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19 初めての異世界【初心者教育5】

「ところで、リーダーの話に調査係(リサーチャー)と会計係ってのが出て来てましたけど、それって何ですか? ラッシュ・フォースにそんな仕事してる人いましたっけ?

 もしかして、いるけど幽霊社員になってたりしますか?」

 ユリの疑問にリーダーのウルフが答える。

「ああ、ユリはハンターのことは何も知らないんだったな。

 まず、非常識なおまえの為に念のため最初に言っておくが、うちのパーティーに幽霊(ゴースト)はいないし、幽霊(ゴースト)になった者もいない。

 そして調査係(リサーチャー)と会計係だが、その二つはどちらもハンターパーティーの職分のひとつだ。

 まず、調査係(リサーチャー)っていうのは、ダンジョンで罠を見破ったり、隠密行動で敵の秘密を探ったり、あるいは敵からアイテムを奪ったり、標的を罠に掛けたりするのが仕事だ。昔は泥棒(シーフ)とか盗賊(ロバー)って呼ばれてた職業なんだが、あからさまな盗みと暗殺が法で禁じられてからは、真っ当な仕事しかしてないのに泥棒(シーフ)盗賊(ロバー)じゃ聞こえが悪いし、犯罪者と区別できないってんで、今は調査係(リサーチャー)と呼ぶことになってる」

「えーっ! 泥棒(シーフ)泥棒(シーフ)でしょ!

 何なんですか、その言葉狩りは!

 過剰なコンプライアンス反対!

 冒険譚で泥棒(シーフ)調査係(リサーチャー)なんて書いたら、読者にそっぽ向かれちゃじゃないですか!」

 ウルフの言っていることが分からないわけではない。英語の苦手な日本人は「シーフ」という言葉を意味も知らずに使ってたりするが、英語圏の人間は日本人が「泥棒」と呼ぶのと同じ感覚で言っているのだ。ただ、分かってはいても抵抗がある。

 ユリが個人的な事情で騒ぐのをウルフが窘める。

「何を興奮して喚いてるんだ、おまえは。騒ぐなら、最後まで聞いてからにしろ。

 えーっと、あと会計係だったな。会計係ってのは、文字通り会計担当だ。パーティーによっては、数字に弱くて釣銭の計算もできない連中ばかりってことがあってな、それだと獲って来た獲物を売ったり、消耗品を買ったりするときに、商人にカモにされちまうんで、そういうパーティーに雇われることが多いな。

 どっちも大所帯のパーティーで雇われる職業であって、うちのパーティにはいない。幸いうちの連中はみんな、金勘定が得意だしな」


(会計と泥棒(シーフ)って、如何にも悪事に手を出してそうな関係だけど、小説だとミスリード役でもあるのよね~。あっ、泥棒(シーフ)がイオトカ君に近づいて、本当の泥棒になっちゃったとかもあるのかな?)


「でしたら、リーダー。その二人が死んだのが、狙われたからなのか、偶々(たまたま)その二人が運動音痴だったからなのかが問題ですね」

 ここが肝要だと言わんばかり、ユリが力を籠めるポーズをとると、即座にマリエラが突っ込みを入れる。

「ユリったら、そんな握りこぶし突き上げて言うことじゃないでしょ。

 大体ねー、あたしたちが助けに行かなけりゃ全員死んでたんだから、死んだのがその二人なのは偶々(たまたま)でしょ」

「マリエラ。決めつけるのは、まだ早いですよぅ」

「分かったわよ。それで、ウルフ。あの怪しい女のことは何か聞けたの?」

「そっちは、取り調べがこれからだったから、何も聞けていないな。

 ただ疑わしいことについては伝えておいたから、念入りに調べてくれるだろう」

「そっ、じゃぁみんなでご飯行こう!」



 事件が起きたのは、ユリたちがぞろぞろと連れ立ってハンターギルドを出て、食事処へ向かおうと建物の角を曲がろうとしたときのことだった。


 どーん!!


 彼らの頭上で爆発音がして、ハンターギルドの建物の二階の窓のひとつが吹き飛び、黒い司祭服の女が壁の破片と一緒に地面に降ってきた。


「へっ?」

 ユリが間抜けな声を上げて固まっている間に、ジェイクが落ちて来る女の下に移動して受け止めようとしたが、女はジェイクの胸板を蹴って地面に着地して、そのまま走り去ろうとした。


「女を捕まえろ!!」

 二階の壁の穴から顔を出したギルド職員が、下にいた仲間に女の捕縛を命じるのが聞こえたが、その瞬間、女の足先が地面に足首まで沈み、そのまま地面に氷が張って足が固定された。


 ぼきっ!


 足先を固定しても運動量と運動エネルギーで体は前に進もうとする。

 その結果、脚が折れたのだった。


(しまった、つい捕まえちゃった!

 ここは冒険譚のために、血湧き肉躍る捕り物を演じて見せるべきでした!

 しかも脚折っちゃったじゃない)


 どうやら、女を捕獲したのはユリだったようだ。

 ユリが意味不明な反省をしていると、ユリを睨みつけた女が、右手をユリに向けて何かしら詠唱してたかと思うと火球を飛ばしてきた。


(おーっ! これがこの世界のファイアーボール!)


「「「「ユリ!」」」」

 火球が迫ってもぼけーっと眺めているユリに、四人が呼びかけたが、その間もなく、ユリの眼の前で見えない壁に阻まれて、火球が砕け散った。


(いやー、ついつい眺めちゃいました。次はそうはいきません)


 女は既に次の詠唱を終えていて、すぐに次の火球を打ち出した……と思ったら、火球が手から離れた直後に破裂し、その焔が女を円柱状に囲んで蒸し焼きにした。

「ぎゃーーー!!」

 女の悲鳴が周囲の建物に反響して響き渡る。


「ユリ、あんた、怪我人相手でも遠慮なくえげつない技を使うのねー」

「そんな、私はただ、防御結界を裏返しで彼女の周りに張って、攻撃魔法を放ったら自滅するようにしただけです。

 こっちが警告する前にファイアーボールを撃って、この辺りの人を全員殺そうとした彼女が悪いんですよ」

「それをえげつないって言うの。まぁいいわ。

 それよりウルフ。あそこで黒焦げになってる奴、火傷の治療ぐらいしたほうがいいんじゃない?

 生きてるかどうか分かんないけど、折角さっき助けたのに、死なれたら嫌じゃない。

 骨折もしてるけど、そっちはどうするか任せるわ」

「ミラ、面倒だろうが頼む」

「ふふっ。ユリさん、いきますよぅ」


    *    *    *


 ユリは、ミラの詠唱の歌声は何度聞いても美しいと思った。その治癒効果が、実力なのか、ユリのエティスの力で嵩上げされたものなのか分からないが、黒焦げで炭になりかけていた女は、燃えた髪や睫毛(まつげ)までも元通りになり、汚れも落ちて、風呂上がりのような奇麗な姿になっている。もちろん、脚の骨折も治っている。

 ただ衣装は復元されず、半裸状態になっていて、通行人の男たちを喜ばせていた。


(これって、どういう仕組みなんだろ?

 これって、燃える前の姿なんだよね。だけど、これまでの散髪で切った髪は元に戻らないんだ。一度もカットされたことのない状態になるならまだ分かるけど、なんで、ついさっきの姿なの?

 どうして? 本当に不思議)


 ユリは相変わらずおかしなことを考えていたが、女の裸体が衆目に晒されていることを見かねて、手助けすることにした。

 アイテムボックスから(むしろ)を一枚取り出して女に被せ、次に「はいっ!」という掛け声と共に(むしろ)(めく)ると、そこに女の姿は無かった。

 それを見ていた人々は、何が起きたのか分からず唖然としている。

 ユリがやったことは、『手品』という見世物を知らない人々には全く意味不明なパフォーマンスだったのだ。そもそも、最初に空中から(むしろ)を取り出した時点で驚かれていることに、ユリは気づいていなかった。そういう細かいことは露知らず、ユリは(ひと)仕事(しごと)終えたかのように、胸を張って満足げな顔をしていた。

 観衆が唖然としている中、ユリが仲間の元に戻ると、マリエラが声を掛けた。

「あんた、相変わらずやることがめちゃくちゃね。それで、あの女は?」

「こっちです」

 ユリはラッシュ・フォースの皆を連れ、建物の脇の、人ひとり入れるかどうかという隙間に来て言った。

「ここです」

 そう言うと、ユリは収納バッグで二つ目に大きい『携帯小屋』の扉を建物の隙間で開いて中に入り、ラッシュ・フォースの四人を招き入れた。次に、ユリがアイテムボックスに隠していた女をそこに取り出して寝かせ、その上に顔だけ出るように(むしろ)を被せると、携帯小屋の中を繁々(しげしげ)と眺めていたリーダーが感心した声を上げた。

「ほう、こんなのもあったのか。で、なぜこんなところに持ってきた」

「彼女、ほとんど裸じゃないですか。いくら殺人未遂犯とは言え、この姿を人前に晒すのはどうかと思いまして。それに、ここならマリエラさんの作業に都合がいいかと。

 リーダーとジェイクさんは、あんまりじろじろと見ないでくださいね」

 ユリがそう言うと、リーダーがニヤついた顔でマリエラに声を掛けた。

「マリエラ、自白させてくれ」

「この魔法、二日続けて使うのは初めてね。結構疲れるのよ」

 そう言って、マリエラが詠唱を始め、寝ている女に自白魔法をかける。

 この世界では自白魔法は闇魔法の一種だという。ユリも闇魔法に分類される攻撃魔法なら使えるのだが、自白魔法は使えなかった。物理的に何をどうしていいか分からないからだ。脳内に麻薬物質でも生成してるんだろうか?

 生憎、マリエラに訊いても、そういうことは分かっていないらしく、決められた詠唱を唱えるだけらしい。ユリとしては、そういった謎も、今後明らかにしていきたいと思っている。


 マリエラが自白魔法をかけ終わると、女の頬をひっぱたいて目を覚まさせ、リーダーが尋問を開始した。


    *    *    *


 尋問は、普通は昨日やったように質疑応答を繰り返すものなのだが、今日の場合は違っていた。というのも、リーダーが問いかけると、女が喋り続ける一人舞台となったからだ。

「あたしたちのパーティーは、ずっと、報酬の取り分で揉めてたの。

 私とギールの取り分は、三年前からずっと、二人合わせて十分の一よ?

 クエストの成功報酬が出た後の宴会も、私とギール抜きでやるし。いくらなんでも馬鹿にし過ぎじゃない!?

 だからね、ギールと二人で、パーティーの収支から直接お金を抜くことにしたの。私たちには当然の報酬でしょ。あいつら商人との交渉もできなきゃ、簡単な足し算や引き算もできない馬鹿ばかりなのよ。私たちがパーティーに入るまで、パーティー収入は今の三分の一も無かったの。私たちのおかげで三倍以上になったのよ?

 だったらパーティー収入の二割抜くくらい抜いたって、文句言われる筋合いじゃないのよ。

 でもね、ディックの奴がそれに気づいて、ボスにバラされたくなかったら、分け前よこせって言ってきたの。それでも、収支から抜く額を増やせば何とかなるかって思って、あいつに金渡すようにしてたんだけど、今日、技能試験場に行ったら、ボスがいきなりディックの尋問を始めちゃったの。私とギールは宴会に参加しないから知らなかったけど、あの馬鹿いきなりボスたちの前で金遣いが荒くなってたのね、そのせいでボスにバレてたのよ。それを指摘されて、ボスに問い詰められたら、私とギールのことあっさり喋りやがって。

 それで、ボスがディックを殴ったのが引き金になって、3人対5人で戦闘が始まったのよ。

 でもね、ディックの奴、予め準備してたのね。あいつ、爆裂魔法(エクスプロージョン)のマジックアイテムを岩の下に仕込んであるから、合図したら点火しろって言ってきたのよ。最初はそうするつもりだったわ。

 でもね、戦闘しているうち、ディックの奴がボスに殺られそうになったときにギールの腕を引いて彼を盾にしたの。そのせいでギールが殺されちゃって。なんでギールが殺されなきゃいけないのよ!

 だから、あいつら全員が岩の近くにいるときに、爆裂魔法(エクスプロージョン)のマジックアイテムに点火してやったのよ。全員吹き飛んでいい気味だったわ。私は離れたところで防御結界張ってたのに、結界ごと壁にたたきつけられて、崩れてきた壁の下敷きになって、もう死んだっていいやって思って。

 でも私は生き残った。ディックの奴は粉々になって死んだけど、それ以外は、ギールを殺したボスまで生き残ってて。ふざけんじゃないわよ!

 だからさっき、後始末してやったの。

 あはっ、あはっ、あははははははははははは……」


 その後、いつまでも笑い続ける女をハンターギルドに連れて行って、ミラが記憶していた証言内容を文字に起こして書いたものを渡し、それでようやくこの事件は幕を閉じた。


「そういえば私、未だにこの女の人の名前を知らないんだよねー」


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