29 勇者討伐【レッド・グレイヴ編3】
ライティングの魔法のことでスティーヴから話し掛けられたユリは、折角なのでメンバーを紹介されたときから気になっていたことを訊いてみる。
「ところで、スティーヴさんとグレイスさんは歳が近いようですけど、ロードさんとエマさんとは歳が離れてますよね。
それがちょっと気になっちゃって。
若い人がパーティーに入るときって、どんな人と組むかは人それぞれでしょうけど、ばらばらだった人たちが組むときって、大抵は同世代で組みますよね。後になって実力差が出て解散しちゃったりすることもありますけど。
最初からベテランと組めば、難しい依頼も受けやすいし、新人は得るものが多いから、一人だったらベテランのパーティーに入ることもあるでしょうけど、それだって雑用ばかり押し付けられて嫌だって人もいるでしょうし。
二人しかいないパーティーに二人が入るっていうのも、ありそうでないような気もするし。
それで結局、お二人はレッド・グレイヴに後から入ったのですか?」
「あぁ、それは半分だけ合ってて、半分違うな」
ユリはスティーヴに訊いたつもりだったが、答えてきたのはロードだった。
「半分? ん~~、じつは若い二人は歳が離れてるとか?
まさか四人が全員同い年だったとかですか!?」
「ははは、そうじゃない。スティーヴとグレイスの二人組とは後になってから組んだってのはその通りなんだが、このパーティーがレッド・グレイヴになったのは二人が合流してからなんだ」
「ええっと、それって、どういうことなんです?」
「もともと俺の方は三人組でな。ロードとエマ、そしてエマの妹のデニス、この三人の頭文字R、E、Dをとってレッドだったんだ。もっと凝った名前でも良かったんだが、新人のうちはそういうのが恥ずかしくってな。ずっと『レッド』でやってきたんだ。
でもってスティーヴとグレイスは、その名前をつないでグレイヴ。二人は恋人同士でな、墓の下まで一緒にいようってんでそんな名前にしたんだそうだ」
「ちょっと、ロードさん、そんな恥ずかしいことまで言わないでください」
なぜかエマの袖の先を弄りながら、顔を赤くしてグレイスが抗議する。
「ま、そういうわけで、レッドにグレイヴが合流して、今のレッド・グレイヴがあるわけだ。デニスは抜けちまったがな」
ロードは、すこし寂しそうに話を締め括った。
ユリは、そんなレッド・グレイヴの誕生秘話を聞いて、思うことがあった。
(スティーヴとグレイスの命名センスは絶望的ね。
将来、私の両親みたいにならないことを切に願うわ)
話が暗くなりかけたからだろうか、エマが『明るい』話を振って来た。
「ねぇユリちゃん。ユリちゃんが今使ってるライティングの魔法って、均一な照明だけなの? それとも、私たちの周りは暗くして、前の方だけ明るくしたりも出来たりするの? ああっ、今は無理にやらなくてもいいからね。足元が見えなくなると危ないから」
「ああ、それなら簡単に切替えできますよ。
ちょっとだけやるから、今は動かないでください」
そう言って、自分たちの周りを暗くして、五メートル先の一か所をスポットライトを当てるように明るくして見せ、それを消して今度は十メートル先の一か所を、さらに離れた二か所に同時にスポットライトを当てて見せると、すぐに元通り自分たちの周りが明るくなるように戻した。さすがに地平線の彼方だけ照らすことは出来ないが、数十メートル先までなら、部分的に照明を当てることはユリには容易なことだった。
「すっごーい、出来るんだ! ねぇ、魔物が出てきたら、今みたいに向こうの姿は良く見えるけど、こっちの姿は暗くて見えないって状態をお願いね。そうすると物凄く戦いが有利になるから」
「はい! 任せてください!」
* * *
レッド・グレイヴとユリが、ダンジョンの狭い通路を少しばかり先に進んで、通路が少し広くなったと思ったら、いきなり黒い影の集団に取り囲まれた。とにかく数が多い。五十頭は優に超えているだろう。
それは、ユリが見たことのない魔物だったが、おそらく黒虎狼だろうと判断した。ラッシュ・フォースから教わった魔物に、そういうのがいたからだ。
黒虎狼、黒い虎狼。
むろん、黒かろうが白かろうが、虎狼などという生き物はいない。いるはずがない。虎は猫の仲間で、狼は犬の仲間だから、人工的に交配することも無理だった。あくまでも、狼のような見た目、虎のような巨体、地上でも樹上でも素早く自由に行動できる運動能力、鋭い牙、ナイフのような爪、暗闇でも見通せる目、集団で統率の取れた行動、そして凶暴さ。二つの獣の優れたとこを全て取り入れたのが、この魔物だ。そして何より、魔法耐性がある。それ故、黒虎狼と呼ばれる魔物に囲まれたら、死を覚悟しろと言われている。
そんなものが数十頭。それが狼だったら、基本的に家族で群れを作るので、その数は子供を含めて十頭ぐらいだ。だが、今目の前にいる黒虎狼は全て大人のようだ。魔物だと野犬や狼とは違うのだろうか。もしかしたら、雄ライオンが引き連れている雌ライオンの集団に近いのかもしれない。
ユリたちは、ここに来るまでに、あの狭い通路で魔物とすれ違った覚えはない。にもかかわらず、横穴でもあったのだろうか、いつの間にか後ろにも回り込まれている。
「来るぞ! 気を付けろ!」
ロードの言葉に、ユリは慌てて照明を切替え、自分たちの周囲の照明を消して、黒虎狼の各個体の周りが光るようにした。
(なんか、余計に魔物っぽくなったわね)
そんなことを考えていたら、光る黒虎狼が、左右から牙を剝きだして弾丸のような勢いで飛び掛かってきた。
がつん! がつん!
彼らは、ユリが張ってあった防護障壁に牙と鼻先をぶつけ、地面に転がって痙攣している。向こうからすれば、ダンプカーに轢かれる十倍の衝撃だったはずだ。辺りには、鼻血と一緒に折れた牙が散らばっていた。転がっている黒虎狼は、二頭共に鼻が潰れ、顎がまさに『イスカの嘴の食違い』状態になっている。もう獲物に噛みつくことすらできないだろう。
しかし、倒したのは僅かに二頭だ。残りはまだ山のようにいる。
そこまでは少しの時間だったが、レッド・グレイヴはその少しの時間を使って、ユリを囲むように、ロードとスティーヴが剣を構え、エマとグレイスが杖を構える。
「えっ、いや、私、後衛」
ユリが話し掛ける間もなく、戦闘が始まった。
ばしゅ! ばしゅ! ずばっ! ざくっ!
ユリが寸時防護障壁を解除した瞬間にロードとスティーヴが飛び出し、次々に獲物を葬り去る。流れるように大剣を振り回して、一振りで三頭を切り裂くロード。そして、黒虎狼の間を駆け抜けるようにして相手を切り裂き、ときには刺し貫くスティーヴ。
(おぉ!)
ユリは、ウルフとジェイクの勇姿をまだ見ていないので、初めて見る剣士の戦いに感動していた。
その一方で、エマが水魔法、グレイスが風魔法を使って攻撃している。二人は詠唱しながらなので、交互に魔法を放っている。
びしゅ! しゅぱん!
びしゅ! しゅぱん!
びしゅ! しゅぱん!
素人目には水鉄砲にしか見えないが、それで相手の体を刺し貫く水魔法と、相手を切り裂く謎の風魔法。相手は魔法耐性があるモンスターのはずなのに、次々と簡単に倒してく。
ユリが子供の頃は、真空切りだの、鎌鼬が真空で切るなどという与太話を信じていたものだが、実際には、たかが1気圧分の気圧差しかない真空で物を切ることはできない。本当に空気で切ろうとするなら、超高圧縮空気か砂を混ぜた空気を吹き付けて切るか、もしくは衝撃波を伴う空気の流れを使う必要がある。
エマやグレイスの魔法がどうやってるかは知らないが、物理現象になった後なら魔法耐性があっても効くのだろうか?
(あれ? これってもしかして、エティスが効いてる?)
二人に刺激を受け、合間を見て、ユリが普通のファイアーボールを一発撃つ。
どごーんっ!!!
がらがらがらがらがらっ!!
残っていた黒虎狼の半分が吹き飛び、近くにあった柱が砕け、天井が一部崩落した。ユリが慌てて防護障壁を張り直し、飛んでくる瓦礫と崩落してくる土砂から皆を守る。
「ちょっと、ユリちゃん、魔法強すぎ! これじゃ生き埋めになっちゃう!」
「すみませーーん!!」
ユリ自身、普通のファイアーボールがあんなに強力だとは思ってもみなかった。以降、ユリは攻撃魔法を封印し、ときどき防護障壁を出すことと、エティスの加護を絞り出すことに専念した。
離れて後を追ってきていたラッシュ・フォースは、前方で戦闘を始めたレッド・グレイヴの様子を窺いつつ警戒していた。あそこに黒虎狼の群れがでるということは、ここにも現れるかもしれない。そう警戒する中、巨大な爆発を見てしまった。
「あの馬鹿! 案の定やりやがった」
「ユリさん!」
すぐに駆け付けようとする仲間をウルフが押しとどめ、前方の様子を注視すると、レッド・グレイヴは透明なドームに守られ、崩落してきた天井の瓦礫と土砂から守られている。
「まったく、驚かせやがって」
「ウルフ、あたし、精神的に持たないかも」
「ミラ、すまんがマリエラに癒しの魔法を掛けてやってくれ」
「ふふっ、今日はあと何回癒しが必要になるか、今から楽しみですねぇ」
「ミラ、あんた精霊魔法使いなのに、そういうこと言っていいの?」
「あら? 精霊たちが楽しみにしているんですよぅ」
「あんた以前、精霊があの子に近づかないとか言ってなかったっけ?」
「ええ、近づくのは嫌みたいですけど、見守るのは楽しいみたいですねぇ」
「あの子ったら、いったい、どうしたらそうなるのよ」
新たな謎が増えたひとときだった。
「いやー、いきなりあんなのに襲われるとは思ってもみなかったよ」
「多過ぎよ、多過ぎ! 全部で五十頭か六十頭くらいいなかった?
天井の下敷きになったのがかなりいるから、正確には数えられないけど」
「すみません。ご迷惑おかけしました」
ユリが謝ると、エマが慰める。
「いいのいいの、迷惑なんかじゃないわよ。
あれで数が半分になったから、かなり助かったわ」
「ねぇ、ロードとスティーヴって、いつもより強くなかった?」
「そういえば、今日は体の調子がよかったな」
「ダンジョンに入る前に寄った研ぎ屋が良かったんですかね?
今日は剣が新品のようによく切れました」
「私の風魔法の切れ味もよかったわ」
「ヘ~~、ソレハヨカッタデスネェ~」
(ちょっとエティス効かせすぎちゃったかな。悪い人たちなら、これで増長するんだけど……)
「みんなよく聞いてくれ。
今はたまたま調子良かったが、次も上手くいくとは限らん。
くれぐれも増長して、いつもの実力以上の力が出せるなんて思うなよ」
(え~~っ。この人たち、増長する気配が全然ないじゃない!)
あけましておめでとうございます。
名残惜しい年末年始休暇を終了いたしました。
会社勤めの方の多くは、今日からお仕事でしょうか。
私も、本日からがんばります……多分。
はたして、あと何か月書き続けられるのだろうか……。
本年もどうぞよろしくお願いします!! (^^)/




