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28 勇者討伐【レッド・グレイヴ編2】

 ユリが改めてダンジョンの入り口を見ると、かなり巨大な岩を組み上げて作ってあることが分かる。まるで、ユリが元いた世界で見た、巨石文明の遺跡のようだ。


「凄い作りですね~。あんな大きな石、どこから運んできたんでしょうね?」

「さあな。このあたりのものじゃ無いことは確かだ。

 大昔の奴が作ったものだから、今じゃ誰も知らんよ」

 エジプトのピラミッドの玄室の石も、日本の江戸城の巨岩も、五百キロメートル以上遠くから船で運んできたと言われているから、この世界でも同じかもしれない。それに、かつてこの世界には、巨人族が普通にいたらしいので、人力でも石材の運搬には困らなかった可能性が高い。


 ユリがダンジョンの入り口で売られてた初心者用マップを買って、ダンジョンの作りを見てみると、中の構造が直線を基本にしていることが分かる。自然に出来た洞窟や鉱床に沿って掘られる鉱山ではこうはならない。

「ダンジョンって、入り口だけじゃなくって、中も人工物なんですか?」

「ここは中も同じ作りだが、他所ではいろいろあるな。ここにしたって、遥か昔に人が作った地下要塞だったところに、魔物(モンスター)が棲みついたって言われてる。作られてから千年は経ってるから、本当はどうなんだか誰も知らん。まだ魔王がいた時代だから、作ったのは魔族だったのかもしれん」

 ユリは、地下要塞を必要とする理由を考える。ここがコンクリート製なら、古代の文明人の地下街や地下シェルターだった可能性もある。だが、ここは中も石積みになっているらしい。そんなもの、どうやって作る?

 どう考えたって、地上で石積みして作られたものだろう。配られたマップで、下層に行くほど広くなっていることも、それを物語っている。

 それがどうして地下にあるかと言えば、一番有り得るのは、遺跡が土砂に埋もれたということだろう。すぐ近くが砂漠地帯だから十分に有り得ることだ。その想像通りなら、採石場も労働者の居住区もあの砂漠の下だろう。

 もしそうなら、巨岩の出どころは永久に分かるまい。


(あっ、そういえば、まだ肝心なことを訊いてないじゃない。

 和製異世界ファンタジーだと、ダンジョンが生きてるっていう話がよくあるわよね。遺跡が魔力を吸って付喪神のようになったみたいな設定。

 ここのはどうなんだろ)


「あの~、このダンジョンって生きてたりします?」

「は? 嬢ちゃん、いきなり何言ってんだ?」

「あははっ、ユリちゃんて面白いこと言うのね」

 ロードには呆れられ、エマには笑われた。あとの二人は(いぶか)し気にユリを見ている。

「いえ、若いころに世界中を旅したっていう爺さんが田舎にいたんですけど、その爺さんから『ダンジョンは、その存在自体が魔物(モンスター)で、死んだ者を食べる』とか、『ダンジョンは生きているから、壊れても勝手に治る』とか聞かされてたんですよ」

「ユリちゃん。それ、揶揄われたのよ。

 ここはあくまでも魔物(モンスター)が住み着いている遺跡でしかないわ。

 だいたい、遺跡が魔物(モンスター)になるなら、そこらじゅうの建物がダンジョンになっちゃうじゃない。それに、入った人間が死ぬのを待つ必要なんてないでしょ。入った途端に食べちゃえばいいんだもの」

「中にいる魔物(モンスター)は、外の魔物(モンスター)と同じようなものですか? 例えば、中の魔物(モンスター)は殺したら死体を残さずに消えちゃうとかします?」

「何それ。

 ユリちゃんの田舎にいたお爺ちゃんって、よっぽどの大噓つきなのね。

 ダンジョンの中と外じゃ、中には翼竜がいないとか、多少の住み分けはあるんだけど、どっちもおんなじような魔物(モンスター)よ。ダンジョンの中でも、死んだら普通に死体になるわ」

「そうですよね。エマさんの話を聞いて少し安心しました」

「でも、ダンジョンじゃ下が硬い岩だから、穴掘って死体を埋めるってできないでしょ。死体の半分くらいは他の魔物(モンスター)が食べちゃうんだけど、おかげで、あっちこっちに腐った死体が転がってて、いやんなっちゃうのよね。ユリちゃんが言ったみたいに、魔物(モンスター)の死体が奇麗に消えてくれた方がよっぽど楽なんだけど、そうはいかないのよね」


「さ、中に入るぞ」

 ロードの掛け声に従って中に入ると、少し先まで壁に仕掛けられた照明で石で出来た通路が照らされている。その通路を二十メートルほど進むと、元々あっただろう下層に向かう階段が、石と漆喰で完全に塞がれていた。


「塞がっちゃってますよ? これで、どうやって下に行くんですか?」

「そこの穴に、金属の棒が立ってるだろう? それを滑り降りるんだ」

「ええっ!?」


 見ると、床に直径二メートルくらいの穴が開いていて、その中央に昔の消防署にあったと言われる滑り棒が設置されていた。かつては主だった消防署に、素早く階下に移動するためにと設置されていた代物だ。日本でもよく知られた設備なのだが、高齢者と若者は知らなかったりする。アメリカで使われ始めたのが百五十年ほど昔なのに対し、日本で使われ出したのはその百年近く後で、しかも僅か十五年程使っただけでお払い箱になっているからだ。嘘か本当か知らないが、新築の建物なのに、使う前に使用停止になったところもあると聞く。日本での導入がアメリカで百年近く使った後のことなので、事故や不具合の情報は導入前に得られたはずなのだが、なぜ導入してしまったのか。お偉いさんが海外ドラマを見て、恰好いいとでも思ってしまったのだろうか。実際に使い始めてみて、全員が繋がるように連続して降りるということは出来ず、一人ずつ順番に使わないといけないのと、急いでいるときほど落下したり足を(くじ)いたりの事故が起きやすい。だから、結局は階段の方が大勢が一度に速くて安全に移動できるということが明らかになって、滑り棒は今では作られることがなくなった昭和の遺物となったのだった。


「なんでまた、こんなものを?」

魔物(モンスター)が出てこないようにするためさ。ダンジョンによっていろいろと違った仕掛けを使っているが、ここではこいつを使ってるのさ」

「帰りはどうするんですか?」

「こいつをよじ登る」

「怪我してたら?」

「誰かに引っ張り上げてもらうか、野垂れ死にするかだな」

「なかなかヘビーですね。(とくにお友達必須ってあたりが……)

 私、体力が皆無なんで、登りきる自信がありませんが」

「俺かスティーヴのどちらかが引っ張り上げてやるから心配ない」


(でも、それだと私一人のときに入れないわね。

 何か方法を考えておかないと……。

 やっぱり、飛行魔法や浮遊魔法が必要かな)

 そもそも危険なダンジョンに一人で来ることが有り得ないのだが、一人でダンジョン攻略する小説(ラノベ)に毒されていて、考えがおかしな方向に向かってしまうユリであった。


「それじゃあ、俺が最初に使って降りて見せるから、真似して降りてこい」

 そう言って、ロードが穴の下を覗き込んで安全を確認した後、滑り棒に手を伸ばすと、手足でしがみつくように掴まって、するすると滑り降りて行った。

 ユリが、同じように穴の下を除くと、ロードが遙か下で待っている。

「えっ!?」


(消防署の滑り棒って、滑り降りるのは精々五メートルくらいじゃなかった?

 ここ、二十メートル位あるよね。落ちたら死ぬよ。

 しかも後でよじ登るって、嘘でしょ!!)


「どうした! 早く来い! 落ちるんじゃないぞ!」

 大声で呼びかけるロードに急かされるが、穴の縁から一メートル先にある滑り棒に手が届かない。後にして思えばスティーヴに手伝ってもらえばよかったのだが、人に頼ることになれていないユリは、ひとりでやる方法を考え、息を整え、自分に気合を入れる。

「それじゃ、ユリ、いっきま~す!」


 ユリの掛け声に、離れたところで一瞬ざわついた声が聞こえたが気のせいだろう。ユリは、穴の縁から滑り棒に飛びつくと、手だけでしがみつくように掴まって、螺旋を描いて勢いよく滑り降りていった。



 ユリの安全確保のために、レッド・グレイヴ一行の後をつけていたラッシュ・フォースの四人は、『ユリ、いっきま~す!』の掛け声を聞いた瞬間、四日前の技能試験場での記憶が蘇り、全員が慌てて地面に身を伏せた。ミラとマリエラは少しばかり悲鳴を上げたかもしれない。しばらくじっとして、何も起きていないことが分かると起き上がって、全員がほっと胸を撫で下ろした。

「脅かすなよ、まったく」

「ユリがまた『あれ』をぶっ放したのかと思ったわよ。人騒がせな子よね~」



 ユリが下まで勢いよく、ぐるぐると回りながら滑り降りて着地すると、ロードに手を引かれて、すぐに滑り棒から引き離された。

 これはユリでも知っている。次に滑り降りて来る人とぶつからないようにするためだ。だが、それだけではなかった。

「たまに滑り棒にしがみつき損なって直接落っこちてくる奴がいるんだ。万が一落ちてきたら、そいつを受け止めてやらなきゃいけないから、俺が最初に下に降りて補助してるんだ。

 だからな、次からは、真っ直ぐに滑り降りてくれよ。次に誰と潜るか知らんが、あんな回りながらじゃ、手が滑って落ちたときに受け止める奴が困るからな」

「すみませんでした。次からは気を付けます……」


 下の階を見回すと、滑り棒の周囲だけは明るいが、そこから先の通路は照明が無くて暗かった。あとはダンジョンに潜る奴が自分たちでやれということか。

「じゃ、灯りを点けますね~」

 全員が揃うのを待って、ユリがそういうと、自分たちの周囲が適度に明るく照らされる。ライティングは宿で何度か使っているので、初回のようにいきなり閃光弾になることは無い。そこいらの小石を時間制限ありの発光石にして、松明代わりにしたり、道に撒いたりすることも出来たのだが、今は荷物を増やしたり手が塞がるような方法は避けたわけだ。

 ここは周囲の岩が、あまり光を反射しない砂岩なので、白昼ほどの明るさはない。もっと明るくしてもよいのだが、自分達ばかり光ってしまうので、このぐらいがいいだろう。


「すごい! ユリちゃん、これどうやってるの?」

「えっ!? いや、普通に明るくなってって思ってるだけで……」

 実際その通りだったのだが、相手はそうは思っていなかった。

 マリエラが『詠唱する振り』を指示しなかったので、ユリは普段通り無詠唱で魔法を行使していて、エマはそのことを訊きだしたかったのだ。


「エマ、ユリさんが困ってるじゃない。

 大事な魔法の秘密をそんな簡単に言えるわけないでしょ!」

「あはは、ごめんね。ちょっと言ってみただけだから、気にしないで!」

「それにしても便利な魔法ですね。これなら前衛が松明を持たなくていいから、武器を持つ手を塞がれません」

 そう語ったのはスティーヴ。重い両手剣を使うから、片手を松明で塞がれたら、刀を振る力は半減するのだろう。

 ユリが昔読んだ小説(ラノベ)では、剣士が魔物(モンスター)の群れの中に松明を放り込んで切り込むような描写もあったが、この世界でもそれは通用するのだろうか。危険な敵が出る場所での照明は、敵に対してこちらの姿を見せないのが望ましい。中世を舞台にした探検映画で松明を使っているのを見たときは、周囲や、とくに演者の顔が映らないと絵にならないから松明を使ってるのかと思っていたが、実は西洋には日本の龕灯(がんどう)のような一方向だけを照らすランタンが存在していなかったと知ったときには驚いた。西洋で同じような道具が現れたのは、鉄道で合図灯として作られたのが最初らしい。


(もしかして、この世界なら日本の龕灯(がんどう)を応用した照明って売れるんじゃない?

 今度試してみよう!)


 なかなかいい思い付きではあったが、それはユリには全く必要のない道具だったので、きっと忘れてしまうに違いなかった。


 まことに勝手ながら、来週は年末年始にあたるため、更新を一時停止して、次回は1月5日から再開いたします。

 えっ? どうせ予約掲載なんだから休む必要ないだろうって?

 いえいえ、これでも投稿前の最終チェックとか、投稿後の内容チェックとかしてるんですよ。相変わらず誤字が残ってたりしますけど。

 というわけで、一週間のお休みです。


 では、みなさま、どうぞ来年も(もしくは来年こそ)

 よいお年をお過ごしください!! (^^)/


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