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40 勇者討伐【シャイニング・スターズ編6】

 闘技場での戦闘は、混戦状態となって、まだまだ続いている。

 そして今、ウルフが巨大(ジャイアント)(スコーピオン)に、ジェイクがタートルベアに、戦いを挑んでいた。


 がしんっ! ずばんっ!

 どごぉぉおーーんっ!


 ユリのエティスの加護で威力が増していることもあるが、普通なら切れるはずのない巨大(ジャイアント)(スコーピオン)の鋼鉄のような外骨格の脚と首を、ウルフの大剣が爆破する勢いで続けざまに切断し、そして、防護障壁に準じた硬さのあるタートルベアの甲羅をジェイクの拳が打ち抜く音が、銅鑼を鳴らしたように闘技場に響きわたっていた。

 そこにマリエラの火魔法による焔弾攻撃が続く。


 ばばばばばっ!


 マリエラの火魔法も、ユリのエティスの加護を受けて威力を増していて、集団で襲ってくる魔物(モンスター)を次々とマシンガンのように撃ち抜いていく。

 一方、ミラはひたすら詠唱を続けている。彼女の魔法は目立っていないが、魔物(モンスター)の闘争心を削ぎ、動きを鈍くし、攻撃系のハンターを支援していた。なにより、その美しい歌うような詠唱をユリは絶賛していた。その歌声が辺りの騒音に掻き消されて、観客席に届いていないのは極めて残念なことだった。

 そしてユリは……。


(あぁ、もう! 面倒くさい!)


 ユリは、魔法一発でここにいる魔物(モンスター)を殲滅することも可能だったが、そういう強力な魔法を使うことは、あらかじめ仲間から禁じられていた。


『いや、私が使うのは、あくまでも()()()火魔法で……』

『それが駄目だって言ってるの!

 あんたコロシアムの観客席を技能試験場みたいに吹き飛ばしたいの?

 吹き飛ばすのが一般観客席だけなら死刑になるのはあんただけで済むけど、貴賓席吹き飛ばしたら、こっちまで巻き添え喰らうんだからね』

『そんなはずないでしょ。

 ()()()火魔法ならそこまで酷くはならないですよ。

 せいぜい、闘技場を囲っている壁が崩れる程度です』

『それが駄目だっての、シャイスタ、じゃなくて、シャイニング・スターズの連中を徴発するのに勝ち過ぎちゃ駄目なの!』


 そんな遣り取りの(もと)、とにかく今は、ちまちまと一体ずつ倒せと。

 時間を掛ければ掛けるほど、シャイニング・スターズには(あせ)りが出る。

 いきなり圧倒的な実力差を見せつけてしまっては、相手は諦めて出てこないかもしれない。奴らを闘技場に引きずり出すには、ラッシュ・フォースより目立てる可能性を残しておかなければならない。闘技場に出てきた後は、じわじわと実力差を広げて見せる。そうすれば、必ず本性を現すはずだという。


(そんな面倒なことしなくたって、彼らが私の近くに来たら、イオトカ君が(そそのか)しちゃうんだよね~)


    *    *    *


 闘技場に降り立ったシャイニング・スターズのメンバーは八人。リーダーのダルバスは、メンバーの他に補助要員として盗賊仲間をなんと三十人も搔き集めてきていた。そのほとんどが弓矢や攻撃魔法で遠隔攻撃を行える凶悪犯罪者たちだ。メンバーの八人と合わせて三十八人。ダルバスはこれでも十分だとは思っていない。闘技場に溢れ出た魔物(モンスター)から自分の身を守りつつ、ラッシュ・フォースを始末して、討伐でもそれなりの成果を上げるには、五十人は欲しい。だが、高額報酬をちらつかせても、この人数を集めるのが限界だった。裏社会でも、シャイニング・スターズが落ち目であることが知れ渡っており、生存競争の厳しい世界では、沈みかけた船に乗る奴はほとんどいない。今回、ダルバスの呼びかけに答えた連中は、金に困っているか、血に飢えている者たちであった。

 ダルバスもそのことは承知している。こいつらの戦闘力は、あてにはならない。だからダルバスは、闘技場に降りて、魔物(モンスター)が近づいてきたとき、仲間の指揮もとらずに真っ先に逃げだした。リーダーが逃げたのだから、他のメンバーや盗賊仲間も後を追って逃げ出すのは当然だった。盗賊仲間といっても、彼らは所詮は烏合の衆。魔物(モンスター)との戦闘経験は皆無だ。ダルバスにとって、彼らはもともと、盾にするか、魔物(モンスター)を足止めする餌にするための要員だった。登場していきなり全滅したら意味がない。だから、最初はひたすら逃げ回った。あちこち逃げ回って、まだ一人も死んでないのが不思議なくらいだった。

 魔物から逃げながら、ラッシュ・フォースの近くまで来ると、ダルバスは追いかけてきた仲間たちに、ラッシュ・フォースへの攻撃を命令した。すると、魔物(モンスター)への恐怖が薄まってきていたメンバーの二人が詠唱を始め、先に詠唱を終えた一人がファイアーボールを放った。


 ぼふっ!


「「ぎゃー!」」


 どぶしゅー!


 その魔法はラッシュ・フォースに届く前に掻き消され、その瞬間、魔法を放って無防備になった二人が近くにいた魔物(モンスター)に襲われ、ふたり揃って臍の辺りで胴が上下に切り分けられ、散水するように血を撒き散らしていた。


「何やってんだ! 相手はただの人間だぞ! さっさとやれ!」

 逃げ回る仲間たちにダルバスがそう指示すると、ある者は魔法で、あるものは弓で攻撃を開始する。しかしいずれも、ラッシュフォースには届かなかった。そして、彼らを攻撃した者たちは、まるで呪われたかのように、(ことごと)魔物(モンスター)に食われ、引きちぎられ、血みどろの肉塊になっていった。


    *    *    *


 やり過ぎず、時間を掛けて、じわじわとシャイニング・スターズを追い込む。そういう計画ではあったが、物事は必ずしも計画通りには進まない。


 ユリたちの目の前に現れた名前も知らない魔物(モンスター)は、体長四メートル、体高二メートルほどの、亀とアルマジロのキメラのような化け物で、ドーム状の硬い甲羅があり、長さ三十センチはある爪と、鋭い牙を持っていた。イノシシのように突進してきたので、ダンジョンでタートルベアに出会ったときと同じく、ユリの防護障壁に激突させて、爪と牙を破壊して動きを止めた後、ウルフが大剣で、ジェイクが拳で始末した。観客からは、ウルフとジェイクが目にもとまらぬ技で、その魔物(モンスター)の動きを止めたように見えただろう。


「マリエラさん。なんだったんですか、今のは?」

「何って、あんたが放したやつでしょうが」

「違いますよ。だいたい、収納したことを覚えてないものは取り出せないから、間違いありません」

 ユリがもう少し巨大生物に詳しければ、それがアルマジロの祖先の親戚であるグリプトドンに極めて似ていることに気付いただろう。それが地球上で絶滅したのは僅か1万年前のことであり、この世界で生き残っていて、さらに魔物(モンスター)となっていても不思議ではなかった。


 一方、ゴブリンは王都に来るときに街道で出会って、一部を収納した奴らだ。全部で三十体ぐらいしか収納できなかったので、本来の群れの数からすれば三分の一にも満たない。

 こいつらは、一体ずつ倒したくても、ゴブリンは一人の人間に対して一度に十体が襲い掛かる。似たような習性の魔物(モンスター)は珍しくなくて、そういったのは出会ったときにまとめて始末せざるをえない。だから、マリエラとミラが連携して複数を一度に攻撃するのだが、その攻撃には打ち漏らしがあるので、そういったのは、ユリがアイテムボックスに入れて消している。

 狼は、こちらを襲う前に、他の魔物(モンスター)の餌にされていた。


(あぁ、もったいない! 無駄死にするなら出さなきゃよかった)


 初めのうちは、戦っているハンターはラッシュ・フォースとユリしかいなかったが、徐々に参加者が増えてきた。

 ユリは、他のハンターたちの活躍を支援こそしないが、魔物(モンスター)に殺されそうになっていれば、正面から襲っている魔物(モンスター)は防護障壁で足止めし、背後から襲っている魔物(モンスター)は砂煙を巻き上げてからアイテムボックスに収納して、ハンターたちを保護していた。

 ユリは気がつかなかったが、保護した人間には、シャイニング・スターズのメンバーや盗賊一味も含まれていた。彼らは、ラッシュ・フォースと成果を競うこともなく、ほとんど逃げ回っていて、たまに弓矢やファイアーボールを撃ったかと思えば、なぜか的を外してユリたちの方に飛ばしてくる。ユリが防御魔法で防ぐと、そのタイミングで攻撃者が魔物(モンスター)に襲われてたりするが、そんなものまでは相手している暇はなかった。

 とにかく面倒くさい作業だ。だんだんと苛々してくるので、ときどき隠れて攻撃したりもする。


 しゅぴっ! どんっ!


 最初の音は、闘技場の反対側で死にそうになっているパーティーをユリが見つけ、極細の荷電粒子ビームで魔物(モンスター)の頭を打ち抜いた音だ。普段なら音はしないのだが、砂埃が舞っていると音が出てしまう。荷電粒子ビームは、通過した空間にあった分子を抱え込んだまま飛ぶため、その分子が断熱圧縮されて、やがて勢いを失って、闘技場の壁のような密度の高いものに当たったときに、火魔法の焔弾のように爆発する。

 観客からは、一瞬、ピンと張った蜘蛛の糸のようなものが光って見えたかもしれないが、それがユリの放った魔法だと気づいた者はいない。

 そして、今の攻撃で動きを止めた(既に死んでいる)魔物(モンスター)を、襲われていたパーティーが仕留め、その近くにいた観客が歓声を上げていた。


 ユリは、面倒だといいつつ、この戦闘を楽しんでもいた。討伐に参加したハンターたちの使う魔法が千差万別で、初めて見る魔法の数々に興奮していたからだ。ほとんどの魔法は、ユリの実力に比べればレベルの低いものだったが、自分の実力を自覚していないユリにとっては、たとえそれが子供にも扱えるような魔法であったとしても、とても興味深かったのだ。


「あ、今のって、魔法で手裏剣のようなものを飛ばしてましたね。

 あっちは氷の剣ですよ! あぁ、砕けちゃった。

 ああっ、刀に焔を纏わせている人がいるじゃないですか。

 あれは魔剣士さんですかね。ああ、でも、刀が溶けてきてますよ。

 駄目ですよ、そういうのは伝説の素材で作らないと。

 あ、あっちの剣士さんは、自身が独楽みたいにぐるぐる回って。

 ああっ、敵に当たったと思ったら、弾き返されちゃいました。

 やっぱり駄目ですね、ああいう目立ちたがりの技は。

 おおっ、あれは小さな砂嵐で魔物(モンスター)にヤスリ掛けしてますよ。

 血飛沫を巻き上げながら、がりがりがりがりと。

 あぁぁ、これはかなりグロいですね。スプラッタです。

 この徐々に体表が削られていく光景は子供には見せられませんよ!」

「ユリ、戦ってる最中に、気味の悪い解説はやめて!」

「えっ? 声に出てました?」

 ユリは元気のあるときは、考えたことを声に出して、独り言を言ってしまう癖がある。声に出さないのは、意識してそうしているか、疲れ切ったときだけだ。


 そうやって、ハンターたち(主にユリとラッシュ・フォース)の奮闘により、闘技場の魔物(モンスター)は徐々に数を減らしていき、やがて最後の一匹を倒すと魔物(モンスター)の数はゼロになった。闘技場に溢れた魔物(モンスター)の約半分は、戦闘中にユリがアイテムボックスに再収納していたのだが、大乱戦の中でそんなことに気付いた者はいなかった。


 これで終わった、誰もがそう思ったとき、そいつは現れた。


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