38 勇者討伐【シャイニング・スターズ編4】
あの後、リーダーのウルフが渋い顔で考え事をしている。考えていることは恐らく、この事態の発生原因、被害、そして自分たちの安全と仕事への影響だろう。
そんなところに、ユリが能天気な質問をしてきた。
「それにしてもリーダー。何であんなのが出たんですかね?
そもそも、何処から来たんです?
あれはダンジョンの通路の入り口側から来ましたけど、マリエラさんが言ったみたいに、ダンジョンに出る奴じゃないなら、外から来たってことになりますよね。ダンジョンに蛇口やシャワーがあって、そこから出てきたわけじゃないですよね?
てことは、もしかして今頃は王都が壊滅状態になってるとか?
戻って街が無くなってたらどうしましょうか?
今夜の宿も、ご飯を食べるところもありませんよ」
「おまえの心配するところはそこかい!」
ユリが王都の心配をしていたら、リーダーのツッコミが入った。
「え~っ、だって、浦島太郎みたいに戻ったら全然違う世界になってたとか、砂漠を彷徨った挙句、あぁこの砂山を越えたら水と食事にありつけると思ってたら街も砂漠になってて絶望して干乾びて死んじゃったとか、よくあるじゃないですか。
だったら最初に心配すべきは生存に不可欠なものです!
それに、ご飯を食べるところが無いだけならまだいい方で、出たら私たちが魔物のご飯にされるかもしれないんですよ。
それは戻ってからじゃ遅いんで、今から対策しないといけません」
「ユリ、おまえが脳内小説の話をしていることは分かった。
それと王都が壊滅していたときの対策だが、おまえは辺り一面骨だらけのここで何をしようってんだ?」
「うっ……」
「それと、何処から来たかだが、たしかにあれはダンジョンの入り口側から押し寄せて来たが、ここを含めて地下ダンジョンには何本もの換気のための縦穴がある。魔道具を使って、第一階層から最深部に向けて、強制的に空気を送り込んでるんだ。実際はもう少し複雑な仕組みなんだが、まあ、それはいい。
俺が言いたいのは、そこを使って最深部から何かしら這い上がってくるものがあってもおかしくないってことだ。
或いは、何者かが魔道具の類の実験をした可能性もある」
「そんな魔道具があるんですか?」
「知らん!」
「軍事用の魔道具ならぁ、大規模術式を封じたものもありますからぁ、無いとはいいませんけどぅ、軍事機密ですからぁ、教えてくれる人はいないでしょうねぇ。でもそれを、ここで使う理由がないですねぇ」
「使うなら街中で使うだろうからな」
「結局、原因不明ですか。
王都が無事かどうかも戻ってみるまで分からないと」
「そうだな。無事である可能性が残ってるってだけだ。
だが、無事なら戻ったときに報告せにゃならん。
だから、もう暫く先に進んで様子を確認する」
リーダーのその一言で、探索の継続が決まった。
「それにしても、あんなの対処しようがないじゃないですか。
あれに比べれば、スケルトンに襲われた方がよっぽどマシです。
まだ遭遇したことはありませんけど」
「ははは、ユリはスケルトンの方がマシか。
たしかにスケルトンが相手なら、俺やジェイクでもぶん殴れるもんな」
「ちょっと、ウルフ、変なこと言ってると、本当に出るわよ。
あの嵐にスケルトンだって巻き込まれてたかもしれないんだからね」
「いやですね~、マリエラさんってば。
なろう小説じゃあるまいし、そんなベタなお約束、あるわけないじゃないですか~」
「ユリ、あんた子供が何か期待するような、キラキラした眼で何言ってるのよ」
そのときだった、ユリとマリエラの二人の間の地面に転がっていた骨のひとつがピクリと動いたのだ。
「「えっ?」」
それに気づいたユリとマリエラが声を上げていた。
(いやいやいやいや、今のって、土石流で変な風に積み上がってたのが崩れただけだよね?)
そんなユリの希望的観測を否定するかのようにミラが言う。
「邪気の流れがありますねぇ」
「邪気? ミラさん、それマジですか!?」
するとあちこちで、散らばった骨がカタカタと音を立てて集まり始めた。そして、集まった骨は徐々に形を成していった。
その様子を、ユリが再び防護障壁を張って、ゆっくり観察する。
猿のようなもの、狼のようなもの、猪のようなもの。骨なので元が獣なのか魔物なのかは区別がつきにくいが、タートルベアだけははっきりと分かった。驚いたことに、元は 大蠍や 冷鉄蟷螂だったものらしき外骨格までもがいる。
「スケルトンってのは、元脊椎動物だけじゃないんかい!」
ユリの叫びに、マリエラが答える。
「溶け残ったものがあれば、何だっていいんでしょ。
あっちに、白いフナムシを巨大化したみたいなのが群れでいるけど、あれ、元は多分……、いや、いいわ、聞かなかったことにして」
同一個体の骨であることに拘りがないのか、なかには左右の手足の大きさが違ったり、大蛇の骨の頭が大きな牙のある猪になってたりするものもいる。ミラが丁重にお祈りしたお蔭か、さっき埋葬した人骨がスケルトンにならなかったことだけが救いだった。
各種スケルトンは、辺り一面、無数にいて、一個体ずつ退治してたら、ユリたちはすぐに力尽きてしまうだろう。かといって、ユリの魔法でこの数を退治しようとすると、ダンジョンも破壊して、間違いなく全員が生き埋めになる。
「ええっと、どうします? リーダー」
「ミラ、あいつらをまとめて浄化できるか!?」
「数が多すぎると思いますねぇ」
「ミラさん、私、全力で支援しますから、ぜひやってみてください」
ユリは、直ちに周囲に堅固な防護障壁を張ると、スケルトンの侵入を防ぎつつ、エティスの加護によるミラの浄化魔法の強化とミラの魔力の支援を強く願った。
ミラが詠唱を始めると、マリエラは小声で詠唱して、万が一スケルトンが侵入してきたときのための攻撃の準備をする。
ミラの詠唱はいつ聴いても美しい。自動翻訳されないので、詠唱の言葉は全く分からないのだが、清らかな歌声のように聞こえる。それが浄化魔法のせいもあるのだろう。聴いているユリの心も奇麗に洗い流されていくのを感じていた。
がんっ! がんっ! がんっ!
押し寄せてきたスケルトンが、防護障壁に行く手を阻まれて、ある者は頭突きし、ある者は大口を開けて牙を剥いて威嚇し、ある者は他の者から奪った骨で殴りつけ、またある者は体当たりしてきている。
防護障壁に守られているとはいえ、それらのスケルトンを目の前にして、ミラは恐れることもなく、淡々と詠唱を続けている。
すると、ミラを囲むように、少しずつ周囲がほんのりと淡く光り始め、その光は徐々に範囲を広げていき、やがて目の届く限り、辺り一面が心温まる光に包まれた。そこが光に満たされた世界になると、その中にいたスケルトンたちは動きを止め、少しずつひび割れ、ポロポロと細かく砕け落ちていき、やがて全てが形を失って白い土と化した。
スケルトンが全て土に還ると、ミラは詠唱を終え、大きく深呼吸して言った。
「皆さん清らかな死を迎えてくださいましたねぇ」
ミラ以外の四人は、スケルトンがまだどこかに隠れて残っていたりしないか警戒していたが、再び登場する気配がないと分かると、全員が力を抜き、ほっと息をついた。
「ミラさん、凄いです! 見事です!
今度ぜひ、広場か教会でリサイタルを開きましょう!」
「ミラ、あんた、こんなに凄かったっけ? まるで大聖女じゃない!」
「ユリさんが、何か手伝ってくださったんですかねぇ?」
ミラがユリに視線を向けてきたが、ユリはそっぽを向いて否定した。
「いえ、私はミラさんの浄化魔法の効果が強くなるといいなって、お祈りしてただけです」
祈った相手が、掟破りのエティスだったことを除けば、ユリが祈っただけというのは事実だった。
「まあ、それじゃあ、ユリさんには、これからもお祈りしていただきましょうねぇ」
「お祈りなら、まかせてください」
「それにしても、スライムストームに遭遇しただけでも、あたしたちが生きてるのが不思議なくらいなのに、その後にスケルトン軍団って。
あれがいつもセットになってるなら、スライムストームからの生還者がいないのも頷けるわ」
「ラッシュ・フォースの皆さんなら、大丈夫だって証明されたじゃないですか」
「馬鹿言わないで。あんたがいなけりゃ全滅してたわよ。二度と御免よ」
「私はお祈りしていただけですよ」
「それはもういいって」
「ところで、リーダー。
他に私たちを追って来てたのがいたとしても、もう、少なくともダンジョンには残ってないと思うんですけど、この後どうします?」
「もともと返り討ちにする場所はここじゃない。
予定通り、もっと先に進もう」
* * *
「リーダー。気持ちいいくらい、何もいませんね」
「あれから五階層も下りて来ましたけれど、何もいませんねぇ」
「スケルトンもいないな。
ここも床一面、白い土で覆われているし、ミラの浄化魔法はここまで及んでたのか」
「凄いです!
ミラさんは、ダンジョン丸ごと浄化しちゃったかもしれません!
リッチとかゴーストとかレイスとかゾンビとか、きっとアンデッド系は全滅ですよ!」
「アンデッドはともかく、普通の魔物もいないじゃない。
いくら何でもいなさ過ぎよ!
あのスライム野郎、何階層分の魔物食い荒らしてったのよ」
「ミラさんの浄化魔法を嫌って、逃げて行ったのかもしれませんね」
「困ったな。もっと多くの黒虎狼とか、石頭猪とかの群れをやり過ごしてから戻るはずだったのに、雑魚すらいないのか。
跡を付けてきてたのも、さっき骨になってた連中だけか」
「一度戻りますか?
もっと地上に近いところで、シャイスタも骨になってるかもしれませんし」
「そうだな。さっきスライムストームが発生した時点で、俺たちの計画は破綻してたんだ。これ以上奥に行っても無駄だろうな」
元々の計画では、ユリとラッシュ・フォースのメンバーは、魔物の群れを躱しながらダンジョンの中層辺りまで行き、そこから一気に全ての魔物を地上まで追い立てて意図的にスタンピードを引き起こして、コロシアムで討伐ショーをする予定だった。その計画は、ハンターギルドにも伝えてある。ユリたちは、討伐ショーで、シャイニング・スターズの化けの皮を剥がす計画だったのだ。
しかし、ダンジョン内でスライムストームが発生し、その後の浄化魔法の影響もあって、そこから下層の魔物がいなくなってしまった。残りは全て、深層に逃げてしまったことだろう。あのスライムストームが、どこから湧いて出たのか分からないが、その地点より上の階層の魔物なら多少は残っているかもしれない。しかし、スタンピードと言えるほどは残ってはいないだろう、というのがリーダーの考えだった。
「あのう、リーダー。問題になっているのは、闘技場でする討伐ショーに出演させる魔物の数が足りないってことですか?」
「ああ、ここから地上までじゃ、横穴に潜んでた雑魚しか残ってないからな」
そこでユリがとんでもない提案をした。
「私、結構な数の魔物、生きたまま捕獲してありますけど、使います?
あっ、スケルトンについては『生きたまま』じゃないですけど」
「「「「はぁ!?」」」」




