に入らん」
ウルフの悪態に珍しくジェイクが迎合したが、ユリの意見は違った。
「エレノーラさんは、死にかけた警備兵のことは気にしているように見えましたよ。査問会を開いたのは、盗まれた魔殻の行方が分かってなかったからでしょうね。
ただ、最初からそう言っててくれたら、見つけて奪い取るくらい出来たんですけどね。不祥事の隠蔽体質が一番の問題です」
「そうとも言える。だがな、ユリ。
王女殿下を『さん』付けで呼ぶな!」
またも怒られてしまったユリ。こちらの世界の王侯貴族に敬意を払うという行為に、未だに馴染めないでいるので、仕方のないことではあった。
(まったく、敬語とか敬称なんて、自動翻訳で勝手にやってくれればいいのに。いまいち使えないのよね)
本人に直そうという気が無いので、同じことが当分続きそうであった。
* * *
その後、王宮では、勇者の称号を爵位相当の正式なものにすることを閣議決定した。今後は、国王からの叙爵なく勇者を名乗った場合、爵位詐称で厳罰が下されることとなる。そして、その決定は国が定めた法として明文化し、そのことを全国のハンターギルドに通知した。
その後、この国のハンターギルドに、『勇者討伐』などという馬鹿々々しい依頼が出されることは二度となかった。
というわけで、ようやく第一部が完了しました。
次回の閑話を挟んで第二部開始です。
予告していましたように、第二部の更新予定は以下の通りです。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
・神様が私に押し付けたのは悪を生み出す力だった【改訂版】
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第二部:月、水曜更新
・科学者、異世界に行く
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