表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/53

22 初めての異世界【薬草採取の護衛3】

 サムの言動は一見まともそうでいて実はいろいろとおかしく、ユリがその順法精神に疑問を持ち始めた頃、サムの非難がユリの方に向いて来た。

「本当に、はっきり言って、素人の薬草採取は迷惑この上ないんです。

 あなたには悪いが、特に新米ハンターの人たち。

 彼らは、なまじこういった魔物(モンスター)の出るところに来れるもんだから、採取が禁止されていることを知ってか知らずか、勝手に採取して、薬剤師ギルドに売りに来るんです。

 もちろん、そういう犯罪者は全部、警備兵に引き渡してますけどね。

 中には違法行為なのを知ってて売りに来る、厚顔無恥な奴もいますし。

 ハンターギルドには、その度に新人にきちんと教育するように申し入れてるんですが、未だに続いてるのは、いったいなんなんですかねぇ?」

 そんなサムの非難に、ユリは真正面から反論しても無駄だと考え、苦笑いしてごまかした。

「あはははは、ゼェゼェ」


(それにしても、えらい嫌われようね~。

 ハンターギルドの受付のお姉さんが、『お勧めしない』って言ってたのはこういうことなのね。それに、ミラさんが、薬剤師の護衛依頼がハンターギルドに出されることが少ないって言ってたけど、ハンターが薬剤師から嫌われてるのが理由だったのね。

 ……だったらなんで今回はハンターギルドに護衛依頼したの?)


「しかも困ったことにね、そういう薬草を買う奴がいるんですよ。

 薬剤師ギルドに登録していない闇の薬剤師が。

 あいつらは、素人のハンターが採取してきた得体のしれない薬草で作った怪しいポーションを、ダンジョンの入り口あたりで、素人のハンターに売りつけて金を稼いでるんです。

 それで時々、死人がでる。

 そりゃ、ダンジョンの深く行ったところで、イザって時に飲んだポーションがそんな品物じゃ、助かるはずの命も助かりませんからね。

 その苦情が薬剤師ギルドに来るんだけど、知るかっての。そいつら正規の薬剤師じゃないんだから。まずはハンターギルドで、正規の商品以外買ったら駄目だってことを徹底教育しろっての」

「あぁ、そういう意味なら、ハンターの方も、ハンターギルドに登録していない闇ハンターなのかもしれませんね」

 そう言いながら、ユリは別のことも考える。


(サムはああ言ってたけど、薬剤師ギルドが既得権益を守るために、わざと正規以外のルートで毒入りポーション売ってる可能性もあるんだよね~。薬剤師ギルドが普段は商業ギルドと組んでるあたり、お金の臭いがぷんぷんするもの。

 一方の証言を鵜吞みにするわけにはいかんのですよ)


「あっ、止まってください。シュルシ草の群落です。

 それほど珍しくないのですが、折角なので採取します」

 サムとイライザが作業を始めたので、ユリは一息つく。足はすでにガタガタだ。


(それにしても平和ね。魔物(モンスター)がいると言っても、滅多に遭遇しないから報酬が安いのかな)


 ユリがそんなことを考えていたから、ゲームのフラグが立ってしまったのだろうか。山の上から地響きを立てて近づいてくるものがあった。


 どどどどどどどどどどどどどっ!


 ざすっ!


 ぶしゅ~~~!


「キャーーーー!」

「んぎゃーー!」

 血だらけになったイライザの絹を裂くような悲鳴に続いて、同じく血だらけになったサムが雑巾を引き千切ったような悲鳴を上げていた。

 血走った眼で必死に状況を理解しようとする二人にユリが声を掛ける。

「怪我はありませんか?」

「な、何なんですか、これは!」

 サムが目を吊り上げた血だらけの顔でユリに問い質す姿には、鬼気迫るものがあり、正義の味方が見たら駆けつけて首を刎ねたくなるような邪気が溢れ出ていた。

「走り寄って来たのは石頭猪(ハーディボア)ですけど、こんなところにもいたんですね、って逆か。山にいるのが普通で、砂漠で遭遇したのが異常なんですよね。

 そんなことより大丈夫ですか?

 石頭猪(ハーディボア)の血を浴びて、おかしくなってません?」

「そんな話をしてるんじゃない!

 俺はこの死体の有様を訊いてるんだ!」

「ああ、これはですねぇ、移動中は通常の防護障壁を張れないので、一種のトラップです」


 じつはユリは、自分たちの周囲に、防護障壁を巨大なチャクラムのような形状にして、斜面に沿って斜めに胸の高さで張っていた。今日の依頼を受ける際に、実験しようと目論んでいた魔法だ。その縁の部分は単分子よりも薄い刃物。二枚重ねで内側に厚みをつけているのは、完全に厚みをゼロにすると、刃物が通過した後に、二つに別れた原子同士が元通り結合して切れたのに切れてないことがあったからだ。

 そこに頭から突っ込んで来た石頭猪(ハーディボア)は、奇麗に上下に切り分けられて、大量の血を流して絶命していた。そして、イライザとサムは、その血を頭から浴びていたのだった。


「あああっ、メルキリアの群落がー!!」

 どうやら、石頭猪(ハーディボア)の死体の下敷きになり、辺り一帯がその血で汚染されてしまったらしい。


(あれ? さっきと名前が変わってない?)


「何てことしてくれるんだ!」

「いや、襲ってきたのは向こうなんで、私に言われても困ります」

「そんなことを言ってるんじゃない!

 あの化け物を足止めする方法は他にいくらでもあっただろうが!」


 まず、石頭猪(ハーディボア)の足止めが可能だったかと言われれば、不可能ではなかった。しかし、赤の他人の見ている前でやっていいことは限られている。その程度のことはユリでも一応考えてはいる。彼らにマジックアーマーを施すわけにはいかないし、石頭猪(ハーディボア)の足元にアイテムボックスで落とし穴を用意するのもまずい。そして普通の魔術師のように、焔や石や氷で攻撃したところで、周囲の薬草が燃えたり血で汚染されたりすることは避けられなかった。どうせこの調子なら、石頭猪(ハーディボア)を足止めしたところで、薬草が踏み潰されたことにも文句をいうに違いなかった。


「いや~、どうやったって血が流れるか、周辺が黒焦げになるんで、薬草が傷つくのは避けられませんよ。

 あと、さっきから口調が変ですよ。

 やっぱり、魔物(モンスター)の血を浴びたせいですかね?」

 そう言うと、ユリは血だらけの二人の頭の上から魔法で大量の水をぶっかけた。


 ざっぱーん!


「きゃーー」

「うわっぷ」


 すかさず温風で乾かすことも忘れない。サムはともかく、濡れたままではイライザが可哀そうだ。

 全身が乾いたのを見計らって、ユリが訊く。

「どうですか? 少しは落ち着きましたか?」

「そもそもユリさんの仕事は、ここの薬草を護衛することでしょうが!」

 サムの形相は、少しだけ和らいだが、ユリを非難する言葉は変わらなかった。もちろん、言われっぱなしのユリではない。

「いやいや、契約では護衛対象はあなた方二人で、薬草じゃないです。契約書には、はっきりそう書いてあります」

 それは、ハンターギルドで受付嬢と一緒に、契約書の中身をチェックしたから間違いない。


(この非常識ぐあいは研究馬鹿とか、そういったのが理由?

 仕事放り投げたハンターの気持ちが分かった気がするわね)


「そうじゃない!!」

 頭を掻きむしって文句を言い続けるサム。それをイライザが窘める。

「サム。あなたが最初から正直に言わないからいけないんでしょ」

「……」

 あれだけ五月蠅かったサムが、押し黙ってしまった。

「正直に言ってないとは、どういうことです?」

 ユリが語気を強めて訊ねると、イライザが申し訳なさそうに答えた。

「すみません。正直に申し上げます。

 今回の薬草採取の目的がメルキリアだったんです」

「それは分かりましたけど、さっきシュルシ草って言ってませんでしたっけ?」

「シュルシ草は、そこで魔物(モンスター)の下敷きになってる方です」

「??? それじゃメルキリアの群落ってのは?」

「あれです」

「ふぇ?」

「あの魔物(モンスター)石頭猪(ハーディボア)の背中にだけ生える苔です。今までサムと二人だけの秘密にしていたんですが、この馬鹿があんな騒ぎ方したら、ユリさんにばれるのも時間の問題ですからね」


(えぇ~、全っ然、考えてもいなかったよ~)


「秘密なのに、それを言っちゃって良かったんですか?」

「あれを手に入れるなら、正直に言って協力を仰いだ方がいいでしょう?

 お願いできますか?」

「それは護衛じゃないんですけどね~。まぁいっか。

 ところで死体じゃ駄目なんですか」

「母体が死ぬと苔がすぐに枯れてしまうので、生きたままか、死んだ直後でないと駄目なんです。それと、あの死体の苔は血だらけになったので、もう使えません」

「なるほど。じゃあ、血を流さない方法でとっ捕まえましょう」


 その後、ユリは二頭の石頭猪(ハーディボア)を無血で仕留め、苔の採取に協力してやった。今度は二人の眼が点になっていたが、そんなことは知ったことじゃない。ここに来る前に、ハンターギルドの受付嬢に何か言われてた気がするが、ユリはそんなことは奇麗さっぱり忘れ去っていた。


「次にハンターギルドに依頼を出すときは、苔のことまでは言わなくていいので、依頼内容を『石頭猪(ハーディボア)の無血での捕獲』ってしてくださいね」


 一か月後、二人がその依頼内容をハンターギルドに出したとき、受付嬢に「こんなこと出来るわけないでしょ!」と切れられるのだが、そんなことユリが知るはずもない。


    *    *    *


 夕方になって宿に戻ったユリは、今日の出来事をラッシュ・フォースの四人に報告した。いや、報告の義務はなかったのだが、誰かに愚痴を聞いて欲しかったのだ。そしてひと通り伝え終わると、マリエラが呆れ返っていた。

「あんた、お昼になっても帰ってこないから何してるのかと思ったら、そんなことしてたの。

 ほんとに物好きよねー。

 薬剤師の護衛なんて、嫌な思いするだけだから、普通は金に困ってるか世間知らずのハンターでもなければ、誰も受けないのに」

「マリエラ。それはユリさんのことを、世間知らずって言ってるのと同じですよぅ」

「いや~、この依頼をハンターのみなさんが受けないのは報酬が少ないのが理由かと思って(あなど)ってました。あの護衛依頼を受けてみて、薬剤師とハンターの間で結構な確執があったんだってことがよく分かりましたよ。その点に関しては、仕事中にも思ったんですが、どっちもどっちって言うか、目くそ鼻くそを笑うって言うか、似た者同士っていうか、両方に非があるのは間違いないですね。

 今回も依頼内容を誤魔化してましたし。本来ならハンターの命に関わるので重大問題なんですけど、二度としないと約束してくれたんで、ギルドには報告しないでおきました。次回ハンターギルドに出される依頼内容がこれまでと変わったときにバレるかもしれませんけどね。

 そんなこんなで、いろいろとありましたが、ミラさんから聞いた『素人が集めた薬草は、ただのゴミ』という言葉が真実だと言うことが学べたので、私としては満足です」


(魔法の実験もできたし……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ