44 勇者討伐【束の間の休息3】
★★★お知らせ★★★
新作?を始めることにしました。
この【改訂版】を始めるにあたって、第一部は月~金に更新、その後は月、水、金に更新すると言ってたのですが、別の作品を金曜更新することにしたので、誠に勝手ながら以下のように変更します。
・神様が私に押し付けたのは悪を生み出す力だった【改訂版】
https://ncode.syosetu.com/n0320la/
第一部:月~木曜更新
第二部:月、水曜更新
・科学者、異世界に行く
https://ncode.syosetu.com/n8110ko/
1月30日から毎週金曜更新
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
この国の王都の城郭内は計画的に作られていて、王城を中心に、大きく貴族街、商業区、平民街、工業区と層を重ねている。ただし、現在は増えすぎた平民の町や村が城郭の外側にも広がり、外側の方が土地が広く人口も多くなっていた。
商業区を歩いていたユリは、その後も王都の中心部に向けて歩いていたが、あまり王城に近づき過ぎて警吏だか衛兵だか警備兵だか……この世界での名称をまだ聞いていないのだが……それらと揉め事にでもなると嫌だったので、貴族街の途中で引き返すことにした。こっちが喧嘩するつもりが無くても、イオトカ君の影響を受けた貴族関係者や兵隊が何してくるか分からない、いや、確実に一人か二人、ユリを襲ってくる者がいるはずだった。相手が平民の悪党なら警吏に引き渡して終わりにすることも出来るだろうが、貴族相手だとそうもいかない。王都に来て早々、レッド・グレイヴの二の舞で都落ちするのは避けなければならなかった。
ユリは引き返す道すがら、市場の屋台で鹿肉の串焼きを買って、売り子の女性に甘味を出す店について聞いてみると、知ってる店があるという。店の場所を教えてもらい、屋台を後にすると、串焼きを少し睨んで、そのままアイテムボックスに入れ、ユリはそそくさと教えてもらった甘味を出す店に向かう。
串焼きを食べずに仕舞ったのは、お腹を空かせておきたかったのもあるが、串焼きを見ていたら、昔、同じような串に刺殺されかけたのを思い出したからだ。あのときは中坊が自転車のハンドルと一緒に大きな串焼きを握ってて、人込みの中で、自転車に乗ったままユリの脇をすり抜けたときに、刺し逃げして行ったのだが、そのときに、こういう危険なものは移動中に食べていい物じゃないと心に刻み込まれていたからだ。それに、相手を刺さないまでも、食べてる最中に肘に誰かがぶつかってきて、喉に刺さる可能性もある。
防護障壁のマジックアーマーを着た状態のユリであっても、食事中の口の中までは防御していないのだ。
「これは宿に帰ってからの、夜食にしましょう!」
ユリは、人込みを抜けて屋台で教えられた店を見つけると、中に入って席につき、メニューが無いので店員を呼んだ。
「あのー、お酒じゃない飲み物とー、甘いものが食べたいんですがー、何がありませんかー?」
ユリに捕まった若い女性店員は、ユリの席まで来ると面倒くさそうに答える。
「酒じゃないなら、山羊の乳がギル銅貨八枚、薬草茶がギル銅貨十枚、それとコーヒーがメスリー銀貨一枚。甘い食べ物は、焼いた芋ひとつがギル銅貨五枚、ビスケット一枚がメイ銅貨一枚」
「へーっ、コーヒーあるんだ……」
(ええっと、大雑把な小麦価格換算で、ギル銅貨が二十円、メイ銅貨が五百円、メスリー銀貨が五千円だから……)
「コーヒー高っ!! あんたは高級ホテルで飲むコピ・ルアクか!
う~~ん、でも今日は奮発しちゃう!
コーヒーひとつと、ビスケット二枚頂戴」
ユリがそう注文すると、店員が無言で奥に行ってしまう。
(復唱せんのかい!!)
ちゃんと注文できたのか怪しかったが、暫くするとさっきの店員がコーヒーと白い粉とビスケットを乗せたプレートを持ってきて、テーブルにドスンと置くと、テーブルに出しておいた料金、メイ銅貨二枚とメスリー銀貨一枚を不機嫌に掻き取っていった。ここでは料金と引き換えで商品が渡される。食い逃げができないシステムだ。
(あっ、もしかして、チップの上乗せしなかったから不機嫌だった?
でもチップ文化は地球だと18世紀からのこと。
ここみたいな、中世にはまだ無かった習慣なんだよね~。
この世界だとどうなんだろ?)
そんなことを考えながら、ユリは、出されたコーヒーを見る。
コーヒーは、取っ手のない陶器製の湯飲みのようなものに入って出され、容器が茶色いせいもあって、中の液体が黒々としている。
若干色の付いた白い粉が小さい皿に盛られているが、これが砂糖なのだろうか。
「黒砂糖みたいな癖のある砂糖だったら入れない方がいいから、ちょっと砂糖を味見して……って、しょっぱ!」
砂糖かと思ったら塩だった。
「まぁ、文化の流入過程によってはそうなることもあるかもしれないけど、塩か~。ブラックも嫌いじゃないから、何も入れないで飲も~っと。
……、まずっ! あ~、口の中がジャリジャリする」
素人が見よう見真似でトルコ式コーヒーを、それも砂糖抜きで作ったといった感じの代物で、アガサ・クリスティーの作品によく出て来る『泥のような飲み物』という表現そのものだった。豆も、エチオピアなんて国はこの世界にはないはずなので、全く別の品種なのだろう。焙煎技術もまだまだ未熟だった。
「この国でコーヒー文化が普及するには、あと百年は掛かりそうね」
ビスケットもひと口齧ってみる。
「……おいしくない……」
ビスケットは硬くて、しかも甘くなかった。
いや、噛んでいるうちに甘さを感じるようにはなるのだが、だんだん顎が疲れて来る。これを甘い食べ物というのは絶対に間違っている。
ユリは今になって、甘味処を教えてもらうのに、収入の少ない人間に聞いたのがそもそもの間違いだったことに気づいた。
「チョコかケーキが食べたいよ~~」
チョコもケーキも、ダルシンからせしめたやつがアイテムボックスに入ってはいるが、その数は限られているし、何より、ユリはこの世界のものが食べたいのだ。だが、結局、我慢しきれずにアーモンドチョコを一粒だけ、アイテムボックスから取り出して食べてしまう。
(う~~。この味。この甘さ。
この世界のものが味わえる日は来るのかしら?)
本物の甘味を摂取して心を落ち着けると、次は金持ちが行くような、もっとおしゃれな服飾店で『おすすめの甘味処』を教えてもらおうと決心するユリであった。
そうは言っても、目の前には硬いビスケットが残っている。ビスケットをコーヒーに浸すと、苦みがアクセントになって甘味がでて、硬さもちょうどよくなったので、残りはそうやって年寄り臭く食べることにした。
「そういえば、お婆さんが煎餅をお茶でふやかして食べる姿って、最近見ないな~」
それはユリの周りで見られなくなっただけで、絶滅したわけではなかったが、世代が変わって煎餅以外の菓子が好まれるようになったとか、丈夫な歯が残っているお年寄りが増えたとかで、数を減らしていたのは確かだった。
ただ、それはこの世界とは全く関係がない。
ひとまず落ち着いたところで、ユリは、煎餅……ではなくて硬いビスケットを食べながら、昨日のことを振り返る。
ユリが今回、骨の髄から学んだこと。
★★★この世界のスライムは単独行動する雑魚モンスターじゃない★★★
なぜか日本のゲームだとスライムは可愛らしい雑魚キャラだが、ゲームにスライムが初登場したD&Dでは、えげつない強敵だった。
そして、地球の漁港でミズクラゲが何千匹って数で漂ってることがあるが、こっち世界のスライムは正にあれ。この世界のスライムだと更に質が悪く、地上だろうが、海中だろうが、川の中だろうが関係なく、何千という群れで襲ってくる。そしてその数が増えすぎて、数万、数十万になると、スライム自身も溶けてしまって、魔力災害のスライムストームに変貌する。
「だいたい、たった一匹のスライムが世界最強とかいう、和製異世界ファンタジーが異常なのよ。この世界のスライムが人の姿で魔王になってなかっただけでも、良しとしましょう。
そういえば、そもそも初心者向けの雑魚モンスターなんて、この国の近辺にはいないって、リーダーが言ってたっけ」
ユリが闘技場で放出した、石頭猪、巨大蠍、突撃蚯蚓、地獄炎羊は、ユリが異世界に来てから最初の街に着くまでに遭遇して、戦わずにアイテムボックスに入れていた魔物たちだ。その名前や力量は、討伐ショーの最中にラッシュ・フォースに教えてもらったが、初心者が相手していいレベルのものは、ひとつとしていなかった。
ファンタジーによく出て来るゴブリンは、こっちの世界だと、一体だけなら大したことはないが、一体で現れることは皆無で、通常は人間に向かって十倍以上の数で襲ってくる。地球にだって、蜂や蟻のように膨大な集団で襲ってくる生きものはいた。この世界では、弱いのに単体行動する間抜けな捕食者はいないということだった。
「だからハンターも、原則ひとりでは行動しないのね。
それで、はぐれハンターの弱みに付け込んで、食い物にしてるのがブレイヴ・ソードなんだ。やっと理解した」
* * *
「たっだいま~」
ユリが宿に帰り、ジェイクとリーダーがいるだろう食堂に顔を出すと、ラッシュ・フォースの四人が全員揃っていた。なんとなく不貞腐れた感じだが、疲れは取れたんだろうか?
「みなさん顔色が悪いみたいですね~。
一日お休みしても復活できませんでした?」
「遅いわよ!!」
マリエラがユリの問いに答えることなく、苦情を訴えてきた。
「えっ、えええっ!? 私、マリエラさんと何か約束してましたっけ?」
「マリエラ、約束してないことに文句を言うのは無茶ですよぅ」
「でも、ミラだって待ち草臥れてたでしょ!?」
「待ってはいましたけど、草臥れてはいませんよぅ。
それより、ユリさんはとても元気そうですねぇ」
「そうよ。あんた、昨日あれだけ魔法使いまくってて、何で朝から夕方まで元気に遊んでられるのよ」
「え~~っと、美味しいもの食べたから?」
(一番美味しかったのは、地球から持ち込んだチョコボールだったけど……)
「一人でいい思いしてんじゃないわよ!」
「今朝誘ったのに、誰も一緒に来てくれなかったじゃないですか~」
「あたしだって昼から出かけるはずだったのよ!」
「マリエラ、そこまでにしとけ!」
リーダーのウルフが止めに入って、話を続けた。
「ユリ、実は昼飯の後で呼び出しを受けて、ここにいる全員、おまえが帰ってくるのをずっと待ってたんだ。マリエラが苛ついてるのは勘弁してやってくれ」
「ええっ!? ええ、まぁ、リーダーがそう言うなら。
でも、ハンターギルドの呼び出しなら、いつものように、リーダーがひとりで行くんじゃないんですか?」
「俺ひとりで行くのを当然とするな!
それと、今日の呼び出しはハンターギルドからじゃない。
王城からだ」
「え~~~~っ。貴族様の相手は嫌ですよ~」
ユリが読んだ日本の小説、要するにユリの偏った読書傾向によれば、貴族という存在はろくなものではなかった。
(イオトカ君に近寄っても平気な貴族っているの?
昨日だって、なんとかって伯爵がおかしくなってたじゃない)
「知るか! 当日に呼び付けるなんてのは、どうせまともじゃない奴か、まともじゃない要件だ。しかも貴族なんてのは、向こうから呼び出されたってのに、行ってみたら半日待たされるなんて、珍しくもないからな。今からだと、夜明けまで待たされるかもしれないからそのつもりでいろ!
それじゃぁ、今から行くぞ!
ユリ、ちゃんとついてこい!」
「え~~、夕飯はどうするんですか~?」
「おまえは昼に、何か旨いもの食ってきたんだろ? だったら我慢しろ!」
「そんなのパワハラです! 虐待です! 断固抗議します!」
そうやって不平不満を言いながら、四人についていくユリであった。




