26 勇者討伐【指名依頼2】
ハンターギルドに呼び出されたリーダーは、夕方になって漸く疲れた顔で戻って来た。そしてすぐにユリたちに声を掛け、呼び出された要件の詳細を伝えるからと、宿の一室にパーティーメンバーとユリを集めた。あの顔つきから見て、碌な話ではなさそうだ。そうみんなが思っていると、リーダーは、怒鳴り過ぎた後のような枯れた声で話し始めた。
「みんな、落ち着いて聞いてくれ。
俺たちは、ハンターギルドから極秘の指名依頼を受け、それを遂行することになった」
そこでユリが手を上げる。
「あの、リーダー?
極秘って……、私がここにいてもいいんですか?」
ユリが確認の問いかけをすると、驚く答えが返ってきた。
「ハンターギルドに呼ばれたのは俺だったが、依頼の要はユリだ」
「私? ……どういうこと??」
「まさかとは思ったがな」
「冗談で言ったのに、本当にユリのことだったのね」
「まぁ、ユリさんはこれから、どうなってしまうんでしょう?
ハンターギルドに目を付けられると面倒ですよぅ。
何をするにも常に監視が付くようになるんですよねぇ。
そうなると、山の中でおちおち用足しも出来なくなりますぅ」
ミラは半分冗談で言っていたのだが、ユリには冗談に聞こえなかったし、実際その冗談は真実を突いていた。
「そういえば、昨日ハンターギルドで薬剤師の護衛をするときの受付嬢の話しぶりだと、ミラさんみたいな美人ならともかく、ギルド職員の全員が私の顔を知っているみたいだったんですよね~」
「待て待て待て待て。勝手に話を始めるな。まずは、俺の話を聞いてくれ。
ユリを含めて俺たちは、ハンターギルドから極秘の指名依頼を受けた。
その依頼内容なんだが……、俺たちで勇者を討伐する」
「「「「……」」」」
全員が、いったい何と聞き間違ったのかと言葉を失い、視線を揺らしていると、ユリがその沈黙を破った。
「あの、リーダー、今、何を討伐するって言いました?」
「勇者だ。
ハンターギルドから、三つの勇者パーティーの討伐を依頼された」
「はあっ!?」
「ふぇ!?」
「なんだって!?」
「あら、まぁ!?」
四人が三者三様、この場合は四者四様か、の驚きの声を上げる。
「オスヘビの雄蛇じゃなくって?」
「????、人間の勇者だ」
ユリが言った「日本語で同音異義語っぽい言葉」は自動翻訳で意味不明な発言として伝わったが、リーダーは正しく回答した。
「でもウルフ、勇者パーティーなんて、とっくの昔にいなくなってるでしょ。
長命種の生き残りが悪さでも始めたの?
三つっていうのも変よね。
生き残ってたとしても、勇者パーティーは一組だけでしょ?」
「問題はそこなんだ。
この国では、『勇者』というのは魔王を討伐した者に贈られる一代限りの非公式の称号だ。魔王が遙か昔に討伐されて、復活の兆しもない今、国が認めた勇者は現在この国のどこにも存在しない。にもかかわらず、勝手に勇者を名乗る者や、領主権限で勇者の称号を贈られた者達がいるってことだ」
「ほぉっ、大胆な連中だな」
「そんなの聞いたことないわよ。本当に確かなの?」
ジェイクとマリエラが反応した。
ユリはと言えば、小説やアニメで碌でもない勇者パーティーには慣れていたので、驚きもせずに聞いていた。それに、ユリは現実世界でも『俺を誰だと思っているんだ。俺は○○だぞ!』と自分を誇示するクソ野郎を嫌と言うほど見聞きし、相手にもしてきたのだ。大抵は、その『○○』に入るのが、やたらチンケでつまらない称号で、なんでそれで威張れるのか理解不能だったりするのだが、中には『神』だの『天使』だのと言う者もいた。だから、今更この世界に『勇者』を名乗るクソ野郎がいたとしても驚きはしない。ユリは、ああまたかと思うだけだ。
「俺も初めて聞いたことなんで、最初は信じられなかったんだが、ハンターギルドで実在が確認されてる。
これは、『勇者』という称号が、貴族の爵位と違って、公式の称号と定められていなかったのが原因なんだそうだ。今から『勇者』を公式の称号にすることも不可能ではないんだが、あと三百年は対象が存在しないだろう称号を、面倒な手続きをしてまで定めるのも変な話だからな。それに下手したら、国は魔王復活の前兆を掴んでいるのかと、民衆にいらん誤解を招きかねん。
それで今いる自称勇者たちが、勇者と名乗るに相応しい為人なら目を瞑ってもよかったらしいんだが、中には素行が悪いと言われている連中がいるんだそうだ。そいつらが、今回依頼された討伐対象さ。俺に言わせりゃ、そんな詐欺パーティーにまともなのはありえんがな。
ハンターギルドの依頼は、新人でフリーのユリを使って、そいつらに潜入調査して、あくどい連中なら退治して欲しいってことなんだ。
ただ面倒なのは、冤罪、言いがかりの可能性もあるってことだ。ハンターギルドでも冤罪を疑っているパーティーがあるらしいんだが、俺たちに先入観を抱かせたくないからと、教えてくれなかった。そこんところは、ユリに確認してもらうしかない。
俺たちラッシュ・フォースは、全員でユリのサポートに回る」
「退治って、殺せってことですか?
いくらリーダーの頼みでも嫌ですよ、そんなの。
殺しのライセンスなんてまっぴら御免です」
「殺せとは言われとらん。
こいつらは勇者ではないと、喧伝する材料を集めるか、自滅させろってことだった」
「そりゃまた、随分と面倒で手間の掛る依頼ね~。
でもなんでユリなの?
ユリなら死んでも構わないから、とか言ったら怒るわよ」
「名前も実力を知られていない、正真正銘の新人だということ。
それでいて何かあったときに、自分で自分の身を守れるからだ」
「ちょっと、ユリが自分で自分の身を守れるって、ウルフが推薦したってこと?」
「いや、ハンターギルドがそう判断していた」
「それって、ハンターギルドがユリの実力を知ってるってこと?」
「商業ギルドでユリが襲われたときのことは大勢に見られていたからな。
それと、昨日の技能試験場では、隣にいたセーフ・ゾーンが監視されていて、連中と接触した俺たちも見張られていたらしい。
それにハンターギルドの建物の脇で、ユリがあの女を消して見せたり、人が入れない場所に俺たちを連れ込んだのも見られてた」
「まぁ迂闊っちゃ迂闊だけど、ウルフ、あんたそれ全部認めたの?」
「いや。俺は肯定も否定もしていない」
「リ、リーダー、それで、私は、あの……」
ユリが小刻みに挙動不審な動きをしだすと、リーダーが窘めた。
「心配するな。ハンターギルドでは、ユリのことは機密事項で、当面は静観するということだ。間違っても国に引き渡したりはしない。
その代償として、今回の依頼を遂行して欲しいということだ」
(む~~、ほとんど脅迫じゃないですか……)
「ハンターギルドで問題となっていたパーティは、元々は、ブレイヴ・ソード、レッド・グレイヴ、シャイニング・スターズ、セーフ・ゾーン、レイジー・オウルの五つあったんだが、レイジー・オウルは十日前に北の街のダンジョンで殲滅され、セーフ・ゾーンは三日前に自滅。それで残っているのが三つのパーティーだということだ。
俺たちがセーフ・ゾーンの自滅に関わってしまったのも、俺たちに依頼してきた理由のひとつだそうだ」
「セーフ・ゾーンは、それで監視されてたってわけね。
まったく、どこまでも迷惑な奴らだったわね」
「それにしても、レイジー・オウルはもういないからいいですけどぅ、レッド・グレイヴとかぁ、そんなパーティ名で恥ずかしげもなく、よく勇者を名乗れますねぇ、ふふっ」
「ミラさん!
私は、ブレイヴ・ソードとかシャイニング・スターズとかの、いかにもって名前の方が恥ずかしいと思います!」
ユリの頭の中では、ブレイヴ・ソードは『勇敢な剣』、レッド・グレイヴは『赤い墓』、シャイニング・スターズ『輝ける星』、セーフ・ゾーンは『安全地帯』、レイジー・オウルは『怠け者の梟』と訳していたが、この世界での正しい意味は分かっていない。それにも関わらず、なんとなく会話が成立していたのは不思議なことだった。
「パーティー名なんかどうでもいい!!」
意味不明な会話にリーダーが切れるのも道理だった。
「ねー、ウルフ。名前はともかく、セーフ・ゾーンがそのリストに載ってるってことは、他のパーティーもあの女が証言したセーフ・ゾーンみたいな連中ってこと?」
「ギルド長の話では、全パーティーがまともじゃなさそうだったが、容疑はそれぞれ違ってたな」
「じゃあ、それを詳しく話して」
「まずブレイヴ・ソードだが、王都で活動している八人のパーティーだ。貴族の支援を受けて王都周辺のダンジョンで活動しているが、六人が固定していて、あと二人の入れ替わりが激しいそうだ。セーフ・ゾーンと同じように後から参加したメンバーから搾取したり、捨て駒にしていると見られてる」
「うわぁ」
「レッド・グレイヴは、元は王都にいたが、最近この街に移ってきた四人のパーティーだ。構成は、俺たちと同じで男二人と女二人だ。王都で貴族とトラブルを起こしたらしいが、詳しいことは分かっていない」
「そういうのが一番面倒ね」
「シャイニング・スターズは、これも貴族の支援を受けて王都周辺のダンジョンで活動している八人パーティーだ。こいつらがダンジョンに入ると、その度にダンジョンで全滅するパーティーが出ると言われてる。要するに、魔物を倒して疲弊したパーティーに対する盗賊行為を疑われている」
「最悪」
「あと、すでに殲滅されたレイジー・オウルだが、こいつらは北の街で活動していた八人パーティーで、シャイニング・スターズと同じように盗賊行為の疑いが掛けられていたそうだ。それが、十日前、ダンジョン内で男女二人のパーティーを襲ったときに返り討ちにあって、その後魔物に襲われて殲滅されたらしい。そのときのことは目撃者が大勢いたから間違いないそうだ」
「ウルフ、その二人、よく八人も返り討ちにできたわねー」
「いや八人じゃない。レイジー・オウルは八人パーティーだが、二人を襲ったときは、他に仲間が十二人いたそうだ」
「全部で二十人も返り討ちにしたっていうのか!」
「あぁ。襲ったのは魔物の集団だがな。
どうやったか知らんが、レイジー・オウルの盗賊集団に襲われた二人が、連中をダンジョンの最深部に誘い込んで、魔物の集団にぶつけたらしい。だが、レイジー・オウルの実力では、あのダンジョンの最深部に行くのは不可能なはずなんで、どうやって誘い込んだのかが謎になっている。二人の証言を聞きたくても、死体が見つかってないから生きてはいるんだろうが、事件後は行方不明で、謎は謎のままなんだそうだ」
「そういえばユリは、この街には北の方から来てたな」
なぜか多くの視線を集めたユリは言った。
「わ、私じゃないですよ。魔物のことは勉強中だし、ダンジョンには入ったことないし、そもそも一緒にダンジョンに入る相手がいませんし」
「まぁそうだろうな」
聞きようによっては悲しい話に、ウルフが当然のように同意する。
「リーダー! そこはちょっとは否定してくださいよ!
『おまえにだって友人の一人ぐらいいるだろう』とか、言ってくださいよ!
そんなことより、その犯罪者たちは、目撃者がいるのに襲ったんですか?」
(それってまるでイオトカ君の影響受けた悪者じゃない)
「あぁ、そうだ。ただ、見られていることに気づかずに襲ったらしい」
(よかった。それならイオトカ君と関係ない普通の悪党だ)




