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37 勇者討伐【シャイニング・スターズ編3】

 ユリたちは、その後も順調に、出会った魔物(モンスター)を全員で討伐(あるいはユリが収納)しながら先に進んでいたが、先程から怪しげな連中がユリたちの跡をかなり離れて付けて来ていることに、ユリは気がついていた。

 あの物陰にいるのは、ユリたちが撒いた餌に引き寄せられた者たちだろうか。

 人数は六人。ユリたちが魔物(モンスター)を相手にしながら進んでいるというのに、連中は付かず離れず跡を追ってきているので、尾行しているのだということはすぐに分かった。ユリたちの釣りのターゲットとなっているシャイニング・スターズは貴族の庇護を受けた看板パーティーだが、撒いた餌に食いついてきたこの六人は身なりが良くないし人数も違う。

 ユリは、こいつらを普通の盗賊パーティーだろうと判断し、追い払うこともなく放置することにした。それは釣りをするときの基本だ。余計な魚が寄って来たからと、慌てて騒げばターゲットに逃げられてしまう。


    *    *    *


 やがてユリたちは、天井が高く幅広い、フロアと言ってもいいような通路に出た。ここまでの通路と異なり、通常の照明だと反射してくる壁も天井も見えなくなったので、そこからは光魔法のサーチライトを追加して、四方を照らしながら進んでいた。


(このダンジョンが砂に埋もった古代建築物の成れの果てだとして、屋上から数階下のここは何だろう。この下に更に数十階あるのだとしたら展望階のパーティー会場とか?

 だったら、外を眺めるような場所が有ったりするのかな?

 でも、エレベーターとかがないと、お客さんが登ってくれないよね。

 そういう設備も、どこかにあったりするのかな?)


「ここは王都の神殿の大回廊より広いですねぇ」

 ミラは、自分が知る中で一番広い回廊と比較していた。

「ここならブロントサウルスでも通れそうですよね」

「まぁ、ユリさん。

 それはもしかしてぇ、ウィスポーリオの雷竜伝説に登場する、ミギラアウンツラの生きもののことでしょうかぁ?」

「あ、いえ、そんな御大層なものじゃなくて、ただの昔いた大トカゲのことでして……」


(ちょっと、自動翻訳ちゃん。

 あんたいったい『ブロントサウルス』は何て訳したのよ。

 それと、ウィスポーリオとかミギラアウンツラって何?)


 ユリがミラの受け答えに戸惑っていると、ミラが何かの異変に気がつき、直前の遣り取りから想起した発言をした。

「あらぁ? あれは雷竜のイビキでしょうかぁ?」


 それは、最初は小さな騒音だった。


 ごぉーーーーーー。


「ん?」


 ごごぉーーーーーーーーー!


「んん?」


 ごごごごぉーーーーーーーーーーーー!


「んんん?」


 さっきから後方で巨大な石臼でも挽いているような騒音が聞こえていて、それがだんだんと近づいてきたと思ったら、ビカッ!と強い閃光が走った。


 ががんっ!! ごろごろごろごろ!


 どどどどどどどど!


「ふぇ!?」


 雷鳴だ。

 それと同時にリーダーが叫んだ。

「全方位に防御結界!! 頭上と地中も忘れるな!!」


 ユリは、移動中も物理耐性のある防護障壁を周囲に張りっぱなしにしていたが、リーダーの指示は魔力や高熱や強い光も防ぐ防御結界だ。最初ドーム状の防御結界に切り替えたが、リーダーが「地中も」なんて追加注文するから、慌てて地面の結界も追加する。床付きドームの防御結界なんて、ユリは聞いたことも使ったことも無かったが、やってみたら出来た。


(それにしてもダンジョンの中で雷!?

 ってことは、嵐が来る!?

 リーダーは、その嵐の中、地上と地中の両面攻撃があるって言うの?)


 今回、結界を張るのはユリだけではない。ミラとマリエラの二人も防御結界の詠唱を始めていることが、事態の深刻さを物語っていた。


 どどどどどどどっ!!

 がっ! がががっ! がん、がん! がつっ! がつっ!


 ユリが防御結界を張り直した直後に、ドーム状の結界が豪雨と雹に叩かれ、結界の外は膝の高さまで粘り気のある液体がどろどろと流れて来て、その液体に押し流されてきた何かが頻繁に結界にぶつかって、衝突の際に赤や緑の魔力の光を放っている。そのぬめぬめとした液体自体が強い魔力を帯びているようだ。

 更に、いつの間にか地面から染み出してきた液体が、地面と結界の床との間に溜まり、結界のドームを浮き上がらせようとしていた。


(うわっ!)


 ユリは慌てて結界を地殻を起点に固定して、浮いて流されることの無いようにする。

「なんでダンジョンの中で集中豪雨と土石流みたいになってるですか!

 線状降水帯ですか!

 リーダー、何なんですか、これは!?」

 豪雨の騒音が酷く、ユリが大声を出して訊ねると、リーダーのウルフが同じく大声で返してきた。

「これは、スライムストームだ!」


 どどどどどどどっ!!

 ばりばりばりばりばりっ!!


「はいいっ?」

「スライムが何万、何十万と集まって、互いを溶かし合って津波のように押し寄せて来てるんだ。その(なみ)飛沫(しぶき)が魔力の突風を生んで、スライムの嵐を引き起こしてるんだ」

「ちょっと待ってください。

 さっきから、これ、中でビカビカ稲妻が走りまくってますよ!

 なんで天井の低いダンジョンの中に雷雲があるんですか!

 完全に嵐じゃないですか!?

 おかしいでしょう!」


 ががんっ!! ごろごろごろごろ!!

 がらがらがらがらがらっ!!


「リーダー! 大変です!

 結界の天井に降ってきてるの、(ひょう)かと思って、よくよく見たら何かの骨です!」

「それは溶けた獣や魔獣の死体の残骸だ!

 あの雨や波に触れると、肌も肉もどろどろに溶かされちまうから、絶対に触れるなよ!」

「うあぁ! リーダー!

 荒波と一緒に、何か色んな骨が押し寄せてきてますよ! ひぃー!!

 ミラさんもマリエラさんも、何で平気なんですかぁーー!?」

 ホラーの苦手なユリが、珍しく弱音を吐いていた。


『『怖いに決まってるでしょう!!!』』

 そう言いたいのを我慢して、ミラとマリエラは結界の重ね掛けで詠唱を続けていた。圧倒的な力の前で、もしも結界が破れるようなことがあれば即死亡する。二人はユリの結界が強固なことは知っているが、自分の命をそう簡単に他人(ひと)任せにはできない。だから二人は必死に詠唱を続けていた。


「リーダー、これってダンジョンじゃ日常茶飯事なんですか?

 大丈夫なんですよね!? 大丈夫と言ってください!!」

「いや、俺も実際に出くわすのは初めてだ!

 なんせ、遠くから見た奴はいても、中に入って帰ってきた奴は一人もいない。だから、大丈夫かどうか俺にもわからん!」

 その言葉は、ユリには諦めろと言っているようにしか聞こえなかった。

「そんなぁ~~!」


 ユリは、いくら自分が死なないと分かっていても、ひとりだけ生き延びるなんて絶対に嫌だ。そう思って、必死に仲間に対するエティスの加護を祈り続けた。

 スライムの恐怖の嵐は、一時間ほど続いただろうか、段々と風雨が治まり、あたりに骨の山を残して嵐は過ぎ去った。嵐の跡だというのに、水気が全く残ってないのは異様だった。

 床一面に白い骨の欠片が敷き詰められ、それが魔法の照明を反射して、心なしか周囲が明るくなっている。


「ふぇ~~、死ぬかと思いました~~」

 ユリにしては珍しく泣きごとを言った。


    *    *    *


 ユリは怖かった。ひたすら怖かった。

 狼の群れも、黒虎狼(マーナガルム)の群れも、タートルベアも、ユリは怖いとは思わなかったし退治もした。しかしスライムストームに対しては、自分たちの身を守るので精一杯で、退治なんて考える余裕すらなかった。


(これって、魔物(モンスター)と自然災害のキメラなのかな?

 そんなのってあり?

 まさか、大地震とか火山とか巨大隕石とかと合体しないでしょうね?

 絶対にやめてよね!)


「リーダー、スライムストームって魔物(モンスター)なんですか?」

「いや、魔物(モンスター)ではなくて、魔力の災害、魔災だな。最初はスライムの集合体なんだが、スライム自身も溶けちまって、スライムの胃液と魔力だけの存在になっちまってるからな」

「ウルフ!! 何なのよあれは!!

 ダンジョンに出る奴じゃないでしょ!!

 一度の出現で村が三つ消える奴じゃない!!

 何であれがここにいるのよ!!

 しかも後ろから、入り口側から来るってどういうことよ!!」

「そんなの俺に言われたって分かるわけないだろうが」


 後ろから来るはずがなかった。

 それがラッシュ・フォースとユリたち全員の認識だった。

 彼らはダンジョンの入り口からここまで、全ての魔物(モンスター)を吟味し、一体残らず、排除するか放置するか決めながらきたのだ。だから、自分たちの後ろ側は、ダンジョンの入り口までスライムはいないはずだった。

 にも(かか)わらず、スライムストームは背後から来た。

 それはダンジョンの神秘なのか、あるいは悪意のある者の仕業なのかは分からないが、何か特別な理由があることは間違いなかった。



 ミラは、さっきまでの恐怖はどこへ行ったのか、周囲に散らばった白い骨を、膝を曲げて興味深そうに見ている。これが海岸で貝殻を拾ってる姿なら絵になるのだろうが、残念ながらミラがあれこれ見ているのは骨だ。

「随分と大きい骨ですねぇ。

 あれなんて、一本でユリさんの背丈くらいありますよぅ。

 あ、あっちは今日出会った、タートルベアの甲羅ですかねぇ?

 今日退治した子の二回りくらい大きいですねぇ」


 そういうミラに倣ってユリも辺りの骨を見ていたら、離れたところに嫌なものを見つけてしまった。

「リーダー。あっちにあるのって、人の骨じゃないですか?

 さっきから私たちの跡を付けてた人たちの」

「なにっ!!」


 見つけた骨に近寄ってみると、他の獣や魔獣の骨と一緒くたになってしまっていて、はっきりとした判断はできないが、確かに人間のものと(おぼ)しき頭蓋骨とハンターの装備が残っている。


「また、面倒なもんを見つけたもんだな。

 俺たちの跡を付けてたってだけじゃ、盗賊とは断言できんからなあ。

 悪党じゃなくても、自己責任だから同情はせんが、埋葬して、ハンターギルド証くらいは拾って、持ち帰ってやるか」


(ありゃま、ハンターギルド証って、軍人の認識票みたいな扱いなんだ)


 ユリは、これだけ骨だらけの場所で、人の骨だけを埋葬する意味があるのか疑問ではあったが、リーダーの指示に従って、骨と遺品を拾い集め、骨は埋葬した。埋葬すると言っても、下の階層があるので深い穴は掘らず、浅く掘って埋めて土を被せるだけである。


 ミラが土饅頭に祈りを捧げている間に、ユリはリーダーと会話する。

「彼ら、性別不明だから彼女らかもしれませんけれど、全然お金持ってませんでしたね。骨は六人分あるのに、ハンターギルド証は三人分しかありませんでしたし。何なんですかね?」

 ダンジョンに潜るには、ハンターギルド証が必須で、持たずにはいるのは違法行為だとユリは聞いていたし、ここの闘技場に入る前にハンターギルド証をチェックされていたので、それを持たない人間がいたことが不思議だった。


「食うに困って無理な盗みをしようとしやがったのか。アホな奴らだ」

「そうとも限らないんじゃない?

 ギルド証のチェックは二人でやってたし、普通なら見落とさないでしょ。

 大勢で来て、強引に通させた奴がいたんじゃない?」

「シャイニング・スターズか?」

「そう」

「なら、あれはその斥候か。だったらやっぱり、アホな奴らだ」


(そういえば、修学旅行やツアーの団体旅行だと、改札をまとめて通すとかしてたっけ。二十人規模の団体なら、いちいち見てないのかもね)

 あいかわらず自分の世界に入り込んでいるユリであった。


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