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51 勇者討伐【ブレイヴ・ソード編2】

 それは、ユリとラッシュ・フォースがシャイニング・スターズの盗賊集団を退治した後、しばしの休暇を取るはずだったのに王城に呼び出されて、なぜか第三王女と面会することになってしまった、その二日後の話。

 ユリとラッシュ・フォースのメンバーは、宿の一室に集まり、次のターゲットの仕事を開始するにあたっての打ち合わせを始めていた。

 ちなみに、王城に呼び出されたときに、ユリにとってかなりいろいろと気まずいことがあったが、ラッシュ・フォースの四人はスルーしてくれた。ユリはみんなが気を使ってくれたのだと考えて喜んでいたが、実際はラッシュ・フォースの四人が前々からそうじゃないかと思ってたことが発覚しただけで、今更問題にすることでもなかっただけであった。


 まず最初にリーダーのウルフが入手した情報を提供する。

「ハンターギルドから、ブレイヴ・ソードが昨日(きのう)、王都に戻ったという連絡が入った。連中の現在のメンバーは六人。ギルドには、リーダーのハンスから、二人分の欠員補充依頼が提出されたそうだ」

 その言葉に、ユリが問いかける。

「その募集されている補充人員は、どういう職種ですか?」

「後方支援の魔術師と荷運び要員なんだが、……」

 そこですかさず興奮したユリが前のめりになって話し出す。

「どっちでも出来ますけど、どっちがいいですかね?

 なんなら両方一人でこなせますって言って応募しましょうか?」

「どぅどぅ、落ち着いて、ユリ。そんなに興奮しないで。

 あんたが荷運びしちゃだめでしょ。

 魔術師で応募しなさい!」

 マリエラがそう言いながら、ユリの肩を抑えて席に着かせた。

「二人とも、まあ待て。

 補充人員については、既にハンターギルドと決めてある」

「な~んだ、だったら最初にそう言ってくださいよ、リーダー」

「人の話を最後まで聞かなかったのはおまえだ。まずは最後まで聞け」

「ふぁ~い」


(うっ、そんなに睨みつけなくったっていいじゃない!)


「荷運び要員には、ハンターギルドが適当に見繕って一人出すことになっている。そしてユリには、後方支援の魔術師として応募してもらう」

「その荷運び要員さんって、強い人なんですか?

 ダンジョン遠征中にブレイヴ・ソードにやられちゃったりしません?

 私、自分の身は自分で守れますけど、他の人まで守り切れませんよ?」

「荷運び要員の男は、遠征当日にバックレることになっているから問題ない。姿を消したことについて、後でハンターギルドが責任を問われるだろうことも想定済だ。そうやって、荷運び要員が急に足りなくなったときに、連中がどうでるかを確認する。もしかしたら、荷運びもユリに押し付けて来るかもしれんから、その覚悟はしておいてくれ」

「それで、応募したらどうするんですか?」

「ブレイヴ・ソードには、昨日、ハンターギルドから指名依頼が出された。

 依頼内容は、第二ダンジョンの中層にいるフレイムリザードの皮の採取。

 ただしそれは表向きの目的で、本当の目的は、コロシアムの第一ダンジョンで異常があったから、もうひとつの方、第二ダンジョンで問題がないかどうかの確認だ、……とギルド職員には説明されている。下っ端の職員が情報漏洩することを見越してるんだな」

「そういうセコ狡いことしてると、感づかれるんじゃないの?

 あっちは狡さにかけちゃ年季が入ってるんでしょう?」

 マリエラは、悪知恵に関してはブレイヴ・ソードが一枚上手であることを懸念していた。

「その可能性はある。

 ただ、レイジー・オウルとセーフ・ゾーンを庇護していたのがベルマン元子爵で、シャイニング・スターズとブレイヴ・ソードの庇護者がブルックナー元伯爵、そしてベルマン元子爵がブルックナー元伯爵の寄子だった。それを考えると、ブレイヴ・ソードも他の三パーティーと同列に考えたくもなるからな」

「つまり馬鹿ってこと?

 実績はどうなの?

 ハンターギルドなら実績は把握してるんでしょ?」

「それが、トップの成績ではないが、そこそこの結果は出しているらしい」

「実力のあるパーティーがぁ、周りから非難される行為を繰り返しているというのはぁ、とっても不思議ですねぇ」

 ミラも疑問の声を上げる。

「ああ、そうだ。だが、ブルックナー元伯爵の傘下にある以上、何かしら悪事を働いている可能性が高い。だが、欠員補充を繰り返している点だけは、正当なもので、ハンターギルドがろくな人員を斡旋していないだけ、という可能性もある。どのみち潜入調査するしかないってことだ。

 何か質問は?」

 そこでユリが、待ってましたと言わんばかりに質問する。

「はい、は~い。

 リーダー、火トカゲとフレイムリザードって何が違うんですか?」

 それは想定外の質問だったが、ウルフが丁寧に答える。

「何がって、全然違うぞ。

 火トカゲってのは、この前、宿で食ったやつだな。体長一メートルくらいの、火を吹くトカゲだ。おとなしくしているときの見た目は、普通のトカゲだ。

 それに対して、フレイムリザードは、体長が二メートルから四メートルくらいの、全身が(ほのお)に包まれた、二足歩行するトカゲだ。ひと目見ただけで魔物(モンスター)と分かる。こいつの皮が、耐火性が高いから、鎧の革素材として重用(ちょうよう)されてるな」

「耐火性が高い革ですか。『火鼠(ひねずみ)皮衣(かわごろも)』みたいなものなんですかね?」

「俺はその火鼠(ひねずみ)皮衣(かわごろも)ってのを知らんから何とも言えん」

「ええーっ、私の実家では有名な伝説のアイテムなんですよ。

 別名『アスベスト』っていって、耐火性の高い最高の素材なんですけど、そのベストなベストを着続けると、最後にはもの凄い胸の苦しみを味わって死んでしまうと言われてる、いわく付きのアイテムですよ」

 ユリは最近、元の世界の情報を隠すのが面倒になってきていて、「おかしな奴」という評価をより強固なものにしつつあった。また、日本人のユリは、アスベスト(asbest)と着衣のベスト(vest)でベストの綴りと発音が違うことも気にしていなかった。

「なんなんだよ、その呪物は……。フレイムリザードの皮を、そんな呪われたもんと一緒にするんじゃない!」

「そうですか? アスベストだって、最初は安全で有用な最高の素材だって言われてて、人類が六千年以上使い続けてから呪われた素材だってわかったんですから、フレイムリザードの皮だって同じかもしれませんよ。

 耐火性が高い理由は分かってますか?

 もしかしたら、火鼠(ひねずみ)皮衣(かわごろも)と同じ組成かもしれません」

「ちょっと待て、おまえの実家には、その火鼠の皮衣が実在するってのか?

 それ以前に、おまえの実家の歴史は、この国の歴史より長いのか?」

「あ、え~、火鼠(ひねずみ)は確認されてませんが、アスベストは実在しましたね。残念ながらお取り寄せできませんが」

「あぁ、わかった。

 その話はもういいから、潜入調査をしっかりやってくれ」

「ふっふっふ~、このユリさん、潜入調査はレッド・グレイヴに引き続き二度目で手慣れたもんですよ。

 任せてもらいましょう!」

 ユリのその能天気な声を聞いて、ラッシュ・フォースの四人は『絶対に予定通りにはいかない』と確信するのだった。


    *    *    *


 翌朝、ユリは一人でハンターギルドの受付窓口に顔を出した。

 受付には、十代後半の年若く、一見可愛らしい、奇麗な黒髪の女性が、作ったような『にこやかな表情』で待ち受けていた。


「あの、ブレイヴ・ソードの欠員補充に応募したユリですけど」

「ユリさんですね……、あぁ、やっとユリさんですね。

 あ・さ・か・ら、ずーっと、お待ちしておりました」

 ユリが、受付嬢に自分の名前を言うと、用件の話をすることもなく分かってくれたようだ。ただ、言い方にかなりトゲがあることが感じられる。


(態度の節々から『待ち草臥れた』雰囲気をびしびし漂わせているのが、ものすごく怖いんですけど……。

 ここってまだ、ギルドの受付を開始したばかりだよね?

 このお姉さん、なんで怒ってるの?)



 ラッシュ・フォースの四人は、宿でユリを送り出した後で、ユリからかなり離れて跡を付けて行き、ハンターギルドの少し手前で、様子を窺っていた。

 ギルドの入り口の周囲は、なぜか普段よりも込み合っている。

 すると、リーダーのウルフがいきなり声を上げた。

「しまった!」

「どうしたの? ウルフ」

「ハンターギルドが昨日のうちに人員募集の告知を出すから、今日は受付開始の一時間にユリを寄こすように言われてたんだった」

「ちょっと、もう、とっくに受付開始時間過ぎてんじゃないの。どうすんのよ!?」

「いや、まて、まったく駄目ってわけじゃないんだ。俺が後でデカトロールに嫌味を言われるだけだ……、すまん、ユリ」



 ユリが顔を出したというのに、受付嬢は、何か棚の下をごそごそと探っていて、受付の外には出てこない。

「あの、ブレイヴ・ソードのみなさんは?」

 レッド・グレイヴのときは受付の近くで(たむろ)していたので、ユリが今回もそうなのかと辺りを見回して、その姿を探しながらそう言うと、受付嬢は再び頭を上げて、図案化した地図が書かれた一枚の羊皮紙と、一枚の証書を渡してきた。

「この地図に書かれた、ここがブレイヴ・ソードの本拠地『(つるぎ)(やかた)』です」

 そう言って、地図の一点に✕印を付けると、証書を指さして言った。

「こちらのギルドの斡旋証書を持って行って、面接を受けてください」

「斡旋証書? ハロワの紹介状みたいなもんですか?」

「??……、ハロワー(Harrower)さんとは関係ありません。

 斡旋証書です。あと……」

 その瞬間、受付嬢のこめかみに致死性の井桁マークを見て取ったユリが、慌てて姿勢を正して返事をする。

「はい!」


(そんなに怒らなくったっていいじゃない。

 それに、どうせ聞き違えるなら、ウルティマのモンスターとか、スターウォーズのハロワー級駆逐艦に、ってそれは無理か……)


「ウルフさんには、ユリさんを受付開始の一時間前に寄こすように伝えたはずなんですが、聞いてなかったんでしょうか(怒)!?

 ブレイヴ・ソードは、実態はともかく人気の勇者パーティーなんです。今日は受付開始前から応募者が殺到していて、それを追い返すのに嘘をつき続けなければならなかった私の良心の苦しみがあなたにわかりますか?

 他人(ひと)事だと思ってませんよね?

 わ、か、り、ま、す、よ、ね!!」

「ひぇっ! ご、御免なさい!」


 受付嬢が、ユリの謝罪を聞くと、さっきの興奮がなかったかのように、にこやかに言う。

「では、頑張ってくださいね♡♡」

「うっ、えっ、あっ、はい。頑張ります」

「♡♡♡♡♡♡」

「あの、ひとつ質問があるんですが」

「はい、何でしょう」

「その受付窓口の下の棚に、巨大な岩石ハンマーを隠してたりしません?」

「……さぁ? 暴徒鎮圧のための道具なら、いろいろと取り揃えておりますが、どうでしょう。

 試してみようとか、くれぐれも思わないでくださいね♡♡

 それより、早く行った方がいいですよ♡♡」

「失礼しました! 行ってきます!」

 受付嬢の言葉を「早く行った方がおまえの身のためだぞ」と受け取ったユリは、大急ぎでブレイヴ・ソードの本拠地である『(つるぎ)(やかた)』に向かったのだった。


    *    *    *


「ええっと、ここですかね?」

 驚いたことに、渡された地図を頼って来てみれば、(つるぎ)(やかた)は上級平民の住宅街に構えられた、庭のない、建物だけの下級貴族の屋敷だった。

「これが『剣の館』ですか~。

 一介のハンターなのに、贅沢ですね~。

 (つるぎ)要素は全然ありませんが、ただの成金なんですかね?」

 御上りさんのように屋敷を見上げていたユリが呆れるのも無理はない。その屋敷は全体的に煌びやかに装飾され、屋根の縁には約2メートル間隔でぐるりとガーゴイルの象が置かれていた。

魔物(モンスター)が実在する世界でも、あんなの飾るんですね~。

 ブレイヴ・ソードには厨二病の疑いがあります」

 そう言って、屋敷の扉の前に立つと、大声で言った。


「たのもーー!」


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