47 閑話【御者の呟き】
★★★お知らせ★★★
新作?を始めることにしました。
この【改訂版】を始めるにあたって、第一部は月~金に更新、その後は月、水、金に更新すると言って始めたのですが、別の作品を金曜更新することにしたので、誠に勝手ながら以下のように変更します。
・神様が私に押し付けたのは悪を生み出す力だった【改訂版】
https://ncode.syosetu.com/n0320la/
第一部:月~木曜更新
第二部:月、水曜更新
・科学者、異世界に行く
https://ncode.syosetu.com/n8110ko/
1月30日から毎週金曜更新
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
俺の名はドーソン。
個人経営の乗合馬車の御者をやっている。
元々は両親と一緒に旅商人をしていて、母が病で亡くなり父も死んだ後は、その跡を継いで旅商人を続けていたんだが、どうにもこうにも商売がうまくいかなかった。どうやら客観的に見て、俺は商才には恵まれていなかったらしい。数字を扱ったり、売れ筋を予測したりすることは得意だったんだが、嘘がつけなかった。あくどい商売はもちろんできないし、原価と経費に儲けを上乗せしておきながら「この値段じゃ赤字なんだよねー」とか「お安くしておきますよ」と言うのがどうにも辛い。そういったわけで、自分には商人が向いていないことを痛感したので、その仕事に見切りをつけることにした。とは言ったものの、何かして稼がないと食っていけない。幸い手元には、荷馬車がある。馬たちもいる。
というわけで、親から譲り受けた荷馬車を改装して、王都と周辺の街を繋ぐ乗合馬車に商売替えをして今に至っている。商人と違って大儲けすることがない代わり、大損することもない地味な仕事だ。
この国の乗合馬車には、国が運営する定期便と、個人経営の不定期便があるのだが、俺の乗合馬車は個人経営の方だ。国が運営する定期便の御者に雇われた方が、元手はいらないし収入も多いのだが自由がない。個人経営だと、馬も車両も自前で用意しなければならないし、客がいない日は稼ぎがないから、トータルの収入は少ないのだが、その代わりに自由がある。別に仕事を怠けようって訳じゃない。その日の気分で好きな街道を走れる自由だ。それに、俺には行商で使っていた四頭立ての荷馬車があった。馬たちは、父親が亡くなる少し前に買い替えたのをそのまま使っている。そろそろ次の買い替えをしないといけない時期なんだが、もう暫くは働いてくれるだろう。
まあ、そういうわけで乗合馬車をやっているんだが、最近はもっぱら、『東の街』という名の東の街と王都とを結ぶ街道を行き来している。東の街は王都から近くて、距離が短いから稼ぎは少ないが、この街道は日中の移動だけで済むし、魔物や盗賊に襲われる心配もないので、のんびり仕事をするのに向いているんだ。それに、俺の乗合馬車は荷馬車に毛が生えたようなものなので、移動距離が短いうちはいいのだが、距離が長くなると、客の尻が耐え切れなくなって苦情が来る。かといって座席をいいものに変える金はないから、結果的に距離の短い東の街との行き来が増えるってわけだ。
ちなみに王都は広いから、王都の中を周回するのもありなのだが、それは競争が多くて商業ギルトで抽選に当たらないといけないので、面倒なのでやめてしまった。それに、王都の中は狭い道もあるので、二頭立てとか一頭立てにしなければならず、そうなると今の馬たちと別れなければならない。でもこいつらは、俺が手放したら肉にされることが目に見えている。こいつらは、長年の相棒だからな。そういうことにはしたくないのさ。馬が一頭だけになったら、辻馬車という選択肢もあるにはあるが、辻馬車をやるには王都の中の屋敷や店の名前をたくさん憶えなきゃいけないから、ちょっと俺には無理そうだな。俺の馬車に貴族様が乗ってくることは無いが、載せた平民が「エラソーナ伯爵の屋敷へ」とか言ってくることはある。縁もゆかりもない貴族様の屋敷なんか、俺に言われたって分かるわけがない。
というわけで、俺の乗合馬車は王都と東の街との間で燻ぶっている。
燻ぶってるとは言っても、別に不満があるわけではない。この街道は、魔物はもちろん、危険な獣も盗賊も出たことがない。王都が近いから、もしそんなものが出ようものなら、すぐに王都から討伐部隊が来て退治してしまう。王都は城郭の外にも街が広がっていて、近辺の森や街道は常に安全にしておかなければならないからだ。
だから、魔物も獣も盗賊も、よほど愚かでない限り、この街道には出没しない。というわけで、この街道では護衛を雇う必要が無かった。
俺の馬車は四頭立てで、荷台は広めだが、馬の為の水と飼い葉を積んでいるし、箱馬車ではないので、客の荷物を屋根の上に載せるようなことも出来ず、それほど多くの客を乗せられない。だから、護衛を雇えばかなりの収入ダウンとなる。護衛を必要としないこの街道は、俺の馬車にとっては天国だった。
ところがあるとき、東の街から王都に向かう途中で、出るはずのない狼の群れに出くわしてしまった。ちょっと焦ったね。一、二頭なら、俺の弁当を捨てて行けば見逃してくれただろうが、数十頭となると乗客全員の食料を餌にしたって足りるかどうか。そもそもどこから湧いて出たんだ、こいつら?
この街道を走らせる俺の乗合馬車を使おうとする乗客たちには、万が一馬車が動かなくなった時のために、三日分の水と食料を持参するように言ってある。街道の中央からどちらかの街まで、歩いて三日ほどかかるからだ。まあ、ほとんどの客はそんな忠告を聞かないし、俺自身が安全に慣れちまって、半日分の水と昼の弁当しか持ってなかったからな。というわけで、食料と引き換えに逃げるという手は諦めるしかなかった。
だが、捨てる神あれば拾う神あり。今回は同乗していたハンターパーティーが狼を退治してくれた。その一人であった普通の旅装の娘っ子が、馬車の中で商売を始めようとしたときは、仲間が止めなかったら馬車から降ろしてやろうかと思ったんだが、降ろさなくて良かったよ。あいつらが助けてくれなかったら、たとえ生き残ったとしても、下手したら客同士で、食い物の奪い合いとかが起きててもおかしくなかったんだ。今度からは油断せずに、三日分の自分の水と食料を用意するのはもちろん、水と食料を用意していない客は乗せないぐらいのことしないと駄目だなと痛感した。
そういえば、あのハンターパーティー、ちょっとやり過ぎて街道に大穴を開けちまったんで、これじゃ次に通れないから困ると苦情を伝えたら、あの娘っ子が魔法で穴を塞いでくれた。ただ、雷が鳴り続けてるような騒音を撒き散らしてたんで、魔物でも出て来るんじゃないかと心配になっちまったよ。
あのパーティーには、青いローブの、いかにも魔法使いで御座いって娘もいたが、若い娘にやらせてたのは担当が違ったのかな? 若い娘を虐めてるんなら文句のひとつも言ってやろうかと思ったが、娘っ子が楽しそうにやっていたから口を出さないでおいた。埋め終わった後には、無い胸を張って自慢そうにしていたっけな。
そんなことがあって、その後は遅れを取り戻そうと、少し急いで馬車を進めていた。そうしたら、あのハンターパーティーのジェイクとかいう、やたら筋肉の発達したごつい男が御者台にきて、俺の肩に手を回してきたもんだから、変な趣味でもあって何かされるんじゃないかとびびっちまった。だけどそいつは、俺を襲いに来たわけじゃなかった。この街道の先で百匹のゴブリンが待ち伏せてるって伝えに来たんだ。マジ漏らしそうになったよ。
獣も魔物も、この街道にはここ十年一度だって出たことないのに、なんで狼の後にゴブリンまで出るんだよ。勘弁してくれよ。
俺だって、他の街道を走らせてたこともあるから、ゴブリンのことくらいは知ってるさ。あいつらは森で迷ってる人間を見つけると、十倍の数で襲うんだ。そして襲われたら、熟練のハンターでもやられちまうことがある。そんな魔物が百匹で待ち伏せしてるって?
どうしろって言うんだよ。
引き返せっていうのか?
あのハンターパーティーに司祭風の出で立ちの娘がいたから、死ぬ前に懺悔したらいいのか?
俺がそんなことを考えていたら、筋肉男がゴブリンは彼らが蹴散らすから、馬車を止めずに勢いよく走り抜けろって指示してきた。
蹴散らすってどうやって?
そもそも、まだずっと先なのに本当にゴブリンはいるのか?
疑問に思うが、躊躇ってる暇はない。
俺は馬の尻に鞭打って勢いよく走らせ、真っ直ぐとは言えない街道から馬車が外れて転がり落ちることのないように、手綱を握ることに専念した。
そうしたら、本当にいたよ。百匹余りのゴブリンが。
その姿が見えたときには、後ろの荷台の方から魔法の光だか礫だかが山のように打ち出されて、街道に降りていたゴブリンの集団を一気に葬ったのには驚いたね。こいつら、とんでもない凄腕パーティーじゃねえか。
だが、ゴブリンは街道の両脇の並木の上にもいて、走り抜ける馬車に向かって一斉に降ってきたもんだから、こいつらしくじりやがったのか、やっぱり駄目だったかと諦めかけたよ。
だけど、実際には何の問題も無かったんだ。
馬車は何か見えない壁に守られてて、ゴブリンの奴らはそれに頭を打ちつけて、馬車に取りつくことなく転げ落ちて行ったのさ。何匹か馬車の下敷きにしちまったのもいたな。
しばらく走り続けて、絶対に大丈夫だってぐらい十分に距離を取ってから速度を緩めて、馬を休ませたよ。
今度も同乗してたハンターパーティーが蹴散らしてくれたから良かったようなものの、あいつらがいなかったら俺たち全員、間違いなく死んでたよ。
その後、再び馬車を進めながら考える。
半日の道程で狼とゴブリン?
もう腹いっぱいだよ。まあ、珍しい経験だから、酒場で御者仲間に話して酒の一杯でも奢らせるか。あと少し、頑張って王都まで馬車を進めよう。
そんなことを考えていたら、また出やがったよ。
なんなんだよ今日は。厄日かよ。
今度は毒蝮だ。いや、マムシなら毒があって当たり前なんだが、魔物ではないが、極めて魔物に近いヘビなんだそうだ。普通のマムシと違って、噛みつくのではなく、毒を吐く。遠くから毒液を飛ばしてくるらしいのだ。それにマムシの毒なら、噛まれなければ皮膚についても問題ないのだけれど、毒蝮の毒は、浴びただけで身体が侵されるんだと。
毒蝮の群れを俺は初めて見たが、何なんだあれは。
世の中にはヘビを一匹見ただけでも悲鳴をあげる奴がいるが、こいつは俺でも耐え難かったね。沢山の毒蝮が、イトミミズのようにひと塊になって、うねうねうねうねうねうねうねうねしてやがる。荷台にいた女性客が、それを見て石像みたいになってたな。
だが、ひと塊になっているのは熊相手だったら有効だったかもしれんが、今ここにいるハンターの姉ちゃんたちに対しては悪手だったな。何だかよく分からんが、魔法一発で一気に灰になっちまった。
すげえな、魔法って。
そうして、道程の九割方過ぎたとき、俺は思ったね。学習したんだ。
こんな街の近くに魔物が出るはずないからもう大丈夫とか思っちゃいけないって。とにかく気合を入れて行こうって。
そう考えたとき、最後の試練がやって来やがった。
うん、魔物は出なかったよ。出たのは盗賊集団だ。
なんで。なぁ、なんで? 俺って祟られてるのか?
まあいい。今日の俺には心強い味方がいる。
はっきり言って、俺にはその後、何が起こっていたのかよく分かっていなかった。
盗賊団が飛ばしてきた沢山の矢は、全て見えない壁に弾かれた。剣を振りかぶって来た奴もいたが、そいつらも跳ね飛ばした。今回、狼やゴブリンのときと違ったのは、ハンターの男二人が走り出て、盗賊連中をばったばたとぶっ倒し始めたことだった。そう聞くと勇敢に戦っているように思えるが、実際はそうではない。ついさっきまで意気揚々としていた盗賊連中が、いきなり足を止めて、動きが鈍くなって、ハンターの男二人に襲われているというのに逃げるでもなく、成されるが儘に殴り倒されていったのだった。
「ちょっと、ウルフもジェイクも、狼やゴブリン相手に何もすることが無かったから、ストレス発散したかったのかも知らないけど、いくらなんでもやり過ぎよ。こいつらが歩けなくなったら王都まで引っ張っていけなくなるじゃないの」
男二人は、青いローブの娘に、そんな風に叱られてたな。
面白い連中だ。
それにしても、なんなんだよ今日は。絶対に厄日だろ。
偶々とはいえ、ハンターパーティーが乗っていて本当に良かった。
本来なら、礼金を渡さなければならないところだが、ギルドを通した依頼ではないからと、向こうが遠慮して請求されなかったので、そのまま知らん顔してしまったんだが、悪いことをしたな。
いや、最初は払うつもりだったんだ。だけどなんでかな、あの若い娘っ子と挨拶したら、ズルしたくなっちまったんだ。ああっ、いや、他人のせいにしちゃいかんな。今度会ったら謝ろう。娘っ子が置いていってくれた座布団の礼もしなきゃいけない。
それにしても、次回からは護衛を乗せないと、この街道は通れないんだよな。どうしたもんだか。護衛を乗せるなら、稼ぎのいい他の街道の方にした方がいいかもしれない。
今度、あのハンターパーティーを乗せることがあったら、護衛として雇おうかな。




