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21 初めての異世界【薬草採取の護衛2】

 三人は互いの挨拶を済ませ、ハンターギルドの建物を離れると、そのまま街の外に出て、技能試験場の前を通り過ぎて、西の街道沿いにある小山(こやま)の中に入って行った。ユリが行ってみたいと思っていた、あの小山だ。

 ちなみに、ユリは小山と言っているが、小山という言葉には明確な定義はない。日本で小山という名前がついている山の標高は、三十メートル程度のところもあれば、五百メートルを超えるところもある。ここにある小山の標高は分からない。今いる場所の標高が不明だからだ。ただ、今いるところから頂上までの標高差は、せいぜい二百メートルかそこいらのようだ。高い山ならともかく、この程度の小山だと、頂上まで行っても植生は街道沿いとそれほど変わらないはずなのだが、サムとイライザが態々(わざわざ)行くからには何か理由があるのだろう。

 山に入ってから暫くは、馬車は無理でも馬や驢馬なら入れそうな、整備されていない凸凹の多い山道を三人並んで進んでいた。ある程度奥に入ったところで、サムが何を思ったのか、途中で山道から逸れて獣道に入るという。見たところ、広葉樹の木々の間の、草と木の枝が絡み合った鬱蒼とした茂みに、人ではない何かが通った跡が残っている。

 これはいろいろとまずいと思ったユリが提案する。

「凄い藪ですね~。私が先頭に立って魔法で藪漕ぎしましょうか?」

「「それはお断りします!」」

 二人揃ってきっぱり拒絶されてしまった。

「でも藪漕ぎって大変ですよ。木の枝に引っかかって怪我したり、草の汁で気触(かぶ)れたりで大変ですから。

 私が藪漕ぎして、その後でゆっくり薬草を探した方が……」

「それが駄目なんです。

 素人のユリさんでは、貴重な薬草をそれと気づかずに刈り取ってしまったり、うっかり踏み潰してしまうかもしれないでしょ?

 以前も薬草採取には慣れていると言って、私の指示も聞かずに先導したハンターが、散々やらかしてくれましたからね。あんな迷惑を被るのは二度と御免です!

 第一、行先を知らないユリさんが先頭に立ってどうするって言うんですか」

「……、うぅっ、すみませんでした」


 という遣り取りがあって、獣道に入った三人は、サムが先頭に立ち、その後にイライザ。ユリは殿(しんがり)を務めることとなった。

 実際、獣道を歩いていると、サムが『あっ、ここ、薬草の芽が出てるので、少し避けて行きますね』とか『おおっ、これは貴重なグレビタミアという薬草です。これに出会えるなんて、今日は運がいい。採取するので少し待っていてください』とか、知らせて来ることが度々あった。そしてサムが採取した薬草はイライザに渡し、彼女がそれぞれに適した処置をして背嚢に詰めていった。


「ここって獣道だから、他の人も入って来てたりするんですよね?

 何か薬草を守る対策とかしてるんですか?」

「ええ。流石に何の目的も無く来る人はいませんけど、狩猟目的の人とか、山菜取りの人とかは、見掛けることがありますね。

 ああいった人たちは、欲しい物にしか目が届かないから、貴重な薬草の群落を踏み潰してたりするんです。でも、ここはうちが所有する山というわけでもないから、彼らに入ってくるなとも言えず、困ったものです」

「あはは……、あ、失礼。それは困りますね~」


(そういうあんたたちも、さっきから薬草を採取するときに、普通の山菜やキノコを踏み潰してたりするんだよねぇ。

 そもそもここって誰の所有地? 採取目的で入って良かったの?

 日本にもいるんだよね~。勝手に他人の山に入って、タケノコやマツタケや、あるいは貴重な鉱石を盗んでく奴が。

 この人たちも山菜取りも、どっちもどっちって言うか、目くそ鼻くそを笑うって言うか、似た者同士?

 向こうは向こうで文句言ってるんだろうなぁ)


「あとは、こちらの所持金とイライザの誘拐目的で跡を付けて来ている盗賊がいたりするんですが、連中は先回りしてることは無くて、採取済みの所しか歩いてこないので、狩猟や山菜目的で入ってきてる連中よりはマシな存在ですね」

「冗談で言ってるのかもしれませんが、その判断基準は何か違うと思います」

「何を言ってるんですか。薬草絡みで冗談なんか言いませんよ」

「……(だめだ、こいつ)」


 その後も、同じような作業が続いていたが、慣れていない者にとって、獣道を進むのは、なかなか辛いものがある。薬剤師の二人は、行先がはっきり分かっているのだろうか、迷うことなくずんずん進んで行くのはいいのだが、跡を追うユリの足が悲鳴を上げていた。


(本当は、こうなるのが嫌で前を歩きたかったのに~。

 あぁ、自分の体力の無さが恨めしい。イライザだって見た目は私と大差ないのに、どうしてあんなに元気なの?

 隠れ筋肉女ってわけじゃないよね?)


「ところで、ゼェゼェ、知り合いから、ハァハァ、『素人が集めた薬草は、ただのゴミ』って、ゼェゼェ、聞いたんですけど、ハァハァ、そういうものなんですか?」

 この辺りでは魔物(モンスター)の気配も無く暇だったから、この際はっきり訊いておこうと思ったユリだったが、息切れが激しく、言葉がどうしたって途切れ途切れになる。


「「はい、まさしくそうですね」」

 またも二人揃って迷うことなく即答だった。


「昔っからよくいるんですよ。碌に知識もないのに、勝手に山で採取した薬草を薬剤師ギルドに持ち込んで、買ってくれって言ってくる素人が。ですけどね、採取方法が杜撰で保存方法もいい加減な薬草は、ギルドに持ち込まれた時点で既に(いた)んでダメになってることが多いんです。っていうか、ほぼ全部ダメですね。

 例えばキュレイ草は採取した後にすぐに冷やして保存する必要があって、しかも魔力に弱いので、魔法を使わずに氷で冷やして運ぶ必要があるんです。それでいて、例えばグリエアザミは逆に冷やすと駄目で、常温で運ばなければなりません。レンポ草みたいに、採取したらすぐに熱乾燥しないといけないものもあります。

 そういう知識のない素人が採取してきた薬草は、大抵が酷い状態なんです。

 それだけじゃありません。大事に布に包んで持ってきましたって、汗に濡れた自分の下着に(くる)んできたのを見せられた時には、気絶しそうになりましたよ。

 あなただったら、そんな草の搾り汁を飲みたいですか?

 そんなもの傷んでなくたって使い物になるわけないじゃないですか」

「それは知りませんでした、ゼェゼェ。

 汗の搾り汁は私も御免です。ハァハァ。

 結構、繊細なものなんですね、薬草って。ゼェゼェ」


(私のアイテムボックスなら、とくに面倒なことしなくても、問題なく輸送できるんじゃないかな。でも、薬剤師ギルドに持ち込んでも、買ってくれないんじゃ意味ないか)


 サムの話はまだまだ続いた。


「薬草の採取場所にも注意が必要です。毒のある鉱物や植物、魔物(モンスター)の糞や死体といったものの近くで採取したものは薬草として使えません。とくに、辺りのものを汚染するゴブリンの糞は、至る所にあるので注意が必要です。そういった注意が必要なのに、素人が採ってきた薬草は、採取場所が適切であったかどうか確認することができませんからね。そんな薬草を使ったポーションで死人が出たら一大事です。もちろんポーションは、まとめて作った後で、安全性検査するので、私たちが作ったポーションで事故が起きたことはありませんが、ゴブリンの糞の近くで採取された薬草が使われてるなんて噂でも立とうものなら、例え汚染を免れていたとしてもイメージが悪い。

 あなただって、ゴブリンの糞の近くで拾った飴玉は舐めないでしょ?」

「まぁ、そうですね。ゼェゼェ」

 斜面の獣道を登っている最中なので、ユリは今も息切れしながら会話している。


(どこでだろうと、拾った飴玉は舐めませんけどね。

 日本で有名な3秒ルール。海外だと5秒ルールだったりするんだけど、わざわざ検証した人がいて、ビスケットなら30分でもOKだったとか発表してたのをまた聞きして『んなわけあるか!』って思ったんだよね。

 あぁ、そういえば、バスツアーで筍採りしてたら、何か臭くって、よく見たら誰かが立小便した後だったとかあったなぁ。すぐ捨てちゃったけど、それを拾った人がいて、汚いからやめた方がいいですよって教えたら、『うちの姑にプレゼントするんだ』と言われて答えに困っちゃったことがあったっけ。

 ハンターとの関係が嫁姑みたいなものだとしたら、薬剤師ギルドが出どころの怪しいものを警戒するのは当然か)


「それに、素人は(なん)でも(かん)でも一緒くたにして持ってくるから、たとえ保存状態が良かったとしても、薬効の違うものが混ざってる時点で使い物になりません。

 例えていうなら、『タラの卵巣』と『フグの卵巣』をひとつの壺に一緒に入れて持って来るようなもんです。その『タラの卵巣』が食べられないことは、あなたならわかるでしょ?」

「あぁ、その例えならよく分かります。ハァハァ」

「でもね、荒くれもののハンターには、それすら分からない人が多いんですよ。それどころか、薬剤師ギルドに態々(わざわざ)それを持ち込んで、食べて倒れる馬鹿までいるんですから。それで死ぬのは勝手ですけど、そのせいで『薬剤師ギルドで食中毒が発生した』って噂だけが独り歩きして、本当に迷惑なんですよ」

「それは本当に迷惑ですね。ゼェゼェ」


「それだけじゃない。

 素人は薬草の群落を見つけると、根(こそ)ぎ採ってしまって、全滅させてしまうんです。ハンターが好きな軍隊用語でいうなら、子孫ひとつ残さない殲滅。場所によっては、その薬草が生えていることで湿度を保ってる所もあるんで、砂漠草原とかでそんなことされたら、跡には文字通り草も生えません。

 昔そのせいでとある薬草が全滅して、治癒ポーションが三年間作れなくなったことがあって、それ以来資格のない者による薬草採取が禁止されたんです」

「それは許されませんね。ゼェゼェ。

 無資格者の薬草採取を禁止するのも当然です。ハァハァ」


(あぁ、元いた世界でもあったなぁ。

 北の方の山に行けばいくらでも採れるのに、態々その植物の自生地の南限とされる土地で、根こそぎ盗掘された事件が。それに限らず、他人の山で植物の盗掘する奴は、大抵が後先考えずに根(こそ)ぎ採って行くんだよなぁ。

 ところで、この二人って、ちゃんと山の持ち主に許可取って薬草採取してるのかな?

 昔、祖父母の知り合いで山持ってる人が、村の連中が昔からやってたからって、既得権みたいに山菜の盗掘して困ってるって言ってたんだよね~。この二人も、既得権だと言って無許可採取してたりしなよね?)


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