27 勇者討伐【レッド・グレイヴ編1】
「ふむふむ、そういうことですか。
それで、まず最初の潜入先がレッド・グレイヴであると……」
ユリが、リーダーに最初の調査対象を確認する。
「ああ、そうだ。三つの調査対象のうち、今この街にいるのは、レッド・グレイヴだけだからな。
さっきも言ったが、レッド・グレイヴは、つい最近まで王都にいて、昨日この街に移ってきたばかりのパーティーだ。王都で貴族とトラブルを起こしたのが原因で拠点を移したらしいが、詳しいことは分かっていない。表沙汰になっていない悪事を働いて王都にいられなくなったのか、あるいは逆に、相手が悪徳貴族で、その恨みを買っただけという可能性もある。
パーティーの構成は四人。俺たちと同じで男二人と女二人だ。
都合がいいことに、連中はちょうど今、後方支援の魔術師の紹介をハンターギルドに要請していて、ギルドがそれに応じてユリを紹介することになってる」
(ご都合主義? タイミング良すぎじゃない?)
ユリがそんなことを考えていると、マリエラが同じことを言った。
「ちょっとウルフ、タイミング良すぎじゃない!
罠だったりしないでしょうね?
潜入するのはユリなのよ?
馬鹿正直で嘘が下手な、秘密を隠していることを隠せない超絶ど素人なの。
ユリに危険が及ぶかもしれないんだから、少しは疑ってかかった方がいいんじゃないの?」
「そこんところはハンターギルドで確認済だ。今のレッド・グレイヴは四人パーティーだが、ハンターギルドの記録だと、元々王都では五人パーティーだったそうだ。他の問題パーティのような頻繁な入れ替えは記録されてないから、単純に欠員の補充ということだ」
「そう、確認済みってのがユリの評価じゃなくて、レッド・グレイヴのことならいいんだけど、ハンターギルドが問題視しているパーティーのひとつなんだってことは忘れないでよね」
「当然だ」
二人が軽い言い争いをしていると、そこにユリが割って入る。
「お二人とも話は済みましたか?
マリエラさんの私への評価がかなり気になりますが、それは不問にします。
では早速、手始めにやってみましょう!!」
右の拳を掲げ、元気よく潜入調査開始を宣言するユリであった。
「おまえなぁ、俺もマリエラも、おまえを心配して議論してるのに、その言い方はないんじゃないか?
こりゃ潜入前に、心構えから再教育せにゃならんようだな」
「ウルフ、ユリが使っていい魔法も、ちゃんと決めとかなきゃだめよ。
これまでみたいに、無制限でぱかぱか使ってたら相手に疑われちゃうし、ハンターギルドの調査員にも見られちゃうかもしれないでしょ。
レッド・グレイヴの欠員の理由には納得したけど、そこにユリを放り込むハンターギルドの思惑には、まだ納得してないんだからね、あたしは」
* * *
依頼を受けた翌朝、ユリは一人でハンターギルドの受付に顔を出していた。
「あの、ラッシュ・フォースのウルフさんの紹介で来ました……」
ユリが、ハンターギルドの受付嬢にリーダーの名前を言うと、彼女は名前も聞かず、用件の話をすることもなく、受付の外に出てきて言った。
「ユリさんですね。お待ちしてました。どうぞこちらへ」
その後、受付嬢はユリをギルドのフロアの一角に連れて行き、そこで立ち話していた四人の男女の前に行く。どうやら、いきなり相手に紹介されるらしい。
(あ~、やっぱり顔を覚えられちゃってる。
それにしても、普通は、もうちょっと依頼内容の確認とか、打ち合わせとか、注意とかしない?)
そんなユリの不安を他所に、受付嬢が四人に向かって声を掛けた。
「ロードさん、紹介を頼まれてた補充要員、連れてきたわよ。
後方支援の魔術師が欲しいって言ってたでしょ?」
「ああ、もう見つけてくれたのか。随分とまた仕事が早いな。ありがとよ」
壮年の男が受付嬢に礼を言って手を上げると、ユリに向き直って言った。
「俺はロード。レッド・グレイヴのリーダーをやっている。
こっちから、スティーヴ、エマ、グレイスだ」
ユリが会釈すると、若いグレイスが笑顔で小さく手を振ってきた。
「俺とスティーヴが前衛の剣士、エマは主に戦闘中の治癒魔法を担当している。グレイスは、魔法と弓での後方支援と調査係だ」
(おぉ、出た『調査係』!
泥棒を調査係って言い換えるのは気に入らないけど、グレイスさんなら泥棒って言い方より調査係の方があってるわね。
リーダーのロードさんが40代で、エマさんが30代。
スティーヴさんとグレイスさんは20代といったところね。
ロードさんは筋骨隆々で、かなり腕が立ちそう。
スティーヴさんは体が細いけど、スピード型なのかな?)
「俺たちにはもう一人、魔法使いの仲間がいたんだが、ちょっと前に抜けちまってな。それで暫くパーティー活動を休んでたんだが、そろそろ活動再開しようってことになって、欠員の補充が欲しかったのさ。
おまえさん、魔法使いってことだが、何ができる?」
「私はユリ。ハンターに成りたてですが、後方支援として、火魔法と光魔法が使えます。具体的には、普通のファイアーボールと、松明代わりのライティング、目眩ましのフラッシュライトあたりです。あと、治癒魔法も簡単なのなら使えます」
(夕べの打ち合わせで、伝えてもいい魔法をマリエラさんから指定されたけど、こんなにショボくていいのかな?)
マリエラからは、かなり厳しく言われていた。
『いい? ユリ、心して聞いてね。
火魔法は普通のファイアーボールまでだからね。
普通のよ、普通の。
他との複合魔法なんて絶対に駄目だからね!!
治癒魔法も少しならいいけど、本格的な治癒が必要だったら、私たちが近くにいるから助けを呼びなさい。
いい? わかった?』
(こんなんで、『役立たずはいらん』とかって言われちゃわないかな?)
「おお! ファイアーボールとライティングが使えるのか、そりゃありがたい」
どうやら、合格ラインがやたら低かったようだ。
「ただ、ちょっと問題があって、あと三日したら私は王都に向かって出発しなきゃいけないんです。この仕事も、その馬車代を稼ぐのが目的でして。それでも雇ってもらえますか?」
「おう! 大歓迎さ!
今回は、俺たちのリハビリが目的だからな。
ギルドには、今のうちに次の要員を探しとけって言っておくさ」
「言っておくもなにも、ここにいて全部聞こえてますよ」
ギルドの受付嬢は、まだ横に立ってすべて聞いていた。
ハンターギルドは、技能試験場でユリが放った魔法のことも把握しているはずなのだが、ユリがレッド・グレイヴに過少申告していたことに、受付嬢が口を挟むことはなかった。ハンターギルド主導の潜入調査なのだから当たり前か。
「ああそうだった。引き続き、補充要員よろしくな」
「では、私はこれで失礼します」
受付嬢が行ってしまうと、ロードがユリに確認する。
「それじゃさっそくダンジョンに向かおうと思うんだが、今すぐ行けるか?」
「はい! いつでもOKです!」
* * *
ユリは、ダンジョンに潜るのが初めてだ。『いつでもOK』と言ったものの、ダンジョンの知識は元いた世界の小説とアニメとゲームのものしかない。しかも、その多くがゲーム方式で、魔物を倒すと煙のように消えてドロップアイテムを残すというものだったので、極めて現実的なこの異世界では通用しそうにない知識だった。
だが今更予習している時間はないので、知らないことは素直に誰かに訊くつもりでいる。レッド・グレイヴにも、初心者だと宣言した後なので、何を質問しても問題ないだろう。
それで早速、ダンジョンまでどうやって行くのかと思ってユリが訊いたところ、歩きだという。目的のダンジョンは、街から目と鼻の先にあるらしい。
(ラッシュ・フォースのリーダーは、そんなこと一言も言ってませんでしたよ。あぁ、でも、あの人って、そういう雑なことろあるからな~)
ダンジョンに向かう途中、中で必要になるからと、街を出る前に水と食料を買いに店に入った。ダンジョンの入り口付近にも店が並んでいるが、街を出る前に買った方が信頼できるし、二割ほど安いのだそうだ。
(薬剤師のサムも、ダンジョンの入り口だとパチモンのポーション売ってたりするって言ってたわね。命に関わるものは、こういうとこで買わないとね)
「へい、らっしゃい。
ダンジョンに行くなら、この松明がお勧めだよ。
おや? お客さんたち、初めてのお人だね。
じゃぁ、特別に松明五本で着火用のモグサもサービスしちゃうよ」
まるで八百屋の親父のような物言いで松明を売りつけようとしてきたが、生憎こちらは照明担当のユリがいるので買うはずがない。
「いや、松明はもう当てがあるんで必要ない。
それより、三日分の水と携帯食料を五人分貰おうか」
「ガッテン承知! 今すぐ用意するから待ってておくれ」
ユリは少し気になったことがあったので、店主が奥に行ったのを見はからって訊いてみた。
「なんで私が照明係の予定だって言わなかったんです?
私、松明じゃありませんよ」
「ああ、気に障ったならすまん。
ただ、ああいうのに手の内を晒すと、商品を売るために一服盛ったりするんでな。だから、こちらの情報は出来る限り隠すのさ」
「ええぇぇぇ~~」
(信頼できるはずの店でそれ?
ここって、そんなに弱肉強食の世界だったの!?
あぁ、そういえば、ラッシュ・フォースのリーダーも、ハンター・ギルドの受付嬢すら信用してなかったっけ)
そうして手に入れた水と食料だが、結構な量がある。なので、これが最初の試練になるのかと思い、ユリが率先して重労働を申し出た。
「これ、私が運びましょうか?」
「えっ!? いや、嬢ちゃん、そりゃ無理だろ」
「ロード! ユリちゃんに何やらせようとしてんのよ!」
「いや、俺は言ってないって」
ぽかっ!
ロードがエマに殴られたのを見て、ユリが慌てて止めに入る。
「ま、待ってください。私が言い出しただけなんです」
ユリは、収納バッグの使用はマリエラから禁止されていたが、相手に隠れてアイテムボックスと風船を使って、重い荷物を軽々と担ぐ振りをすることができる。新人虐めのパーティーなら、荷物を押し付けてくるだろうと仕掛けたのだが、どうやらレッド・グレイブにはその気がないらしい。
「私、結構持てるんですよ」
「嬢ちゃんが力持ちの種族だったとしても駄目だ。
これは俺とスティーヴの仕事だからな」
そう言って、重量物は男二人が担いでしまった。
(えええっ、この人たち、イオトカ君が効いてないの?)
街を出て暫く歩くとすぐにダンジョンの入り口が見えてきた。
「街のこんな近くにダンジョンがあったんですね。全然知りませんでした」
「逆だよ嬢ちゃん。ダンジョンの近くに街が出来るんだ。
周りに何もない土地でダンジョンが見つかると、まず最初に、そのダンジョンの入り口の前にハンターの溜まり場ができる。するってぇと、そこに屋台を出す奴や、食料や武具を売る奴らで市場が出来る。そのうち、だんだんと人が集まってきて街になっていくのさ」
「おぉ~、じゃあ、この街もそうなんですね」
ユリがロードの話に感心して街の方を振り返ってみると、ダンジョンに向かうハンター達に混じって、ラッシュ・フォースの四人が跡を追ってきているのが見えた。彼らはユリを守るつもりだろうが、ユリはどうやって彼らを危険に巻き込まないようにするかが悩ましかった。




