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45 勇者討伐【束の間の休息4】

★★★お知らせ★★★

新作?を始めることにしました。

この【改訂版】を始めるにあたって、第一部は月~金に更新、その後は月、水、金に更新すると言ってたのですが、別の作品を金曜更新することにしたので、誠に勝手ながら以下のように変更します。


・神様が私に押し付けたのは悪を生み出す力だった【改訂版】

 https://ncode.syosetu.com/n0320la/

 第一部:月~木曜更新

 第二部:月、水曜更新


・科学者、異世界に行く

 https://ncode.syosetu.com/n8110ko/

 1月30日から毎週金曜更新


今後とも、どうぞよろしくお願いします。


 王城に行ってみると、陽の暮れた後の時刻だったので既に城門は閉じられていた。

「閉まっちゃってますね~。

 夜間の訪問は失礼なんじゃありませんか?

 帰ってご飯にします?」

「馬鹿を言うな」

 ウルフが呆れ顔でユリの世迷言に返事して、城門の警備をしていた門番に呼び出し状を見せると、門の内側で待ち構えていた男が門番に声を掛けてきて、ユリたちは城の中に入ることが出来た。その後、殺風景な待機所に案内されたのだが、来る前に言っていたとおり、長いこと待たされた。全員が椅子に腰掛けて、することもなく待たされ続けている。昔の小学校の理科実験室にあったような、背もたれのない木の箱椅子で、座り心地は極めて悪い。いや、あっちは子供が長時間座ってられるからまだいい。こっちの椅子は、長時間座っていると尻が痛くなってくる。


「この部屋もそうなんですけど、入口からここまでの廊下とか、意外と質素なんですね~。王城って、なんて言うか、もっとこう、これでもかっていうくらい豪奢(ごうしゃ)?なもんかと思ってました」

 何を表現したいのか不明だが、ユリは胸の前で大きな荷物を抱えるような恰好で訴えていた。

「ユリ、おまえなぁ、平民が入ってくるところを無駄に飾るわけないだろ。

 ギンギラに飾り立てるのは、貴族しか入れないところだ」

「意外とケチ臭いんですね。

 待たせておいて、お茶もお菓子も出ないのも、そのせいですかね~?」

「ユリ、あんた贅沢言ってんじゃないの」

「え~っ、だって私だけ、お夕飯食べてないんですよ~」

「みんな食べてないわよ。 当たり前でしょ」

「ええ~~っ!?」


(そうだ。ラッシュ・フォースは底抜けのお人好し集団だった。

 私だけご飯抜きとか、するはずなかったんだ……)


「ごめんなさい!! 勘違いしてました!」

 飛び跳ねるようにピョンと立ち上がって、頭を下げた。

「そこまでしなくていいから、座ってなさい」

 マリエラに言われて座ったものの、何か気まずい。

「あっ、そうだ! みんな夕飯がまだなら、これ食べます?」

 そういって、日中に仕入れてアイテムボックスに入れてあった、串焼き十本、ドーナツ二十個を取り出して見せた。それらの品は、どちらも作り立てのように熱々で湯気を立てている。

「「「「……」」」」

 全員無言だったのは、驚いたというより、こんな場所で極秘の魔法を使ってしまう、ユリの無神経さに呆れていたからだ。

「あれ? 食べないんですか?」

「もらうわよ。お腹ぺこぺこなの。

 だけどどうしてこんなに沢山買い込んだのよ?」

「いやぁ~、屋台で道を聞いたり、店を教えてもらったりする度に買ってたら、こうなっちゃいました。十日分の夜食にでもしようかと思ってたんですけど、無駄にならなくてよかったです」

「ユリ、あんたねー……」

 マリエラは、言うだけ無駄だと、後の言葉を飲み込んだ。

「ユリ、無駄に金を使わずに情報を引き出す方法を教えようか?」

「あぁ……、いや、買い物は楽しいから、この方法でいいです」

 ジェイクからの提案を袖にしたユリだが、口には出さないが理由がある。

「ジェイク。あんたは情報の代価(だいか)として肉体労働したり、やんちゃな子供の世話したりしてて、完全にタダってわけじゃないでしょ。でなけりゃ、酒の飲み比べでしょ。そんなことユリに出来るわけないでしょうが」

 ユリが言わなかったことを、マリエラが全部言ってしまった。


 場の空気が悪くなりそうだったので、ユリが声を掛ける。

「じゃあ、誰か来ると面倒だから、早く食べちゃってくださいね。

 あ、食べ終わったあとの串は回収しますから」

「ところでユリ」

「はい?」

「お茶はないの?」


    *    *    *


 みんなで香草茶で喉を潤しながらハフハフと串焼きとドーナツを食べ、ユリが器と串を回収して、まだ待たされるのかと、満腹で居眠りし始めたときになってやっと、待機室に若い男が入ってきた。


(わぁ、執事みたいな人きたー!

 あれ? 王城の執事ってスチュワードだっけ?

 今風の言い方ならCA、キャッスル・アテンダントね!)


 むろん、王城にキャッスル・アテンダントなどという職業は存在しない。

 部屋に入ってきた男は、部屋に籠った油と肉汁と香草の匂いに、しばし鼻をひくつかせていたが、怪訝な顔のまま声を掛けてきた。

「ご案内します」


 五人が案内人に従って王城の、質素だがアフリカ象でも通れそうな幅広い廊下を進んでしばらく行くと、案内人が大きな扉の前で立ち止まって、扉の奥に声を掛けた。

「お客様をお連れしました」

「入って」

 部屋の中から案内人に答えたのは、女性の若い声だった。


(客の素性を具体的に言わなかったのは、秘密の呼び出しだからかな?)


「お入りください」

 案内人が開いた扉の向こうを覗き込んで見ると、そこにいたのは、椅子に座ったままの年若い女性と、その後ろに立つ二人の衛兵だった。

 その女性は、絵に描いたような金髪碧眼の白人で、目鼻立ちのはっきりとした美少女だった。幼さの残る表情と、顔の肌つやから見て十五歳前後だろうか。服装は、パーティードレスのような派手さはなくて、クラシカルエレガントな、肌の露出が一切ない、クリーム色のブラウスに茶系統のスカートを身に着けている。また、その髪は、どんな手順でやればそうなるのか想像できないほど、複雑に編み込まれていた。後ろから見たら、もっと複雑になっているに違いない。

 ちなみに、貴族女性の髪形が派手になったのは近代のことで、中世では頭の上に船を乗せるようなこともないし、縦ロールもない。ただ、編み込むことに関しては、昔から熱心に行われていた。


(この人、貴族よね。あ、これはもしかして……)


「第三王女殿下、エレノーラ様でいらっしゃいます」


(おぉぉ! ついに来た! 定番の第三王女!!

 じゃあ、脇に立ってる、あれが近衛兵ね!

 なんか、見てくれがいいとは思ったのよねー)


 相手の態度と姿からその身分を想像していたラッシュ・フォースの四人は、即座に片膝をついて首を垂れ、その様子をみていたユリも、慌ててミラやマリエラの真似をする。そして、首を垂れたまま、ユリは冷や汗を流していた。


(この第三王女、まさかと思うけど、イオトカ君の影響受けたりしないよね?

 お願い、そう言って!

 いきなり『死刑!』とかやめてよね。王女殿下がお尻向けてくることはないだろうけど、悪意は向けて来るかもしれないし。王女殿下に悪意向けられたら、逃げ切れるかな。国を敵に回すのは嫌!)


 ユリの心配をよそに、エレノーラが穏やかに五人に声を掛ける。

「みなさん、(かしこ)まらなくてもいいですよ。

 さ、そちらの椅子に座ってください」


 ユリは、上司の『無礼講で』という言葉が信用ならないということを繰り返し嫌という程学んでいるので、(かしこ)まらなくてもいいと言われたからといって、いきなり羽目を外すほど愚かではない。

 ユリたちが言われるがままに椅子に座ると、リーダーが全員を紹介する。

「私が、ラッシュ・フォースのリーダー、ウルフです。こちらから順に、メンバーのジェイク、ミラ、マリエラ。そして、メンバーではありませんが、ここしばらく行動を共にしているユリです」

「まぁ、ユリさんはパーティーに加入しなかったんですか?」

「ええっと、色々とあって、いまは偶々(たまたま)一緒に行動してる状態でして……」

 ユリがどう答えたものか迷っていると、リーダーが口を挟んだ。

「恐れながら殿下、今日の呼び出しはどのようなご用件でしょうか?」

「まあ、そんなに焦らないでくださいまし。

 お茶を用意させてますから、お話は、それが来てからにいたしましょう。

 お茶菓子は、……どうしましょう、みなさんドーナツは食べ飽きていらっしゃいますでしょうし、油っぽい食事をされたばかりのようですから、軽いものにいたしますね」

「「「「……えっ……」」」」

 ついさっきの食事のことは、全て知られているようだった。覗き穴から監視でもされてたのだろうか? そう、皆が疑心暗鬼になっていたとき、ユリだけは、いつものように全然関係ないことを考えていた。


(自動翻訳って、敬語はどうなるのかな?

 変な風に訳されて不敬で怒られたら、ダルシンさんの責任よ!)


 ユリが首を(かし)げている間に、お茶が用意されて振る舞われた。お茶はハーブティーかと思っていたら、なんと紅茶。お供の菓子は、チョコレートだった。


(中世ヨーロッパには存在しなかった紅茶とチョコ!

 さすが異世界!

 でもいいの?

 これを冒険譚に書いたら『またインチキ中世かよ』って言われちゃわない!?)


 もちろんそんな心の声は一切表に出さずにユリが言う。

「わぁ、今日はお昼からずっと、大好きな紅茶を飲んだりチョコレートを食べたりしたかったんです! 市場の屋台には無かったのに、あるところにはあるんですねっ!」

「ちょっ、ユリ! 子供みたいにはしゃがないで」

 冒険譚にどう書こうか悩みながらも、不敬となることも(いと)わずに興奮するユリを、慌ててマリエラが(たしな)める。

「いいんですよ。遠慮せずに召し上がってください。

 ところで、ユリさんは、紅茶やチョコレートをご存じだったんですね。しかも大好きだとか。

 羨ましいですわね。

 わたくしだって、滅多に口にできませんのに」

「あっ……」


 若干棘のあるエレノーラの発言を聞いたラッシュ・フォースのメンバーの視線がユリに集まり、ユリは自分の失言に気がついて冷や汗を掻いていた。

 リーダーのウルフは、その様子を横目で見ながら、紅茶に口をつけ、チョコレート菓子を一粒口にして礼儀を果たした後、改めて質問をした。

「では、改めてお伺いします。

 今日はどのようなご用件で呼ばれたのでしょうか?」

「そうですねぇ、聞きたいことと、伝えたいことがあって、どうしましょう。

 そうね、伝えたいことからにしましょうか」

「俺たちに伝えたいこと?」

「ピッグヤーロウ公爵の長男の襲爵(しゅうしゃく)が決まりました」


(なんて名前! 豚野郎公、豚ハムじゃないですか!)


「それは、そのピッグヤーロウ公爵閣下が隠居したってことですか?」

「ええ、そう」

「生憎その(かた)を存じ上げないのですが、それが俺たちと何の関係があるのでしょうか?

 俺たちに伝える理由をお教え願います」

「そうですね。事の初めから、順にお話しするのがいいでしょう。

 彼はね、平民の商人だったブルックナーという男から、長い間、多額の賄賂を受け取っていました。そして、それと引き換えに、虚偽の功績を捏造して、それを理由にブルックナーに最初は男爵位を与えるよう、国王陛下に進言したのです。その後も同じことを繰り返して子爵位を、最後に伯爵位を、実際の功績が何もない男に国王陛下から与えさせたのです。要するに、国王陛下を(たばか)ったのですね。

 その後、伯爵になったブルックナーは、シャイニング・スターズに勇者の称号を与えて庇護して、いろいろと悪いことをしていたみたいですね。

 国王陛下は、それを大変お怒りになられて、本日付けで公爵の代替わりを命じられました。表向きは、病気により執務困難なため。まもなく彼は、身内の看病も空しく病死されることでしょう」


(ええっ、このお姉さん、すごく怖いこと言っちゃってますよ……)


「あの豚公爵が失脚したので、ブルックナーの影響力も完全に失われて、あの男が庇護していたもうひとつのパーティー、ブレイヴ・ソードを守る権力は完全に無くなりました。そのことを伝えたかったのです」


(えええっ、この姫様、今はっきり『豚公爵』って言っちゃいましたよ。

 もしかして、これも自動翻訳ミスだったりする?)


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