46 勇者討伐【束の間の休息5】
★★★お知らせ★★★
新作?を始めることにしました。
この【改訂版】を始めるにあたって、第一部は月~金に更新、その後は月、水、金に更新すると言ってたのですが、別の作品を金曜更新することにしたので、誠に勝手ながら以下のように変更します。
・神様が私に押し付けたのは悪を生み出す力だった【改訂版】
https://ncode.syosetu.com/n0320la/
第一部:月~木曜更新
第二部:月、水曜更新
・科学者、異世界に行く
https://ncode.syosetu.com/n8110ko/
1月30日から毎週金曜更新
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
エレノーラの話を聞いた結果、また新たな疑問が湧いたウルフが再び質問をする。
「なんでまた、ブレイヴ・ソードの名を出されたのでしょうか?」
「あなた方がブレイヴ・ソードを討伐してくれるのでしょう?
あぁ、なぜわたくしがそれを知ってるのかを気にされているのですね。
もともと、四つの碌でもない名ばかりの勇者パーティーの殲滅をハンターギルドに依頼したのはわたくしです。具体的には、レイジー・オウル、セーフ・ゾーン、シャイニング・スターズ、そしてブレイヴ・ソードです。
王都のハンターギルドのギルドマスターを呼んで、その依頼を出したときに、彼からあなた方を推薦されたので、指名依頼にいたしました。
なかなか愛嬌があって、可愛らしい方ですよね。あのギルドマスターは。
それで答えになりますね?」
(ええ~っ、こんな可愛い顔して、貴族ってやっぱり怖い。
っていうか、王都のギルド長って鬼か化け物みたいな奴だって、リーダーは言ってなかったっけ?)
「そういうことでしたか。
ところで、ハンターギルドが受けた依頼は五件で、調査対象にレッド・グレイヴが入っていたようですが」
「それについては、同時期にベルマン子爵がブルックナー伯爵経由で告発したものを、ハンターギルドで追加扱いにしてしまったようですね」
「クソッ! 何もかも、あのデカトロール野郎の仕業か!
いや、失礼しました」
「ギルドマスターも、依頼人の名前を勝手に出せなかったのでしょう。
許してあげてください」
「え~っと、つまり、リーダーが言った『デカトロール野郎』っていうのが王都のギルドマスターのことで、姫様はその男が『可愛い』という認識だってことでいいですか?」
「ユリ! あんたは黙ってなさい!」
折角みながスルーしていた王女殿下の発言に、ユリが余計なことを言ってしまったので、マリエラがユリの口を塞いだ。
「……(フガ、フガッ)」
フォローするため、というよりは、騒ぎに乗じてウルフが確認する。
「私も少し気になったんで、念のため確認しますが、姫殿下が相手したのはギルドマスター本人なんですよね?
ギガンテス・トロールみたいな巨体で、デイドロールっていう名前の」
「そうですね。大きな熊さんみたいな方でしたよ」
「……」
リーダーは姫殿下の美意識の違い、というか、度量の違いに圧倒されていた。この世界には熊を見て可愛いという文化がない。もちろん『森のくまさん』のような絵本も童謡もないので、エレノーラの感覚に付いていけないのも当然だ。そのため少しだけ言葉が詰まったが、なんとか平常心を取り戻して会話の先を続けた。
「そうですか、本人ですか。分かりました。
殿下のお望みとあらば、彼のしたことには目を瞑りましょう。
ですが、ブレイヴ・ソードについてハンターギルドから依頼されているのは、あくまでも調査です。その点はお間違えのないようにお願いいたします。
調査したうえで、犯罪行為を確認したら、そのときは、勇者ではないと喧伝するための材料を集めるか、もしくは自滅させることになっています。ですが、犯罪行為に関わっていない可能性もあります。実際、ギルドの調査依頼対象のうち、レッド・グレイヴは冤罪であることが確認されています」
「自滅というのは、シャイニング・スターズの最期のようなことでしょうか。陛下から伺いましたが、見事な落とし前の付け方だったそうですね。余計な死者を出さずに彼らをあの状態に追い込んだことは、陛下も大変高く評価されておりました。
それと、レッド・グレイヴを告発したベルマン子爵ですが、彼はブルックナーの寄子で、レイジー・オウルとセーフ・ゾーンの庇護者でした。そして、シャイニング・スターズとブレイヴ・ソードの庇護者がブルックナーだと言えば、ブレイヴ・ソードの立ち位置は明らかですね」
「そうですか、殿下のおっしゃりたかったことは理解しました。
それで、俺たちに聞きたいことというのは、何でしょうか?」
「そうですねぇ、いろいろとあるのですけれど……、答えて貰えなそうなこともあるし……」
「(フガフガ……、姫様、なんでそこでわたしをチラ見するの!)」
マリエラに口を塞がれたままで声には出なかったが、考えるのは自由だった。
「今日はコロシアムの闘技場に、想定外の大きな魔物が現れたと聞いたのですが、その化け物について知っていることを話してください」
「巨大なスケルトンのことでしたら、私も初めて見た魔物なので、残念ながら何の知識も持ち合わせておりません」
「でも、あなた方が倒したのでしょう?
なかなか見事な討伐だったと、噂になっておりますのよ」
(どうせ部下に調べさせて、全部聞いてるんだろうなぁ~)
「あれは偶々勝てただけです。自慢できるようなものではありません」
「でも、不思議なんですよね。噂ではそれが、巨大なムカデの骨だって言う人と、ドラゴンの骨だって言う人がいるんですの。巨大なムカデとドラゴンじゃ、全然違いますよね」
「さぁ、それは……」
「あっ、それはですねー」
ユリがマリエラの手を跳ねのけて口を挟んでしまった瞬間、ラッシュ・フォースの四人が頭を抱え込んだ。
「気の遠くなるくらい遙か昔に、魔力を持たない巨大なドラゴンがいたんです。そのドラゴンの首はとっても長くて、体長の4割くらいあるんです。そして、その長い首には、頚肋骨と呼ばれる首の肉を支えるあばら骨みたいな骨があったんですね。そして、そのドラゴンが死んだときに、土に埋もれてギューギューに固められて、骨になって岩に封印されちゃったんです。それからず~っと後になって、あのダンジョンを作った人が、ドラゴンの骨が埋まった巨石を切り出して、それを使ってあそこを作っちゃったんですね。昨日は、あのダンジョンでスライムストームが発生して、その後で沢山のスケルトンが出てきたんですけど、多分あのドラゴンの骨も、ダンジョンの壁や床の巨石の中にあったのに、スライムストームの影響でスケルトンになちゃったんじゃないですかね?
あっ、あれをムカデという人とドラゴンと言う人がいたのは、首から先だけを見た人にはムカデに見えて、全体像を見た人にはドラゴンに見えたからですね」
「おい、ユリ、それは全部おまえの想像だろ!」
「え~っ、でも、足の骨に巨石を付けたままだったじゃないですか。あれは、あの骨が、あの巨石に埋まってたって証拠じゃないんですか?」
二人で言い争いになりかけたとき、王女殿下が諫めるように話し出した。
「おもしろいお話ですね。
ダンジョンの調査はまだこれからですが、砕けた巨石を調べた者から、何か棒状のものを取り去った跡が残っていたという報告が上がっています。そこにドラゴンの骨があったというのも、十分ありそうですね。今の話の通りなら、ダンジョンの通路よりも大きなスケルトンが出てきたことの説明が付きます。
その巨大なスケルトンは、粉々になって消えてしまったそうですが、わたくしも一度、動いてる姿を見て見たかったですね」
ユリは、この部屋の大理石の床のあちこちを見ていて、目的のものを見つけていた。
「ありました。これこれ」
そういって、不敬にも席を離れ、床の一か所を指さす。
「これ、模様じゃなくて、アンモナイトっていうオウム貝に似た生きものの跡なんですよ。これの仲間でパラプゾシアっていうのは大人の背丈より大きかったりします」
王女殿下も椅子から立ち上がり、近くに寄ってそれを確認する。
「まぁ、もしかして、これもスケルトンになるのかしら?」
「あのダンジョンも今まで平気だったんですし、ここでスライムストームが発生しなければ大丈夫じゃないでしょうか?
それにアンモナイトは、本体部分がイカみたいな軟体動物なんで、スケルトン化しても動けないから大丈夫だと思いますよ」
「このアンモナイトは大丈夫かもしれませんが、巨竜の骨が入った岩は、王城にもあるかもしれません。そして、あのスライムストームも、発生するはずのない場所で発生している以上、安心はできませんね。
王城で巨石を使っているところは、骨の痕跡がないかどうか、早急に確認しましょう」
王女殿下が、これでこの話は終わりというように話を纏めると、自分の席に戻ったので、ユリも慌てて席に戻った。
「ユリさんって、博識なのですね。魔物についても、教授してもらおうかしら」
「恐れながら、こいつの知識の多くは妄想の類で、現実の魔物の知識はほとんどありません」
「リーダー、確かに御伽噺で聞いていた知識だから色々と間違ってましたけど、妄想は酷いです!」
「御伽噺だったら妄想だろ」
「あれ、リーダー知らないんですか? 神話や御伽噺っていうのは、案外真実を含んでたりするんですよ」
「神話と御伽噺じゃ全然違うだろうが」
「え~っ、そうなんですか? たとえば、大男がドラゴンを飲み込んで退治した話っていうのは、どっちなんですかね?」
「ちょっと、ユリ、話がずれ過ぎてるわよ」
「ふふっ、ユリさんは面白そうな話を知っているのですね。今度、ゆっくりと話してもらおうかしら」
「えっ、え~と~、今はギルドから依頼された仕事の最中なので、今度といってもいつになるか、その~」
「別に急ぎませんよ。
そういえば、ユリさんは月の七人の女神の話はご存じですか?」
「えっ? 七人の女神?」
(なんだっけ? プレアデスの七人の女神の話なら知ってるけど、姫様は月って言ったよね? この世界のかぐや姫が七人姉妹だったとかそういう話?)
「ええっと、月の姫君が地上に転生して、やがて月の使者が迎えに来て帰っていく話なら知ってますが、姉妹がいたとは聞いてませんね」
「あら、まぁ!」
なぜだか分からないが、王女殿下は満面の笑顔でユリを見ていた。
竹取物語は、今も残っている日本最古といわれる物語だ。その話が作られたのは平安時代前期といわれている。西洋史では中世前期の頃にあたる。
話の概要は書くまでもないだろう。ただ、竹取の翁がかぐや姫を見つけたときの記述は、元々は赤ん坊ではなく『三寸ほどの背丈の可愛らしい娘』であって、今でいう妖精のような扱いだったらしい。
「ですが、月の女神が一人だけというのは、不自然ではないですか?」
「なにが不自然なのか分からないんですけど、たったひとつの月に七人もいたら窮屈じゃないかな」
「「「「「……えっ!?……」」」」」
「はい?」
「ユリ、あんたの田舎じゃ、月の女神が喧嘩別れするって話は無かったの?」
「え~っと、無かったと思うんですが、喧嘩別れして六人が家出して地上に来たりするんでしょうか?」
「そうじゃないわよ!」
「ねぇ、ユリさん。つまり、あなたの月はひとつなのですね?」
「私の月?」
ユリの疑問の声を聞いた王女殿下は、椅子から立ち上がってすたすたと窓辺に行き、格子のはまった窓から空を見上げていた。
「あなたは、あれを見たことがないのですか?」
ユリは、ものすごく嫌な予感がしつつ、自分も立ち上がって王女殿下の脇で寄り添うように空を見上げ、そして言葉を失い、一呼吸おいて叫んだ。
「…………、なんじゃこりゃ~~!」
そこには七つの月が、直線状に等間隔に並んで見えていた。
(えっ、ちょっと待って。こっちの世界にきて、最初の夜に月の数は確認したよね。ひとつしかなかったよね。なんで今七つあるの?)
そのときユリは、マリエラが『月の女神が喧嘩別れする』と言ったことの意味を理解した。
(この世界の月は、ひとつに重なってることもあれば、七つに分かれてることもあるのかー! そういうことは事前に教えておいてよー!)
もし、このことが原因で、この世界にいられなくなって友人を失うことになったら、それはダルシンのせいだと、強く思うユリであった。
「どうやら、初めて見たようですね?」
「えっ、いや、その、ほらっ、なんていうか、私の田舎って森の中で、背の高い木が多くって、空が狭かったから、一度にひとつの月しか見たことが無かったんですよ。ホッホッホッ」
「王家だけに残っている伝承ですが、『昔々、月がまだひとつであった頃、地上に降りた女神が子を宿し、月に帰って七人の娘を生んで、その後ふたたび地上に降り立って、愛した男を探し続けた』と、そういうお話があります。ユリさんのお話にも、似たところがありますね。あなたは、王家の血筋なのかしら? それとも、その女神か、女神の使者なのかしら?」
「いえ、全然違います」
「ユリさんがハンター登録したのは、十日ほど前でしたね」
(なんで知ってるの。情報だだ漏れじゃん)
「その日の晩が、ちょうど月がひとつになった日でした。
ユリさんは北の草原砂漠を越えてきたという話でしたが、あそこを越えるには十日は掛かるのに、森をでてから一度も空を見なかったのですか?
雲ひとつない空なのに。
欠けた月なら、日中に見えていたときもありましたよね」
「そ、それは、あの、ずっと森にいたから、大空恐怖症というか、空を見たくなかったっていうか……」
「月がひとつになるなんて、三百年に一度のことなのに、あなたも、あなたの家族も月がひとつだと思ってたなんて不思議ですね」
そのとき、周りの人間が全員、奇妙なものを見る顔つきで姫殿下を見ていたことにユリは気づかなかった。ユリも、七つの月の原理を冷静に考えれば、その発言の意味が分かったのだろうが、今は言い訳を考えることを優先してしまっていて、そちらに考える労力を回すことができなかった。
「ユリさんは、本当にこの世界のことを何も知らないんですね」
「……うっ……」
「ユリさん。わたくしは嘘をつきました」
「……へっ?」
「月がひとつになるのは、本当は三十日に一度です」
「ふぇ?」
「本当は三十日に一度、月がひとつになります」
「……」
「ふふふ、ユリさんを見ていると、なぜか意地悪したくなっちゃうから不思議ですね。ブレイヴ・ソードの件が終わったら、またお話ししましょうね」
(く、くそ~、イオトカ君のせいか~)
これで、この日の会見はめでたく?終了となった。




