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36 勇者討伐【シャイニング・スターズ編2】

 王都に到着した翌々日の朝、ユリとラッシュ・フォースのメンバーは、コロシアムの闘技場に入り、その中心にあるダンジョンの入り口の前に立っていた。ユリは誰かが監視しているかもと思い、闘技場を囲む観客席を見回してみたが、今は誰一人いない。

「ではいくぞ」

 リーダーのウルフの号令に従い、一行はダンジョンの中に入っていった。

 このダンジョンもまた、ユリがレッド・グレイブと一緒に潜ったダンジョンと同じく、巨石と巨岩を組み上げて作られていた。ただし、あちらと違い、入り口に特別の仕掛けはなく、普通に階段を使って階下に降りていく。


「ねぇウルフ。シャイニング・スターズの連中、襲ってくると思う?」

「分からん。今回はまだ、様子見かもしれん」

「撒いた餌が小さ過ぎたとか、逆に大き過ぎたってことはない?」

「あれぐらいで丁度いいはずだ」


 ユリたちは、王都に来て仲間と相談した翌日、ハンターギルドで餌を撒いていた。

 ハンターギルドには、毎日の決まり事のように、怪我をしたハンターたちが運び込まれている。

 ユリたちは、その日の昼過ぎに、魔物(モンスター)に襲われて重傷で担ぎ込まれたハンターに、栄養ドリンクを超高級治癒ポーションと称して飲ませ、ユリが無詠唱で患部が光ることのない治癒魔法を使って完璧に治療して見せたのだ。そのハンターの仲間が、ブライアス金貨三枚(小麦価格換算で約三百万円)の支払いを申し出て、それは治療内容に見合った価格だったが、今回は勝手に使ったものだから押し売りすることは出来ない、無償でよいと気前よく代金の受け取りを断った。

 そしてそのポーションをまだ十本ばかり持っているので、一本ぐらい構わない。だたし、残りは自分たちの為のものなので誰にも渡せないと公言してきたのだ。それとなく、翌日に朝からコロシアムのダンジョンに潜るということも伝えてある。その会話をシャイニング・スターズの盗賊仲間が見ていることを期待してのことだったが、たとえ見られていなかったとしても、噂になって翌日までに盗賊連中に伝わるはずだと考えていた。


 ユリは最初、自分の収納バッグを餌にしようと申し出たが、それは却下されていた。それは餌としては大き過ぎ、下手すると王侯貴族が権力を使って奪いに来かねないからだ。今回の偽ポーションならそこまでの価値はない。そして、この仕事の後で、みんなが見ている前で全て割ってしまえば、後腐れなく終わることが出来る。


 そうして今日のダンジョン探索を迎えたのだが、今のところラッシュ・フォースの跡を付けてくる者はいなかった。


(まったくダルシンてば、アイテムボックスを隠すために収納バッグをくれたのはいいけど、その収納バッグもレアアイテムなんじゃ全然使えないじゃないの。

 この際だから、私が大量生産してばら撒いちゃおうかな。

 ダンジョンで見つかるレアアイテムってことにすればどうだろ?

 あぁ、でも、シャイスタみたいなのに悪用される可能性があるから、大量生産する収納バッグは、それを所持していることが簡単に分かるようにしないと駄目よね。う~ん、……)

 相変わらず、勝手なことを考えているユリであった。


    *    *    *


 話は少し遡る。

 シャイニング・スターズのメンバーは八人いる。そのリーダーであるダルバスは、ユリたちが王都に移動している最中に、他に六人の補助要員をつれて王都のダンジョンのひとつに潜っていた。補助要員の人数は、日によって違う。

 国が定めた規定では、ダンジョンに入っていいのはハンターギルド証を所持する者に限られていたが、この日のシャイニング・スターズの補助要員六人のうち、ハンターギルド証があるのは三人だけだった。ダルバスが、補助要員のハンターギルド証を提示させず、口頭で全員ハンターだと偽って申告していたのだ。本来なら、そのような行為は許されないのだが、シャイニング・スターズはブルックナー伯爵の庇護を受けて、勇者パーティーの称号を得ていたので、ギルド職員は文句を付けることができなかった。

 補助要員のうち、三人がハンターでなかったのには理由がある。この補助要員の全員が王都に本拠地がある盗賊団の一員で、盗賊であることが明らかな三人はハンターギルド証を取れなかった、もしくはハンターギルド証を剥奪された者たちだったからだ。

 ダルバスが、そのような者たちを仲間にしたのは、シャイニング・スターズのメンバーの力量が、勇者の称号に値しないほど低い自覚があったからだった。パーティー結成当初はパーティーメンバーだけで活動していたが、一度ダンジョンで死にかけてからは、補助要員を付けるようになった。盗賊団を頼ったのは、盗品を売りさばくために彼らと関係を持っていて、盗賊行為をする関係で、血を見ることに慣れた盗賊団を使うのが一番都合がよかったからだ。


 そして、ラッシュ・フォースがダンジョンに潜る前の日のこと。

 この日、ダンジョンから戻った後のダルバスは機嫌が悪かった。

「クソッ! 今日の獲物はたった一組かよ」

 ダルバスは、稼ぎの少なさに悪態をついた。


 シャイニング・スターズたちは、ダンジョンで四人組のパーティーを襲撃して、武器や所持品を強奪したうえで、魔物(モンスター)に襲われたように偽装して、死体を放置してきていた。それなりの稼ぎにはなったはずだが、彼らは現在、盗賊行為以外にダンジョンでの収益がなくて、彼らが盗賊行為をしていることを承知で庇護しているブルックナー伯爵に上納金を納めなければならなかったので、四人襲った程度では完全に赤字だった。


 そんなとき、ダルバスの(もと)に、手下にしている男が知らせをもって駆け込んできた。

「親分、てぇへんだ!!」

「馬鹿野郎! ここは盗賊団じゃねえんだぞ!

 俺のことはダルバス様と呼べと何度言ったら分かるんだ!」

「すんません、ダルバス様。

 それで、知らせなんですが、ハンターギルドでいいカモが見つかりやした」

「カモだと? どういう奴だ」

「へい。今日の昼過ぎに、ギルドに大怪我して死にそうになったハンターが担ぎ込まれたんで」

「はぁ? そんなこたぁいつものことだろうが」

「そうなんですが、今日はそいつに超高級治癒ポーションを気前よく只でくれてやった奴がいたんで」

「超高級治癒ポーションだと?」

「へい。いつ死んでもおかしくない怪我してたのに、すぐに治っちまったから、ありゃ相当いい品でさぁ。それで、治療された奴の仲間が、ブライアス金貨三枚(小麦価格換算で約三百万円)を払おうとしたんですが、自分が勝手に使ったもんだからお代はいらねぇって代金を受け取るのを断って、まだ同じものを十本持ってるから一本くらい構わないって言ってたんで。ありゃ、相当金回りのいい奴で、襲えば持ち金の他にポーションだけでもブライアス金貨三十枚(小麦価格換算で約三千万円)の稼ぎにはなりますぜ」

「ほぅ。それで、そいつはどこのどいつだ。今どうしてる」

「名前は言ってやせんでしたが、男二人、女三人の五人組のパーティーで、明日、コロシアムのダンジョンに潜るって言ってやした」

「そうか、よく知らせてくれた。

 ほれ、駄賃だ。これで一杯やってきな」

 そう言って、部下にメスリー銀貨を一枚投げ渡し、部下が部屋を出て行ったのを見届けると、ひとり北叟笑(ほくそえ)んだ。

「俺にもツキが回ってきたじゃねぇか」


 そう言って彼は、撒かれた餌に食いついたのだった。


    *    *    *


 ユリたちがダンジョンに潜って、地下五階層まで来た。

 リーダーのウルフが『シャイニング・スターズが跡を追いやすいように』と言って、かなりゆっくりと進んで来たのだが、もしかしたらユリを気遣ってのことだったのかもしれない。

 ダンジョン内では陽が射さないので時刻が分からないが、疲れ切らないうちに休んだ方がいいからと、昼食を摂ることとなった。ユリが隠れて時計を確認するとほぼ正午。リーダーの腹時計はかなり正確だった。

 ちなみに、この世界の一日の長さは、ユリが数回確認した限りでは、教会が正午に鳴らす鐘に合わせたユリの時計が、翌日の正午の鐘では十分前後ずれているので、ほぼ二十四時間だが若干のずれがある。正確な天文学的な測定ではないので、教会の鐘がいい加減なのか、時計が魔法の世界で正常動作していないのか判断できない。一日の長さが地球と違うというのが一番ありそうではある。ともかく今は、ほぼ正午でまちがいない。

 排泄は、ここに来る前に新規に作成した収納バッグの携帯小屋の中に設置してきた簡易便所を使っている。バッグを振り回そうが、ひっくり返そうが、中身が零れる心配がない。普通は、そこいらの物陰でやってしまうらしいが、それだと出るものも出なくなるので、ユリは便所を持ち歩くという荒業に出たのだった。ダンジョン内は暗がりなので、誰かに見咎められる心配はないだろう。


 昼食を終えて、再び探索を始めると、暗闇の恐怖を紛らすためいろいろと雑談を始める。そんなとき、ユリが突然、爆弾発言を投下した。


「ところでリーダー。ダンジョンって何しに潜るんですか?」

「「「「はぁ!?」」」」

 ラッシュ・フォース全員の声がハモっていた。


「ユリ、おまえ、そんなことも知らないのか?

 レッド・グレイヴと一緒にダンジョンに潜ってたろうが」

「あの人たちはリハビリで魔物(モンスター)を相手してただけで、普通のハンターの探索目的は聞いてなかったんで……」

「呆れた奴だな。

 ダンジョン探索の一番の目的は素材採取、そして宝探しだ。

 素材ってのは、ダンジョンにいる魔物(モンスター)の特定部位が多いが、偶に鉱物を取ってくることもある。ただ、鉱物は無計画に採掘し過ぎるとダンジョンが崩落するから、専門家の採掘の護衛という形をとる。

 ユリがひとりで受けた、薬草採取の護衛みたいなもんだな。

 もちろん、薬草採取の護衛で潜ることもある」

「ああ、あれですか。あれはもう結構です。

 あっちはダンジョンじゃありませんでしたけど、あれも石頭猪(ハーディボア)の背中の苔が目的でしたね」

「まあ似たようなもんだな。

 依頼されるのは魔物(モンスター)の牙や爪や皮の依頼が多い。

 中には、目玉とか尻尾とか、あとはそう、雄の大事な部分とかもある。

 お宝ってのは、ときどき人が住んでいたような部屋が見つかって、宝飾品や武器が見つかることがあるんだ。すぐに根(こそ)ぎ持っていかれて、岩壁しか残らんがな」

「あぁ、そういうのが薬剤師に嫌われるんですね」


    *    *    *


 ダンジョンの奥へと進み続けるユリたちであったが、ここまでに出てきたのは雑魚ばかりだった。だが、それで油断した者が次の階層で死を迎えるのがダンジョンだ。

 実際、地下六階層で二頭のタートルベアに遭遇した。


 それは、ウサギ狩りしていたら熊に遭遇したようなものだった。

 タートルベアは、亀のような甲羅と鎧のような肌をもち、熊のような巨体と力と敏捷性をもつ魔獣。世間ではよく誤解されているが、熊はとても敏捷性の高い獣だ。タートルベアは熊ではないが、熊以上に、敏捷性が極めて高かった。それは、反復横跳びしながら突撃するかのように、通路の上下左右の床や壁や天井を蹴って目紛(めまぐ)るしく動き回って、声を立てることもなく、鋼鉄のような硬さの鋭い鉤爪で襲ってくる。ユリが、その話をリーダーから聞いたときは『ああ、白土三平が描く忍者みたいな動きですね』と言って、相手を困惑させていたが、まさにそのとおりだった。例えが悪かったことに気づいて『甲賀忍法帖のバジリスクの……』と言い掛けたら、バジリスクは全然違う魔物(モンスター)だと怒られてしまった。

 それはともかく、大抵のハンターは、その速度にも力にも対抗する(すべ)を持たない。はっきり言って、この階層に出現してよい魔物(モンスター)ではなかった。


 ユリたちに声を上げずに飛び掛かってきたタートルベアを見たときは、ユリは素直に感心していた。

(ああ、映画やアニメだと人を襲う前に吠える獣や魔物(モンスター)が多いけど、本物は獲物を襲うときに声なんか立てないんだね)


「ユリ、しっかりして!」

 マリエラは、考え事をしていたユリが恐怖で固まっていると思ったようだ。だがユリは全く心配していない。


 がきっ! ぼきっ!


「グウォーーー!」


 ユリが張っていた防護障壁にタートルベアの爪がぶつかる音が響き、同時に折れた爪と血飛沫が宙を舞い、動きを止めたタートルベアの悲鳴が轟く。


 ざしゅ! がごんっ!


 すかさずリーダーのウルフがタートルベアの左腕を大剣で切り飛ばし、ジェイクがその右足を拳で打ち抜いていた。


 どすっ!!


 最後に、ウルフがタートルベアの口の中に大剣を突き刺し、その脳髄を破壊すると、魔獣は地響きを立てて倒れこんだ。


「ねえ、ウルフ、もう一頭いなかった?」

「ああ、俺ももう一頭いたように見えたんだが……」

「動きが速くて、リーダーは魔獣の分身の術に騙されたんですよきっと」

 ユリの()()()た意見に納得できないラッシュ・フォースの四人だったが、ここは先に進むことを優先した。


(うまく誤魔化せました)


 本当は誤魔化せていないのだが、まずは一頭、アイテムボックスに収納して満足しているユリだった。


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