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35 勇者討伐【シャイニング・スターズ編1】

 ユリは王都に入ると、興奮した子供のように騒いでいた。


「へぇ~、ここが王都ですかぁ。

 ああっ、ねぇ、マリエラさん見てください!

 メインストリートが凄く広いです!」

「うん、そうね」

「私はてっきり、王城に通じる道は、敵国や国内の反乱軍が王城を攻め(にく)いようにって、もっと狭くて入り組んでるものなのかと思ってました。でも、このぐらい広い方が、王様たちがパレードとかしたときに見栄えが良くていいですよね。戦闘機があったら滑走路の代わりに出来そうですけど、もしかして、ワイバーン部隊の発着場にする気だったんですかね?」

「そんなの知らないわよ」

「あっ、マリエラさん、マリエラさん、ここの城って、王都のどこからでも王城の塔が見えそうですねぇ。つまり、王都のどこにいても向こうから丸見えってことですよね? あれってやっぱり見張り台なんですか? お姫様を閉じ込めるために塔なんて建てませんもんね」

「知らないってば」

「あれ? マリエラさん、ここは街の真ん中に川が流れてたりしないんですか? 私が昔いたところでは、川の近くに城を立ててから街が大きくなったところだと、街の真ん中に川が流れてるように見えるところもあったんですけど。あれは川を挟んで二つの街があるようなものだったから、ちょっと違うのかなぁ。川が無いのに大きい街が出来るのって、この王都は地下水が豊富なんですかね?

 でも、それだと近くにあるダンジョンが水浸しになっちゃってそうですけど、どうなんですかね?

 マリエラさん、どう思い……(ふがふがっ)」

「ちょっと、ユリ! いいかげんにして!

 あたしの名前を連呼しながら、そんな、お上りさん丸出しはやめて!

 あたしが恥を掻くじゃないの!」

 マリエラは顔を真っ赤にして、(はしゃ)ぎまくるユリを後ろから羽交い締めにした上で口を塞いでいた。


 ユリが初めて訪れた王都は秩序と雑然が入り混じった、混沌の城郭都市だった。戦を目的とした城塞都市ではないので、城壁は魔物(モンスター)から街を守るために作られていたが、今は人が増えすぎて、城郭内に三万人、外側に十万人と、外側の規模が大きくなりつつある。

 城郭内は、計画的に作られただけあって、王城を中心に、大きく貴族街、商業区、平民街、工業区と奇麗に層を重ねている。かつては農地もあったらしいが、今は残っていない。貴族街は王城から爵位の順に上中下級貴族の屋敷がある。貴族街の建物は基本的に山から切り出した石か、もしくは煉瓦で作られていて、道は石畳で整備され、無駄が無く洗練された様相を見せている。商業区は貴族向けの商店、商業ギルド、平民向けの商店の並びになっている。平民街は、まず上級平民と一般平民の住宅街があって、その外側にハンター向けの宿屋、ハンターギルド、鍛冶屋や武器屋、道具屋がある。そしてその隙間を縫うように、貧民街が隠れている。平民向けの商店と平民街は商店街側だけは整備されているが、建物は木造で、頻繁に建築と解体が繰り返され、店の裏や住宅街の道は入り組んで、無秩序で雑然としていて不衛生で治安の悪い場所だった。

 貴族の屋敷については、増減のある騎士爵あたりだと、貴族街に屋敷を構える余地が残ってなくて、上級平民の住宅街に屋敷を用意していたりもするので、この並びは絶対の括りではない。


    *    *    *


 ユリとラッシュ・フォースのメンバーが王都に入ったときには既に陽が傾いていた。なので早々に宿をとって、食事を済ませると、宿の一室に集まって次の計画の話し合いをすることになった。


「王都でも、宿の食事はいまいちっていうか、代り映えしないんですね。

 宿代が高かったから、もう少しいい食事かと思ってました」

「ユリ、今はそういう話をするときじゃないでしょ」

「だって、食堂で言ったら宿の人に睨まれちゃうから、ここでないと言えないじゃないですか」

「いいから黙ってて」


 頃合いをみて、リーダーのウルフが、次の計画の話を始める。

「残っている調査対象は、この王都にいるブレイヴ・ソードとシャイニング・スターズなんだが、シャイニング・スターズを先にしようと俺は思う」

「リーダーは、何かはっきりした理由があるんですか?」

「ブレイヴ・ソードは、閉ざされたパーティー内での容疑だ。後から参加したメンバーから搾取したり、捨て駒にしている疑いがあると言われている。セーフ・ゾーンと同じ系統だな。つまり、否応(いやおう)なく潜入調査になる。レッド・グレイヴのときは運よく二日で終わったが、ブレイヴ・ソードの調査は、最低一か月は掛かると思った方がいい。そしてブレイヴ・ソードは、今ちょうど外の仕事をしていて、戻ってくるのが五日後になるそうだ。

 一方のシャイニング・スターズは、そいつらがダンジョンに入る度にダンジョンで全滅するパーティーが出ている。要するに、魔物(モンスター)を倒して疲弊したパーティーに対する盗賊容疑だ。こちらの方が緊急性が高い。おそらく、二・三回後を付ければ尻尾を掴むなり、その場で退治することになるだろう」

「え~、でもシャイスタって八人でしょう?

 私たちだけで退治するのって、無理なんじゃないんですか?」

「ユリ、そのシャイスタって何よ、シャイスタって」

「もちろんシャイニング・スターズの略ですよ、だって長過ぎるじゃないですか、シャイニング・スターズって。何度も言ってたら舌噛んじゃいますよ。だからシャイスタ。

 私、書くのに苦労する名前って嫌いなんですよね」

 ユリには本名で散々苦労したトラウマがあり、『イオトカ君』や『エティス』のような愛称を使うことに強い(こだわ)りがあった。しかしそれは、他人には通用しない。そしてユリには、ネーミングセンスが最悪なことの自覚もなかった。

「あんたの名前の趣味なんて知らないわよ!

 あのねぇ、あいつら自分たちのことを恥ずかしげもなく『勇者(ゆうしゃ)パーティー』って言って(はばか)らないような連中なのよ。実力じゃなくて、名前で見栄張ってるの。そんな連中が『シャイスタ』なんて聞いたら激怒するわよ」

「マリエラ、今は名前のことは置いておきましょぅ。

 ユリさんの言うようにぃ、実力の分からない八人を私たちが相手に出来るかどうかが問題なんですよねぇ」

「そうよウルフ、なんでいきなり戦う前提なのよ!」

「なら見捨てられるのか?」

 珍しくジェイクが問う。

「見捨てる?」

「つまりだ、シャイニング・スターズに誰かが襲われてるのを見ちまったときに、そいつらを見捨てられるのかってことだ」

 リーダーが補足した。ジェイクは一般人相手には饒舌だと聞いているが、なぜか身内にはほとんど(しゃべ)らないのが、ユリには不思議だった。

「それは、見捨てたりしたら寝覚めが悪いことになりますねぇ」

「べつに襲われてるパーティーを見捨てろなんて言ってないでしょ」

「見捨てたくても、現場を見てしまったら、向こうが私たちを口封じしようとするかもしれませんよね」

「でも、そこまであからさまなら、国が動くんじゃないの?

 ハンターギルドも、あたしたちだけじゃなくて、もっと大勢を動かすべきでしょ。なんであたしたちだけでの調査しなきゃなんないのよ?」

「シャイニング・スターズには貴族の後ろ盾があるから、表立って疑いを掛けるのが難しいんだ。それに、仮にも『勇者(ゆうしゃ)パーティー』だ。あいつらが名前負けしてたとしても、それなりの実力はあるだろう。

 だから作戦を立てる」

「ああ、大物政治家が絡んでて警察が手を出せないような話ですね。

 でしたら、非合法にシャイスタの今夜の食事に毒を盛るとかしますか?」

「ユリ~、あんた、普段、毒の銭袋下げてるだけのことはあるわ。

 悪を退治する(・・・・・・)ためなら、手段を選ばないのね」

「まだ悪事が確認されてないのに、そんなこと出来るわけないだろうが。

 レッド・グレイヴが冤罪だったのを忘れるなよ」

「じゃあどうするのよ」

「餌を撒いて俺たちが囮になる。襲われるのが俺たちなら、俺たちは逃げるだけでいい。誰かを見捨てることもない」

「ウルフやジェイクみたいな(いか)ついのがいるってのに、あたしたちを襲ってくるかな?」

「レッド・グレイヴもダンジョンで襲われてただろ。

 餌が上等なら襲ってくるさ」

「みなさん逃げ切れますかねぇ」

「レイジー・オウルも八人パーティーでしたけど、盗賊行為は、たしか二十人でやってたって言ってましたよね?

 シャイスタも同じ規模だったらどうします?

 二十人と戦います?」

「二十人を相手にって、絶対に無理じゃん!

 ねぇウルフ、レイジー・オウルを倒した二人の話って、ハンターギルドから詳しく聞けてないの?」

「ああ。その二人の死体は残っていなかったそうだから、その二人が今も生きてるのは確かなんだが、どこの誰かも分かっていない。二人は、ダンジョン最深部で、レイジー・オウルを強力な魔物(モンスター)(むれ)との乱戦に持ち込んだらしいんだが、レイジー・オウルは普段、ダンジョンの浅いところで活動していたそうだから、なぜそのとき最深部に来ていたのかも謎だ」

「同じことしようと思ったら、あたしたちがダンジョンの到達出来るかどうかも分からない危険な最深部まで行って、シャイニング・スターズとその仲間を誘い込んで、さらに魔物(モンスター)(むれ)との乱戦に持ち込んで、その上で自分たちは逃げるってこと?

 絶対に無理でしょ!」

「わたくしたちを囮にしたら、目撃者がいませんよぅ。

 それだと、わたくしたちが悪者にされますねぇ」

「そうですよリーダー。レイジー・オウルの事件は大勢の目撃者がいたってことでしたけど、そんな舞台、どうやったら用意できるんですか?」

(あぁ、でも、本当の悪党パーティーだったら、イオトカ君が仕事するから、街の中でも襲ってくるかも……)


    *    *    *


 王都の周囲には、大きなダンジョンがふたつあった。そして、そのひとつは珍しいことに、王都のすぐ脇にあるコロシアムのど真ん中にあった。いや、正しくはそうではない。ダンジョンの入り口をぐるりと取り囲むように、厚く高い壁で囲まれた闘技場を用意して、その周りに観客席を設けて巨大なコロシアムが作られていたのだ。

 普通なら、前にいた街のダンジョンがそうであったように、魔物(モンスター)を中に封じ込めるために、ダンジョンの入り口と下の階の間に厳重なゲートか、それに類するものを用意するのだが、ここは闘技場を厚く高い壁で囲うことで、魔物(モンスター)が外に出ていかないようにしていた。その壁は耐魔法性の特殊な素材で作られ、石垣のような足掛かりのない壁だった。このダンジョンの通路は天井がそれほど高くいので、空を飛ぶ魔物(モンスター)もいないし、壁の上に手が届くほどの背の高い魔物(モンスター)もいない。そもそも出入口がそれほど大きくなかったので、闘技場の壁はこれでも十分に機能していた。

 ここに観客席を設けてコロシアムにしているのは、魔物(モンスター)の討伐方法に理由がある。魔物(モンスター)が闘技場の中に溢れ出たときには、壁の上からでも攻撃は可能であったが、壁を登ってこようとする奴ら以外にはほとんど効果がない。だから、選ばれたハンターパーティーが、闘技場に文字通り飛び込んで、身体を張って魔物(モンスター)を討伐する。それを見守り、応援するための観客席だ。

 コロシアムは、ハンターパーティーが名を売るための舞台であり、そのハンターパーティーを支援する貴族たちの社交場となっている。

 ユリたちは、ここを利用することにした。


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