25 勇者討伐【指名依頼1】
「あの、リーダー、今、何を討伐するって言いました?」
「勇者だ。
ハンターギルドから、三つの勇者パーティーの討伐を依頼された」
「はあっ!?」
「ふぇ!?」
「なんだって!?」
「あら、まぁ!?」
* * *
それはセーフ・ゾーンの自滅事件から二日後のこと、この街のハンターギルドの執務室での出来事だった。
「あれ? マスター、頭抱えて何してるんですか?
また床に落とした書類を拾おうとして机の角にでもぶつけたんですか?
ぶつけてもいいですけど、備品は壊さないでくださいね」
執務室に入って来た副長が、執務机に突っ伏して頭を抱えているギルド長を見て問い掛けると、ギルド長は、暫くその姿を続けた後、顔を上げて、堰を切ったように話し出した。
「……、セーフ・ゾ-ンの奴らのせいで、ギルドの金が無くなった。
運営資金がゼロだ!
あと二週間後には、ここの職員たちに給与を払わなきゃならないってのに、これからどうすりゃいいんだよ!
技能試験場は、あいつらが使ってたエリアが完全に崩壊、両隣のエリアにも被害が出ていて、修理が終わるまで技能試験場は閉鎖しなきゃならん。まあ、技能試験場が使えないことは、ハンターたちに我慢してもらえば済むが、修理が終わるまで技能試験場からの収益が無くなるうえに、修繕費用がとんでもない金額なんだぞ。
あいつら、生きていたら隣国の奴隷商に売り飛ばしてやったのに、面倒ごとを置き土産にあの世に行っちまいやがって。これまで散々、悪事働いてきたんなら、隠し財産がどこにあるか書いたメモのひとつやふたつ、置いてけってってんだ。ったく、生きてりゃ死刑を減刑する代わりに財産搾り取るようなことも出来たってのに、なんで手ぶらで死んじまうんだよ!」
「まあ、死んでしまったものは仕方ないですね。
生き残った女も、精神が崩壊していて廃人ですし、どうしようもありません」
「このギルドの予算じゃ全然足りんから、貴族連中の屋敷を回って、頭下げて寄付金を募ってこなきゃいけないんだぞ。そして行った先の全てで、ハンターの管理と躾がなってないと小言や嫌味を言われまくるんだ。
あ、いててて、胃が痛くなってきた。
なあ、おまえが俺の代わりに行ってきてくれないか?」
「駄目ですよ。願い事するのに何で代理なんだ、巫山戯んなって追い返されるに決まってるでしょうが。
寄付金集めしている間の事務仕事は私が代わってあげますから、マスターは頑張って貴族相手にお辞儀体操してきてください」
「はあー、まったく何だって俺は、こんなときにギルド長になっちまったのかなあー、えっ、おい」
「辛いのはわかりますけどね。
あ、そういえば、あの新人ハンターの娘の調査報告があがってきてますから、見てみますか。今なら私が説明しますが。
それと、王都の中央支店のギルド長から、例の件の続報みたいなのが来てます」
「新人? あぁ、ラッシュ・フォースのリーダーが身元保証したって娘か。
どれどれ。
ふーーん。
なんだ、ほとんど正体不明じゃないか。
なんだってあいつ、こんな娘の身元を保証したんだ?
誑かされたのか?」
「少なくとも、登録時に記録されている身体的特徴を見る限り、あの男の好みの女性ではないようですね。隠し子とも違うようです。
あの娘は得体のしれない魔法を使うようですが、精神支配の闇魔法の使用は確認されていません」
「精神支配? ああ、あのパーティーのマリエラとかいう女魔術師が使ったっていう、自白魔法みたいなもんか?」
「はい。なかなか習得者がいない魔法なので、そういった魔法で誑かされた可能性は低いと思われます。
私の個人的な見解を言わせていただくと、あの娘の身元保証は、あの男が『悪戯心』でやったことではないかと思われます」
「はぁ? 悪戯心だと?」
ギルド長は、この副長がデータで表現できない人物考査能力に長けていることを知っていたので、その判断を理解できなかったものの、無下にすることも出来なかった。
「それで、得体のしれない魔法ってのは何だ?」
「あの娘は、こちらでハンターギルド登録した後に、商業ギルドでも登録したようなんですが、そのとき強盗未遂の被害に遭っています。で、その商業ギルドの警備員の証言ですが、この娘が建物を出ようとしたところを、ナイフを腰に構えた男に体当たりするようにして刺され、その勢いで三段下の石畳の道に突き落とされ、その後さらに馬乗りになった男に首筋を何度も切りつけられ、さらに男と一緒に馬車に轢かれて数メートル引きずられたというのに、怪我ひとつ汚れひとつ無かったということです。なので、あの娘は女神の加護を受けているか、出なければ何か不思議な防護魔法を使うのだと思われます」
「不思議な防護魔法ねぇ。
そういえば、この国の国王と第一王子が、そう言った古代魔道具を身に着けてるとか言ってなかったか?」
「はい。そのとおりですが、庶民が手に入れることは不可能ですし、もし手に入れたなら、自分で使うよりも売りに出すはずです。ですから、そんなものを身に着けているとは考えられません」
「ふーん、続けてくれ」
「技能試験場でセーフ・ゾーンを監視していた職員のひとりが、あの娘が爆裂魔法を超える攻撃魔法を使って見せたと証言しています。
さらに、セーフ・ゾーンがここの二階で爆発騒ぎを起こしたときに、この建物の脇で、あの娘のいる前で、女容疑者が突然、火焔の柱で蒸し焼きにされたのですが、その容疑者の女以外にファーヤーボールを撃ったものがいなくて、何が起きたのか謎とされています。
その後、ラッシュ・フォースのミラが治療をしたのですが、その後あの娘が
空中から筵を取り出して、その後、容疑者の女を消して見せるという、王宮の道化師がやる『手品』と呼ばれる芸のようなことをやったということです。
そして更に、この建物に裏に、人ひとり立てるかどうかの、路地裏とも言えない隙間があるんですが、その『手品』の後、ラッシュ・フォースの四人を連れて、その隙間に入っていって、暫くすると、女容疑者を連れて全員出てきたそうです。私もその場所を確認しましたが、狭い場所に猫が一匹寝ていただけで、とても六人が入れるような場所ではなかったですね」
「なんじゃ、そりゃ?
その話が本当なら、いや本当なんだろうが、まるで熟練の大魔術師じゃねぇか。だが、まだ小娘なんだろ?」
「見た目は17歳ぐらいですね。長命種ではなく、普通の人族なので、見たままの年齢でしょう。
あと、手品のような事象については、このギルドにある昔の文献に、巨龍を収納して運んだという話がありました。そういう古代魔法を使えるのかもしれません」
「あとは、そうですねー。
昨日のことなんですが、その娘が薬草採取の護衛依頼を受けていました」
「あぁ、あれか。その依頼を受けたところは見ていたから知ってる。
よくまぁ、あんな面倒なもん受けるもんだとは思ったが、それがどうかしたか」
「はい。きちんと仕事の完了報告があって、A判定となってました」
「だったら何の問題も……って、ちょっと待て。
薬剤師がA判定付けたってのか!?」
「はい。薬剤師からの依頼は、これまでほぼすべてが未達成かC判定であったのに、今回はA判定です。これはかなり稀有なことだと言えるでしょう。
やはり、普通ではないのではありませんか?」
「……、どれも決め手に欠けるな。今後も監視対象にして、継続調査だ」
「それと、もう一つの件。王都にある中央支店からの連絡ですが、こちらのセーフ・ゾーンの自滅の報告に対する返事ですね。
元々、調査対象として連絡を受けていた五つのパーティーのうち、レイジー・オウルが北の街のダンジョンで殲滅され、全員死亡したことが確認されたので、セーフ・ゾーンの自滅と合わせて、対象を残りの三つにするという連絡です。
そして、そのうちのひとつ、レッド・グレイヴがこの街に向かったという知らせですが、すでに昨日、街に入っていて、このギルドに一名の補充要員を要請しています」
「ほーぅ……、くっくっくっ」
「マスター、悪人顔になってますよ」
副長の報告を受けたギルド長が気味の悪い含み嗤いを始めたのを副長が見咎めると、ギルド長はとんでもないことを言いだした。
「丁度いい。
明日の朝一番で、ラッシュ・フォースのリーダー、ウルフと言ったかな、そいつを呼び出すんだ。全部まとめて、やらせてみようじゃないか」
* * *
セーフ・ゾーンの自滅事件から三日後。
今日もまた、ユリはラッシュ・フォースのみんなと仲良く朝食を摂っていた。そこまで仲がいいなら、ユリもパーティーに加わってしまえばいいように思われるが、ラッシュ・フォースから勧誘することも、ユリから入りたいと言い出すこともなかったので、曖昧な関係が続いている。ユリにしてみれば、この付かず離れずの関係が心地よかった。
今朝の話題もまた、セーフ・ゾーンの自滅事件のことだった。
ユリたちはハンターギルドによって足止めされ、事件当日、その翌日、さらに翌々日に取り調べを受け、事件三日目にして漸く解放されたのだった。
捕縛した女をハンターギルドに連行したときに教えてもらったのだが、ハンターギルドの建物で爆発が起こった時に、ユリたちが折角助けたセーフ・ゾーンのメンバーは、あの女以外、全員が殺されていたという。殺害現場を見た者はいなかったが、犯人は間違いなくあの女だろう。
死んだ連中とは特に仲が良かったわけでもないし、あの女の証言が本当なら、奴らはろくな奴らではなかったのだが、その所業は死んで償わなければならないほどの悪事ではないように思えたし、自分たちが苦労して助けた命を粗末に扱われたことが不愉快だということで、みなの意見が一致した。
「それにしてもですね、私の生まれた国だと『セーフゾーン』は『安全な場所』って意味なんですけど、ハンターの『安全な場所』が自滅したって、縁起でもないですよね~」」
ユリは、前に自動翻訳で話が通じなかったことを覚えていたので、今回は回りくどく冗談を言った。
「ユリ、あんたね~。そういうのは何かあった時に冗談にならないんだからね」
そんな雑談をしていると、食堂に伝令が駆け込んできて、ラッシュ・フォースのリーダーを指名して手紙を渡していった。すぐに封を切って中を見たリーダーが溜息をつくと、マリエラが問い質す。
「ウルフ、何それ?」
「ハンターギルドからの呼び出し状だ」
「え~っ!? リーダー、何やらかしたんですか!?」
「十中八九、おまえの事だろうな」
「ユリだな」
「あんたのこと以外、何があるってのよ」
「きっとユリさんのことでしょうねぇ」
全員からの一斉攻撃にたじろぎながら、ユリは必死に抵抗する。
「そんな、私のことでリーダーが呼ばれるって変じゃないですか。
昨日の話の続きかもしれませんよ、……期待薄ですけど」
「すでに四日間ユリと行動を共にしてるからな、監督不行き届きで責任を問われるのかもしれん」
「……」
「ユリさん、冗談ですから大丈夫ですよぅ」
「冗談に聞こえませんよ!!」
「で、どうすんの? ウルフ。
あたしたち全員で顔を出しに行くの?」
「いや、呼ばれているのは俺だけだから、俺一人で行ってくる」
そう言って立ち上がったウルフの顔は、狡そうに嗤っていた。




